唯光っていたものの話
光
終電が走り去る。
煌びやかな明滅の中で、少女が一人ステップを踏む。想像上の生きもののようなその白さが、蛍光灯を受けて生命の輝きを発する。生きているのだ。
零下の今夜は空気が凍って、混り気の無い空を見せていた。度々零れる少女の吐息も、その肌と同様痛いほど白い。
少女は色のついた言葉を吐き出した。リリスのような甘さをもって、それは空を舞い漂う。
「この駅は今日は眠ったのよ、お兄さん」
その文字群は金属音を立てて咀嚼された。飲み込んだ男は返す。
「そんな筈はない。確かに俺は特急券を持っているのだから」
男の語りを、けらけらと一蹴した少女はまた踊る。代替品のスポットライトの中、少女はまだ回り続ける。足先から飛ぶ火花が、真新しい星屑の様に輝く。
「そんなところにいては轢かれてしまう」
男はただ事実を述べる。瞬間、光を吸い込む色をした車両が、車輪を回さずに線路を駆けてくる。回り続ける少女の眼は、その闇を見極める前に溶け巡る。けらけらという少女の歌が、その車両を満たしていく。
「特急券を拝見します」
闇に四角の切れ目が入って、寒々しい悲鳴が上がった。中から出てきた正三面体の海月が、男の出したチケットを呑んで四面体になった。「一枚足りないようですが」
「そいつはツレじゃないんだ」
「それは失礼」
正五面体の海月が空にしたティーカップを逆様に振ると、透き通る角砂糖の山が出来た。
「チケットはお持ちですか」
「これじゃあだめかしら」
角砂糖の少女はイヤリングを外して見せる。それを呑んだ海月は正五面体の中心に薄黄色の星を宿した。海月は懐妊したので海月をやめて水母になった。
「よくも月を逃がしたな」
融け落ちる手足で水母は砂糖を溶かしていく。半透明になった少女の中で星だけが絹のように光っていた。少女がすっかり水母を呑みこんでしまってから、少女はべっと星を吐き出した。
「コンペイトウ」
唯光っていたものの話
綺麗なものだけ刻んで詰めて