友人消却
友人解体、鏡視点です
がさがさ、スナック菓子、チョコレート菓子、他にも綺麗に彩られたケーキ達。
まるで俺の足取りを表すかのように心地いい音をたてる。
あいかわらず寂しい色の商店街。俺の派手な格好はさぞかしや浮いている事だろう。
だけどそんなこと、彼に会いに行くという目的を持った俺には取るにも足らない。
がさがさ、がさがさ 響く音。
それにしても、相変わらず人のいない商店街だなと思う。実際ココで彼以外の人物に会った事は1度も無い。
俺が生まれるよりも前からずっとこんなだったとじいちゃんに聞いたことがある。
それでも更地にしたり取り壊したりしないのは、案外彼が原因だったりするのかも。
なんて思いながらも俺は足を進めた、そんなことどうでもいいしな。うん。
「とーがーわーくーん!!あっそびーにきったよぉー!!」
白い、白い。全部白い。
壁も、床も、家具も、彼自身でさえも、全てが白い。
普通の人なら不気味に思うんじゃないか?
というかここに普通の人がくる時はあるのか。
無い、うん。絶対に無いね。
ドタドタとわざと音をたてながら彼の元へと向かう。
無駄に磨かれた扉を開けるとこちらに向かう気でいたのか立ち尽くしている彼、こと とがわ君がいた。
本当白い。肌も服も。だから髪と目の黒さとかが凄く目立つ。
うーん、何て言うか、怖いねー!!いや、恐怖とかそういう怖さじゃないんだけど、人間じゃないものを目の前にしてる感じ。
それは十川君に失礼だな、うむ。
「また、き、たの。鏡、ちゃん」
途切れ途切れの言葉、だけど俺にとっては十川君が紡ぐ大事な大事な言葉。
だから聞き取れないなんて事は絶対に無い。
とりあえず十川君専用の鏡ちゃんスマイルでも向けるかな!
俺と十川君が出会ったのは俗に言う「中学時代」の時。
その時代の俺は周りに怯えながら暮らす最低な弱虫野郎だった。
人見知りが激しいくせに防衛の為に一生懸命キャラ作っちゃって、1日経つことにそんな自分への嫌気が増していって、でも防衛は止まらなくって、結局学校1の人気者なんて言う要らない称号手に入れちゃって。
自分が本当に滑稽に見えて、馬鹿みたいな人生送って。
そんな時偶然目に入った十川君。
教科書忘れたから友達に借りにいった時に彼を見た。
その時のことは、今でも鮮明に覚えている。
何ていうか、皆が楽しそうにしている中で1人だけ異色の空気を出していた。
友達とかくだらない、全部全部上辺だけの幻想だ。
何故か俺には彼がそう言ってるように見えた。
その瞬間を俺は一気に惹かれたね!!
俺みたいな偽者なんじゃない、周りの奴等のような幻想でもない!
彼は本物なんだ!!あれこそが人間の本当の姿なんだ!!
くだらない絆なんかに手を焼かない、俺なんかとは真逆な存在。
言わば理想郷!!
とまぁ俺はこんな感じで神に対峙した訳ですよ、神を信仰する信者みたいな。意味分からんか。
それからの俺は周りから見ればどれだけおかしな存在だっただろう。
学校でも「変わり者」と有名だった彼に付き纏うようになったなんて、傍から見れば不自然極まりない。
だけどそんなの気にしない。
気にするだけ無駄だしね。
彼に自分の存在を認めてもらえた時、俺も本物になれる。
そん時の俺はガチでそう思ってたし、今でも思ってるかも。
その考えを改める気はサラサラ無いよ?というか改められないんじゃないかな。
ま、んなこたどうでもいい。
始めは俺を疎ましく思ってた彼も、次第に心を開いてくれるようになった。
この時点で俺の理想は崩れた筈なのにソレが無かった。やっぱり十川君は本物なんだなって実感した。
元々防衛作りの為にやってた部活もやめて、俺はなるべく十川君といる時間を増やそうと努力した。
そんなある日、十川君の頬に傷が出来ていた。
彼は大丈夫だと言って誤魔化したけど、俺はスグに分かったね。
彼が「苛め」にあっていることに。
が、その時感じたものは同情でも、憤怒でもない。
歓喜だった。
俺の理想となっている彼が、俺が理由で傷つけられている否傷ついている!!
表情には出さなかった(というか出せないよね)けどその時の俺の頭の中はかなりの興奮状態だった。
傷つけているのが他人だっていうのが気に食わないけど、この事実がそんな嫉妬潰してくれる。
だから俺はそのまま見て見ぬ振りをした、してしまった。
時々その現場を目撃した事もあったけど相変わらず俺の脳内は狂っていて。
なんていうかさ、絶対に手の届かない存在に手が届きそうになる感じだったんだよ。
それでも屈しない彼を見て、また俺の信仰っぷりは増したしね。
信仰者の俺はどこかでその状況を楽しんでたんだ。神の苦しむ姿を見て俺は何故かその状況に甘えてたんだ。
でも神はそんな信仰者を許すはずがない、神はそんな愚か者には罰を下す、否、下さねばならない
そして
あの日がきた。
いつも通り、十川君と帰ろうと思って、教室に向かうと、彼はいなくて。
どこだろうと思ってる反面、また傷ついているのかなって喜んでいる自分がいて。
俺は何の躊躇いも無く、彼に電話を掛けた。
掛けた瞬間、プツリと電話に出る音。
今回は早いなぁとか暢気なことを考えていると
『うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーっっっっ!!!!』
鼓膜を破られるかと思う程の大きな悲鳴。
彼の声じゃない、もっと低くて醜い声だった。
次にはブチっブチっと何かが千切れる音だったり、ゴキンっと何かが折れる音がした。
その度に色んな人の悲鳴が聞こえてくる。
その中に彼のものはない。
つまり
彼等が何かしているのではなく、彼が何かしている事になる。
携帯を持つ手が震える。
恐怖?歓喜?そんなのもう分からない。
その心境はまさに処罰に怯える罪人のような、
『かがみちゃん?』
ビクンと大げさなくらいに全身が跳ねた。
まぎれもない、十川君の声だった。
冷や汗が止まらない、動機も早くなって携帯の向こう側の彼に伝わってしまいそうな程ドクドク鼓動を打っていた
そんな俺の心境なんて知りませんよと言わん風に彼はあっけらかんと発言をする。
『今さ、俺あの寂れた商店街にいるんだけど鏡ちゃんちょっと手伝ってくれないかな?』
「手伝う・・・?」
『うん、ちょっとこれ運ぶの、大丈夫、俺がバラバラにしといてやっかんよー』
『鏡ちゃんは、俺の友人だもんな、手伝ってくれるよな?勿論、ねぇ』
ここからの記憶は壮絶久悲惨恐怖まみれーで語れません!アハハ!
やっぱ神は怒らせちゃいけません。愚民は愚民らしく神の為に身を粉にするべきだったんだ。
その後、十川君は1年ほど俺を無視するしまじで死ぬかと思った、よく生きてる俺。
因みにあの後から十川君へのいじめも無くなりました。一体何をしたんでしょう十川君。
さくっとちょっとだけその後を言うならば、
その場が教室のまん前だったから皆の視線が痛かった。
あの叫び声のせいで先生に質問とかされちゃったりね。
それも今ではよき思い出さ、うむうむ
「そーいえばとがわ君。最近お仕事の調子はどうでーすかー?」
もふもふもふもふ、十川君は頬をリスみたいにしてお菓子を頬張っていた。誰もとりませんて
「良好なの、かな。お客さんも、いない、わけじゃないし、」
良好かぁー・・・一体何がその定義なんだろ。お客さんがいれば良好なのかな?
「そかそかー。それはよかった。俺はいつも心配してるんだから偶には連絡ちょーだいね」
さくさくさくさく、十川君がコクリと頭を前に傾ける。これは肯定の意味。
「鏡ちゃん、は、学校生活、どーです、か」
「こっちも良好だよー!この前なんか不良どもにリンチされそうになっちゃったけどね、だけど逆にやり返してやったのですよー!」
「おー」と十川君が拍手してくれた。フォーク持ってたからあまり音は鳴らなかったけどね。
あれから俺はもう変わった。イメチェンなんてもう目じゃないね。
真面目で友達一杯な俺は不良で毎日楽しい俺に変わった。
皆びっくり俺もビックリ。
だけど十川君が喜んでくれたから周りはなんと言おうが全部無視無視してやった!
いやでも本当それからは毎日楽しいね。
何か青春なんか通り越しちゃって赤い春って感じ・・・いや、暑そうだな。
つまりは燃えてるのだ!今の俺ならキャンプファイヤーでは主役だ。何言ってんの俺。
十川君が食べようとしたケーキの苺が落ちた。
すかさずそれを俺が潰す。何か好きなんだよね、潰すの。
「今度よばれ、たら、呼んで。解体、して、あ、げる、から」
十川君がボソリと呟いた。苺はどんどん潰れてく、当たり前か。
「うーむ、やっぱとがわ君の前ではかっこいい俺でいたいから止めとくー!」
やっぱ敬愛尊敬信仰する神様の前ではかっこよくいたいよね。
だっさい信仰者なんて神様だって嫌がるだろ。
「そっかー・・・でもね、鏡ちゃん」
十川君は微かに楽しそうな顔をして
「解体して欲しかったら、いつでもシてあげるからねぇ?」
と俺の潰した苺をケーキにシロップ代わりとして乗せながら言った。
うーん、それって相手をバラしてあげるとも取れるけど
俺をバラしてあげるとも聞こえるよねぇ?
十川君は俺と目を合わせるとヘラリと笑ったので俺もヘラリと笑い返した。
友人消却
なんというか、鏡がお馬鹿でお腹真っ黒キャラになってしまった。
つまり鏡にとって十川は神なんです、そういうお話でした