スルリ (incomplete)

スルリ (incomplete)

stupid

 スルリ、スルリとコインを入れる。つい出来心でゲーセンに入ったが、思いのほかコインゲームで勝ってしまった。コインを消費するため、無機質にただコインを入れる。

10時32分。随分、長居した。

 隣の台にダウンジャケットの中年女性が座る。シャワーに浴びたてのようなシャンプーの匂いが漂う、ふ~っと。

“見たことあるな・・・。おっと、”
また、大当たりが出た。なかなか帰れないな。
隣に座っている女性に、誰かが話しかけてきた。日本語じゃない。中国語だ。

“あっそうか”
一度、話したことある、あのひとは夜の世界の人だ。

楽しそうにコインゲームをしている。店の思惑通り、徐々に消費してるみたいだけど…。

30分ほどすると、もう一人、次は40~50代の姿勢のいい女性が、和やかに話しかけながら、あのダウンジャケットの女性にコインの差し入れをする。

もう11時、結局、消費しきれなかったコインの盛られた箱を、俺はどう思ったのか隣の台に置いた。

「・・・もう使わないから、どうぞ。」
ぼそっと呟く。どうしてこんな行動をとってしまったのか、あの時、手であしらったからか?でも彼女は覚えてないだろう?

二人は唖然と、少し怯えたような姿で俺を見る。俺は(そんなつもりではなかったが)まるで二人を見下ろしたような、そんな恰好で言ってしまった。

すぐに振り返って階段の方へ行く。何か言われたように感じたが無視して階段を降りた。

店を出ると、まだ春を迎えたばかりの涼しい風が吹き抜ける。

胸が軋む。深く深く、俺の骨に刻まれる。

「・・・・ハァ、・・・・ハァ。」

路地裏に回り込んで、しゃがみこむ。

ポトポトと水滴が頭に落ちる。今は動くことができない。

介護を受けている老人の気持が分かった気がする。

老人か…、そういえば、最近・・・、子供の復讐が多いな

スルリ (incomplete)

スルリ (incomplete)

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-08-29

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