秋がくれば、

 この町の空は、この前僕の出した毛布みたいな雲がよく広がっているんだ。
 灰色に「なってしまった」白、と言いたくなる、厚く厚く重なったそのあいだ。夕暮れの赤が見えていた。東の空はなぜだか、チョコレートの包み紙を思い出す金色をしていたよ。
 それから外灯がつき始めて、町はぼやけた橙にしずむ。いつも通う道さえ知らないものに思えてくるけれど、きっとそれは勘違いじゃあないんだな。どこか、必ず何かが変わっている。僕らの知っているせかい、ってやつは(たとえ通学路だって)きょうの朝と夜じゃあ、全然ちがう。
 そういう小さい変化は、せかいをようく見つめていないと気付かないものだ。だから最初は、大きな変化に、あっ! って驚く練習をしよう。
 何の意味があるのかって? 意味はないかもしれない。でも、あるかもしれない。曖昧だね。ただ、そうだな。敢えて言えば、きみのつまらなさそうな顔がにっこりするのをいつか見たい、かな。
 さてさて。まずはお手本だ。僕のあっ! は、ここに来るまでの田んぼ道。もうとっくに稲刈りが終わってる! ってね。まだ黄緑の田んぼはどんな気持ちで待っているのか、考えたことはある? 干してある稲をぼんやり眺めたり、たまの青空に憂うつを吐きだしたりしているんだろうか、って僕は思ったよ。
 それから、すすきの群れも見た。春は桜がきれいで、夏はまっすぐな緑がうつくしかった場所だ。だから、あっ! 季節はこんなに大袈裟にめぐるのか、って、息がぎゅうっと詰まってしまった。景色を見ても涙は出るんだな、って、僕は僕に驚いてしまった。
 どうかな。
 きみが話してくれるあれこれが何色か、楽しみに待っていてもいいかな、
「きのうの月はすごくきれいだった」

……あっ!

秋がくれば、

秋がくれば、

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-10-15

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted