空虚が飲み込む
気象予報の狂乱
君が名前を呼んでくれないから
私は世界からどんどん乖離する
心臓は無駄に動き回り
私の身体は海に流れていく
水と空気と私の境目は無くなって
君の声が聞こえない世界には
不安と不吉以外何も無かった
雨が、降る
雨は、君の責め苦であった、
そうでなければ、いけなかった、
だから、私は傘を持たなかった
君の「地獄のやうな責め苦」の果てに
君は濡れた掌で、私の首を絞めた、
私は、ただ、前世の夢を、見たかった
それは、予感であって、
首には、何も浮かばない、
雨は、私の衛星を、濁らせた
君から随分離れてしまった
君のところに行くための
泳ぎ方がわからない
赤と青は混じらなかった
世界は混沌としてくれなかった
混乱に乗じて生きられなかった
ただ、突きつけられる、雨が降る、
誰も私を罰してくれなかった
誰も私の罪を数えてくれなかった
世界は驚く程無関心で、
君は、雨の中、
似たり寄ったりの傘をさし、
私のことを、忘れたまま、
階段を降りて行った
空虚が飲み込む
私の空洞は日増しに大きくなる
私の空白は日増しに大きくなる
空白が皮膚を引っ張り上げる
胸の中の空洞は
右心房を押しのけ
左心房を追いやる
あなたの居場所まで侵食する
思わず、
私の胸に居た、
あなたを掴んだ
しかし、もはや、私が掴んだのは、
あなたでは、なかった
それは最初から、
もちろん、
そう、
で、
あったのだが、
私に、何も言わなくなった、あなた、
私に、体温の夢を見せてくれなくなった、あなた、
あなたは、誰?
心臓が潰され、私の絶命を、予感する
あなたは、何?
そこにあった、概念?
中身を吸い尽くされた、抜け殻?
私の夢が産んだ、影?
誰も助けてくれなくて、
あなたは私を救ってくれなくて、
私は私の空虚を抱き、あやしながら、
フローリングでのたうちまわる
痛くて、痛くて、
死んでしまいたかった
誰にも届かない声を、
押し殺して来た私は、
結局最期に声をあげても、
何も得られなかった、
全てを売り払ってしまった、
あなたが欲しくて、
あなたの腕の中を夢見て、
私は全てを売り払ってしまった、
私は何も無くなった
空洞は大きくなる
空白は大きくなる
私の皮膚を引き裂いて、
私ごと、飲み込んで、
私は最初からいなかったことになる
それは、この世界のハッピーエンドで、君にとっての安寧で、私にとっての救いになるかもしれなかった
今はただ、夜な夜な痛みにのたうち回り、来ないあなたの名前を呼んで、
自分の身体を呪っている
濁った私を、許せないまま、
空白の侵食も、空洞の肥大化も、
ただ、ただ、受け入れていた
分解後のことがら
空間の亡霊が微笑んでいる
すぐに逃げられるように、
わたしは靴を脱がない
前髪は最後の要塞でした
わたしの、かわいい、しんぞうに、
降り積もるものが、
雪なのか、塵なのか、
もう、わたしには、
わからなくなりました
わたしは、とても、遠くなる、
わたしの声で、
明るくお話しする、
あの、わたしは、誰?
わたしの靴は、空間に飲み込まれた
それに、シンドロームという、名前が、相応しいのか、どうかは、ここにいる、わたしには、わからない
空虚が飲み込む