友人解体

十川の友人、鏡の話。
あとがきにも書いてますが、少年のもちゃもちゃを書きたかったのでちょっと同性愛っぽい描写があります

※ちょっとした意地悪描写あります




真っ白な壁真っ白な床真っ白な家具。

不気味ではあるがその部屋の持ち主である彼にとってはどうでもいいことだった。

色を入れることに意味は無い。

飾ることさえどうでもいい。

一体それらが解体にどう影響するというのか。

理解できない?デキナイ。出来やしない。

出来たところで何が残る?

喜び?悲しみ?怒り?戸惑い?

そんなのしらない?シラナイ。知りたくも無い。

それらは全部要らないものだから。

解体屋には全て、全てが不要なもの。

解体なんて己の手があれば出来る。

故に全部不必要。

家族も、友人も、過去も、未来も、感情も

要らないし、知ったことではない。

自分の名前、さえも



「とーがーわーくん!!あっそびーにきったよぉー!!」


無音の中響く、無邪気な青年の声。

解体屋 兼 十川誠 という1人の人間でもある彼は今まで虚空に向けていた瞳をキョロっと声のした方に向けた。

ドタドタと歩きまわっているのであろう音が聞こえる。

十川はスクっと立ち上がると扉の方に向かって歩き出した。

しかし彼がそこにたどり着く前に、何者かの手によってその扉はガラリと開かれた。

そこにいたのは十川とは全く逆の青年。

長身で髪は派手な茶色、学生服には色とりどりの装飾品が散りばめられている。

「今時の好青年」という言葉をそのまま人間で表したような青年だ。

「また、き、たの。鏡、ちゃん」

普段声を発さないせいか途切れ途切れの言葉で智は喋った。

だが相手には通じたのか青年はニコっと笑うと「俺はとがわ君の親友だからねっ!」と、嫌味なんか一切籠められていない口調でそう言い放った。




解体屋である十川誠にも「義務」というものは存在する。

たとえ何であろうと「人間」である事実は変わりないので「親」も「友人」も、過去にいるには、いた。

目の前にいる青年、「鏡幸平」は十川の「中学生時代」の時に出来た「友人」だ。

誰とでも仲良く接する彼は学校の人気者とやらで、人付き合いが苦手かつ大嫌いな十川にとっては疎ましい以外の何者でもなかった。

が、友達になってしまった。一体どういうアレでなってしまったかは忘れたが、なってしまった。

その時の十川の心境は「とりあえず縁はあるレベルの友人に留めるんだろうな」と冷めに冷めたものだった。

しかしそれは的外れな考えだった。

その日以来鏡は毎朝十川を迎えに行っては学校に連れていき、お昼は絶対一緒、帰りも部活を辞めてまで十川と帰るようになった。

鏡本人はその事について何も疑問は抱いていないらしい。

しかし周りから見ればどうだ。学校1の人気者がよく分からない男子生徒の為に己を犠牲にしている。

誰もがそう思っていたし、十川自身もそう考えていた。

だけどそれに嫌悪感を抱いたりはしなかった。寧ろその時間が心地いいとさえ思えていた。

だが鏡と今まで付き合っていた人間にとっては面白くない訳がない。

十川は度々色んな人間から呼び出されるようになった。

ただの話し合い(といえるのか)の時もあれば暴力沙汰の時もあった。

それを十川は鏡に言わなかった。否、言いたくなかった、言えなかった。

この関係を崩したくないと思っている自分がいたからだ。よく漫画や小説で見る、「嫌われたらどうしよう」という奴。

十川にとってそれは初めてのものだった為よく理解はしていなかったが、どうしたいかという自分の意見だけは纏まっていたのだ。

だから頬に引っかき傷がついている時だって、教科書が破れていた時だって、よく知らない不良に絡まれた時だって、いつだって十川は誤魔化し続けたし鏡も納得している、フリをし続けた。

十川は苛めというものさえも理解していなかったのでこれが「苛め」ということを知らなかった。

しかし鏡は初めからそれが苛めと気付いていたし、原因が自分という事も分かっていた。

だからといって何かする訳でもない。というよりかは出来ないというべきか。

鏡は誰にも言ってないが極度の人見知りだった。周りにいい顔していたのも、学校1の人気者であったのも、全ては自分を守る為。

故に誰かに反発することに異常な恐怖を持っていた。嫌われることの恐れ、存在を消されることへの恐怖、常に鏡の心にはソレが蝕んでいた。

ある日十川は「苛め」に膨大な怒りを感じ始めるようになった。

何で自分が、いや理由は分かっている、だけど、だけどだけどだけどだけど


何でこんな、痛い思いしないといけないのか。


十川の中で増幅する怒り、憎しみ、憎悪。

どうすればこんな思いしなくて済むのか、いい加減しんどいもう嫌だ。

いらいら、いらいら

そして十川は思いつく。これらを終わらせる方法を。

何だ、とても簡単なことじゃないか。


思えばこれが、解体屋の始まりだったのかもしれない。




「相変わらず真っ白だねー、今度外出ようよ!」

「嫌だ、よ。そんなの、面倒、なだ、けじゃな、い」

部屋の真ん中に広げられる彩り豊かなお菓子たち。

2人はそれらを全て半分にしながら食べていた。

さくさく、ぱくぱく、さくさく、ぱくぱく

「そーいえばとがわ君。最近お仕事の調子はどうでーすかー?」

十川は口にケーキを含みながら、もふもふ答える。

「良好なの、かな。お客さんも、いない、わけじゃないし、」

「そかそかー。それはよかった。俺はいつも心配してるんだから偶には連絡ちょーだいね」

さくさく、ぱくぱく、ぐちゃぐちゃ、もふもふ

「鏡ちゃん、は、学校生活、どーです、か」

「こっちも良好だよー!この前なんか不良どもにリンチされそうになっちゃったけどね、だけど逆にやり返してやったのですよー!」

「おー」

十川は苺のケーキに手を出した。赤い苺がコロリと転がる。

すかさずそれを、鏡がつぶし始めた。

「今度よばれ、たら、呼んで。解体、して、あ、げる、から」

ぶちぶち、苺は綺麗な果汁を出して、どんどん潰れていく。

「うーむ、やっぱとがわ君の前ではかっこいい俺でいたいから止めとくー!」


ガチャガチャ、ガチャガチャ 苺は形を無くし、半液体状態になった。

それでも鏡は潰し続ける。

「そっかー・・・でもね、鏡ちゃん」


解体して欲しかったら、いつでもシてあげるからねぇ?


2人は目を合わせると、ヘラリと笑った。

友人解体

十川は人間なのでちゃんと学校にもいってました
因みに年齢は2人も10代です、20代にしようかと思ったんですが
少年がもちゃもちゃする話を書きたかったので

この話にはもう1つ鏡サイドがあります

友人解体

十川の友人、鏡の話 解体屋シリーズのはじまり

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-08-28

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