アットホーム

よくある話。
ありふれすぎた話。

 もうすぐ梅雨に入るというのに外はまだ寒い。

乗るはずだった電車が過ぎたあとのホームに立っているとさらにそれが顕著だと思う。

仕方なくがらんとしたホームの優先席に腰掛ける。木製独特のにおいがして立とうとしたがすぐに慣れたので止めた。

一年間使ってだいぶ草臥れた高校指定のダサい鞄。底でぐんにゃりしてるウォークマンを取り出した。

イヤホンを耳にかけそっと目を瞑る。

ファンタジーなのかリアルなのか状況があやふやで
テンポだけで進んでいるような音楽がざわざわと流れ出す。
タイトルは何だっけ。たくさん聞いたのに未だに覚えられない。
覚えられないということは多分この曲があまり好きではないのだろう。
嗜好というよりは、本能的に。
いいんだ。
音を楽しめ。
LA LALALA LA。
きっと自分の知らない人が苦悩して書き上げたであろう歌詞が素通りする。
曲が変わる。 変わる変わる。

とん、と肩を叩かれた。

びっくりして隣を見ると薄ら笑いを浮かべたおばあさんだかおばさんだか分からない人相のひと。

さっきおにぎりを2つ食べるつもりで買ったはいいが食べきれない。もったいないので食べてくれないか。

イヤホンを外す前に言われたので大体しか聞き取れなかったがおそらくそんな意味合いのことを早口でまくしたてた。

ばつが悪そうに階段を上がって行ってしまった。

手渡されたのは鮭おにぎり。 ふんふん。

たらこより好きじゃないが昆布よりは好きな鮭おにぎり。

よく見ると紅鮭おにぎり。ちなみに紅色以外の鮭を見たことがないので何故紅鮭なのか解せない。

あれもともと鮭って赤色だっけ? 中身の詰まらない考えはよそに手はべりべりとフィルムを剥がす。

そのままゴミはぽい。だってあのゴミ箱はビンとカン専用だもの。

のりが盛大に剥がれ白いご飯がむきだしになってしまった。

まぁいいか、歯にくっつく心配がないしな。

一口食べる。

のりに味がついてないタイプだ。好きじゃない。
もう一口がっつり食べる。具の紅鮭さんがコンニチワ。

おいしい。

学校が終わったあとの小腹が空く。食べ終わるとこれだけでは足りない気がしたがいいおやつになった。

とりあえずあの人に感謝感謝。 ありがとねー。

家に帰れば晩御飯だな。

人が少しだけ増え始めたので電車でも人が少ない場所に乗ろうとホームの端へ移動を試みる。

いたっ

さっきのフィルムだ。
やだなぁ、高校生になってまでこけるとかなかなかない。
恥ずかしい、誰も見てないよね? すぐに周りを見る。
なんだ
壁?
ああ
線路の上か
上がらないと
あがらないと
アガラナイト
足が動かないひどく重たいつぅか痛い ひねったかな
あはは 明日体育休めるかも うるさいな上がるよ
何を叫んでるの 手ぇ貸してよ ひどいな 自分で上がれるけどさ
あれ なんだあれ 明かりが見える何だ電車か嫌だな危ない
来るなよ早く上がれよ何してんだよ何でああ腕も痛い 擦りむいたのかな
血がでてるやだなクリーニング出したばっかりだったのに袖が赤いお母さんに怒られちゃう
スカートも汚い あーあ 汚いな赤がああ黄色だ光が電車の光が
きいろがめのまえにすぐちかくにあぶないおとがうるさいおおきいひ
とはあれいないだれにもいないみられてないさいごひとりぼっちか
よああでんしゃがうわああいやだしぬしぬし

アットホーム

短編にもならないくらい短い(´・ω・`)
かっこいい文章が書きたいです。

アットホーム

えきでのおはなし。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • ミステリー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-08-28

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