送り火

出会ってから月日は経った
ある程度の仲を誰もが認めていた時
少年は言った 「僕の分は?」
嘘や誤魔化しは聞いてはくれないほど
悟った顔をするから何も言えなかった
いつものように抱きしめようとして
誰か周りに居ないか見回した時
少年は言った「僕の愛は?」
透き通る瞳に見透かされたと同時に
睨まれた気がして何も出来なかった
悪霊に憑りついた訳では無さそうだ
どうやら心に抱える悩みや不安が
迫る日々に限界を感じたようだった
僕は真っ直ぐ送り火を見つめた
真っ赤に燃える儚い命が見えた時
少年は言った「僕の帰る場所は?」
火の粉を避けて青い空の向こうへ
消えていく少年に手を振った

出会ってから季節は巡った
誕生日に欲しかったものを貰った時
少女は言った 「私の分は?」
嘘か真か分からないほど鮮明に見えて
赤の他人だから何も言わなかった
いつものように眠ろうとして
睡眠を求めてあくびをした時
少女は言った「私の夢は?」
枯れ果てた花に水を与えると同時に
狐に鼻を摘まれた気がして夢も何もなかった
悪霊に憑りついた訳では無さそうだ
どうやら心に抱える悩みや不安が
迫る日々に限界を感じたようだった
私は真っ直ぐ送り火を見つめた
真っ赤に燃える儚い命が見えた時
少女は言った「私の行く場所は?」
火の粉を避けて青い空の向こうへ
消えていく少女に手を振った

少年少女は何を伝えたかったのだろう
あいつらを産んだのは僕らなんだろう
時間が罪を許すのにどうして
罪は時間を許さないのだろう
背に腹は変えられぬというのなら
大切なものとは一体何だったというのだろう
送り火と一緒に燃えていた恋は今じゃ

送り火

送り火

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-10-11

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