ノットオフィシャル

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「なんですって!」
「何と言われても……」
「どうしてこの将棋、盤面終わらないの?」
「それはおまえが何度も待ったをかけるうえに、自分から窮地を作り出しているからだ。オレが手加減してるせいもあるけど、おまえが望んだんだからね?」
「もーどーでもいい。あんたとサシで勝負するなんて間違ってる。仕事で勝負しようじゃない」
 彼女はあらゆるゲームを並べて、一つ目とあばた面が水を差しにきたかのように、ニヤける主人公の背後に、もっとニヤけてよってくる。
「なによ、あんたら」
「何ってことはないだろう。メンツがいるんだろ?」
「おあいにく様。八百長するとは言ってないわ」
「おまえ、だれとしゃべってんの?」
「べつに。一引かなければ一を足すことはできないでしょ!」

 スタート!!
「……て、これってバーベット?!」
「ううん。勝負は勝負よ。間違いない」
「これってしかけがあるだろう。つか、仕掛けた方により有利で、仕掛けられた方には微塵も勝つ原理が存在しねえ!」
「勝負ってそういうものよ」
「詐術だ!! 将棋を知恵合戦としたら、こいつは詐欺だ」
「じゃ、手っ取り早く降参かしら?」
 彼の手元には、触れてはならない大きいカップと、中に透けて見える水入りのグラスが存在していた。中の水を飲む方法はない。目の前の女にカップを取りのけさせることはできない。彼は河岸を変える。
「こーなったら、飲み比べだ」
「乗った!」
 
 今宵、二つの影が、店と店の間を行きつ戻りつする。
「お客さん、それ以上は……もうすでにベロンベロンじゃない。面倒事はたくさんだからね。警察と救急車、どっちを先に呼ぶことになるかわからないからね」
 容赦のない店の主人が塩をまく。
「うえっぷ」
「すでに酔ってるだけで、入店拒否はないわよねえ。一見さんお断り、とか? あんた、なじみの客なんでしょう? なに、あの冷たいあしらい。以前、何かしたの?」
「そんな昔の話は忘れた」
「忘れるほど飲んだのね。そして今でも自由自在に思い出したり忘れたり、できるのね」
「次ー、次だ。おまえのなじみの店は……ボッたくられそうだからやめとこう」
「あんたのなじみの店って、良識的で即座に断るわよね。あたしたち、そんなに酔ってないのにねー」
「とかいいつつ、白線から落ちないように歩いてるところからして、小学生並みに知能低下しているに違いない」
「気のせいよ」
 彼女はけろっとしている。今のところ最初の手加減のおかげで、勝負の行方が分からなくなっている。彼女に勝ってはいけない。負けることもプライドが許さない。
「休日明けに二日酔いはひんしゅくものよー。この辺で勘弁してあげるから、お金、ちょーだい」
「勝負はまだついていない」
「どこまでいくのよ。しぶといわね」
「あ、終電逃した……」
「とりあえずあたしとワリカンでホテル行っとく?」
「それだけはない」
「安上がりなのに……」
「安上がりな女とも、勝負汚い女とも、一分一秒たりとも一緒の空気を吸いたくない、と今思ってるところだ」
「じゃあ、死んだら?」
「とりあえずオレはカプセルホテルに泊まる。おまえはタクシーで帰れ」
「タクシー代は?」
 彼女は両手をちょこんと揃えておねだりするように首を傾けた。
「今更オレにたかろうとするな。死ね」

 とりあえず、よろめきつつ走る主人公の、明日はどっちだ?!

                                     完

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お読みいただきありがとうございました。

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勝負ってなんなんでしょうね。

  • 小説
  • 掌編
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-02-18

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