宇宙旅行
化石になった宇宙を歩く
生きた形跡のにおいが満ちて
存在した感情の気配に満ちて
月面着陸の跡地に
女の子座りでお茶をする
青かった星を眺める
そこで暮らした人の思いが骨になって浮かんでいる
紅茶にお砂糖を入れたあたりで
兎の陰が伸びて来る
角砂糖を供えてあげる
お餅の亡霊が喜んだ
赤いスカーフを
土星の輪っかに引っ掛ける
悲しい歌が漂って
行き場を無くして呆然としていた
木星の大赤斑にルビーをあげる
心を込めたイミテーション
心なしか潤んだ気がした
誰かの恋が彷徨っている
どこにも行けなかった思いが
化石になれずに彷徨っていた
金星にメトロを見つけて
入り口に百合の花を添えてみた
下町で聞いた異国の音楽が
錆びたラジカセから聴こえてきた
満たされなかった魂が泳いでいる
化石に何を期待するのか
枯渇したもの同士擦れ合って
グラス・ハープのような旋律を生んでいた
水星に鳥の羽をばら撒いた
賢人のタバコが宙に舞う
草の残り香が満ちていく
この宇宙が始まる頃
天文学的光年の果てから
産声が届いた
今は終わった宇宙の
第一声であった
火星に
渡せなかった手紙を預ける
この宇宙に、彼はいない
私の思いは満たされず届かずに
永遠に宇宙を揺蕩うのだ
私の白いスカートが
終わった宇宙で光っている
叶わなかった思いの
懐かしいにおいに満たされて
幸福な散歩を続けていく
宇宙旅行