キンダー

【Chap.1】テスト

この地球のある国では、子供達は11歳になると、全員テストを受けさせられます。
「ディバイディング・テスト」と呼ばれるこのテストを受ける事で、彼らの未来が決まるのです。

テストは簡単、ディバイダ―と呼ばれる青い眼鏡を掛けるだけ。右の眼にAが見えればAコース、
左の眼にBが見えればBコースへと子供達は分けられます。

Aコースへ進んだ者の中には、あの議員も、野球チームを持っているあの有名な社長も、
そして、給食を一緒に食べたあの市長もいます。

一方Bコースに進んだ者達は…。実は国民はその先を殆ど知らされて居ないのです。
というより、不思議な事に誰もその話をしようとしないのです…。

七夕の夜、学校の教室で毎年テストが行われます。今年、この小学校からは6人の子供が
テストを受けます。英一、英二という頭の良い双子の兄弟、クラスで一番美人で賢い英子、
明るい勉(ベン)、運動が得意な武(ブー)、それから、絵を描くのが大好きな文子(ブン子)です。

(名前の読みから前の3人は、AAA(トリプルA)、後の3人がBBB(トリプルB)と、クラスでは
呼ばれていました。)

7月7日運命の夜、月夜のせいか、皆、青白い顔をしている様に見えます。

「では、英一君から。心の準備が出来たら眼鏡をかけて。
Aが見えたらそのまま席に着いて。Bが見えたら教室から出て係の人の指示に従って下さい。それから…。」

その先、先生が何というのか聞き逃さない様に、皆、耳を澄ましていました。

「もし、もしだけど、嘘をついて、見えて居ない方のコースを答えた場合、それが解った時点で本人は刑務所へ
送られます。そして、その家族やその子孫に至るまで、永遠に受験者リストから外されます。」

「受験者リストから外れると、その人達はどうなるのですか?」

英子が尋ねました。先生は一瞬戸惑った後、一息ついて

「今までリストから外れた者はいません。だから今回も皆さん正直に答えて下さい」

と言いました。でも先生は、本当は知っているのです。今までにリストから外れた家族がいた事を。
そして、彼らのその後の人生を。

【Chap.2】赤眼鏡

「それでは、文子さんで最後です。準備が出来たら眼鏡を掛けて見えた文字を答えて下さい。」

「Bです。」

「解りました。では教室を出て係の人の指示に従って下さい。」

6人全員のテストが終わり、教室には英一、英二、英子の三人が残りました。

二週間後、Aコースに進んだ三人は、他の学校から来た子供達と一緒に、国民未来開発センター
という所でハードな訓練を受けていました。

ここでは、勉強だけで無く、色々な練習をさせられ、そして学習した事の小テストが毎日次の
ディバイディングテストに向けて繰り返されます。

「良いかいお前達、一年たったら、赤眼鏡を受けるんだよ」

ここで主に生活面の指導をしている、トキと呼ばれるおばあさんが、かすれた声で言いました。

そう、次のディバイディングテストは、赤い眼鏡を掛けて行うと言われており、センターの子供達や
指導者達は皆このテストを「赤眼鏡」と呼んでいました。

毎日毎日が大変な生活でしたが、無事に三人は一年の訓練を終えて12歳になり、小学校卒業と同時に
このセンターからも卒業する事になりました。

「可愛い子供達、明日であたしともお別れだよ。さあ明日はいよいよ赤眼鏡の日だ。ぐっすりお休み。」

そう言ってトキさんは電気を消し、部屋から出て行きました。コツコツと響く靴音が段々遠くなって
聞こえなくなった時、英一が口を開きました。

「なあ、明日テストを受けて、B判定なら俺達どうなるんだろう?まさか、無いとは思うけどさ。」

「B判定でもきっと元の小学校へ戻るだけさ。何も心配ないよ。」英二がすぐに答えました。

「でも、一つ上のB判定の女の子、この間、このセンターで見かけたよ。今までかけていなかった
黄色い眼鏡を掛けていたけど。」

英子が続いて答えると、英一も英二も黙っていました。三人はそれぞれ不安な気持ちを抱えつつ、
昼間の疲れが出たのか、いつのまにか寝てしまいました。

次の朝、準備を終えて教室で子供達が待っていると、トキさんが赤い眼鏡を持って現れました。
赤い眼鏡の右側には、何か細かい金色の文字が書いてあります。左側には何も書いてありません。
形も左右が不揃いで、少し気味の悪い眼鏡です。

「さあ順番に掛けとくれ。解っちゃいるだろうけど、嘘はつくんじゃ無いよ。あたしゃ全てお見通しさ。」

と、トキさんが、かすれた声で言うと、一年前と同じ様に英子が聞きました。

「嘘をついて、逆の方を言ったらどうなるのですか?」

嘘と言う言葉が気に障ったのか、トキさんはギロリと英子をにらみ、大きな赤い口を開いてこう言いました。

「嘘ついても無駄さ。ユニ様が考えた完璧な仕組みだから絶対にバレるのさ。嘘はつかない事だよ。
あんた達の家族を不幸にしたくなければね。 じゃ、先ずあんたから。」

トキさんが手渡した赤い眼鏡を最初の子が掛けました。いよいよテストの始まりです。

【Chap.3】Bコース

一方、一年前にBが見えた三人は、あの後、係の人に連れられ長い電車の旅をして、
グラウンドBと言う地区にある、奉仕力開発センターという場所で生活をしていました。

勉と武は、毎日朝から、パワープラントと呼ばれる巨大な筒に緑色の液体を注ぎ続けるのが役目です。
パワープラントで作られたエナジーは、グラウンドXと呼ばれる場所で使われているそうです。
文子は他の女の子達と一緒に、フードプラントと呼ばれる場所で料理の補助と畑の世話をしていました。

一日の役目が終わると、他の仲間達と大勢で夕食を食べます。薄い豆のスープと、パン一切れ。
毎日毎日同じメニューです。ある晩、もう35年もこのパワープラントで働いているマルティという
おじいさんと隣の席になりました。

「入ったばっかりかい。」

マルティはとても疲れている様子でしたが、優しそうな人でした。

「はい。一年前に同じ小学校の子と来ました。」

「そうかい。ここでの生活は大変だろ?慣れたかい?」

「はい。随分と慣れました。でも僕は未だ小学校を卒業していないので、学校へ戻りたいんです。」

勉がそう答えると、マルティは力無く笑いながら、

「ハハハ、それは出来ない相談だよ。B判定が出たんだろ?そしたら、もうここからは出られない。
パワープラントかフードプラント、クリーンプラントの違いはあるが、ずっとこのグラウンドBで働くんだよ。」

「でも、僕達は小学校に戻って、クラスの仲間達と卒業したいんです。」

勉はすかさずそう答えました。

薄いスープを飲み終えたマルティはハァーとため息をついた後、じぃーっとベン達を見て、

「そうだな。君達は未だ子供だ。ユニがこんなシステムを作らなければ一杯夢を見て、楽しい毎日を
過ごしているはずだ。じゃ、"緑の眼鏡” とやらを見つける事だ。俺も実物を見た事は無いが、そいつを
掛けると、今までの事は全部一回リセット出来るらしい。その先はどうなるのか誰も知らないがね」

マルティは周りを用心深く見まわした後、

「実は、俺は30年前に一度だけグラウンドXに行った事が有る。その時にこの玉を拾ったんだ。
これを君達にあげよう。」

マルティはポケットの中から、リンゴ位の大きさの、透明な丸い玉を取り出してベンの手に乗せました。

「噂によれば、これはジャイロと言って、自分の進む未来を見せてくれる。ただ三回しか答えてくれず、
一回は俺がグラウンドXから戻る時の道案内に使っちまったが、こいつがきっと役に立つ」

「でもおじさんはこんな大切な物僕にくれてもいいんですか?おじさんこそ、これで緑の眼鏡を探した方が
良いんじゃないんですか?」

玉を受け取った勉がマルティに尋ねると、マルティは力なく笑いながら、

「俺はもう年を取り過ぎた。今からリセットしても残りの人生はいくらも無い。おまけに病気もどんどん
悪くなってる。だから、こいつぁ君たちが使う方が役に立つ」

と言いました。勉はマルティの目をじっと見て、

「おじさん、有難う。僕達絶対緑の眼鏡を見つけて戻って来るよ。そしたら、おじさんを病気の治せる病院まで
連れて行きます。だから、諦めずに待ってて下さい。」

トリプルBの3人は自分達の部屋に戻った後、玉を見つめながら夜遅くまで、ここから逃げ出す計画を話し合いました。

同じ夜、グラウンドAに居るはずの英子が車に乗せられて、真っ暗闇の道を走っていました。もう何時間走ったでしょう、
東の空が明るくなり始めた頃、やっと車は停まりました。

目の前には延々と続く巨大な壁がそびえたっています。英子が車から降りて壁の前に立つと、後ろの席に座っていた
トキさんが、窓を開けてこう言いました。

「残念だよ英子。あたしゃあんたが好きだった。でもここでさよならさ…。  お別れにこいつをあげるよ。」

トキさんは紫色の布をゆっくり開くと、透明なリンゴ位の玉を英子に手渡しました。

「これはジャイロと言って、あんたの未来を映してくれる。ただし、ジャイロが答えるのは3回だけ。その後はただの
ガラス玉になっちまう。壁の向こうはグラウンドBさ。どんな所かあたしゃ知らない。でもこいつは、自分の仲間を
見つけるのにきっと役に立つ。じゃ、ほんとにさよならだ…。元気で暮らすんだよ。」

そう言い終えると、トキさんはたばこに火をつけて、フーっと煙を吐き出し、英子を見つめたまま車の窓を閉めました。

車はゆっくり向きを変えると、来た道を砂を巻き上げながら、猛スピードで走り去って行きました。

トキさんはミラーに写る英子の姿がどんどん小さくなるのを見ながら、一言ポツンと言いました。

「役には立つさ。  ただし、ジャイロは時々嘘をつく」

【Chap.4】ジャイロ計画

明るい満月の夜、一人の少年が、空を見上げて月の動きを追っていた。
その子の名前はユニ。ユニは小さい頃から賢く、小学校を卒業すると中学へ行かず、飛び級試験を
受けて高校生になった。高校も1年半で終わらせたので、14歳になる少し前に大学生になった。

A国とB国は長年戦争を繰り返しており、A国の女王は、その度に多くの命が失われる事は、
国としての損害だと考えていた。女王はある日、大学の教授を集め、尋ねた。

「仮に又、戦争になっても、国民を殺れぬ様、守る方法は無いか?
若しくは、戦争が終わった後に、必要な人数を直ぐに補える方法は無いか?」

女王の突飛な質問に多くの教授は驚き、有る者は首を傾げ、有る者は馬鹿にした様な笑みを
浮かべていた。数分間、教授達の雑談が続いた後、一人の教授が手を挙げた。

「女王陛下にお答え致します。先ず初めの質問ですが、最善の方法は戦争を起こさぬ事です。
陛下が戦争を起こさぬ様政治を行えば、誰も死ぬことは有りません。二つ目のご質問は、
例えば、人をそのまま凍らせて保管しておき、必要な時に解凍する様なシステムでしょうか?」

「その通り。戦争になれば、先ず、多くの若い働き盛りの男達が戦場に送られ、戦後は国の力が
落ちてしまいます。又、多くの子供、女性が巻き込まれ、国の将来を担う力が失われます。
そして、老人が死ねば多くの知識、経験が次の世代へ引き継がれず、この国から消えるのです。」

女王の言葉に王宮の広間は静まり返った。先ほど質問した教授が再度手を挙げてこう言った。

「女王陛下、私が現在大学で研究しているプロジェクトがお役に立てるやもしれません。
今、地球は資源が無くなり他の星から資源を輸入しています。人口が多すぎて、食料も間もなく
底を尽きます。食料や資源を良い状態のまま長い距離を移動できる様に、物体を原子レベルに
分解保管し、蘇生させる技術です。」

「その技術は人間にも使う事が可能か?」

女王の問いにその若い教授が微笑みながら答えた。

「理論上は可能です。」

その若い教授こそ、A国始まって以来、最年少21歳の若さで国立大学の教授に就いた
ユニだった。女王の名前はビクトリアス。名前の通り、負ける事が大嫌いなこの女王はその場で
計画を承認した。

動き出したこの計画は、研究の為に選ばれた4人の教授、ギュンター、ユニ、ローランド、
オットマンの頭文字を取って【GYRO計画】と名付けられた。

始めは実験台として多くの犯罪者が研究所に送り込まれた。実験は何度も失敗し、多くの犯罪者
の命が失われた。実験は秘密に行われていたが、次第に国民の知るところとなり、非人間的な
実験への批判が繰り返されたが、女王は決して計画を止めなかった。

7年が過ぎ、誰もがこの計画が不可能だと思い始めた夏のある日、四人の教授は遂に実験に成功した。
この日、人類は必要な時に、必要な分だけ、必要な年齢、性別の人間をいつでも世に送り出せる力を
手に入れた。

完成したリンゴほどの大きさの透明な玉を、女王に披露したのは、7月7日、蒸し暑い満月の夜だった。
国民選別の為、11歳の子供達に課すディバイディングテストは、この成功を記念して七夕の夜に
行われる事になった。

成功を聞いた女王はたいそう喜び、傍に居た執事にこの技術を体験する様に命じた。執事は不安
そうな表情を浮かべながらもその場で裸になり、ユニットの中に入った。暫くしてユニットが
青白く光り終えると、中には透明な玉だけが残っていた。

透明な玉はその場で隣のユニットに移され、今度は赤くぼんやりとした光が消えると中には
裸の執事が立っていた。

「素晴らしい!この技術をすぐに実用化しなさい!優秀な国民を選んで保存するのです。」

4人の教授は、一生掛かっても使いきれない位の褒美を貰い、その数年後、今度は人間から作った
この透明な玉をコピーする技術も開発した。つまり、必要な時に、必要な数だけ「全く同じ人間」
を造り出す事に成功したのだ。

神をも超える人類始まって以来の快挙に研究所は大いに沸いた。しかし、この時、誰もこのコピー技術
に、後の社会を大きく変えてしまう重大な欠陥がある事に気付く者は居なかった。

【Chap.5】グラウンドB

巨大な壁の前に置き去りにされた英子は、手に持ったジャイロを眺めながら、呆然とウォールBの前に
立っていた。今までA判定でエリート街道まっしぐらだった彼女にとって、これが初めての挫折であり、
同時に今ここでジャイロの力を使ってしまって良いのか悩んでいた。

ウォールBの前をどれ位歩いただろうか?疲れ果てた英子はジャイロに向かって遂にこう尋ねた。

「私はどうすれば良いの?」

すると、ジャイロは青白く光り、コロコロと転がりながら暫く進み、壁の前で止まった。
その場で暫く待ったが何も起きず、その後ジャイロは何度呼び掛けても全く反応しなかった。

太陽がどんどん高くなり、周りには陽を遮る物が何も無く、暑さとのどの渇きで意識が薄くなり始めた頃、
英子は不思議な感じがしていた。先ほどジャイロが青白く光った時、ほんの一瞬幼い頃に別れた母親の顔が
ジャイロの中に映った様な気がしていたのだ。

国際的にも有名な音楽家であった母、エリコ・ヘンドリックの奏でる曲を力無く口ずさみながら、寝転がって
ジャイロをぼんやり眺めていると、突然太陽からジャイロに一閃の光が差し、その瞬間大きな扉が壁に映し出された。

気力を振り絞って、英子が扉に駆け寄ると、扉は音を立てて開き、目の前に草一つ生えていない赤土のグラウンドBの
景色が広がった。よろよろと数歩前に進み、扉を抜けた英子が振り返ると、その場にもう扉は無く、元の壁がそびえ
立っているだけだった。何が起きたのか良く分からぬまま、英子は疲れと渇きでその場で意識を失って倒れた。


満月の夜、トリプルBの三人組はマルティから貰ったジャイロを持って、ある晩センターから抜け出した。
センターの外に出るのは、ここへ来てからこれが初めてだった。月の明かりが射していても、辺りは暗くて良く見えない。
勉は看守に気づかれぬ様小さな声でジャイロに、

「おい、緑の眼鏡まで案内してくれ。とささやいた。」

全く反応は無い。

「ベン、多分聞き方が悪いんだと思う。俺に貸して。」

武は玉を受け取ると、

「すみません。緑の眼鏡の場所まで案内して下さい。あと、腹が減ったのでカレーをお願いします。」

全く反応は無い。

「馬鹿、そんなお願いしてこの玉が使えなくなったらどうするの?こう聞くのよ。ねえお願~いジャイロさん、
緑の眼鏡の所まで早く連れてってえ~ん」

セクスィーとは全く反対のブン子のセクスィーな言い方に他の二人は思わず噴き出してしまった。

「バーカ、そんなんでジャイロが答える訳・・・」

ベンがそう言い終わる前に、ジャイロに赤い点がいくつも現れた。点と点は線で繋がって行き、
月夜の明かりが珠に当たると、地面には大きく赤い線が描かれた。

「す、すげえ!」

赤い線を良く見ようとベンがしゃがみ込んだ時、後ろに立っていたブン子が不思議そうにこう言った。

「あれっ?ベン、あんたと同じ所に、あたしも赤いほくろ有るよ。ほら!」

ブン子が髪を持ち上げて右耳の後ろを見せると、ベンはえーっと驚いた。そして、その様子を見ていたブーは不安そうにこう言った。

「お、俺も同じ所に、あ、赤い、ほ、ほくろが有る。」

三人はこの晩、同じ場所に同じ赤いほくろが、同じ様に縦に3つ並んでいる事を初めて知った。

【Chap.6】 火事

ウー、サイレンが大きく鳴り響く中、トリプルA達が居た国民未来開発センターはその晩大騒ぎになっていた。
多くの子供や職員が逃げ惑う中、副センター長の部屋へ警備担当者が飛び込んできたのは真夜中を少し過ぎた頃だった。

「ヘンドリック先生!ヘンドリック先生!」

「何事だい!こんな夜中に!ばあさんを驚かすんじゃないよ。」

「大変だ!火事です!1号棟が燃えています!」

「やれやれ厄介な事になったね。」

ゆっくりとベッドから起きた副センター長トキ・ヘンドリックは、ガウンを着ながらそう呟いた。

この国では消防や警察への通報は、個人番号の緊急用コードで行われ、総合的な判断はAIが行い
必要な装備をした警官や消防士を出動させる。トキが緊急用のコードで火災の状況を本部へデータ送信した結果、
AIが出した回答は「そのまま全焼させる事」だった。

翌朝、焼け残った物の運び出し中、トキは偶然見つけた大昔のCDを眺めて、娘のエリコが産まれた時の事を思い出していた。
彼女が産まれた前世紀の終わり頃は、世界的な人口増による絶対的な食料不足で、大国は食料を囲い込み、小国は隣国との
連合や統合を進め、農地や海の資源確保を図ったが、陸海共に世界中で食料の争奪は激しく、弱い国は強い国の属国となり、
急速に大国による小国の植民地化が進んで行った。

ある小さな島国も、戦争からの奇跡的な復興や、大津波の被害に遭いながらも長く独立を堅持していたが、
政策の度重なる失敗で国は衰退し、A国に併合されて今は歴史上の国になった。トキの両親はその国からの移民だった。

移民の子として大変苦労したトキは、自分と同じ苦労をさせない為に、娘のエリコに幼い頃から音楽の英才教育を行った。
その結果彼女の才能は見事開花し、国民的な人気を誇る音楽家になった。

GYRO計画の成功後、夢の新技術で保存対象に選ばれるのは名誉な事と繰り返し国が宣伝した事で、選ばれた者達は皆、
喜んで永遠の命として保存される事を承諾した。

類稀な音楽の才能を認められ、エリコが保存リストに載ったのは一人娘の英子が3歳の時だった。そしてその年の冬に
保存番号20711番として地下深くのジャイロ保存センターで眠る事になった。


一方、既にジャイロから人間に蘇生した人達もいた。マスコミは彼らを【リターナー】と呼び、こぞって派手に報道した。
全てが計画通りに見えた。SNSでリターナーについてあの噂が拡散するまでは…。

【Chap.7】リロ

どの位、意識を失っていたのだろうか?英子はテントの中で目が覚めた。

「気が付いたかい?」

声の方を見ると、料理をしている老婆の背中が見えた。トキに壁の前で車から降ろされてから、ほぼ何も食べていないので腹ペコだった。

「助けて戴いて有難うございます。ここはグラウンドBのどこですか?」

「ここは、グラウンドBの西の果てさ。ユニのシステムから逃げて来た連中がここに集まって暮らしているんだよ。
もう何年も新しい住人は来てないがね。起きられる様なら、これをお食べ。」

「えっ!」

料理を手に振り返ったのは、トキだった。

「トキさん!」

「誰だいトキってのは?あたしゃリロ、残念だけど人違いだよ。」

老婆は笑いながら人違いだと否定した。

「冗談はやめてトキさん、本当はここはどこなの?」

「冗談も何もあたしゃトキじゃない。リロだ。産まれてからずっとリロだよ」

英子はリロをじっと見つめて、

「でもそっくり。声は少し違うけど、全く同じ顔よ。」

「世の中には同じ顔をした人間が3人は居るっていうからね。トキって人は誰なんだい?
まあそんな事はどうでもいいや。先ずはこれを食べて又、少しお休み。話はそれからゆっくり聞くから」

リロがくれた食事を食べ終えると、英子はベッドに横になった。そして、センターを出てからここ数日の
出来事について、色々考えている内に又、寝てしまった。



一方、トリプルBはジャイロが示した赤い線に沿って暗い夜道を進んでいた。

「本当にこの道で良いんだよな。どこかで巨人が現れて喰われるとか無いよな?」

「おまえ古い漫画読みすぎ。人間を食う巨人と塀の中の人間が闘う話だろ?
ひもでビューンと空飛びながらさ。あれ、100年以上前の漫画だぜ。今何世紀だよ。」

「あ~腹減ったな~」

「お前さ、腹減るか、心配するかどっちかにしろよ」

ベンとブーのこんなくだらない会話を聞きながら、ブン子は二人の後をついてきていた。

「待って。赤い線がここで三つに分かれてる。どうしよう」

ブン子はベンの持つジャイロが示している赤い線を指さしてそう言った。

「うん?待て、ここになんかある」

ベンが足元のじゃりをどかすと、そこにはマンホールの様な丸いプレートが埋もれていた。
しゃがみ込んで、よく目を凝らしてプレートを見るとそこには【20711】と言う番号が刻まれていた。

「3人で別の道を行くか、一本を選んで皆で行くかどうする?」

ベンが尋ねると他の二人は彼を見つめたまま黙っていた。

「どうすりゃいいんだよ。ジャイロ。俺達をどこへ連れて行きたいんだ?20711って何の数字だよ」

ベンはジャイロを見ながら一人呟いた。

ジャイロは問いには答えず、赤い三本の線を示しているだけで、月の青白い光がプレートを囲み立ち尽くす3人の事を照らしていた。

【Chap.8】リターナー

その朝も他の日同様リターナーの事についてワイドショーの司会者が話していた。

「それでは、次の話題にうつります。最近SNSで拡散しているリターナーの噂ですが、
リターナーは、ジャイロ化前に比べて、病気になり易くなる、そして知的レベルが低くなる、
簡単に言うとリターナーになった後では、能力が落ちるって事ですが、この噂、どんどん広がっていますね?」

「いやあくまでも噂でしょ。このシステムは完璧な物で、実際私の友人でもリターナーになった人がいますが、
ジャイロになる前と後では何も変わりませんよ。相変わらず素晴らしい能力ですよ。」

司会者に促された他の出演者が話をすると

「でもね、この看護師さんが投稿した文を読むと、直ぐにデマだと断定は出来ないんですよ。いいですか読みますよ。

“昨日、テレビで見た事あるリターナーが運ばれてきた。ちょーやばい!こんなの見た事ない!
体全体が真っ白、で、なぜか耳の後ろのほくろだけが赤い!ちょーキモイ!でも、今朝は元に戻っていて、普通に退院してった。こわ!”

「今は、このアカウント事削除されて、見る事は出来ないんですが、この書き込みと一緒に投稿されていたのがこの写真です。」

司会者が示した写真には、救急隊に運ばれる雪の様に白い肌の人間と、もう一枚、真っ白な耳元に5つある赤いほくろの写真が写されていた。

「こんなの合成でしょ?警察も調べてるって話でしょ?すぐにデマだと解りますよ。」

他の出演者が写真についてコメントすると、司会者も続いての有力な情報を待ちましょうと応じた。

あくまでも噂だとその朝はみんな思っていた。しかし、この放送を機に、次々とリターナーに関する投稿SNSに寄せられて、
社会のリターナーに対する見方が、羨望から疑いに急速に変わっていった。


コン、コンと靴音を響かせて、薄暗い通路を背の高い男があるいて来た。厳重に警備され、地下深くにあるこのジャイロ保存センターには
ごく限られた者しか入る事は出来ない。男は20711番の前で立ち止まると、手をセンサーにかざしてロックを外し、番号が書かれた扉を開けた。

「やっぱり」

空っぽの扉の中を見て男はそう呟いた。そして振り返り、後ろにいた老婆にこう言った。

「トキ、あの女だ。リロを探し出してエリコのジャイロを取り戻すんだ」

「はい。ギュンター様。既に手は打ってあります。エリコの娘をグラウンドBへ送り込んであります。
偽物のジャイロを持たせてね。今はここにいますよ。ほら」

トキの手のひらには英子の居る場所が示されていた。テントの中で、ぐっすり眠る英子のベッドサイドには、
発信機の付いた偽のジャイロが置かれていた。

そして、ベッドの下にある、20711と書かれた銀色の箱からは、青白い光が漏れており、
そのぼんやりとした光と、英子の寝顔を見ながら、リロは慣れた手つきで、古ぼけた銃の
手入れをしていた。そして、何かに気づいたのか

「見つかっちまったか。遂に来るねぇ。」

と呟いた。

「あーいよいよだな。食堂で兄貴が渡したジャイロの指示通りに来れば、あの子達も今頃は20711の
プレートを見つけているはずだ。」

と、横にいた男が静かに答えた。

「そのジャイロは信用出来るのかい?」

「それは大丈夫だ。あのジャイロは俺の弟さ。俺達は三つ子で子供の頃からいつも一緒だった。
マルティ、俺、そして、ジャイロになった弟のクルティだ」

ブーンと音を立てて、数機のドローンがリロのテント上を飛んだ後、空から黒ずくめの男たちが降りて来た。
リロは隙間から辺りを確認しながら、

「お嬢ちゃん、ここらでホテルごっこは終わりだ。料金は要らないからベッドの下から逃げとくれ。
箱も忘れず持ってとくれよ。」

「えっ何どういう事?」

「ベッドの下に抜け穴が有るんだよ。マットを外して見てみな。さあ、時間が無い早く行きな。」

男の方が急かすように英子に言った。

「なぁリロ、生まれ変わったらジャイロになってみねえか?」

「あたしゃご免だよ。落として割れたら一巻の終わりだろ、あたしゃ最後まで人間で死にたいよ」

「そりゃそうだな。おや、あのマークはバカ息子の部隊だな」

リロと男の会話が終わらぬ内に、黒ずくめの男達が一斉にマシンガンを撃ち始め、砂漠の暗闇は
一瞬にして赤い光に引き裂かれた。

【Chap.9】ノートリアス


女王ビクトリアスには一人息子が居る。名前をノートリアスと言い、どうしようも無く馬鹿で、無能で、そして乱暴だった。
この男の唯一の取柄は暴力。ポケット付きの青い猫か狸の漫画に出てくる体の大きな少年の様に、頭で考えず、全てを暴力で
解決しようとする男だった。

しかし、国にとって何の価値も無いこの息子を女王は溺愛しており、この男に何とかして自分の王位を継がせたいと考えていた。
手を尽くして継がせる理由を考えたが、ただ一つ、戦争を通してこの男に手柄を立てさせる事以外には、遂に良い方法を見つける事は
出来なかった。

自分の国は成長しているとは言え、未だ世界の大国には武力でも経済力でも叶わない。戦争に負ければ自らが滅んでしまう。
永遠に兵隊を戦地へ送り続ける能力でもなければ、直ぐに女、子供と老人だけの国になってしまう。女王にとって、兵隊を確保し続け、
ノートリアスに何とか武勲を立てさせる事だけが、国を継がせる唯一の方法だった。そしてあの晩、運命の神はノートリアスに微笑んだ。
女王が夜も寝られぬ程思い悩んでいた7月6日の夜に、ジャイロ計画の成功が女王に報告されたのだった。

トリプルBの三人は月明りの中、ジャイロの指示に従って歩いていた。

「ちょっと待て、この景色さっき見た。あっちが山で、こっちが谷、それでこれだろ?」

ベンが足元をザラザラやると、そこにはあの20711のプレートがあった。

「つまり、同じ処をぐるぐる回って居るって事か?」

「ああ。どうやらそうらしい」

「ジャイロに騙されてるって事か?」

と、その時、プレートがゴトゴト動き、急に持ち上がった。3人はギャーと飛び上がって逃げ出し、近くの岩陰に隠れた。
砂がザッーと動きプレートが持ち上がると、そこから英子が現れた。ギャー再び3人が大声を上げると、今度は英子が
ギャーと大声をあげて驚いた。

「なんなのよ!」

「お前こそ何なんだそんな所から現れて!そこはどこなんだ!」

「どこってここよ!あんた何言ってんの?あたしがここは何処か聞きたいよ!」

「英子あんた何持ってんの?」

文子が割って入ると、

「何って箱よ!」

「箱の中身は何だよ?」

「箱の中身はトキさんから貰ったガラス玉よ。ジャイアントとかっていう」

「ジャイロだろ?俺達も持ってんだ。」

三人は英子のそばに集まり、四人でテストを受けてから今までにお互いに起こった事を話した。

「さっぱり分んないよ。俺達三人が逃げ出したのが理解出来るけど、お前は何で追い出されたんだ?」

英子が両手を広げて解らないという様に首を横に振ると、四人は“はあ~っ”とため息をつきながら空を見上げた。

「あのプレートの番号が20711、箱の番号が20711、20711って何だろう?」

「私達が同じ場所を回っていたのは、英子待ちだったって事?」

そう言うと、文子は英子の持ってきた箱を眺めながら、ため息をついた。

「何なんだよ~?」

四人は二つのジャイロを眺めながら全員途方に暮れていた。

「ちょっと待って、この音何?」

ゴォーという音と共に、グラウンドAとBの間を行き来する長距離トラックが近づいて
きたのはその時だった。

「停まれ、停まれ!」

ブーが道路脇に立って大きな声で呼びかけた。電車の様に長いトラックが四人の前に止まり
中から、ドライバーが降りて来た。

「何だお前達?ここで何してんの?」

英子がとっさに

「グラウンドAの能力開発センターに行きたいんです」

と答えた。

「開発センター?何言ってんだ?あそこはこの間燃えちまって今は何も残ってないぞ」

英子は言葉を失った。それでも何とか言葉を絞り出して尋ねた。

「センターに居た子供達はどうなったんですか?」

「全員焼け死んだって聞いてるよ。可哀そうにな。未だ子供だってな。まあ乗んなよ。
センターの近くまでなら連れてってやるよ。」

グラウンドAにいるトキの元へ、リロのテントを襲った部隊から報告が入ったのは英子が逃げ出して間もなくだった。

「男とばあさんを始末しました。はい。確認しました。男の方は赤い点が二つ、ばあさんの方は赤い点はありません。
写真を送ります。ジャイロも無事に回収しまし・・」

「馬鹿野郎!リロを逃がしたね!お前らが始末したのはリロの替え玉だよ。お前らがもたもたしてる間に抜け穴から
逃げ出したんだ。ジャイロも恐らく、あたしがエリコに持たせた偽物だ。直ぐに後を追いな。やつらはエリコを
取り戻すつもりなんだよ。エリコは絶対に人間に戻させない。いいかい憶えておきな!」

【Chap.10】もう一人いる


四人を乗せたトラックは明け方にグラウンドAのゲートを通った。通過パスに記載が無いので、
コンテナの中にギュウギュウに押し込まれていたが、センターの近くでやっと解放された。

「ドライバーさん、本当に有難うございました。お礼に差し上げられる物は何も無いのですが、」

「よせよ、子供から何か貰おうなんてケチな根性は持っちゃいないよ。お前らなんか訳あり
みたいだから気を付けて行くんだぜ。」

「ドライバーはそう言うと東の方へ走り去っていった。さて、これからどうするんだ?」

「センターへ取り合えず行ってみる」

四人がそこで見た景色は、一面真っ黒の焼け跡と残骸だった。

「こりゃひでえ」

ブーが思わず口走った。

「英一と英二はどうなったんだろ?」

「大丈夫生きているよ。きっと」

文子が続けてそう言った。それ以外は皆無言だった。と言うより、あまりに酷い光景に言葉が出なかった。

「お帰り。どこに行ってたの?酷いもんだろ?」

声をかけて来たのは同じセンターに居たシラフと言う名前の男だった。同じ学年だが、年は幾つか上の様だった。

「あっと言う間だったよ。最初は消火しようとしたんだけど、余りに危険なので消防隊にも避難指示が出てさ、
建物は全焼してしまったんだ。」

「私と一緒にセンターに来た男の子二人は?」

「あ~彼等はここから十キロ程行った所にあるドミトリーに移された。滅多にない事らしいけど軍隊に入る為の
訓練を受けさせられているらしい。」

「どこから戻って来たか知らないけど、お腹が減っているだろ?先ずはこっちへ来て何か食べなよ」

「賛成!」ブーが真っ先に手を挙げてシラフの後について行った。

ベンも後をついて行きながら、英子に尋ねた。

「あいつ妙に愛想がいいけど、信用出来るのか?歳も俺達より上みたいだし」

「大丈夫彼はいつもあんな感じよ」

「ふーん。ってか、英子お前には耳の後ろに赤い点が無いんだな?」

「何の事?」

「逃げてくる途中で偶然気付いたんだ。俺達三人は同じ場所に赤い点があるんだよ」

「それって大事な事なの?」

「よく分かんないけどさ」

宿舎に着くと、四人は食事をご馳走になり、シラフに今までの事を話した。

「そうだったの。大変だったんだね。ここでも多くの人が犠牲になって大変だったよ。
英子のクラスは奇跡的に君たちの仲間二人と僕が生き残ったけど、他のクラスは
全滅だったんだ。」

シラフは写真等を見せながら、火災の状況や、その後について話してくれた。

「これって、名簿ですか?」

「あっそうだよ。クラス別になってるはずさ」

ベンは暫く眺めた後、資料をシラフに返した。その日の夜、その宿舎で四人は泊まる事になった。
ブーと文子は久しぶりのベッドと温かい布団に直ぐに眠ってしまったが、ベンと英子は眠れずにいた。

「起きてるか?」

「起きてるよ」

「何か変だろ?」

「何が?」

「あのシラフって奴」

「シラフの何が変なの?」

「俺達の話って、普通じゃなかなか経験しない話だろ?だけど、奴はあまり驚かないっていうか、全部知ってたって
みたいな感じがしてるんだ。英子、クラスは何人居た?」

「3クラス全て18人よ」

「あの名簿に載っていた犠牲者は51人だ」

「だから何なの?」

「簡単なひき算だよ。学年で54人、奴が言う通りに英一達二人が他所に居るなら、残りは52人、シラフと英子
を引けば、50人になるはずだ。だけど名簿には51人。」

「つまりどういう事?」

「一人多いって事だよ。英子、シラフのクラスは?」

「知らないわ。でも同じ学年よ」

「違う、シラフは生徒じゃない。生徒は全部で54人、英子と英二達三人以外51人は全滅だったんだ。シラフは
元から名簿になんて載っていない。そう考えれば辻褄が合う。あいつは全部知っていて、火災の晩はここに居なくて
助かったんだ。」

「そんな!想像力働かせすぎよ」

「賢い。本当に賢い。君の様な子がグラウンドBでエナジーづくりなんて、本当に勿体ない。ユニのシステムにも
間違いは有るって事だ。君の考えた通り、私は生徒じゃ無い。英子の護衛係だ。だけど少し事情が違ってしまってね」

部屋のスピーカーから突然シラフの声がした。

「突然驚かせてごめんよ。その部屋は監視されている。間もなくトキ様が到着される。英子の持ってるジャイロと
一緒に感動の再会だ。ベン君ついでに言うと、お友達は“死んでは居ない”が正解だ。彼らは特にテストの結果が
優秀だったので、名誉と共に永遠の命となって保管されている。つまりジャイロになった」

「シラフ、その辺におしー、お前はおしゃべりが過ぎるんだよ」

部屋のドアが開くとそこにはトキが立っていた。

「お帰り英子、ジャイロを持って帰ってくれたんだね。ご苦労だったね。さあそのジャイロをこっちへ渡しておくれ。
ベン、あんたは賢い子だね。あたしゃ驚いたよ。英子をここまで連れて来てくれて本当に有難う。」

「トキさん、学校でテストを受けて以来、僕らに起こった出来事は、まるで映画の様で、全く理解が出来ません。
良ければ、僕らに解る様に説明して貰えませんか?」

トキは目を見開いて、はぁーっと驚いた様な仕草をして、こう言った。

「本当にあんたは賢い上に、度胸も有るんだね。あたしに面と向かって物言えるなんて大したもんさ。じゃご褒美に
全部聞かせてあげようね。先ず、あんたの耳の後ろに赤い点があるだろ?それはあんたがコピーだって事さ。赤い点の数が
あんたがコピーされた回数だ。オリジナルのあんたはとっくの昔にジャイロになっているんだよ。つまり、あんたが手に
持ってるその水晶珠と同じさ。ユニ様達が創り出したこの技術で、あんたは永遠の命を得たんだ。ただ、そのコピーが原因で
ちょっと話がややこしくなっているんだよ。こんな話さ坊や。さぁ話が判ったら英子、おばあちゃんの所へおいで。」

「おばあちゃん?」

「英子、実はあんたはあたしの孫なんだ。センターでも特に可愛がってあげたろ?ほら近くに来て久し振りに顔をよく見せとくれ」

「いやよ。そんなウソ誰も信じない。私におばあちゃんなんていない。父さんは外国に居て、母さんは、私が小さい頃に死んだんだ。
だから私の家族は、外国にいる父さんしか居ない。」

「やれやれ困ったね~。じゃそのジャイロだけこっちへ・・」

その瞬間、ドガーンと猛烈な音と共に、建物が激しく揺れた。窓から下を見ると、トラックが建物に突っ込んでいた。

「その球は渡しちゃいけない。その球と君は人類の未来だ。さあ今すぐトラックの荷台目掛けて飛び降りろ!」

「あれ、この間のトラックのドライバーだ。なんでここに要るんだ?道間違えたのか?」

ブーが不思議そうに言うと、

「おまえさ、カーナビって知ってる?今時、道間違える人間なんてこの世にいないよ」

「英子~。あたしだよ。早く飛び降りな」

「リロさん!」

ドライバーに続いて下から叫んだのは、なんとリロだった。ベン達三人組は同じ顔をしたばあさんが、目の前と
地上にいる事が全く理解できず、完全に混乱していた。

「英子、あんな奴の口車に乗るんじゃないよ。おばあちゃんに玉を渡しな!」

トキがじりじりと近づいて来て、あと少しで英子のジャイロに手が届きそうになった時、ベンが英子を窓の外へ
突き飛ばした。

キャー!!悲鳴と共に英子の体は宙を舞い、ドサッとトラックの荷台に落っこちた。続けて残りの三人もトラック
の荷台へ飛び降りた。全員が荷台に飛び移ったのを見て、ドライバーは急発進でバックさせ、猛スピードで走り去った。

「リロさん、このドライバーは、」

「ああこいつかい、こいつは、その僕が抱えてる水晶玉の兄貴だよ。あんた、グラウンドBの食堂でおっさんから、
玉を貰ったろ?あいつが三つ子の長男、こいつが次男、そんでその球が三男さ」

「でも顔が似ていないし、体つきも・・」

「そりゃそうだろさ。こいつらは三卵性の三つ子だよ。だから顔も体つきも全くにていないんだよ。安心していいよ。
こいつらは全員オリジナル.コピーじゃない。」

「リロさんとトキさんは?双子ですか?リロさんはトキなんて知らないって言ってだじゃないですか?」

「あたしとあのばあさんは、一卵性の双子だよ。あたしもあのばあさんも・・まあその話は後だ。
今はあんたのジャイロと、こいつの弟のそのジャイロを人間に戻すのが先さ。さあユニの研究所へ急ぐんだ!」

「ハイよ。弟よ何年ぶりの再会だ~!」

メルティは更にアクセルを踏み込んだ。6人を乗せたトラックは煙を吐きながら、猛スピードで夕焼けの道を走り去っていった。

キンダー

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  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • サスペンス
  • 児童向け
更新日
登録日
2017-10-13

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  1. 【Chap.1】テスト
  2. 【Chap.2】赤眼鏡
  3. 【Chap.3】Bコース
  4. 【Chap.4】ジャイロ計画
  5. 【Chap.5】グラウンドB
  6. 【Chap.6】 火事
  7. 【Chap.7】リロ
  8. 【Chap.8】リターナー
  9. 【Chap.9】ノートリアス
  10. 【Chap.10】もう一人いる