染物の詩
笹の葉の詩
色とりどりの短冊に
あなたの好きなところを
薄墨でたくさんたくさん書き出して
葉脈の水路を潜り抜け
大気圏から多次元方面へ
知らない世界の
恋する誰かに
届けてみたい
染物の詩
美術館で迷子になったあなたを
春風よりも早く連れ去り、
極彩色を隠れ蓑にして、
いつまでも唐紅のランプの下で、
靴を履かせて、カードを切って、
香水の下に寝転がり
口付けに満たない行為に耽る
やがて君に押し潰されて
染料と成った私に
優しい君は同情を
その口付けにこめて
私の冷たい唇に押し付ける
君を染めた私の献身を
君は白いハンカチに包んで
岬に置き去りにして
心細さに体内の縮小が進行する私に
ランプの明かりだけを残してくれた
焦燥
熱帯夜の湯気から足首だけ出して
私はぼんやり天井を眺めていた
これまで原始の熱風に
冷たい身体を預けていた
片思いの存在に気が付いたとき
隣にあなたの体温があること
胸はあなたの言葉が飾られていること
空中に描かれた
知らない誰かの家系図は
私に何も教えてくれない
この夜は誰の所有物か、
わからなくなって
そっと息を潜めて座り込んだ
心細くてあなたの名前を呼んでみた
あなたは私以外の誰かを抱き締め
自分の夜の中で安らかな寝息を立てている
私の献身は
あなたの記憶に一行も残らない
あなたの安居を願います
あなたのことだけ願います
染物の詩