忘却の彼方

例の奴です。完成版ではないので、あえてtwitterで宣伝しない事にします。今年の5月頃に、過去に文芸部で書いていたものをラノベ大賞用に改稿したものの、気に食わずやめました(正直自己満足で終わってしまっている所がある)。もう一度分かりやすいように改稿して再挑戦するつもりです。もし読んでくれたなら、ダメ出しして下さい。お願いします。

□□□ プロローグ □□□□□□

心理的外傷(トラウマ)。
人には何かしらのトラウマが存在する。
人の記憶は絶対に消せない。絶対に、だ。
忘れられないモノを忘れさせてくれる『忘れじいさん』なんて存在しない。
忘却することはあっても完全に忘れることは絶対に無い。
絶対に。
………というのが俺の持論だ。人に話す事は無いが、俺はそう思ってる。
現代の技術では大脳の海馬を焼切ることくらいでしか『完全に忘れる』ことは出来ないだろう。
特にトラウマや心に残っている思い出などは尚更である。
アニメや漫画でよくある記憶喪失なんかもそうだ。例え、主人公やヒロインが全てを忘れても、絶対に思い出すだろう?
思い出さなければ話が続かないから。
思い出さなければ今までの伏線が無駄になるから。
思い出さなければ性格(キャラ)が変わるから。
絶対に記憶は甦るんだ。人間はそう出来てる。
そう、もうすでに証明されていることなのである。
―――ここまで、ダラダラと伏線ともいえない伏線のようなものを並べていれば、もう分かるだろう。
「………そうです。私、御石(みいし)移極(いごく)が『忘れじいさん』です………」
 誰もいない教室で、俺はポツリと呟いた。
 はぁ……
と、溜息を吐いて立ち上がる。
 日付は四月二十日。時刻は正午。
 天気はうっすらと陰っているような、曇が少し見え隠れする程度の晴れ。
 教室にある筈の授業中ですら騒々しい喧騒は、無い。
 正午なのに。まだ授業中の筈なのに………。
「あぁぁ!!! やらかした!!!」
 誰もいない教室の中、俺の声だけが無情に響き渡る。
 移動教室だった。
 普通に寝ていた。寝過ごした。
 誰も起こしてくれなかった。
 また、俺の『黒歴史』を増やしてしまった……。
「消そう……」
 消去。消し去ってやる。
「というよりこの事実をどうにかして消さなきゃ、俺の社会的地位がもっと下位にいってしまう……!」
 そうと決めたら行かなければ。
 固い決意を決めて、筆箱や教科書などの荷物を持って授業が行われている筈の化学教室に向かう。
 教室の、重い木製のドアをガラガラと開けると、そこには誰もいない静かな廊下があった。
 校舎は古い。築五十年を超えているので、木枠の窓には無数の隙間が空いている。
そこから、隣のクラスで授業中の先生の大きな声が聞こえた。
数学の授業が行われているのか……。
『ここはこうだからこうだぞー、分かったかー?』と、喋れば喋る程、理解を遅くする話し方の先生が説明する。
 あの人の授業、途轍もなく分かりにくいんだよな………。名前は忘れたけれど………。
 まだまだ授業終了まで時間があるので、それほど遅れても問題は無いだろう。
 そう思ってゆっくりと廊下を歩く。
 教室は廊下の北側。南側の窓は外に面している。
 照らすのは暖かな光。季節は春。
「なんというか、ぽかぽかするなぁ………」
 ふぅ、と溜息一つ。
 先ほどとは違う意味の溜息だ。例えるならば、縁側でお茶を飲んだ時のアレと同じもの。
 こんな時、あの人がいればなぁ………。
………いやいや、ダメダメ。今はそんなこと考えている場合じゃない。
 歩くスピードを気持ち速くする。
 突き当りが丁字路になっている廊下を右に曲がると、そこに在るのは化学教室。
 引き戸を開けようと、その引手に手を掛ける。
「うお……、やっぱりこの瞬間は緊張するな……」
 皆が真剣に、なかには寝ながらの人もいるが、授業を聞く中、俺が教室に入ることでその場の空気を乱すのだ。
 その時の視線はとても痛い。精神的にも物理的にも。
「くそ………、嫌だな、ほんと……」
 溜息を吐こうとしたが、これ以上すると運気が逃げる気がする。
 だからやめた。最低限の溜息は吐いた。今日はもう溜息を吐かない。
 自分から逃げるな。
「さあ、行くか………!」
 化学教室の扉をバンッ、と開け放つ。
 開けた瞬間、思った通り、教室中の目線がこちらに向く。
 佐藤も。鈴木も。林も。山田も田中も中村も村井も井上も上原も原田も田野も野山も。
 一斉に。
 その瞬間、
「消去っっ!!!」
 叫ぶ。
移極の眼が、紅く煌く。輝く。
「消去消去消去消去!!!」
普段、クラスで全く喋ることのない御石移極が。叫ぶ。それも思いっきり。
 だけど、誰も不思議に感じない。
「………………」
 クラスメイトの何か言いたそうだった好機の眼差しは途端に消え、教台の紅茶好きの教師、通称『tea(ティー)茶ー』に戻っていく。
 その後、何事も無かったように自分の席に座り、深呼吸。
「………消去」
 と、最後にボソッと呟いた。

□   □   □

………よかった、これでもう大丈夫だ。
俺のトラウマは皆の記憶から無かったことになった。
あー焦った。
ちゃんと皆の記憶も消したし、遅刻したという事実も消したし。
あーほんと、焦った……。

―――そう、私、御石移極は、本物の忘れじいさんでした。

忘れん坊さんでは無い。消す人の方だ。その名の通り、そのままである。
俺は人の記憶を消す力を持っている。人のあるピンポイントの記憶を『消去』できる。
そんな力、『忘却の彼方(イントウ―・ジ・オブリビオン)』は、マジで神級だと思う。
………例えばこんなモノを消した。こんなことがあった。
小学三年生の時だ。ある大事件が起こった。
それは俺の親友の友達が引き起こしたもの。
普段通りの日だった。雨も無く快晴で、いつも通り、数学の授業を聞いていた。
………小学三年だから数学ではなく算数か。いやまぁどっちでもいいけれど、その時間。
その何気ない授業中、そいつは途轍もない腹痛に襲われた。
もうこれで分かったかもしれないが、聞いてくれ。
そいつは先生に腹痛を訴える勇気も無かった。皆に笑われたくなかったから。
そいつは我慢することも出来なかった。既に3時間耐えていたから。
あと5分で給食の待ち時間。恥ずかしいけれど、待っている間にトイレに行けばそれで間に合う、という所までは我慢していたんだ。
「早く終われ早く終われぇ……!」「頼むから早く終わってくれってぇ……!」と念じながら、永遠にも感じる一秒一秒を耐えていたその時、先生に当てられたんだ。当てられてしまったんだ。
ひたすらに我慢していたそいつが人の話なんて聞こえる訳が無い。
ずっと唸るそいつに先生は「早く立ちなさい!」と急かした。今考えると、当時は7月、夏休み前だったので、一日当たり教える量のノルマ達成に忙しかったのだろう。
そんな、呼びかけに応じないそいつに腹を立てたのか、先生はそいつの席のもとに早足でやってきて、くいっと手を引っ張った。
もうお分かりだろう。
そいつは、そこで、漏らした。
先生も、その音に驚いて、一瞬びくっとしていたが、流石は教師、国家公務員である、一瞬で冷静を取り戻してこう言った。
「皆、騒がないで落ち着きなさい! ああもう五月蝿い! 一度廊下に出ていなさい!! 汚いことは全部先生がやるから! そこの田中、保健の先生呼んできて!!」
と、小三の子供にはキツイ言い方で、「汚い」と言い放った先生は処理を始める。
わんわん泣くそいつは、子供ながらにこう思った。「もう死にたい」、と。
―――このクソ漏らし事件以外にも様々なトラウマを消してきた。
小六の卒業式での、また別の親友の知り合いの『ずっとトイレに居ました』事件。
 中二の時のまたまた別の親友のクラスメイトの『華麗なる神の軌跡(ブラック・ヒー・ストーリー)』という名の黒歴史ノート。
………などなど。全部、そいつら自身と周りの奴から『消去』した。
 綺麗サッパリ。キレイキレイに。
 俺には残っているのだが。
まぁ、何はともあれ。
久しぶりに自分自身の為に、また、つまらぬ力をつかってしまった………。
と、ぷぷっと一人でにやにや気持ち悪く笑っていると、
『そのネタ、伝わらないよ……?』
と、女の子の声が脳内に響き渡った。
何だこれは!? 誰だお前!? ……なんてことは言わない。俺はしっかりと声の主を知っている。
………いやいやいやいや、これは厨二病とか精神病とかではないよ!?
その子も能力を持っているだけだ。
持ち主は同じクラスの船井さん。テレパシー能力を持っているそうだ。
『…………。』
 俺の脳内で黙らないでくださいよ……。
というよりも、テン、テン、テン、テン、とか逆に分かりづらいんじゃあ?
『……分かったよ。船井はにわですよ、私は。………はにわ様と呼べ。』
 何故です!? と、心の中で叫んで、その子、船井さんの方を見ると、ふふふ、と笑っていた。
 そんな船井さんに、俺は、ははは、笑い返すと、
『授業に集中しなきゃね。……ふふふ。』と、言われた。
 ああ、可愛いな………。
―――あぁダメだ考えるな。この子には下世話な妄想の全てがバレるんだ。平常心平常心。
………無心を心がけろ。
………授業に集中しろ。
………モードを切り替えろ。
 化学なんてただ問題を解くだけだ。つらつらと。一心不乱に。
 頭なんて使わない。体に染みついたペンの動きに数を当てはめるだけだ。
 目を瞑ってでも出来る、とまでは言わないが、解答までの道筋はもう見た瞬間から出来上がっている。これは、友達もおらず、部活も入らないボッチ生活での過度な勉強量の賜物だ。
 大丈夫だ。
…………大丈夫だ。全部全部、大丈夫。
 何があっても大丈夫だ。
 精神力だけは、鍛えているつもりだ。
 『爆発し(しに)』そうになったら、『消去(け)』せるのだから………。
………その後、この授業中に教師や船井さんを含めて喋りかけられることは一切、これっぽっちも無かった。

□   □   □

 昼休み。授業も一段落した。
 化学教室から自身のHR(ホームルーム)教室にさっさと戻り、一人、弁当を広げる。
 クラスメイト達はそれぞれ机を引っ付けたり、食堂に行ったり、皆でわいわいガヤガヤと楽しく五月蝿く各々のランチタイムを過ごす。
 俺の今日の弁当は自分で作ったものだ。
 最近は毎日自作。自作の方が食堂のものより安いし美味い。早起きだけが玉に瑕だが。
「おぉー。我ながらいい出来だな……」
 そんな在り来たりな自画自賛に「自分で言うなよ」とツッコむ人間は居ない。
 見ての通り一人でランチタイムを過ごす俺に友達は居ない。クラスメイトとは業務連絡しかしない関係だ。唯一ツッコミをしてくれる、同じ異能力持ちの船井さんはどこかに行ってしまった。
 ああ、美味い。
 ソーセージと玉子焼きに、昨日の残り物の南瓜と唐揚げ。見栄えの為のミニトマト。緑色のモノが無いことに気付いて、ちょっと気を落とす。
 美味い美味い。
………ものの五分で完食。
 作るのは苦労するのに、食べるのは一瞬。世の中のお子さん持ち主婦達の人知れない苦労が分かる気がする……。
「今度は緑色を増やそう……」
 そんなボヤキは誰の耳にも届かない。
当たり前の事。それが俺の日常だ。
食べ終わった弁当箱を鞄に直して、空を見てボーっとする。
俺が座るのは、窓際一番後ろの席。いわゆる特等席だ。
その窓から入るゆっくりとした風を浴びて空を見上げる。ぽかぽか陽気が気持ちいい。窓から見える淡いピンク色の桜はとても綺麗だ。
………まぁ、そろそろ話を戻そうか。
親友の友達や、親友の知り合いに対し行使した、あの力について。
『忘却の彼方(イントウ―・ジ・オブリビオン)』について、だ。
俺の親友のクラスメイト達に行使した力。神級の、その力。
『忘却の彼方(イントウ―・ジ・オブリビオン)』。
単純に、これは記憶を消す能力だ。
大層な名前だが、そこは気にしないでくれ。俺は気に入っているんだ。
この力は、視界に入っている人の記憶ならば、いつでも何でも消すことが出来る能力。
だからわざわざ「消去!」と叫ぶ必要性は皆無だ。いつでもどこでも何でも、記憶ならば消せる能力は、そんな制限なんてない。
だけどわざわざ叫ぶ理由は、ただ一つ。
カッコイイから。
………当たり前じゃないか。
こんな何もない、クソ詰まらない世界では、楽しまなければ損だ。若気の至り? 何ソレそんなこと言ってたら何も出来ませんよ?
 どんな小さなことでも、それが幸せだと思えれば、それでいい。人がどう思おうと、それでいいんだ。
 だから、厨二病でもヤンデレでもヒキオタクソニートでも。何でも。
 自分がそれでいいのなら、それが幸せなんだ。多分。
………何にせよ、カッコイイ言葉は叫びたくなるものなんだ。人間ってやつは。男ってやつは。
「消去」の一言で記憶を消せるその力は、本当に何でも消せるものだ。
トラウマから常識まで、一通りの記憶は全部。
小三の時の、親友の友達のクソ漏らし事件。
小六の卒業式での、また別の親友の知り合いの『ずっとトイレに居ました』事件。
 中二の時の、またまた別の親友のクラスメイトの黒歴史。
 全部消した。
 親友のクラスメイト達のトラウマは全部。
………いや、俺じゃないからね、その人達。
 親友だと思っていた奴に「俺達親友だしな」って言ったら返事がなかったとか。
よくよく考えたら、自分だけよく遊びに誘われなかったことも一杯あったとか。
そいつはよく言っていたけれど、決して俺ではない。
うん、違う。
俺ではないよ。うん……。
………話を戻そう。
 閑話休題ってやつだ。
人の記憶をうまい具合に消せるとかいう神級の力。
『使えば死んでしまう』とか、『5回しか使えない』とか、そういった欠点のない、不完全でない、異能力。
心配しないでください。後遺症は残りません。自然と環境と身体に優しい力です。危険じゃないよ、安全さ。言えば言う程に信頼を無くしますが、安全です。大丈夫。悪いモノではないよ!
………先に言ったように、都合の悪い出来事を他人の記憶から消去したり、使いようによっては、犯罪をも皆の記憶から『なかったこと』にできる。
 どこかで聞いた事があるような力だけど、それが自分自身の身に降りかかれば、その利用法や価値くらいは見極めようとするだろう。
 俺だって、多少の応用方法くらいは頭に何個かある。
 人の記憶全部消して廃人にしたり。
嫌いなクラスメイトが女子に告白されたら、そのクラスメイトの記憶だけ消して、告白した女子を泣かせ、みんなから嫌わせる………、なんて人として何かが失われているような嫌な使い方もできる。
 あ、さっきも言ったな、こんなこと。
 ちなみに俺はそんなことは一切していない。
 というか、俺はそんなことはしたくない。
力のことも、いわゆる『同種』の船井さんにしか話していない。
一度、あのクソ親父に力のことを話したら、「そういうことをして来い」と言われたので、その記憶も消去した。………まぁ、そのクソ親父も今はいないが。
 そんな与太話は置いておいて、話を続けよう。考え続けよう。
「痛っ」
 背中に軽い衝撃。
何かと思って隣を見ると、
「あ、ごめ」
 という謝る気のない謝罪。
隣で騒がしく飯を食っていた、女子グループのリーダー格の中村がイスを引き、わざと当ててきたのだ。
ああ、そういう事ね。
分かっているよ。
ボーっとしているならどけって言うんだろ?
気持ち悪いし邪魔だ、ってか。
どきますよ。どきますってば。だからそんな目で見ないでって。
そして帰ってきたら俺の机とイスだけぐちゃぐちゃになっていて、先生に怒られる。
イコール醜態を晒す。また消す。
という所まであると見た……。
もう、ホントに嫌だ。

「しまいにゃキレるぞ中村さん」
 ボソッと呟く。
 すでに廊下に出ているので愚痴を聞く人間はいない。
 さて、どこに行こうか。中庭はリア充の巣窟だし、食堂は喧しくて考え事には向いていない。とはいえトイレに引き籠るのもなんか嫌だ。
「うーん………」
とりあえずボーっと立っていても仕方がないと思い、歩く。が、行く当ても無いので何となくでしかない。
「図書室でいいか………」

□   □   □

 ボッチの人達の安息の地、図書室。
そんな人達が集まるこの場所はとても静かだ。ページをめくる音、鉛筆の音、ボッチグループの談笑、しか聞こえない。
まるでゴキブリホイホイみたいだ。
「…………はは……」
 と、自嘲し、適当な席に腰掛ける。
 いや、俺は自分がぼっちグループにも入れない真正ボッチだとしっかり認めていますよ、ハイ。
認めてもどうにもこうにも二進も三進も行かないけれど。
何となく自分のことや力のことを自分の中で整理したくてここまで来たのだけれど、 よくよく考えてみると、俺の力についてのことはもうほとんど整理し終えてしまった。
記憶を消せるってだけなのに、何をこんなに考えていたのだろう。バカらしくなってきた。
 折角ここまで来たのに何もしないのでは気が引ける。仕方なく何か漫画でも読もうかと、ふと、棚の方を見ると、目線の先には船井さんがいた。
船井さんは、日が当たる窓際で、何か、分厚い本を読んでいた。ハードカバーってやつだ。文庫サイズの本より大きくて持ちにくいやつ、という印象の本。
いつもここにいるのだろうか。だから昼休みは教室にいないのかな。
疑問は溢れる。
彼女は本を読んでいた。だけれども、俺がここに来るのを見計らっていて、心の中で俺を呼んでいたようにも見えた。
そんなわけあるか、と自嘲。そんな洒落はつまらない。
俺達はただの共通の変な悩みを持っているというだけ。
別にあっちはどうも思っていない筈。
「どうしたの? 移極くん。」
いきなり下の名前で呼ばれてドキリとしたが、船井さんはそういう人だ。本当に心臓に悪いから止めてもらいたい。
そんな動揺を隠すべく、言う。
「いや、はにわ様は何を読んでいるのかな、と思いましてね」
 と、わざと下の名前で呼んで。様までつけて。言う通りにして。ふざける。
「あ、やっと、下の名前で呼んでくれたね、移極くん。」
 上目使いで頬を赤くしている船井さん。
―――ドキッとした。
 可愛い。心底可愛い。
 心臓が、バクバクと弾けるように鼓動する。
 目が虚ろになる。
視線が泳ぐ。
手汗が噴き出す。
………何ですかね、コレは?
ラブコメでも始まっちゃうんですかね?
―――確かに船井さんは女神だけれど。
 前から思っていたけれどすごく可愛いし。というよりも美しいし。
だけど、俺だぜ? ボッチの御石移極くんだ。
俺には不釣り合いすぎて、こうやって喋れているだけでもう奇跡だ。
 何をしたって言うんだよ俺は? 毎日毎日何もして無いよ? 中身のない人生を送っているだけだよ?
超困惑だよ。
あえて、強いて言うなら、下の名前を呼んだだけ。
というより本当に何コレ。
俺はこんな一言で落ちるようなアマちゃんなのか?
いや、違うそんなことは無い。
俺は肉食系だ。肉食系がまずどんなモノなのかは知らないけれども、草食系では無いと自負している。ゆえに肉食系だ。………うん、反論は許す。
船井さんは力を使ってお喋りしたり、人に聞いてカンニングとかも出来るのに、そんなことはしない清楚さを持ち、コアなオタクのネタも分かるオタクさまでも持っている。
とは言えいわゆる『オタサーの姫』などではなく、隠れオタクであり、前にそれが俺にバレた時の慌て様はいつまででも見れるほど、見ていて微笑ましかったけども。
おかしいおかしい。
何だコレは!
意味が分からない!
たった一つの見方から判断するな! チェス盤をひっくり返せ!
どうした御石移極!
女子が頬を赤くしたらどうだって言うんだ。
ただ熱っぽいだけかもしれないじゃないか。どう見ても熱は無さそうだけれど。
 俺の後ろの男子を見ていたのかもしれないじゃないか。居ないけれど。
 俺だっていう保証はないじゃないか。
 冷静になれ。落ち着け。クールになれ。
俺は一生リア充になんてなれないって知ってる。
だから、俺がこんなにドキッとしたのも、何かの間違いであり、俺の所為ではない。無いんだ。
 だけど無常にも記憶には残る。だから―――
「消去!」
―――消すことにした。あんな恥ずかしい記憶はゴミ箱行きだ。
「ふっふっふっふ。」
………笑み。
「私にはその力が効かないことを忘れたのかね……?」
「マジでやめて下さい効かないことは分かっていました許して下さい」
「いいよ。」
 人の脳に言葉を送り、その代りに記憶を『のぞき見』できる船井さんがふざける。
船井さんに対しては、記憶を消去してもその力によって『のぞき見』されるのだ。
「こんなこともあろうかと、準備していてよかったよ。」
と腕を捲り、ある物を見せてくる。
その細い腕には『何も無くても御石移極を常にのぞき見するように。彼は記憶消去の力を持つ。』と、わざわざ腕にマジックペンで書いてある。
やりすぎだ。流石すぎる。
 全力土下座レベルの贖罪。
 に対してのお許しのお言葉。女神の微笑。
………この微笑で。この笑顔で。………この子に惚れていないと断言出来るバカはいるだろうか。
それに加えて今までの俺の考えも全て筒抜け。
どれだけ隠しても、もうバレバレだ。
だったらもう、隠す必要はない。元々隠すのは性分じゃないんだ。
そうとなったら、やることは一つしかない。
 漢なら、やるときはやれ。やることはやれ。
緊張はしない。スッと言葉が出る。

「移極くん、好きです。付き合って下さい。」
「……あー、…………大好きです。付き合ってください」

 同時。
 まさに同時の告白だった。
船井さんからのまさかの告白に驚いて、一瞬の間があって、
「いいよ。」
「こちらこそ」
 と、二人は即答。
「ふふふ。」
「はははは」
笑い声。
今は周囲の目なんて気にならない。図書室は静かにするものなんて誰が決めた? 人の幸せを邪魔するな。
「はっはっはー、俺は『大好き』って言ったけど、はにわさんは『好き』だったから俺の勝ちだな」
「ふふふ。いや、私のほうが一瞬速かったよ。ちゃんと力で先読みしたしね。」
「いや、それはずるい」
「そんなことは無いよ。」
「そうか?」
「そうだよ。」
 どちらからともなく笑いだし、手を絡め、
「「一生一緒にいて下さい」。」
 またもや同時のプロポーズに二人とも目を丸くした。
 が、それもまた、一瞬。
 返答も同じ、
「「こちらこそお願いします」。」

□   □   □

 ここから、始まるんだ。俺達のラブコメが。日常が。青春が。やっと。
 たった一人の、この女の子の為なら。俺は何でも出来る。死ねる。
 何でもしてあげたい。
 死ぬまで一緒にいたい。
 死んでも一緒にいたい。
 何も無くても、ずっと。
 毎日毎日、バカやって喧嘩して仲直りして。
泣いて笑って苦しんで。喜んで怒って哀しんで楽しんで。
 俺の勝手な妄想。憧れ。
だけど。
ちょっとずつでいいんだ。少しでいいんだ。
ゆっくりでいいんだ。出来なくてもいいんだ。
叶えたい。
はにわさんと。
 俺で。

傲慢かもしれないけれど。蛇足かもしれないけれど。
―――後は、友達が出来たら、最高だ。

□   □   □

 後日。
 俺達はデートとやらをした。
 とは言え何をしたらいいのかなんて分からない。
 だから、二人のしたいことをすることにした。
 そうと決めたら二人とも「相手のしたい事がしたい」という、すごく恥ずかしいことを言った。
 もう赤面するしかない。
 なので、仕方なく、デートの王道を取ることにした。
 映画、ボーリング、ゲームセンター等々、とりあえず一通り。
 巡り巡って、今はカラオケルームにいる。
「楽しかった?」
 尋ねる。
「うん。最高だよ! 楽しかった! 移極くんは?」
「………俺は、はにわさんと一緒ならどこでも最高に楽しいよ」
「恥ずかしいでしょ?」
「恥ずかしいけど本心だ!」
気恥ずかしくて仕方ない。真顔でこれが言えるヤツなんているのだろうか。ほんと。
「………ありがとう。本当に。」
 真剣な表情を向けられる。
「どういたしまして!」
 やめてくれよ、いつもみたいにしようぜ。気恥ずかしい。
………変な間が開く。密室だから余計に空気が悪い。
「…………まぁ、これからもよろしく、はにわさん」
「これからも、末永く、よろしくね、移極くん。」
「………末永く、よろしく」
「ふふふ……。やった、勝った!」
 くそ……、悔しい。一本取られた。
「くっそ! やられた!」
「はっはっは! 私には敵うまい!」
 いつものテンションに戻っていく。
 尻に敷かれるくらいが丁度いい。
はにわさんもノリノリでこちらのテンションに合わせてくれる。そんなところも彼女の良いところなのだ。
「おぉーー。デレるねぇー?」
 脳内を『のぞき見』されたのだろう。はにわさんには褒めたのがバレバレだった。彼女に嘘は吐けない。
「くっそ! もう今日から俺はデレにデレまくるからな! ツンデレなんかより、デレッデレが一番だ!!」
「じゃあ私も超デレるよー! おらぁ!!」
 はにわさんはそう言うと、一瞬でパッと跳んで抱きついてきた。
 もふもふでふわふわでやわらかくて。
それにいい香りがして。
 もう彼女のこと以外、他に何も考えられなくなる。麻薬か何かなんだろうか彼女は。
 ここは、天国ですかね?
………天国ですね!
 そうだ。
 こんな日常が送れるなんて、天国に違いない。
 一日一日が幸福感でいっぱいだ。
 『これが一生続くなんて』、そう思うと幸せ過ぎて、涙が出てきそうになる。
 ああ、本当に、最高だ。
 こんな日常がずっと続くんだ。
 二人で。
 ずっと。
「なあ、はにわさん。俺は、君とラブコメがしたいんだ」
「ふふふ、何それ? 最高、だね。」








□□□ 第1章 □□□□□□

 五月。
 桜が枯れ落ち、葉が青々と生い茂るこの季節。
春なんだけれど、夏でもないような季節だ。
そんな時期に移極達が通う高校では文化祭を行う。
明日から一週間、いわゆる準備期間に入るのだ。そのお蔭で授業も完全に無くなる。
 クラスによって模擬店をしたり、ダンスや劇をやったりするクラスなんかもある。
 今は、うちのクラスでは何をするのか決めよう、とのことでこのLHR(ロングホームルーム)を使って皆で会議をしている。
 文化祭と言うくらいなのだから、文化部が張り切るのは勿論のこと、クラスでも盛り上がろう、と言うわけである。
 意味のない水掛け論の結果、うちのクラスでは何もしないことになった。
 うちのクラスは文化部が多く、忙しすぎて何も出来ない人間が大勢いる、とのことで、クラスでは何もしないことにしたらしい。
 もちろん、選択肢には『何もしない』というモノもあったのですんなりと何もしない事が許可された。
 これで、部活に属していない俺は、一週間何もすることが無くなったのだ。学校には来なくてはいけないが、授業が無いので楽だ。
この時点で脳内には甘々な妄想が垂れ出した。
当日は、はにわさんと一緒に回ってみたいな、と。
瞬間、脳内に響く声が言う。
『………一緒に回ろっか、移極くん。』
 何という察しの良さだ。
 もしかして、『のぞき見』してた?
『あはは……バレちゃった?』
 バレバレだよ! あまりにもタイミングが良すぎる!
『ごめんなさい。いつ言うか、タイミングを計っていたんだ………。』
 そっか。じゃあいいよ。仕方ない。別に『のぞき見』されても問題ないし、大丈夫だよ。
『よかった、怒ってるのかと思った……。じゃあ、さっきの返事は?』
 もちろん、一緒に回ろう。元々俺から誘うつもりだったんだし。
『やった、勝った!』
 勝ち負けじゃないっての。
『いいの! 私が勝ったと思えれば!』
 そうですか。
『そうです!』
 クッソ可愛いな。
『………………………………ごめんなさい私の負けです……。』
 ならよいのだ。
 はにわさんの方を向くと顔を真っ赤にして俯いていた。
 ヤバい、やっぱり可愛い。
敗北宣言をした後、はにわさんはずっと俯いていた。
―――ああ、最高だ。
 こんなに学校が楽しく思える日が来るなんて思っても見なかった。
 その上、文化祭が、だ。
文化祭はリア充のおもちゃだと思っていた。
 リア充になったと実感できる日、それが文化祭。だから、あの時、ああいう人達は一生懸命騒いでいたんだな…。まるで蝉のように。
そう思うと「爆発しろ」なんてもう二度と言えない。文化祭は彼らの自己認識出来る数少ない機会だったのだ。
 ああ成程、文化祭って最高だな。彼女がいると数千倍は。友達がいるとさらに数億倍は楽しいのだろうけれど…。
 サッと窓から風が吹く。
 窓から見える桜の木は、もう青々と茂っていた。毛虫が大量発生していそうな綺麗な緑。あんまり近寄らないでいようっと……。
 まぁ何はともあれ、文化祭が楽しみだ、ということには違いない。初めて楽しみだと思えたんだ、精一杯楽しまなくちゃ損だろう?

□   □   □

 翌日。
 教室で点呼を取って解散した後、移極ははにわと共に図書室に来ていた。
 暇だし勉強でもしようか、というリア充には相応しくないであろう発言をした移極に、全く嫌な素振りを見せなかったはにわが付いてきたという訳だ。
「で、何するの移極くん?」
「何となく数学かな。はにわさんは?」
 鞄から問題集と筆箱、レポート用紙を取り出して、言う。
「じゃあ私もおんなじのでいいや。問題集見せてね。」
「はいはい、どうぞ」
二人の間に問題集を置く。するとはにわさんが椅子を近づけて、
「ありがとう。」
「………分かんないとこあったら聞いてね?」
 そんな風に顔を近づけられると緊張してしまう。
付き合い始めてまだ一月、キスすらしていないからか、余計にそう感じてしまう。
「むぅー…。私の方が賢いよ!」
「見栄くらい張らせて下さいよ……」
「だーめ。全部丸見えなんだからね?」
 知っている。
 だけど男はそういうモノなんだ。可愛い女の子には見栄を張りたくなるもの、それが男。
「くっそ、何か嫌だ。何と言うか、はにわさん優位の状況が一生変わらないっていうことが!」
「うーん……。そっか、そう感じるのか……。そんなことは全く無いんだけどね。私は移極くんLOVEだから。だけど一応言っておこうかな。一応。
―――だから、あの時、『はにわ様と呼べ』って言ったんだよ? 私は。」
 笑顔。
「………笑顔が怖いです。はにわ様」
「よろしい。」
 ふふふっ、と笑うはにわさんは、一瞬チラッと右を向いて、
「………さ、そろそろやろっか、移極くん。」
「うん。……そうだね」
 何で右を向いたのか気になって、自分も右を向いてみた。が、何も無かった。
まぁいいや。何となく見ただけだろう。そう気にしないでもいい。
折角の休みなんだ、勉学に励もうではないか。
はにわさんも乗り気だし。
―――カリカリとペンで紙を擦る、あの独特な音が響く。
 そこに話し声は無い。
 ひたすら解き続ける。
 レポート用紙も十枚目を超えた辺りで手に痛みを感じ始めた。
 腕を振って和らげようとしても、中々治る物ではない。
「ちょっと休憩しよっか、はにわさん」
 そこで、休憩を申し出ることにした。
「………。」
―――カリカリカリカリ……。
すごい勢いで紙を消費し続けるはにわさん。
……おぉ……。
俺が少し引いてしまうくらいの猛スピードで問題を解き続けるはにわさんは、俺の提案を聞いていないようだ。
「はぁ…、すげぇな。はにわさん、何か飲み物買ってくるよ」
 聞いていない。
 とりあえずメモを残して退室する。

□   □   □

―――図書室を出ると、銀髪の少女がいた。
「………!?」
 何だこのエロゲ展開は!? と思いその子を見ると、その子はこちらを見向きもせず、普通に図書室に入っていった。
 短髪のその銀髪の子は、こちらを見向きもしなかったのだ。
特に何も無かった、ということだ。
………何も無かった…。
 何も無かった事に安堵すると共に、何か起こるのかと身構えてしまった自分が急に恥ずかしくなってきた。
そんな自分を引き締めようと顔を、パン、と叩く。

―――ラノベ展開とかご都合主義とか、そんなものはないって痛感しているだろう?

 そんなことが起こる訳無いじゃないか。
例え異能力を持っていても、トラブルに巻き込まれたりするよりは、今の『幸せ』をずっと続けたい。
日常が一番なんだ。
何はともあれ。
………この学校に銀髪の外国人なんて居たっけか?
 いや、いない。ていうか、アレはどう見ても日本人だ。
 いるならボッチの俺でも知っている筈だ。あんな可愛い女子を、噂好きのお喋り女子達が知らない筈が無い。
 染髪したのか? いや、校則違反ではないけれど、普通するか? うちはまぁまぁな進学校なだけあって、逆に校則が緩いけれど、(『自分で考えて行動しなさい』とのことらしい。)流石に髪を染めたら呼び出しモノだろう。
 謎が深まる。
 誰だあの子。
 気になって仕方ない。
 何と言うかムズムズする。歯がゆい。
 どこかで見たことがあるなら、絶対に覚えている筈だ。銀髪なんてインパクトの強い人を忘れられる訳が無いじゃないか。
 ということは、覚えていないということだ。
 誰かに訊こうと思っても、尋ねる相手が居ない。
―――ああ、そっかはにわさんに訊けばいいだけの話か。
 何故気付かなかったのか。落ち着いて考えればすぐ思いつくことなのに。
「とりあえず、早く買いに行くか。待ってたら嫌だしな」
 謎の銀髪女子についても訊きたいし。

□   □   □

買ってきた冷たいジュースをはにわさんの首すじに当てて、「ひゃんっ! も、もうっやめてよ!」、という反応を一通り見た後、飲食禁止の図書室を出て、中庭に出る。
そこでさっきの出来事を訊いてみた。
「銀髪の女子?」
「うん、そう。ショートカットの女子なんだけど、知ってる?」
「うーん……。知らないなぁ…。流石に銀髪なんていう衝撃的な髪の女の子がいたら、私だって一目で覚えちゃうよ。クラスの女の子からも、そんなことは聞いたことは無いしなぁ……。」
「だよな……」
 そりゃあそうだ。銀髪の女子なんて噂好き女子の格好の的になる筈。俺が盗み聞きした事のない情報を、はにわさんが知っている訳もない。
 よくよく考えれば、あの銀髪の女子はここに入っていったのだ。
 今は居ないとなると、本を返しに来ていたのだろうか。ならそれはいつ借りたんだ?
 謎だらけだ。怪しすぎる。
「あ、そうだ。さっき図書室に来てなかった?」
 尋ねる。
「ホント? いや知らないな……。ずっと問題解いてたし……。」
「そっか…」
 あの集中力は見習うべきものだと思う。周りが見えなくなるのが玉に瑕だが。
「で、何でいきなり、その子の事を聞いてきたの? 浮気?」
「いや、普通に気になっただけだよ。浮気なんぞ、絶対しません。断じて」
 俺の一番はずっと、はにわさんだっての……。
 いきなりの浮気疑惑に否定を重ねるが、疑念は晴れないようだ。………友達がいないと、こうなることが多々ある。本当に悲しいな……。
「ほんとにー?」
「はにわさんに嘘は吐きません!」
「じゃあ許してあげよう。」
 上から目線なのにはツッコまない。いつもの事だ。
「本当にもう仕方ないなー。ホントにもー! ………でも彼女に他の女の子の話なんてしたらダメだよ。今度デートしてくれたら許してあげる。」
「………うん。そうだね、また行こうか、どこかに」
「うん!」

□   □   □

「そろそろ帰ろうか、はにわさん」
「そうだね、帰ろっか。」
 帰りの点呼を終えた後も図書室で勉強していた俺達は、絶対下校のチャイムを聞いて、立ち上がる。
 カバンを背負い、図書室から出ていく。
 他のクラスは準備や練習や何かで、残っている生徒は多数いるが、しっかり勉強して学生の本分を全うしていた人間は多分他に居ないだろう。
 靴を履き替えて、恋人らしくはにわさんと手を繋いで、彼女を送り届けて帰る。
「ねえ、移極くん。」
「ん?」
 帰り道。急にとまったはにわさんが言う。
「あれ、食べたい。」
 視線の先にはクレープの移動屋台があった。
「クレープ?」
「うん。食べようよ、一緒に。」
「うーん。………今お財布が危険なので遠慮しても……?」
 事実、現在財布には百三円しかない。今日のジュースが最後の買い物だ。もうロクなものが買えない。
「えー…。じゃあ私が買ってあげるよ。」
「いやいやいやいや! それはもっと遠慮します! 彼女に奢ってもらうなんてなんかダメだよ!」
 カスみたいなプライドでも多少はある。そのプライドが「ダメ!」というならそれに従うのが男だ。
「いいのいいの。私が食べたいって言ったんだから。甘んじて奢られなさい。」
「…………………………ごめん。また返すから。ほんとにごめん」
 プライドと彼女の笑顔を天秤にかけると、圧倒的に後者のほうが大きいので、プライドなんてパキッと折る事にしました。
 逆パカされたかのようなプライドによる自己嫌悪のなか、はにわさんは笑顔でこう告げる。
「何食べたい?」
―――お前だよ!! ほんとにもう!!
 なんて言える訳ないので、ここは無難に、奢られる立場として、一番安いものを選ぶ。
「うーん、チョコバナナでお願いします」
「えー。もっと高いのでもいいよ。遠慮しないでよ。もっと美味しそうなの食べようよ。イチゴ&バナナのチョコとクリームとアイスがのったコレとか。ラッキースペシャルっていうらしいよ?」
 さっきので遠慮していないことが分かると思うんですけれど。
『のぞき見』されなかっただけでも十分ラッキースペシャルだよ……。
「え、何何? さっきなんて思ったの? 教えてよ!」
「何で『のぞき見』してるんだよ!」
びっくりした。焦った。声を荒げるほどには。
「本当は何食べたいのかなって思って『のぞき見』したの。………で、何思ってたの?」
「絶対に言わない」
 言うものか。あんな恥ずかしいこと。
「言わなくてもいいけど、思い出してよ。その恥ずかしいことを。『のぞき見』するから。」
「絶対に思い出さん!」
「フラグだね」
「違う!」
 フラグなんて大嫌いだ! こう言うとこうなるだろう、なんていう身勝手で浅はかな考えが身を落とすんだ!
 こういう風に思考の方向を変えて、思い出さないようにしよう。
「話を戻すけど、チョコバナナの3倍の値段がするものなんて奢ってもらえないよ。ていうかチョコバナナだって250円で安いけど美味しいし、俺は好きだからいいの!」
 話の方向も戻しにかかる。
「ふーん、そうですかー」
 せっかく思考と話を切り替えたのに全く聞いていないはにわさん。
 流石に怒りますよ。本当に。
「どれだけ『のぞき見』してもボロは出さないからね!」
「ケチー」
「ケチじゃない! 恥ずかしいの! 怒るよ!」
「ホントにもう移極くんたら仕方ないなー。」
「仕方なくていいから。………はにわさんは何食べるの?」
「ラッキースペシャル一択。」
人差し指を天に向けて示す。可愛い。
「じゃあ買いに行ってくるから、そこに座ってて。」
「了解」
 指されたベンチに腰掛ける。
―――あーホントにバレなくてよかった。
 お前を食べたいとか、どんなリアル肉食系だよ。ほんと。
 自分が肉食系だとは自負しているが(反論は許す)、流石に食人趣味は無い。
 どんな変態さんだ。変態というより殺人鬼だが。
………まぁ、確かに…。……エロい意味でも食べちゃいたいけれども。
………うん、まぁね。男なら、ね。
 食べちゃいたいくらい可愛いってことだよ!
 それ以外に何があるって言うんだ!
「……………」
 クレープを二個持ったはにわさんが帰ってきた。
………顔を真っ赤にして、俯いて。
―――今のが筒抜けでしたか………。
………こ、これは死ねるな。トラウマレベルだ。彼女じゃなかったら記憶を消してる。
「………し、死ぬのはダメだからね……。」
「………そ、そりゃあな……。当たり前だ」
 しかもこれもしっかりと『のぞき見』してらっしゃる。……うわもうマジかよ。
「………」
「………」
 ダメだ耐えられない! フラグがそのまま達成されてしまった。最悪だ。
 この空気を何とかしなくてはいけない。はにわさんがどう思っているのかも気になる所だ。
 そう思い、はにわさんの方を見ると、ラッキースペシャルからアイスが滴りそうになっていた。
「うわ! アイス溶けてるよ、はにわさん! 食べよう食べよう!」
「うわぁ! ほんとだ! はいバナナチョコ!」
 二人してモシャモシャとクレープに食いつく。
 美味い。
 素朴ながらもしっかりと味の付いた、250円とは思えない濃厚なチョコと大きいバナナ。これはいい買い物だ。また来よう。
「一口ちょうだい」
「はいよ」
 一応、食べていない部分をちぎって渡す。
 けれど彼女は受け取らなかった。
「………あーんってしてよ。もう。」
 顔を赤らめる。
 そっちか。間接キスをねだっているのかと。間接キスだって、まだした事がないのだ。キスなんて夢のまた夢。だけどあーんぐらいならやってもいいだろう。
「仕方ないな……。はいあーん」
「あーん」
モグモグ、と咀嚼。
「………うん、美味しい! チョコバナナのくせに美味しい、悔しい……。」
「チョコバナナだって美味しいって言ったじゃんか」
「むぅー。でもこっちのほうが美味しいんだから。はいあーん。」
 ちぎらずに、まるごと渡してきた。
ほう。ここで間接キスをさせるのか。これで二人とも間接キスが出来る、と。……お主、悪よのう。
 そんなことを考えても逃げられない。恥ずかしがっているのを悟られぬようにしなければ。『のぞき見』されているならそれはもうどうしようもないが。
 クレープに口を近づける。緊張の瞬間。
 クレープに口を、つける。食す。
間接キスの達成だ。
………何コレすごく恥ずかしいんですが。
「………あ、美味い」
「でしょう? ラッキーでスペシャルなだけあって美味しいでしょ?」
 正直、間接キスの所為であまり味が分からなかったが、確かに美味かった。
 クレープをはにわさんに返す。
 口を大きく開けて頬張ろうとしていたはにわさんが「あっ……。」と言い顔がまた赤くなっていたが見てなかった事にしておこう。
………何も考えずに今の流れを自然にしてたんですね、はにわさん……。すげえよ……。
その流れでさっきのことも思い出したのか、食が止まる。
思い立ったのかのようにはにわさんは言う。
「た、食べながら帰ろうか……。移極くん。」
「ダメ。食べてる時は立ち歩いてはいけません」
「うぅー……」
「いくら嘘泣きしてもダメ!」
「ケチ」
「ケチじゃない!」
 その言葉で諦めたのか、決心がついたのか、パクパクッ、とどんどん食べ進んでいく。
 それでいいのだよ。うんうん。
 次々と食べ進み、数分後には食べ終わり、
「ほら! 帰るよ移極くん!」
と、何故か怒り気味で言ってきた。………何かごめんなさい。
「ん、帰ろう。また行こうな」
「今度は移極くんの奢りだからね!」
「はは……。了解ですはにわ様」
 手を繋ぐ。自然に。吸いつくように絡める。
 途轍もなく、幸せだった。
 歩を進める。
―――その後は特にこれと言った寄り道もせずに帰路に付いた。
 はにわさんを自身の家まで連れて帰って、その別れ際に「……………うちで晩御飯食べていく?」と誘われたが、流石にそれは遠慮しておこうと思い、気持ちだけ受け取って帰った。

□   □   □

 翌日。目を覚ました移極は激しい頭痛に襲われた。
―――キィィーン………ッッ………、と頭の中で鳴り響く。
………クソ、またかよ!
 久しぶりだ。
 最近は無かったのに。
 脳を何かに浸食されるような。それでいて焼き殺されるような感覚。
 ガンガンと、頭に何かを打ちつけられているようで。
 その『痛み』に耐え切れなくなった俺は、唸る。
「―――ああぁぁあああぁぁぁあぁあぁ―――ッッ!!!」
 痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!
 全身から汗が噴き出る。鳥肌が立つ。涙も出てくる。

 瞬間。

「移極! 大丈夫!!?」
 現れたのは母だった。
強く、抱かれた。
「母、さん………ッ」
 痛みが、和らいでいく。
 ギャンギャンと鳴り続けていた音も止む。
「大丈夫。大丈夫よ………。落ち着いて………。大丈夫。移極は大丈夫………。何があっても私が守る………。深呼吸よ………。吸って………。吐いて………」
すーはー、すーはー………、と深呼吸をする頃にはもう落ち着いていた。
「………ありがとう、母さん。もう大丈夫だから………」
 流石に高校生にもなって母親にハグしてもらうという事は恥ずかしいので退いてもらう。
………だけど、押しても退いてくれない。
 じゃあ自分が退こうか、と思い、抜けようとするが、強く抱きしめられているため、移動できない。
「いや………、もう退いてよ。俺も退くから」
「そう? お母さんは移極が大丈夫ならもうちょっと抱いていたいんだけどなあ………?」
 何たる親だ。こっちはすごく恥ずかしいんですよ………!
 だけど、自分が落ち着いたのは母のおかげだと思うと、多少の我儘くらい聞くべきなのでは? と考えた。
だから、
「…………もう、勝手にしてくれ………」
「じゃあ勝手にします! うりうりうりーー!! ほれほれほれーー!!」
 頭を撫でられる。頬をスリスリされる。その他全身隈なく触られる。
「うわっ! や、やめっ―――」
「―――ません!!!」

 その後十分間。母さんの『愛で』は続いた。

「だからごめんって言ってるじゃない……。朝食は移極の好きなハムエッグを作ってあげたんだから」
「………」
 狭い1Kのアパートの、狭いたった一つの部屋でモグモグとハムエッグを頬張る。
 誰が許すか本当にもう!
 しかも俺が好きなのは『ハムエッグ』じゃなくて『母さんが作った料理』だっての。
後は、はにわさんと食べたスイーツ類と手料理。
黙って黙々とモグモグ食べていると、この状況に耐え切れなくなったのか、
「許して下さい調子に乗りましたごめんなさいごめんなさい」
 涙目で。今にも土下座でもしそうな勢いで、謝る母。
―――こうなると、母さんはヤバくなる。理由は何であれ、何はともあれ、ヤバいのだ。
 仕方ない。前言撤回だ。男にだって二言ぐらいある。
「………いいよ。その代わりにまたなんか作って」
 あまり許したくはないが、条件を付けることでマシになっただろう。
「ありがとう! 移極ったら優しい!」
「もういいって。母さんも食べなよ」
「そうします。では、―――いただきます」

 食べ終わった後、適当に後片付けして、学校に行く準備をする。
「今日弁当いるんでしょうー?」
「あ、いる。ありがとう」
 着替えを終え、弁当を受け取り、家を出――、
「………ねぇ、移極。何かあったら、母さんに言うのよ……?」
 何だよ、そんな急に改まって、恥ずかしい。
 母さん面したって、俺の姉みたいな今の立ち位置はあまり変わらないぞ。親だけど。
 だけど、
「………おう、もちろんだよ」
 言う。
当たり前だ。俺の、唯一(、、)の、親だからな。
「あ、そうだ……。―――彼女できたよ。行ってきます」
「ええっ!!? ちょ、ちょっと移極!!?」
 逃げるように家を出る。帰った後が問題だな。どう言い包めようか。
………ははっ。
 嬉しい。こんな風に、何も考えずにただ日常を過ごせることが。
 本当に、嬉しいんだ。

□   □   □

 その後、一人で登校し、点呼だけのHRでの移極の視線はある一点に向かっていた。
 あの銀髪の女子が、いたのだ。
 点呼の後、担任である『tea茶ー』に訊いてみると、彼女の名前は相(あい)相(そう)逢(あい)と言うそうだ。
 いわゆる病弱女子だそうで、何の病気かは分からないが、以前から体調が良い日には何度か来ていたらしい。
全く知らなかった。
「まぁ……、彼女は保健室登校だし、それに彼女は授業の無い日に来ることが多いからね……。こういった、授業日数だけ取れる日に来ることで、クラスメイトからの視線も少なくなって、変に緊張しないで済むんだろう……」
『tea茶ー』はそう言う。
「そうですか……。ありがとうございました、先生」
「何か気になる事でもあったのかい?」
「いや、普通に容姿に驚いてですね………」
「そうか。だけど、人間見た目に惑わされてはいけないよ。相相さんはとてもいい子だよ」
 じゃあ、先生は今から会議だから、と告げて『tea茶ー』はその場を去った。
 教室にはもう誰もいない。いつもの喧騒が今は無音だ。逆に気味が悪い。
―――早く出よう。何か仕事を押し付けられても嫌だし。
 はにわさんは先に図書室に行っているようなので、そこに向かおうか。
そう思い、教室から出ると―――、
 彼女がいた。相相逢が。

□   □   □

「あ、相相さん……!?」
 驚いて、名前を呼んでしまう。
 ドアを開けた面前に人がいたら誰だって驚くだろう。
「逢でいい」
 初対面の男子に何を言っているんだこの病弱女子は!!
「い、いやそういう訳にも……」
そういう訳にもいかない。恥ずかしいし、何よりはにわさんに面目が立たない。
「逢と呼べ」
 高圧的な言い方。
………な、何なんですかね? 自分の身分を上げるのが流行っているんですかね?
「えっと、じゃあ、逢さん」
「何だ」
 言われた通り名前で呼んでみたものの、さっきのただ驚いて発してしまっただけの言葉には意味なんてない。
 何だ、と聞かれてしまった俺は、咄嗟に、
「いや、何しに来たんですか? 体調悪いなら早く帰った方がいいんじゃないですか?」
「む……。なんだ、私はお邪魔虫か? ………やはり私に居場所なんてないのか。もういい。還る」
 言い方が悪かった。
「い、いやいやいやいや! そういう意味では無くてですね! ただ単に何でわざわざ教室に戻ってきたのかなと思ったからだけでして! 体調が悪いなら早く帰って安静にした方がいいのではないかと心配しただけでして!!」
 何とか弁解しようとしたが、我ながら何を言っているのかイマイチ掴み所の無い発言だった。これはもう絶対に確実に嫌われてしまった。本当に最悪だ。
「なるほど、そういうことか、ありがとう。私の勘違いだった。良いヤツなんだな、お前は。えと、名前はなんて――?」
………マジかこの人すごくいい人だよ!
「えっと。御石移極です。御門の石が移る極って書いて、御石移極です」
「そっか。移極、よろしく。あと、敬語は止めてくれ、むず痒い」
 右手を差し出される。
「握手」
「あ、えっと、ごめん。………よろしく」
 右手を交わした。

□   □   □

「病弱女子?」
「うん」
 結局、そのままの流れで、逢と二人で教室でお話することになってしまった。
 話の流れで、彼女自身、今まで何をしていたのか聞いてみると、彼女は病弱女子なんかでは無いらしい。
「私は病気ではないぞ。菌に負ける程軟な鍛え方はしていない。休んでいたのは少し、『天界』に『還って』いただけだ」
「………天界?」
「『天界』だ」
―――先生、この子やっぱり病気でした! 病名は『厨二病』です! 今すぐ病院に!!
「………これは不憫すぎる…………」
 それがなければすごく可愛いのに………。
「何か言ったか?」
「………いえ何も」
「そうか」
 そうです。厨二病の人に「あなたは厨二病です」なんて言えますか!?
 俺は、人から見ると低俗な幸せを持っている人でも、幸せならばそれでいいと思うタイプの人間です! 絶対に言えるかっての!
「ところで、移極。…………………お前、信じてないだろ?」
―――バレバレでした。だけどこれだけは言っておきたい。
「いや、信じてるよ。俺は皆が信じてるモノならそれを信じる。例えそれが今日知り合ったばかりの女の子でもさ」
「………………………信じてないって言う事でいいですね」
「はいすみませんでした!!!」
 どれだけカッコつけても、中身が無ければ、全く意味が無く、伝わらないモノなんだということを、今さらに実感しました。
「クッソ! 本当なのに!! 何で誰も信じてくれないんだろうか……」
「そりゃ、どう見てもあり得ないからじゃないか? 俺もそんな経験あるからさ。大丈夫だって。はにわさんと一緒に勉強も教えるしさ。今からでも間に合う。頑張ろうぜ、逢」
「そうだよな、もう高二だもんな、受験もあるし………………、いや違う違う! 危うく流されるところだった!! もう仕方ない!!!」
 右手の裾を捲る逢は、叫ぶ。

「開錠!!! 『深淵を覗くとき、深淵もまた此方を覗いている(ライト・イン・ダークネス)』!!!!」

 その名を口にした刹那、移極の目の前にバッと、ある風景が広がった。
 広大な森、晴れ渡る青空、澄んだ湖、威圧感のある山々。
 美しい。そうとしか形容しがたい景色。
「…………なんだこれ」
 移極の口から零れ出た言葉は、単純で、状況を的確に表したものだった。
「どうだ、すごいだろう? 北米『雪原の地』、カナダだ」
「瞬間移動……?」
唖然とした様子の移極に逢は、
「いや、実際には瞬間移動ではなくて、記憶の書き換えなんだがな。移極風に言うならば、記憶の『創造』だ。『想像』によって起こる『創造』だな」
「お、おう」
 マジか。マジか。マジだった………。おいマジかよ。
マジだったああああああああああああああああ!!!
「マジだったろう?」
「も、申し訳ありませんでした………」
「かかっ! それでいいのだ」
 でも一つ、思った事がある。これが俺じゃなかった時どうなっていたのか。
 いやー、想像したくないね。怖い怖い。という事で、わざわざ言う。
「………てか、見せちゃってよかったの? コレ」
「あ、」
 あ、ですか。
「あ、やっぱりやらかしちゃってた?」
「うわああああああああああああああ!!! やらかしたあああああああああ!!!!!」
「落ち着け。大丈夫だって。俺も持ってるからさ、そういうの」
 聞いてないなこれは。黒歴史の公開なんて後悔しかないもんな。ほら、こういうのもね。
「あああああああああああああああ!!! ―――え、マジで?」
 意外と切り替えが早かった。すごい。俺なら後三十分は叫んでる。
「マジで」
「またまた~そんな嘘はいらないって、い………アレ? お前の名前なんだっけ?」
「御石移極だっての。今、『使った』ぞ。俺の能力を」
力を。『忘却の彼方(イントウ―・ジ・オブリビオン)』を。
「………『消去系』か?」
「うんまあそういうことだな、ジャンルで言うと。俺は、ピンポイントで人の記憶の消去が出来るんだ」
 自分で言っておきながら、とても恥ずかしいセリフだと気付き、少し後悔する。
 クソ恥ずかしいな。自分で楽しむのはまだしも、人にそれを見られるのはとても恥ずかしい。
「………………………かっけー」
 ぼそりとした声。
「ごめん。よく聞こえなかった。もう一回」
「かっこいいって言ってるのよ!!! 『記憶消去』とか最ッ高じゃない!! どんだけチートなのよ!! ずるい! 私の『記憶の書き換え』とは下位互換のくせに、応用力とかっこよさはそっちのほうが上じゃない!! ほんとにもう!!! 私は『書き換え』より『消去』のほうが好きなの!! どうしてって!? かっこいいからよ!!! 幻(イマ)想(ジン)○(ブ○イ)し(カー)然り、大嘘憑○(オールフィ○ション)然り! 消去系はなんでもかんでもかっこいいの!! ほんとにもうずる――――」
 我慢していた想いの言葉の羅列が止まる。
「な、何だ。笑うな」
 自分でも気が付かなかったが思わずにやけていたようだ。
「はは、笑ってないよ」
「笑った」
「笑ってない」
「笑った!!!!!」
「笑ってないって言ってるだろうが!!!」
叫ぶ。
 逢は驚いて、ビクッと肩を震わせていたが、そんなものどうでもいいい。
 今、俺は何か自分を曲げられたような気がして、すごく腹が立った。
 だから、言うんだ。
「逢、さっきも言ったけど、俺は人が信じてる『何か』を否定しない。カッコつけてもいい。素でもいい。何でもかんでも自分が信じてる『芯』なら、なんでもいいんだ。それがあれば。それだけでいいんだ。例え他の人がどう思おうと、俺は何とも思わない。厨二病? カッコイイじゃないか。最高じゃないか。それの何が悪いって言うんだ。だから恥ずかしいなんて思うな。『我』を貫き通せ。飽きたらやめてもいい。とにかく自分が思うことをしろ! だから、―――」

「ありがとう………。嬉しい」

 抱かれた。逢に思いっきり。
「ちょっ!!? なっ!?? やめ――」
「やめない」
「………離れてくだs」
「拒否する」
「…………」
 興奮して我を忘れて喋ってしまっていた。
言葉も曖昧でちゃんと意味が伝わっていたかどうかも分からない。
なんて恥ずかしいことを言っていたのだろう、と思う。
我ながらキモかった。黒歴史確定だ。最悪だ。
―――だけど、逢にはしっかりと伝わっていたようで、その眼には淡い水滴が溜っていた。
 どれだけキモくても、人に感謝されるのはとても嬉しい。それがハグされるレベルの感謝なら尚更だ。
だけど。あまりこの流れで言うべきことじゃ無いのだろうけれど、流石に許容範囲を超えてしまった。………ちょっとヤバいですこれは。

「…………………………………………………………………彼女に殺されるんですが」

 ドガンと一発! 爆弾発言!!
「…………………………………………………………………彼女いるの?」
「…………………………………………………………………………………います」
………目が怖いです、逢さん。
「あなたという人は、どんなクズ男ですか? 後で彼女さんに報告ですね………」
「………何でもするので許して下さい!!! あと、御石さん呼びと敬語はやめて!」
―――マジで殺される気しかしないです。後で土下座します。
ていうか図書室にまだ待ってらっしゃるのでそろそろ帰っても!!?
「何でもって言ったな?」
「………………………………………………い、言いました」
 やらかしてましたね。ヤバい。エマージェンシー!!
 何をさせられるって言うんだ!? 『何でも』なんて軽々しく言っちゃいけないのに!!
 殺されるのだろうか………。別れろと言われるのだろうか………。いやそれだけは無理ですすみません。
 そう緊張した気持ちで待っていると、
「…………………………………………………………今日からお前は私の『親友』だからな」
 告げられた。

□   □   □

 急いで図書室に行くと、はにわさんがボーっとしていた。どこを見ているのか分からないけれど、そんな彼女もとても可愛かった。
「待たせてごめん。はにわさん」
「ほんとにもう、遅っそいよー、移極くん。」
 ぷんぷんと怒るはにわさん。………本当に申し訳ないです。
「先生に用事を頼まれてさ、まさかこんなに長引くとは………」
………嘘です。本当にごめんなさい。

「………ほんとは?」

「申し訳ありませんでした!!!!!!!!!!!」
 被せるかの勢いで謝る。司書の先生がこちらを睨んでくるが、別に他に誰もいないのだからいいじゃないか。もうダメだ、と思った俺は、全てを白状する。かくかくしかじか説明する。……逢に抱きつかれたこととか。
「じゃあ、ちょっと、外、出ようか?」
「はい!」
 場所は変わって中庭。
とりあえず外に出た瞬間に土下座する。
「本当にごめんなさい」
「へー…………」
 何を言われても許して貰えるまでは土下座から微動だにしません。
「………本当にごめんなさい」
「ふーん…………」
 何を言われてもっ! 許して貰えるまではっ! 土下座から微動だにしません!!
「………本当に、すみませんでしたぁぁぁ!!!!」
「………まぁ、いいかな。仕方ないよね。男の子だもんね。仕方ないもんね………。だけど、さ。次は、無いよ?」
「もう二度としません!!!」
「………よし。よろしい。表を上げい。」
「ありがたき幸せ!!!」
 はにわさんは笑って俺の頭をポンポンと叩く。
「という事で、今日のクレープは移極くんの奢りね?」
「はい!!! 喜んで!!」
 そんなことでいいのか、なんて思ってしまうが、それもこれも全てはにわさんの優しさなのだと思うと、彼女が女神にしか見えない。
「相相さん、だよね?」
「うん。相相逢」
 はにわさんは何故か、空を見上げながら、訊いてきた。
「今日先生に訊いてみたんだけどさ、病気なんだよね? なんていうか、あんまり学校に来てないみたいだし……」
「いや、病気じゃなくってビョーキだった。一生治らない系の」
「………もしかして。」
「もしかしなくても、」
「「厨二病」。」
 ふふふっ、とはにわさんが笑う。
「ふふっ、なあんだ、病弱女子には勝てないから安心したよー……」
「いつも言ってるけどはにわさんが一番だから、一筋だから、心配しなくても大丈夫だよ」
恥ずかしいけれど、本心だ。頭を『のぞき見』されていたとしても、これは俺の口からハッキリと言わなくちゃいけないだろう。
「………ばか」
「何で!?」
 一拍の間の後の返事はまさかの罵倒だった。
「…………移極くん、ここの所元気なかったから、相相さんに浮気しちゃって私に面目が立たなくて悩んでたんだ、って思ったんだからね……。」
「………本当にごめん」
「でも、いいよ。許してあげる。そんなに好きって言われたら、私は何も出来なくなっちゃうから……。
―――大好きだよ、移極くん。」
「俺もだよ。大好きだ」
「ふふっ。ありがとう。じゃあ、そろそろ帰ろう?」
「うん」
 躊躇いなく手を絡める。まったく、こんな行動が何も考えずに出来てしまうなんて、俺も成長したようだ。本当に、はにわさんのおかげだなあ。そう思っていると、
『私のおかげだね。』
と、脳内に直接はにわさんが話しかけてきた。
二人きりの時にこれを使われたのはきっと初めてじゃないだろうか。
「こら、はにわさん。二人きりの時はちゃんと―――

―――唇が覆われた。

 何の脈絡もなく。唐突に。
………そこから一分はそのままだっただろう。
 いや五秒かもしれない。三〇秒かも。はたまた五分かも。
 永遠にも感じられるような、だけど、一瞬のような、甘い接吻。
「………ぷはぁ。いただきました! 移極くんの唇!」
「あ、あり、ありがとうござい、ました」
 動揺が隠せない。
「ふふふっ、本当にかわいいね、移極くん。『大好き』は言葉より、行動で示すのが私の心情だから。私のファーストキッスは高いよ?」
 テンションが高いはにわさん。だけど俺はこう言うのが精一杯だった。

「……………一生かけて幸せにしても足りませんか?」

「……………お買い上げありがとうございました。私は一生、あなたのものです。末永く、いつまでもよろしくお願いします。」
 顔が真っ赤にしながら、そう言うはにわさんはもう殆ど涙目だった。




□□□ 第2章 □□□□□□

 六月。
文化祭も終わり、ジメジメとした季節がやってきた。
 熱いだの湿ってるだの何だの五月蝿い季節だ。六月だけど。
 うちのクラスは席替えをしないそうなので、永遠に最高のポジションに座り続ける俺でも、流石に窓の隙間から入る湿気には嫌気が差していた。
「今日は逢は来てるのか………」
 逢は今でも病弱女子のキャラを貫いているので、時たまにしか学校に来ない。それでも定期テストでは学年で三本の指に入るそうだ。
「すげえよな……」
『やっぱり、また相相さんか……。浮気……?』
ぼそっと呟いた移極の声をちゃんと『聴いていた』はにわさんが語りかけてきた。
―――違う! 断じてそれは無い! 俺ははにわさん一筋だ! 大好きだ!!
『そっか。じゃあよかった。』
―――またクレープでも奢るから許して下さい!
『ならば許そうではないか!!!』
―――ありがたき幸せ!
ふふふっ
 ははっ
 教室で二人の小さな笑い声。
 俺とはにわさんは席が離れていても、心は繋がっていたんだ。

□   □   □

俺は、はにわさんと一通り喋ったあと、授業に集中出来ず、肘をつき頭を抱え、寝ているフリをしていた。
「(くそッ……!! またかよッッ……!!)」
…………キーーン……! ズキズキズキッ……!! 
と、脳を何かに浸食されるような、それでいて焼き殺されるような感覚が俺を襲う。
「(とりあえず今だけごめん、はにわさん! 消去!!)」
―――はにわさんに迷惑は掛けれない。これは俺自身の問題だ。
 はにわさんから俺の記憶を消す。後で怒られるのは覚悟している。
 そうでもしなくちゃ、やってられない。という程の痛み。
「あああああああぁぁぁああぁああああああああぁぁぁああああぁ!!!!!」
 叫ぶ。耐えられない。
 皆がこちらを向いて驚くが、別に後で消すからどうでもいい。
 痛い痛い痛い痛い痛い!!!
「うああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
―――ここ最近の『不調』は能力によって消した自身の記憶の反芻、――簡単に言えば、『トラウマの襲撃』とでも言おうか――によって引き起こされたものだった。
 そんな単純なことは分かっている。
だけど、痛いものは痛いのだ。叫ばずにはいられないくらいには。
 心理的外傷(トラウマ)。
俺にとってのソレは父親と過ごした時間、その全てであり、父親の存在そのものだった。

□   □   □

―――――――――――――――――
――――――――――
―――――

「別れたい別れたい別れたい別れたい………」
 目を真っ赤に腫れさせて、そう言う母さんの体の節々はいつも青黒く、大きなマンションの影に隠れたアパートのその一室はとても暗かったのを覚えている。
「母さんは僕が守るから」
 そう、ずっと思っていた。ずっと。今でも。
 その頃の俺は、御石移極は、『僕』という一人称を使っていた。
とは言えその時守ることは出来なかったのだが……。
そんな記憶は何度も、何度も何度も何度も何度も、『消した』。
 けど、『消えなかった』。
 父さんが母さんを、思い切り殴る蹴る、包丁で切りつける、煙草で焼く、ビニール紐で縛る、口をガムテープで閉じる、押し入れに閉じ込める。
 母さんの悲鳴。唸り声。泣き声。
 母さん自身のその記憶はなんとか消せた。けど俺の、俺自身のその記憶は消せない。今でもずっと。
 何故かはわからない。ほかの記憶は消せるのに、自分のそのピンポイントの記憶だけが、消せない。
 いつまで経っても消えないその記憶。
それは―――、

「ほら、行くわよ………! 移極………!」
 と小声で母さんは子供の頃の俺にそう言った。
 これでちょうど百回目の夜逃げだった。
「父さんは、いいの?」
 分かりきった質問。
「あんなお父さんなんて放っておいていいのよ」
 これも分かりきった応答。
 だけど母さんの体はガクガクブルブルと震えていた。
分かりきった質問も応答も、それはどうせ今回もバレることが分かっているから。父さんの暴力から母さんを少しでも守ろうとしたから。
父さんを置いて出て行っていいの? ではなく、父さんにまた半殺しされるけどいいの? だ。
 前回からまだ三日しか経っていない。しかし、父さんの気はまだ立っている。
―――家をそっと出て、走る。
「ほら、早くしなさい! 移極!!!」
逃げるなんて出来る訳が無い、と達観した心境をひた隠し、
「……………うん」
と、精一杯のやせ我慢で、駆ける。
 途中、近くのコンビニに立ち寄り、お金を引出し、最寄の駅に走る。時刻は十一時半、終電はまだだ。
 どこに逃げるつもりなのか、訊きたかった。だけど、母さんはもう、『警察に通報する』という、まず一番に行動すべき単純なことを忘れる程、心身共に参っていた。
「どこにも逃げる場所なんて無いよ、諦めなよ、あいつはどこまでも追ってくる『悪魔』だから」、と言ってみたかった。百回失敗した母さんも本当は分かってる筈、もうやめなよ、と。

―――だから。俺は言った。言ってみた。なんとなく言ってみた。
「どこにも逃げる場所なんて無いよ、諦めなよ、あいつはどこまでも追ってくる『悪魔』だから」と。
理由は、単純な好奇心と自己精神の崩壊。
言ったらどうなるかは分かっていた。やってしまったことは覆せないことも分かっていた。十分に。満ち足りすぎていた程に。
もうどうでもよかった。
いや、どうでもよくなってた。
こんな世界なんてどうでもいい。
どうせ、『消せる』し、と。

「い、嫌ああああああああああああああぁぁああああああぁあああああああぁあぁあああああぁあぁぁああ!!!!!!!!!! 嫌、嫌、嫌、嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌!!!!」

 ほら、やっぱり分かってたじゃないか、母さんも。
 分かっていた通りの反応。
 ガクガクと激しく揺れた体を思い切り抱いて、ただ子どものように嫌嫌とダダをこねる。
 あーあ。
 もういいや。
 消そ。『消k
―――ドガッッ!!!
思い切り蹴られた。
出てきたのは本物の悪魔、のような父さんだった。
「…………おい」
 と母さんを睨み付けた父さんに対し、母さんは、
「ヒッ……………。ごめんなさいごめんなさい、本当にごめんなさい、あなた……。もう二度としませんから………ごめんなさいごめんなさい………」
と、何度も何度も謝る。
 だが父さんに対しその行為は意味を成さない。
「いや、許さねぇ。今日で何度目だ!!? アァン!!?」
―――ドガッッ!!! ボキンッッ!!! ガッッ!!!
鈍い音が響いた。
―――ゴッッ!!! ドンッッ!!!
 その音はいつまでも、永遠と続いた。
「うっ……! ごめんなさい、許して……」
―――あ、これは死んだな、母さんも僕も。
 そう思った矢先、こちらにも魔の手が襲ってきた。
「おい、移極ぅ、お前にも言ったよなぁ? 二度とこんなことが無いように母さんにきつぅく言っておけって!!!!」
―――ドガッッ!!! ドガッッ!!! ドガッッ!!!
 体を伝わる鈍痛。腹を殴られ、倒れると太ももを蹴られ、起こされては顔を殴られる。その繰り返し。
 これはダメだ。
 やらなきゃ殺られる。
「消去!!!!!」
 こいつの記憶を消さなきゃ死ぬ……!!!
全部、全部、全部!!!!!
「消去!!!!!!!」

―――父さんの、全ての記憶が消えた。

 人間として、生物としての最低限の記憶、情報、知識さえも『忘れた』父さんはまるで赤ちゃんみたいだった。いや、生き物としてさえ成り立っていなかった。ただの肉塊。父さんであったモノはまるでゴミのようだった。
 そこからの俺の行動は速かった。
 父さんを父さんたらしめる免許証などの物を全て奪い処分。母さんの記憶も消して、実家に帰り、母さんを療養。
 父さんがどうなったかは知らない。歩き方すら『忘れた』のだからどこかで死んでいるだろう。
 だけど、

―――俺が父さんを殺したのは事実だ。

天地がひっくり返っても変わらず、俺の中でしか分からない、理解されない事実。
自分は人殺し。親殺し。
そう思うと、どんな悪人を殺したのであっても自分に嫌気が差す。
魔が差した。
そんな自分に嫌気が差した。
ただそれだけのこと。
『あの日』から俺は、突発的にこの事実を思い出して、ひどい頭痛に襲われる。ここ最近―――特にはにわさんと付き合っててから―――、殆ど『無かった』から油断していた。
これは俺が背負う罪。
罪にはしかるべき罰を。
罪と罰。俺が死ぬまで独りで抱えていく業。

それが俺のトラウマだ。

―――――
――――――――――
―――――――――――――――――

□   □   □

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

□   □   □

 次に俺が見た光景は、檻の中だった。
 いや、檻じゃない。
「天井のタイルだ、これ………」
 何だこのどこかで見たことある系の目覚めは。
………まぁこんなことが定例だと分かるくらいには頭が冴えてきているのだろう。記憶障害とかも無いようだし。
「あ、起きたのね。大丈夫? 御石くん?」
 保健教師の中村先生が声を掛けてきた。
「ああ、大丈夫です。えっと……、俺は―――」
―――何でここにいるんですか? と尋ねる。
「教室で急に叫んで、急に倒れたそうなのよ。ホントに大丈夫?」
……………あああああああああ!!! ホントにやらかしてたあああああああああ!!!
 叫びたくなってきたがここで叫ぶとまた心配をかけるだろう。
 なので、
「いや、覚えてないです。すみません」
 と、嘘を吐く。
「…………まぁ、いいわ。何かあったらまた来なさい。話ぐらいなら聞いてあげるからね」
―――バレバレでした。大人に嘘は吐けないですね、本当に。
「じゃあ、そろそろ帰ります。ありがとうございました」
 先生に礼をして、廊下に出ると、そこには逢がいた。
「うわっ、びっくりした………。何だ、逢か……」
「おう、移極。大丈夫か?」
 保健室の前で体育図割をしていた逢はそう尋ねる。
「いや、大丈夫だよ、ありがとうな、わざわざ」
「親友だからな、当然だ。………で、彼女さんがいないけど?」
「えっと……、迷惑かけちゃいけないから記憶を消したんだ」
 後で土下座は確定です。
「………なるほど、そういう使い方もあるのか……。………でも、まぁ、初めて勝ったな」
「………今何て言った?」
「………いや、何も無い」
「そうですか。絶対嘘だな」
「そうですね。いや違う」
 絶対何か言っただろうが、と半睨みする。
 それに対して逢も、違う、と睨む。
「………」
「………」
―――この空気、すっごく嫌いです。
「まあいいか。そろそろ帰るけど、逢はどうする?」
「移極を送ってから帰る」
「………気持ちだけ受け取っておくよ」
 流石に遠慮しておかなくちゃ、これは土下座で済むか分からなくなる。
「黙れ病人」
「黙れ厨二病」
「お前! 『お前の信じてるものは信じ通せ』とか、『俺は何も言わない』とか言ってなかったか!?」
「言ったけど、イジるかどうかは別だっての。理解はしてやるってだけだ」
「最低だコイツ!」
「最低で結構だよ!! 死ぬより金かはマシだ!!!」
「………」
「………あ、ちょっと待って。来た」
「何が!?」
――――――この空気をぶち壊してくれたのは、そこにいない筈のはにわだった。
『移極くん。至急帰宅しなさい。家の前で待ってるから…………!!!』
 移極の脳内に響き渡る、怒りが籠もったはにわの声。
―――はい、分かりました! 帰って土下座ですね!!
『……………』
 はにわさん、相当キレておられますな、土下座で済むかな、と思った移極は即座に、
「ごめん、逢。用事が出来たから俺もう帰るわ。お前も、もう遅いし気をつけて帰れよ」
と、漫画でよく見る決まり文句を言う。
逢は、それに対し、
「…………仕方ない。本当に大丈夫なんだな?」
と、一瞬悲しそうな顔を見せて、また明るく振舞った。
「大丈夫だっての。気遣いありがとう。またなんかお礼するよ」
「うん! 絶対だからね!!」
「素が出てるぞ」
「………当たり前だ。お前の貢物、期待する」
 おお、これまた一段と濃くなって………。
「ま、いっか。じゃあ、明日また!!」
「おうとも!!! 明日また!!!」
移極は盛大に手を振り、ダダダッシュではにわの元へ向かった。
 移極のその顔はもう、暗くなく、満面の笑みだった。

□   □   □

 翌日もその次の日も、毎日移極と逢は色々な話をした。
聞いていて、何の変哲もなく取り留めもない話だった。各々の異能の力で遊んだり、使用法について改めたりと、二人でしかできない話もあった。
 よくある話。
移極と逢にしか通じない何かを感じれるような、よくあるお話。
延々と無駄に駄弁っている日もあった。愚痴っている日、勉強する日、ゲームで通信する日。
いろんな日があった。
 ただ、毎日最後には「明日また!!」と、笑顔で終える。逢風に言うならば『終焉(お)える』というところか。そんな風に、二人の仲はどんどん良くなった。

―――移極と逢の出会い、邂逅から一月が過ぎた。

□   □   □

ある日の晩、相相逢は、死んだ。

□   □   □

 暑い七月の、その『ある日』、逢は移極と一通りの日課である『お喋り』を行い、その帰宅後、親兄弟と買い物をし、その帰りにトラックに轢かれた。
―――何の変哲も無い、ただの事故だった
 ちゃんと毎日、移極の言いつけ通り気を付けて家には帰っていたらしい。
葬式は身内だけでひっそりと執り行うそうだ、という情報を担任から聞いた移極は、何とかして、その親友の綺麗な顔を見たいと思い、能力を使って遂に逢の顔を見ることが出来た。
―――顔はズタボロだった。
運悪く顔を擦ったようで、体もぐちゃぐちゃ。
まさにただの肉塊。父さんと同じように、相相逢であった体はまるでゴミのようだった。
父さんと同じになった。
しかも。
移極はその前日に限り、その前日だけ、―――言えなかったのだ。

「また明日!!」と、言えなかった。

しかし、逢はちゃんと言った。
「また明日!!!」と。
いつもより大声で。
いつもより満面の笑みで。

『言わなかった』移極に、明日が来た。
『言った』逢には、明日が来なかった。

それもこれも、移極を酷く苦しめた。

 初めて自分が人を殺したんだと気付いたときよりも、
 初めて『その後』の母さんに怒られたときよりも、
初めてできた彼女にブチギレされたときよりも、

―――ただ、悲しかった。哀しかった。
   相相逢が死んで、哀しかった。

□   □   □

 それからは、何かが抜け落ちた感覚が常に移極にはあった。
 逢の死から数日、移極の体は重かった。
 授業も何もかも集中できず、ただ、ボーっと逢のいた席を見つめる。
 そんな日の放課後。―――はにわが動いた。

「―――移極くん、デートしようよ」







□□□ 第××章 □□□□□□

『【第2章】にはこんな文があった。』
『―――翌日もその次の日も、移極と逢は色々な話をした。聞いていて何の変哲もなく取り留めもない話だった。各々の異能の力で遊んだり、使用法について改めたりと、二人でしかできない話もあった―――と。』
『聞いていて(・・・・・)………?』
『そう。』
『聞いていた。しっかりと聞いていた。』
『聞いていたし聴いていたし訊いていたし効いていたし利いていた。』
『噂も聞いた。』
『身を入れて聴いた。』
『先生にも訊いた。』
『ちゃんと効き目もあった。』
『気も利かした。』
『でもやっぱり、』
『違った。』

////////////////////////
――『違う。こんな幸せはいつまでも続かない。』――
////////////////////////

『いつか(・・・)、思ったとおり。何度やっても(・・・・・・)そのまま。』
『だけどやっぱり私はいつまでもアナタを愛してる。』

『きっとアナタは気付いてない。そして気付かない。』
『好き』
『が、届かない。』
『極限まで、どれだけ振り絞っても、』
『移ろいだこの虚ろなセカイでは意味を成さない。』
『はちきれそうなこの想いも、』
『私程度じゃやっぱり届かない。』
『……ほらね、また気づかない。』
『仕方ない………。』

////////////////////////
――『全ては私の手の中に。』――
////////////////////////

////////////////////////
――『この世の全てよ踊れ、そして統べよ。』――
////////////////////////

『………――――――では、また。』

―――――――――ぷっつん……………、と、世界の記憶が忘却した。








□□□ 第3章 □□□□□□

 私は、船井はにわ。御石移極の彼女である。
 船井はにわは御石移極の彼女だ。
 大事なことだから何度でも言う。
 私は御石移極の彼女である。
 そんな件の御石移極本人はというと、まだアノ子の居た席をただぼーっと見つめていた。
 七月の『あの日』からもう一か月が過ぎたのに、である。
 今日は夏休み前最後の日。授業があるのはこの学校が珍しい前後期制だからだ。この後、全校集会をして、全校生徒が待ちに待った夏休みになる。
―――移極君、授業始まってるよ?
 と、自(・)身(・)の(・)力(・)の(・)一(・)つ(・)を使って尋ねた。
 だけど、返事は、
『え…? あぁ……、うん……』
という曖昧な返事。
毎日のように、暗にアノ子のことを「忘れろ」と言っている。だけどそれにも移極は全く気付かず、無駄に過ぎていくだけの大切な青春(じかん)。
過去は過ぎ去っていく。今は今しかない。未来はすぐに今になる。
じゃあ、今、すべきことは、移極くんがしなくてはいけないのは、一体何か。
 それは―――、

―――『忘却』、ただ一つ、である。

人間、辛いことは早く忘れるべきなのだ。
 移極もそうしていたのだ。
『心理的外傷(トラウマ)』は消さなければ生活に支障を来たす。それはずっと永続的に続く頭痛のように。
 しかし、移極の最大のトラウマである、父親殺しのように、深すぎると消えないものもあるようだが……。
でも、やってみないと分からないじゃない?
別に消すのは簡単だ。私にはできる。移極くんと同じ、いやそれ以上の力が私にはある。同じような力が、『消去系』の力が、幾つもある。まるで息をするかのように出来る。
でも今までそれをしなかったのは移極くんのためだ。自分で忘れることが出来て初めて、人は成長出来るのだから。
でも、もう待てない。
………仕方ない。私がやろうか。
 決めた。そろそろ我慢の限界だ。
やると決めたからには潔くやろう。
―――そうして私は放課後、「移極くん」と足早に彼に駆け寄った。
「………どうしたの? はにわさん」
―――だから、私は、
「消去。」
 有無を言わさず、力を使った。

―――キィィィィィィィィィィン……………!!!!

あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!????????????

 移極くんの脳内は、きっと疑問と痛みで埋め尽くされているのだろう。
 その眼からは涙が零れていた。
「ごめんね、ごめんね移極くん、本当にごめんね。」
 移極くんは何も悪くないのに。アノ子がぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇんぶ、悪いのに。
移極くんの脳内での消去によって起こる頭痛が、叫びが、私にまでも聞こえてくる。
それくらい消す量が多いのだろう。
 それほどまでに移極はアノ子を想っていたのか。
『相相逢』を、想っていた、のか……?
………泣きたくなってくる。
 移極の彼女は私。
 なのに、なんで……?
 意味が分からない。
 何故?
 何故だ。
 私は何も悪くない。
ただ移極の愛を求めていただけ。
もっと、
もっともっと、
高校生のカップルらしくただイチャイチャしたかっただけ。話したかっただけ。ただ移極と私にしか通じない何かを感じれるような話がしたかっただけ。延々と無駄に駄弁っていたかっただけ。趣味やファッションについて話したかっただけ。愚痴ったりしたかっただけ。一緒に勉強したかっただけ。一緒にゲームで遊びたかっただけ。一緒にアニメについて語り合いたかっただけ。ただ可愛いと言ってもらいたかっただけ。カッコイイと言いたかっただけ。ただ優しくされたかっただけ。ただ手が繋ぎたかっただけ。思い切りハグしたりされたかっただけ。ロマンチックなキスしたかっただけ。深い深いキスをしたかっただけ。愛してもらいたかっただけ。今度は移極くんのしたい事だけするデートがしたかっただけ。私がしたいことを一日中するデートをしたかっただけ。もう一度二人でカラオケに行ってみたかっただけ。夏休み二人で縁日に行きたかっただけ。着物を移極くんに見てもらいたかっただけ。射的で大きなぬいぐるみを取ってもらいたかっただけ。一つのお茶のペットボトルで間接キスをしてドギマキする移極くんを見たかっただけ。一緒に隠れスポットで花火を見たかっただけ。プールか海に行って水着を見てもらいたかっただけ。水を掛け合ってビチャビチャになりたかっただけ。蝉が五月蝿いねなんて言って一つのイヤホンを一緒に使いたかっただけ。蚊が付いているって言ってほっぺたを軽く叩きたかっただけ。痛いって言う移極くんを見てふふふと笑いたかっただけ。BBQをしてみたかっただけ。山に登って雄大な景色を見たかっただけ。きれいな空気を吸って同じ空間にいることを再確認したかっただけ。夜の綺麗な満天の星空を見たかっただけ。綺麗な紅葉を見たかっただけ。一緒に美味しいご飯を食べたかっただけ。ほっぺたに付いた米粒を口で取ってあげたかっただけ。一緒に誕生日を祝いたかっただけ。クリスマスにプレゼントを贈りあったりしてイチャイチャしたかっただけ。彼氏彼女ってこういうものなんだよと教えてあげたかっただけ。ただ互いの全てを知り合いたかっただけ。ただトラウマを少しでも和らげようとしてあげたかっただけ。ただ友達以上の存在になりたかっただけ。ただ移極くんのお家にお泊りしてみたかっただけ。ただお義母さんと呼びたかっただけ。ただお義母さんと一緒に料理したりして仲良く過ごしてみたかっただけ。ただお義父さんのタブーに触れてガチギレされたかっただけ。ただ大喧嘩してみたかっただけ。ただ仲直りしてみたかっただけ。その後でめちゃめちゃイチャイチャしてみたかっただけ。おはようおやすみの挨拶がしたかっただけ。初夜ではあんな風にしたかっただけ。そのまま永遠に愛し愛されたかっただけ。ただ一生一緒にいたかっただけ。
他にも、他にも――――。

―――ただ、一生一緒に『しあわせ』になりたかっただけ。

なのに、なぜ、移極はこうもアノ子を想うのか。
 こんなにも、私は想っているのに。
死んでなおも想われる『相相逢』とは何なんだ。
悔しい。
「!! っと……、アレ? 何だこれ? はにわさん……、今、何かした?」
という移極の言葉で一気に思想の世界から現実に舞い戻る。
「ううん。何もしてないよ? 何かあったの?」
 移極はこういう所で勘がいい。
 今までの思想を脳の片隅に追いやり、
「何にもないなら、そろそろ、帰ろっか。」
と声を掛ける。

「いや、逢(・)のとこ(おはか)に、行ってくるよ。えっと、はにわさんは今日はもう遅いから帰ってていいよ。―――じゃあ、『また明日』………」

―――…………………は?
は? は? は? 
脳内が?マークで一杯になる。
は??????????????????????????????????????????????????????????????????????
消えてない。消えてなかった。のか?
いや、消した。
ちゃんと消した。
絶対に消した。
絶対に消えた。
100%絶対完璧に消したし消えた。
私の能力は絶対。神。
じゃあ、何故………?
………………………………最悪の結論に行きついた。
 移極はアノ子がいなくては生きられなくなってしまっていたのだ。アノ子の記憶を全て消してしまったら、移極の記憶の99%は消えてしまうのだろう。
 きっと私についての記憶についてでもそうなるだろう。
 いや、そうだと思いたい。
 もしそうじゃなかったら………………………、
―――私はきっと狂ってしまう。
………サッ、と魔(・)が差した。
やってみたくなった。
やってみたくなってしまった。
反応が見てみたくなった。
私がアノ子よりも想われていることを証明したくなった。
もし移極くんが私の事を忘れていたら、なんて考えない。そんなこと在る筈ないのだから。
でも、移極くんがやっぱり私の事を覚えていてくれたら、その時は、ハグして、キスして、後は―――、精一杯甘えよう。
何てことを考えて、
「い、移極くん、ちょっと待って!」
と、まだそこまで進んでいなかった移極を引き留める。
「ん? どうしたの? はにわさん?」

「消去。」

と、移極の、『私に関する記憶』を全て消す。
「い、移極くん………?」
と、あからさまな不安が表情に出てしまう。
 緊張の一瞬だった。

「へ、あ、はい。移極、です……けど?」
……………………………………………………………………移極くんは私が分からなかった。
理解、できなかった。

『あんた誰?』
『俺に何の用?』
『なんで俺の名前知ってんの?』
『なんで名前で呼ぶの?』
『なんでぼっちの俺に話しかけてくんの?』
『周り見ろよあきらかに俺のこと避けてるだろ?』

『―――お前、誰?』

 移極くんのそんな視線が私に向けられる。

「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

―――――――――ぷっつん……………。

また、『声』が消え、世界の記憶が消された。

□   □   □

―――二八回目、次は大丈夫。

□   □   □

 私は、船井はにわ。御石移極の彼女である。
 船井はにわは御石移極の彼女だ。
 大事なことだから何度でも言う。
 私は御石移極の彼女である。
 そんな件の御石移極本人はというと、私を思い切り抱いていた。ハグしていた。
 アノ子はいない。
 産まれてすらいない。
 アノ子の存在は邪魔だ。
 私のあらゆる能力や異能、力、全て使ってアノ子の存在を消した。
 あらゆる労力を払った。
 何でもした。
二八回目にしてようやく掴んだ幸せ、手放すものか。
アノ子がいない『今回』は全てが順調に進んだ。
『最高』、その一言に尽きる。
「移極くん……」
と、私は抱かれながら、甘い声を出す。
移極くんはそうしながら、さらに私の頭を優しく撫でる。
優しく、ゆっくりと。
 その手には愛がこもっていて、温かかった。
「いま、とっても『しあわせ』だよ……………」
移極くんは頷く。それは同意の意味だ。
 私たちはそのまま黙ってただ抱き合っていた。愛し合っていた。これで、よかった。気分は高まっていた。
 しばらくすると二人とも急に恥ずかしくなって、目が合わせられなくなる。
「じゃ、じゃあ、今日は帰るよ。また明日!」
と、先に移極くんが逃げるように足早に帰っていく。
「あっ……」
 本音を言うともう少し、ハグしたかった。少しと言うか、もっと長くしていたかった。
だけどそれを言う前に、逃げ帰られてしまった。
 恥ずかしいのは私も一緒だった。だけど、欲が勝った。
「ちぇっ……」
 と悪態をついて移極が帰って行った方を見る。
―――刹那、

――――――――ドンッッッッッ!!!!!

 移極くんがトラックに轢かれた瞬間を見た。
 声も上げずに死んだ。
 何の脈絡もなく死んだ。
 ただ、死んだ。
死んでしまっては私の力でもどうにもできない。
 しかも、『六回目のアノ子と同じ死に方』だった……。

 どこまでも、運命は私を弄ぶ………。
 わかった。わかったわかったわかった。
わかったわかったわかったわかったわかったわかったわかったわかったわかったわかったわかった!!!!!!!!!!!
 どこまでも、いつまでも、何度でも、やってやる!!!

 私は移極くんと、一生一緒に『しあわせ』になる。絶対に!!!!!!

―――――――――ぷっつん……………。

『声』は自ら消え、世界の記憶が消された。

□   □   □

―――四九六回目、大丈夫。決めただろうが。

□   □   □

―――八一二八回目、大丈、夫、だ。大丈夫。

□   □   □

私は、船井はにわ。御石移極の彼女である。
 船井はにわは御石移極の彼女だ。
 大事なことだから何度でも言う。
 私は御石移極の彼女である…………筈だった。
 『二人』で『しあわせ』になるために何度も繰り返し続けた青春という時間も、七〇〇〇回を超えた頃、アノ子はまたどこからか湧いてきた。
そして、今回ついに、『立場が逆転』した。
今回、移極とは『親友(アノ子の立場)』として話すことはあるけれど、絶対に一線は超えない。
移極は彼女(アノ子)をとても大事にしていて、それ以上もそれ以下もない、そんな風に私に接していた。
これまでの計八一二七回もの間、私がどんなに頑張っても、移極は死んだり事故にあったり大きなトラウマを抱えてしまったり、と『しあわせ』になれないバットエンドを迎えてしまう。
ここ一〇〇〇回の原因はほぼアノ子。
仕方ないから、最近ではアノ子を滅茶苦茶にして殺していた。
溺死、焼死、病死、凍死、餓死、縊死、圧死、爆死、轢死、煙死、横死、過労死、打撲死、感電死、窒息死、転落死、服毒死、エトセトラエトセトラ。
能力を多用し、死ねなくして、無限に責苦を与えたり、五感を奪って、人としての尊厳をなくしたり。
―――今回はどう殺そうか、
と、最近はいつもそんなことを考えている。
殺すことに意味など無い。
ただ邪魔だから、鬱陶しいから、必要ないから、殺す。蚊やゴキブリと同じ。見つけたからとりあえず殺しておく。
殺す方法に意図など無い。
美を追求したり、実用性を求めたりはない。ただ殺したいから殺す。ただそれだけ。
強いて言うなら、恨みはある。アノ子が居なければ…………と思ったことは数知れない。
居なければ、どうなのか。どうなるのか。
別に考えてはいないし、どうでもいい。ただアノ子の存在が邪魔、というだけ。

二人の『しあわせ』のために、アノ子は、邪魔。

―――もう、最後の手段を使うしかない。
出来るだけ『ソレ』をしたくはないし、もしかしたら私が死ぬかもしれない。消えるかもしれない。
私が死んだら終わり。もう繰り返せない。
死ぬのは怖い。殺すのは簡単だけど。
きっと準備には時間がかかるだろう。いや、かかるのは私だけか……。

じ ゃ   あ 、   ま     た        。

―――――――――ぷっつん……………。

『声』は何かの準備をし、世界の記憶がまた消された。

□   □   □

―――三三五五〇三三六回目、準備を進めろ。

□   □   □

―――八五八九八六九〇五六回目、準備を進めろ。

□   □   □

―――一三七四三八六九一三二八回目、ようやく!!!!!!!!!!

□   □   □

―――終わった。
 やっと終わった。
 完成した。成功した。
一三七四三八六九一三二八回目にしてやっと、二人が『しあわせ』になれる唯一の空間ができた。『世界』ができた。
創り上げた。
繰り返せるのはこの青春という時間だけであり、過去には戻れないから苦労した。苦心した。
過去は過ぎ去っていくもの。今は今しかない。未来はすぐに今になる。
そういう風に考えていたのは前の私。
今は、こうだ。
過去を変えられるのが私。
今を何度でも繰り返せるのが私。
未来をクルッとみんな来未(かこ)にできるのが私。
 人間やろうと思えば何でもできるって言うのは真実だと実感した。
 だからやった。
 最後の手段を成功させた。
 私、船井はにわと御石移極だけが『しあわせ』に生きる世界を創り上げた。
 一三七四三八六九一三二八回の間、猛勉強した。全て記憶した。『世界の全て』を記憶した。
『ラプラスの悪魔』。
 それに私はなることにした。
―――『もしもある瞬間における全ての物質の力学的状態と力を知る事ができ、かつ、もしもそれらのデータを解析できるだけの能力の知性が存在するとすれば、この知性にとっては不確実なことは何もなくなり、その眼には未来も(過去も同様に)全て見えているだろう』――。
 それが、ラプラスの悪魔。
 もはやこの二年間(せいしゅん)のなかでは一秒後の原子の状態を予測するのに0・01秒もかからない。
 世界一速いスポーツである、卓球選手が行うように、断片的な材料で未来を予測する。感覚で分かる。
―――未来が分かる。
未来が分かれば、何でもできる。今後100年分の原子の状態を計算したから、いつ地震や大雨、雷などの災害が起こるかも、もうわかる。だから死ぬ心配はない。
―――過去が分かる。
 過去が分かれば、アノ子を含めた、私と移極以外の、全人類を構成した原子の状態も分かる。
1人当たり7×10の27乗個の原子をたった72億人分覚えたらいいだけの話。
過去の動きはもう変わらないから、その場所に在る筈の原子を、私の異能で二人を構成する原子と二人を生む親たちを構成する原子に害を与えない程度にちょちょいと動かしてやれば、同世代の人間は私達二人以外生まれない。
本当に賭けだった。
まず一七年前に干渉する手段を作るのに時間を労した。様々な異能を組み合わせ、過去のある人たちを洗脳し、私の思う通りに動いてもらった。ただ歩くだけでも風は起こり、原子は動く。ただ触れるだけでも、細胞は変形し本当は起こりえなかった事象が起こる。そうして今が変わる。無量大数分の一、いや、何グーゴルプレックス分の一かも分からない一筋の光を追い続けた。
一つでも間違えたら私が消えていた。私が消えたら愛も『しあわせ』もクソもない。
でも、私と移極以外の同年代の存在を消すことで、もう私達は二人で『しあわせ』になる以外の道は無くなった。
親世代はいるので彼らが死ぬまでの間は、私達二人は超高待遇である。
なぜなら今後の人類の存続は私達二人に係っているのだから。
そう、私は、船井はにわ。御石移極の彼女。
船井はにわは御石移極の彼女だ。
 大事なことだから何度でも言う。
 私は御石移極の彼女である。
彼女であり嫁であり、一生を添い遂げる伴侶。
現代のアダムとイヴ。
御石移極と船井はにわは新しい神話になる。
そこにアノ子の入る余地はまっっっっっったくない。
完璧だった。
 完璧すぎる最後の手段である。

 そんな件の御石移極はと言うと、
………私の膝枕で寝ていた。

 すーすーと寝息を立てる。
 膝枕をしてあげて、じゃれていると、移極はすぐに寝てしまった。
 まったく……。
 もっともっとしたいことがあるのに……。
 だけどこの寝顔も見ていたい。
愛おしい。愛らしい。狂おしいほどに愛してる。
「移極くん、愛してる………。」
 ほっぺたに軽く口づける。
 恥ずかしくなってふと壁を見ると、そこには、
『あなたたち二人は我々人類全ての子どもであり、宝であり、希望です。』
………そんな風に書かれた達筆な書が壁に貼り付けてあった。
 他にも何語で書かれたか分からない文字列がたくさんある。
―――ここは私達二人だけの島の、二人だけの家。
 誰も干渉できない、けれどライフラインは通じており、世界の皆の期待が込められたユートピア。

 二人でイチャイチャするためだけの絶好の場所。

 けれど、一つ文句を言うのなら、家だけには一台の監視カメラがあり、全てを見られてしまうことだ。
 だがそれも仕方のないこと。私達が生きているのを確認しなければ彼らは心配で何も出来ないだろう。死なれたら困るのは人類(かれら)だ。
 でもそんなことは気にしない。いつか死ぬ人類より、目の前の愛する人をとる。それが人間ってもんじゃないのだろうか。あたりまえだ。
 愛する人とイチャイチャするためだけに繰り返した時間もやっと実を結んだ。
 誰にも邪魔されない最高の世界。
「よかった…………。ほんとうによかった……………………………………。大好きだよ、移極くん………………」
 目から零れた水滴のような何かが移極の頬に当たる。
 髪の毛を耳にかけ、ゆっくりと、そのくせ長く、甘いキスをする。
そのキスは蜜の味がして、でも少ししょっぱかった。


もう『声』は枯れない。世界の記憶も消されない。
―――それは、『しあわせ』を手に入れたから。

□ ■ □ ■ □

―――目から零れた水滴のような、【何か】?

□ ■ □ ■ □




□□□ 第4章 □□□□□□


 眼を開闢くとそこは暗闇だった。
「あれ、移極は……?」
 いろいろ記憶が抜けているようだった。ちゃんと厨二発言できるかが心配だ。
―――いやいやいやいや、私のこれはそんな病などではない。キャラ付けでもない。好きでやっている。そんな蔑称で『呼称する(よぶ)』のは止めていただきたい。
 私には名前がちゃんと備わっている。ある。存在する。
 だから、ちゃんと名前で呼んでほしい。

『相相逢』、と。

 まだ話は続かせて頂く。
「私のターン!! ドロー!!!」
 と言って巫山戯(ふざけ)てみるも、未だここが何処なのか、何なのかは理解(わ)からない。
 ナニソレオイシイノ?状態だ。
「………いや、本当に何なんだ。ここは?」
 あたり一面真っ暗で、まるで『新約と○る9巻』のようだ。いやー、あれはヤバいよね。その後の10巻のオティ○スさんのデレっぷりはとてつもない……!!
―――でもよかった。暗いところが好きで。
弟たちが五月蝿いからなかなか静かになれなくて、わざわざ電気を消して入る暗い風呂が落ち着いて仕方がなかった。

 話がズレたな。
 閑話休題。←言ってみたかっただけ。
 でも、何もしようがない。
 本当に何もない。『無』しかない。
 逆に言うと無がある。他には私しかない。
「謎は深まるばかり………だな」
 どれだけ喋ってみても相手がいないから少し寂しい。
 移極やはにわ、家族の有難みが分かる。
 居てくれるだけでどれだけ安心するか
 相棒の移極やその彼女のはにわにはとても世話になっている。いや、なっていた、か?

…………だんだん思い出してきた。

「そうか、死んだんだったな、私は。あのトラック運転手、許すまじ……っ! 絶許っ!!」
 自分が死んでいる事をしっかりと認識し、さらに「許さない」と言っておきながら顔は何故か笑顔。
 普通、こういう時は泣いたりするのだろうか。いや、号哭(な)いたりするのだろうか。
 不思議と涙は出ない。
 毎日が幸せだったから、後悔はない。
毎日『明日』を楽しみにしていたから、『今日』一日一日を大事にしていたから、後悔することなんてあるものか。
過去は振り返らないのが、私のモットーだ。
だけど良い過去くらいは振り返っても別にいいだろう?
トラウマは忘れた。
知らん。
聞かないで。
やめてやめろやめなさいやめてください。
なんて言ってもそんなこと訊く人は誰も居ない。
そして誰も居なくなった。みたいな。ここにはもともと居ないのだろうが。
自分語りする主人公の気持ちが理解かったような気がした。
意外と楽しいものだ。
ここでは特に、してしまう。自分語りを。
人間、孤独と無感覚には耐えられないのだ。何かの本に書いてあった。
こんな空間ではすぐに滅入る。
刺激を求めねば。
とりあえず歩いてみよう。
あの上○さんもそうしてたことだし、な。

□   □   □

 闇。
 どこまでも続く漆黒の暗闇。
 私はそこで歩いていた。
 歩き続けていた。―――三日間も。
 大事なことだからもう一回。―――『三日間』歩きっぱなし。
「何も無い…………」
 当ても無かったのでとりあえず歩き始めてみた、だがしかし、依然何かが見つかる様子は無い。
 まあ何かを探している訳でも無いのだが。
 余りにも何も見つからず、歩きながら新しい異能名も創造(つく)れたぐらいだ。
「お腹も減らないし、眠くならないし、疲れないし………、何なんだよ……やっぱり地獄なのか……?」
 はぁ、と溜息一つ。
 疲れないから終わりどころが見つからない。
 精神的にはもう限界スレスレなのだが。
―――コツ、コツ、コツ、コツ、
 と軽い靴音が規則的に響く。
 けれど足取りは重い。
「はぁぁぁぁぁぁ…………」
重く、深い溜息。
もうずっとそればかりしている。
……………カッ
「痛っ」
 何かに躓いてしまった様で危うくコケそうになった。
 まあいい。
 気にせず歩き始める。
「…………ちょっと待って」
 数歩。
「いやいやちょっと待て待て!!」
 だがそれが命取り。
「何かあった!! 何かあったって!!! 変な石みたいなのがあった!!!」
 何も無い筈のそこで、なんというか、突起物があった。
どこだどこだ! と当たりの地面を触りまくる。
 躓いたのだから、そこには出っ張った部分がある筈だ。
「どこだあああああああああああああああ!!!」
 見つからない。
 だけど三日間掛けてようやく見つけた手がかりかもしれないモノをここで諦める訳にはいかない。
「いや、マジで、どこ………」
 変な汗が湧き出る。
 逸る気持ち。
 新たな刺激を求めているのだ。刺激が無くては人は死ぬ。それは周知の事実だ。
焦っても仕方ないのは理解っているけれど、どうしようもなく焦ってしまう。
GWや夏休み中にどうしようもなく暇になる時があるだろう? そんな時に新しいものを求めたくなる。今の気持ちはそんな感じだ。
―――くそっ!
 例え石コロでも今となっては何時間でも遊べる気がする。もう暇で暇で仕方ないのだ。
 どこだどこだどこだ。
 どこだあああああああああああああ!!!!

□   □   □

「あったああああああああああああああああ!!!」
 探し始めてものの数分。
 あれだけ焦っていたのに、意外とアッサリ見つかった。
これで―――
「暇つぶしできるぞ……!!」
 ここは何なのかを探す筈が、いつの間にか暇つぶし法を考えているのは何故かは聞かないで下さい………。
そんなことはともかく、見つけたソレを掴み上げ………れない?
「ええ………せっかくの暇つぶしが………」
 せっかく見つけた暇つぶし道具はただの出っ張りで、全く遊べないただの地面の延長線。
地面にくっついている。
ただそれだけでこれほど悲しいのか………。
ショックが大きすぎる。
「あーあ………。なあんだ……」
何となく、本当に何となく出っ張りを踏みつける。
―――ピコッッ!! ピコーン!! ピコーン!!
「……!!?」
………まさかのスイッチでしたよ。コレ。
「どうしよう!! 何か急に鳴り始めたし!! ウルトラマンのヤツみたいに!!! 何が起こるの!!?」
 ただ狼狽えるしかない。
 どこから鳴っているのかも理解からない。
 そんな風に茫然として突っ立ていると、音が止んだ。
「止んだ……? 何も起こってないようだけれど……」

―――ふわっ……

 足元に何かが当たる感触。ふわっとした何か。
 一面の闇のなかで、確かに何かが存在る質感。
 触ってみると、ボフンボフンっ、もふもふっ、とした心地良い柔らかさ。
「まさか………これは伝説の………」
 そう、伝説の、ソファ。
『人がダメになるソファ』だった。
「座ったらダメになる………、理解(わか)ってる! けれど此処ではダメになってもいい筈!!」
 誰もいないのだから。
弟たちもいないしダメになっても誰にも迷惑を掛けないのだから。………うん、よし。
 自己否定ならぬ自己肯定を終え、ボフン、と腰かける。
すると、ゆっくりと沈み込んでいくソファ。だんだんと身体にフィットしていく。
「あ、あ~……」
―――最高に気持ちいい………
 銭湯でマッサージチェアに座るおじさんの気持ちがとてつもなく理解できる………。
「これはヤバい………はぁ~~………眠い……」
 大きな『人がダメになるソファ』にどんどん身体がフィットしていく。
 沈む。

□   □   □

 気が付くと、身体は『ふわふわ』に包まれていた。
 全身がリラックスしているのが分かる。
「寝てたのか……まあいいか……もう一回寝よう……」
最高に気持ちいい空間にいるのだ。いくら寝たって構わないだろう。
体が少し痛くて、寝返りをうとうとするが、身動きが取れない。
 仕方なく、起き上がろう、そう思っても起き上がれない。
「…………アレ? これヤバい……?」
 そう考えると目がどんどんと冴えてきた。
 気持ちいい筈なのに、ますます圧迫感に襲われる。
拘束された……?
 息苦しい筈なのに、全くそんなことは無い。
 気持ちいいのに、気持ち悪い。
………何なんだ……?
 寒いのに熱い。温かいのに冷たい。したいけどしたくない。眠くないのに眠い。痛く無いのに痛い。行きたいけど帰りたい。嬉しいのに悲しい。
良いのに、悪い。
 悪いのに、良い。
 様々な感情が一気に流れ込んでくる感覚―――――
―――………

「………そうです。私、御石(みいし)移極(いごく)が『忘れじいさん』です………」「あぁぁ!!! やらかした!!!」「消そう……」「というよりこの事実をどうにかして消さなきゃ、俺の社会的地位がもっと下位にいってしまう……!」「なんというか、ぽかぽかするなぁ………」「うお……、やっぱりこの瞬間は緊張するな……」「くそ………、嫌だな、ほんと……」「さあ、行くか………!」「消去っっ!!!」「消去消去消去消去!!!」「………………」「………消去」「おぉー。我ながらいい出来だな……」「今度は緑色を増やそう……」「痛っ」「しまいにゃキレるぞ中村さん」「うーん………」「図書室でいいか………」「…………はは……」「いや、はにわ様は何を読んでいるのかな、と思いましてね」「消去!」「マジでやめて下さい効かないことは分かっていました許して下さい」「……あー、…………大好きです。付き合ってください」「こちらこそ」「はははは」「はっはっはー、俺は『大好き』って言ったけど、はにわさんは『好き』だったから俺の勝ちだな」「いや、それはずるい」「そうか?」「一生一緒にいて下さい」「こちらこそお願いします」「楽しかった?」「………俺は、はにわさんと一緒ならどこでも最高に楽しいよ」「恥ずかしいけど本心だ!」「どういたしまして!」「…………まぁ、これからもよろしく、はにわさん」「………末永く、よろしく」「くっそ! やられた!」「くっそ! もう今日から俺はデレにデレまくるからな! ツンデレなんかより、デレッデレが一番だ!!」「何となく数学かな。はにわさんは?」「はいはい、どうぞ」「………分かんないとこあったら聞いてね?」「見栄くらい張らせて下さいよ……」「くっそ、何か嫌だ。何と言うか、はにわさん優位の状況が一生変わらないっていうことが!」「………笑顔が怖いです。はにわ様」「うん。……そうだね」「ちょっと休憩しよっか、はにわさん」「はぁ…、すげぇな。はにわさん、何か飲み物買ってくるよ」「………!?」
「とりあえず、早く買いに行くか。待ってたら嫌だしな」「うん、そう。ショートカットの女子なんだけど、知ってる?」「だよな……」「あ、そうだ。さっき図書室に来てなかった?」「そっか…」「いや、普通に気になっただけだよ。浮気なんぞ、絶対しません。断じて」「はにわさんに嘘は吐きません!」「………うん。そうだね、また行こうか、どこかに」「ん?」「クレープ?」「うーん。………今お財布が危険なので遠慮しても……?」「いやいやいやいや! それはもっと遠慮します! 彼女に奢ってもらうなんてなんかダメだよ!」「…………………………ごめん。また返すから。ほんとにごめん」「うーん、チョコバナナでお願いします」「何で『のぞき見』してるんだよ!」「絶対に言わない」「絶対に思い出さん!」「違う!」「話を戻すけど、チョコバナナの3倍の値段がするものなんて奢ってもらえないよ。ていうかチョコバナナだって250円で安いけど美味しいし、俺は好きだからいいの!」「どれだけ『のぞき見』してもボロは出さないからね!」「ケチじゃない! 恥ずかしいの! 怒るよ!」「仕方なくていいから。………はにわさんは何食べるの?」「了解」「………そ、そりゃあな……。当たり前だ」「………」「うわ! アイス溶けてるよ、はにわさん! 食べよう食べよう!」「はいよ」「仕方ないな……。はいあーん」「チョコバナナだって美味しいって言ったじゃんか」「………あ、美味い」「ダメ。食べてる時は立ち歩いてはいけません」「いくら嘘泣きしてもダメ!」「ケチじゃない!」「ん、帰ろう。また行こうな」「はは……。了解ですはにわ様」「―――ああぁぁあああぁぁぁあぁあぁ―――ッッ!!!」「移極! 大丈夫!!?」「母、さん………ッ」「………ありがとう、母さん。もう大丈夫だから………」「いや………、もう退いてよ。俺も退くから」「…………もう、勝手にしてくれ………」「うわっ! や、やめっ―――」「………」「………いいよ。その代わりにまたなんか作って」「もういいって。母さんも食べなよ」「あ、いる。ありがとう」「………おう、もちろんだよ」「あ、そうだ……。―――彼女できたよ。行ってきます」「そうですか……。ありがとうございました、先生」「いや、普通に容姿に驚いてですね………」「先生に用事を頼まれてさ、まさかこんなに長引くとは………」「申し訳ありませんでした!!!!!!!!!!!」「はい!」「本当にごめんなさい」「………本当にごめんなさい」「………本当に、すみませんでしたぁぁぁ!!!!」「もう二度としません!!!」「ありがたき幸せ!!!」「はい!!! 喜んで!!」「うん。相相逢」「いや、病気じゃなくってビョーキだった。一生治らない系の」「もしかしなくても、」「厨二病」「いつも言ってるけどはにわさんが一番だから、一筋だから、心配しなくても大丈夫だよ」「何で!?」「………本当にごめん」「俺もだよ。大好きだ」「うん」「こら、はにわさん。二人きりの時はちゃんと―――」「あ、あり、ありがとうござい、ました」「……………一生かけて幸せにしても足りませんか?」「(くそッ……!! またかよッッ……!!)」「(とりあえず今だけごめん、はにわさん! 消去!!)」「あああああああぁぁぁああぁああああああああぁぁぁああああぁ!!!!!」「うああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」「天井のタイルだ、これ………」「ああ、大丈夫です。えっと……、俺は―――」「いや、覚えてないです。すみません」「じゃあ、そろそろ帰ります。ありがとうございました」

「『消去』だ」―――――――。

 情景が浮かぶ。
2417文字のセリフが浮かんでは消えていく。
 流れる。
『記憶』と共に、眼から『何か』が零れていく。
「何……、コレ……?」
―――移極の記憶……?
 どう考えてもこれは移極の記憶だ。これまで移極がどう考え、何を話したのか、全て解る。
 でも、何かおかしい。何かが致命的に欠けている。
 何だ?
 何だ???
…………私との記憶が、ない……?
――――――無い。
 私に向けた『また明日』が無い……。
 私との記憶がない。
沢山遊んだ。話をした……。なのに。
流れ込む記憶のそのほとんどがはにわに対して。
 まるで私との記憶は消えた様だ。
さっきから零れ出る何かとは違う物が眼から湧き出る。
―――哀しみだ。
「…………………えぐ……」
 嗚咽。
「………ひっく………………なんで……………ううぅ…………………ひっく………」
 相相逢も所詮ただの少女。
 その上ボッチである。家族には恵まれていて仲もよく、何不自由ない生活を送っていても、友は誰一人いなかった。そんな折できた親友が御石移極その人。
親友だと思っていた人間が、自分のことなど、どうとも思っていなかった。
それは、大きな傷(トラウマ)を創る。
―――ザンッッッ!!!!
「うごっ!! な、何!!?」
 急に、鋭利な何かが身体に突き刺さった感覚。
 全く意味が分からない。
―――グサグサッッ! グギュッ! バァン!! ゴオォ! ブチっ! ヒュゴォォ!
「か、はっ!!」
 首が絞められる。破裂する。焔に焼かれる。何かに潰される。凍る。
―――ビリビリビリッ! ドォオン!
溺死、焼死、病死、凍死、餓死、縊死、圧死、爆死、轢死、煙死、横死、過労死、打撲死、感電死、窒息死、転落死、服毒死。
 全部。
 全部来る。
「痛い痛い痛い痛い痛い!!!!!!!!!!」
体が。心が。頭が胸が手足が、全部。
―――ただ、痛い………。
 誰かに。みんなに恨まれるようなことを私がしただろうか。
 胸が苦しい。
 体が痛い。
「………………た―――」
 一番言いたくないけれど、今言うべきではないけれど、やっぱり、どうしても、
「たすけてよ………移極………」
 一人で寂しかったあの時みたいに。

□   □   □

「たすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけてたすけて―――。たすけてよ、移極――」


□□□ 第××章 □□□□□□


『アルバイトボタン』って知ってるかい?
 あるボタンを押すと、一回に付き100万円が貰えるって話。
「おおすげぇ100万円貰えるんなら連打するぜ!!」
っていう君。
説明書や利用規約を読まないタイプの人間だな。
そういうモノはちゃんとしっかりと読みなさい。詐欺かもしれないんだから。
人の話も最後まで聞きなさい。今後の人生に多大な影響を与える言葉かもしれないんだから。
閑話休題。
 そう。タダほど怖いものは無いよね。
このボタン、『アルバイトボタン』は別名『5億年ボタン』とも言うんだ。
その『ボタン』は5億年間『ただ生き続ける』というアルバイトに参加するボタン。
押した瞬間に自分の精神が、自分以外は何もない、平らな床しかない、異空間に飛ばされてそこで『生きる』という名の仕事をするんだ。
腹も減らないし、眠たくならないし、他の生理現象も全く起こらない。
そんな中、ただ『生きる』。『生き続ける』。
5億年が経過した時、精神は元の体に戻るわけだが、その時、その5億年分の記憶は消去される。
消されるんだ。
 その『仕事(いきること)』の見返りに100万円貰えるって訳だ。
「まったくもって『ボタン』製作者が何をしたいのか分からないよ。わけがわからないよ………」っていう君。
 そのとおり。
 これはただの思考実験だ。
 苦痛を受けるがその記憶が消される。ただし莫大な見返りがある。
 やる?/やらない?
『そこ』で何を発見しようと、例えば人類の謎を全て解き明かしたとしても。全て消える訳だが。
まぁ大抵の人間はやらないだろうね。
だって、なんだか怖いじゃん。
独りぼっち。
無の世界。
闇。
する事がない。
けど死ねない。
 記憶が消えるという虚しさ。
 おお怖っ!
 そんな『世界(じごく)』に耐えられるなんて人間じゃねぇよ…。
……………人間じゃない、よな?


………5億年なんか楽に超えて、
『2年×1374億3869万1328回』、
つまり約2800億年生きた『悪魔』もいるが、な








□□□ 第5章 □□□□□□

―――今頃、アノ子はどうしているだろうか。
 そんな風に思ってしまった。
 微かでも、『ここには居ないアノ子』のことを考えてしまった私を恥じる。
 私は今、ユートピアにいるのだ。
無駄な思考は排除。自分のしたい事だけすればいいのだ。
「ねぇ? 移極くん……」
 となりに座る移極にもたれかかる。今の自分の眼がハートになっているのがしっかりと分かる。
 移極に抱きつきながら再度、何度目か分からないが再度、確認する。したくはないがこれだけはしなければならない。
 私は、私と移極くん以外の同年代の人間を排除した訳だが。その肉体を構成する元素は消えていない。そりゃそうだ。
そのせいか、どれだけ元素をバラバラにし、引き離しても、やはり何の因果か、何度『やり直し』しても、必ず何人かは『生まれて』きてしまった。
 周囲の環境を整えるのはたやすい。
 これでも私は『悪魔』となったのだから。
 特にその何人かに、アノ子が入ることが多かった。
―――もう、めんどくさくなった。
 なんでアノ子のために私が何度も何度も何度も何度も『やり直さ』なければならないのだ。
 そう考えると私はすぐに行動に移した。
 アノ子の構成元素だけ異空間に送っておくのだ。
 そうすればもし『生まれて』きても一人、無の空間で息絶えるだろう。何もないのだ。刺激も。食も。
 こっちには来れないし、アノ子にはどうしようもない地獄を味わってもらおう。それだけのことをアノ子はしたのだ………。
 よし考え事は終わり!
「…お腹減ったよ………私…」

□ ■ □ ■ □

 いつの間にか、『痛み』は終わっていた。
 絶望はずっと。永遠に終わらないものだと思っていた。
時間にして2000年くらいだろうか。2000年という途方もない時間が最初に出る程、時間感覚も麻痺しているようだ。
 死なないし、痛いし。
何で? という疑問と、
『たすけて』しか頭に無かった。
 結局、『たすけ』なんて無かったけれど。
 涙で汚れた顔を拭う。これは何の涙だろうか。
 痛いから? 哀しいから?
 否。
 悔しいのだ。
「どうして来てくれないんだ。親友より彼女の方が大事か。たった一人の友の危機よりも、唯一の彼女とイチャイチャするのを優先するのか。何でだ。何故だ」
 そんな風に考えてしまう私自身が嫌いだ。
 もう嫌だ。死にたい。
 死ねない。分かってる。けど死にたいものは死にたいのだから仕方ない。
 でもどうしようもない。
「どうしろって言うんだよ………」

□   □   □

―――どれくらいの時間が経ったのだろうか。
もうずっとこうしている。
ずっと考えて、ずっと泣いて、ずっと助けを求めている。
考えることは移極とのことばかり。
楽しかった思い出。
急に私が死んで別れすら出来なかったこと。
流石にトラック運転手にも文句を言ってやりたくなる。
………………移極の中に『私』は無い。
 これが私が至った結論だ。
 ただ話し相手を求めるだけなら、はにわという彼女がいたのだ。ボッチの私が不憫で声を掛けてみただけ。
 友達の定義なんて人それぞれだ。
私は親友だと思っていても、移極は知り合い程度にしか思っていなかった。
あの約束も身勝手なもので、結局人の意思を拘束することなんて出来なかったのだ。
そうとしか、考えられない。
溜息一つ。
「…………死なないのも、不幸だな……」
 やっぱり暇すぎる。
 思考を止め、能力を使った『永遠の暇つぶし』を始めることにする。
「もう、いいや」
 暇だなあああああああああああああああああ。

□ ■ □ ■ □

 はにわさんとの食事を終え、休んでいる間、俺は考え事をしていた。
 俺には生まれつき、記憶を消す能力が備わっている。
 この力の事は、沢山の親たちには誰にも言っていない。
 心配されたらそれこそ世界レベルの問題となる。
 もちろん、現代のイヴであるはにわさんにも。
 記憶が消せる、それに何の意味があるのかイマイチ分からない能力だ。
でも、そんな能力が初めて活用できる時が来た。
流石に今回は無かったことにしてしまいたい。
もう生きる気力を無くしてしまいそうだ。
以前、一週間前、月一の定期連絡の際、聞きたくないことを耳にしてしまった。
『一週間後、そっちの島に原爆を落として人類を将来的に滅亡させようとしている計画が進んでしまった。もう私には止められない。すまない。本当に………』
 俺達の世話を遠くからしてくれる、一番信頼している科学者の中村さんが、定期連絡の最中、小声でそう言ったのだ。
………もう終わりだ。
 そう思った。
 あまりに非現実的すぎるこの発言も、この人が言うと、途轍もない説得力だった。
こんなことを知りたくなかった。
 まだ知らずに死んだ方がマシだ。
 自分の生を全うせずに殺されるのが分かっているこの状況がどれだけ辛いか。
 だからやってみることにしたんだ。
 自分の記憶の消去を。

□   □   □

 細心の注意を払って、一応はにわさんの眼も気にして寝ている間にトイレで決行することにした。
最悪、全記憶が消えても、もう一度消せばいい話だ。二重否定は強い肯定である。
一応念のため、腕に『自分は記憶を消すことが出来る。能力が暴発した。もう一度、『俺自身が消した記憶』を消してくれ。』と書いておいた。
―――幾何の緊張。決心を終え、挑む。
「よし……………、『消去』だ」
―――キィィィィィィィィィィン……………!!!!
 グルグルと頭が回る感覚。
 コンマ数秒。
「―――あれ…………?」
………おかしい。何かが変だ。
「何だこれ………」
 消した筈なのに。入って来る。
 友達なんて出来る筈ないのに友達が居た感覚。
 告白した事なんてないのに、はにわさんに告白した所。
 相相逢という『親友』。

―――全部思い出した。

じゃあ、この変な、オカシイ世界は何なんだ。
 なんで皆、居ないんだ。
 なんでこの状況に疑問を持たなかった。
 なんで。なんでなんで。
 疑問しか湧かない。

――――バンッ!!!

刹那、トイレの戸が思い切り音を立てて開く。
「……………………………………………………………………………………………………………………思い出した?」
 何拍かおいての疑問の声。
続いて、はぁぁ、という溜息が聞こえてきた。
「………やっとだよ。や~~~~~~~っと思い出してくれたんだ。待ってたよ、移極くん。まだデート、して無かったよね? 移極くんが考えるって言ってたよね? どこに連れて行ってくれるの?」
 間。
―――いきなり過ぎてまだ何も飲めこめない。
 それもその筈だ。思い出したとは言え、整理が出来ていない。
「…………ちょ、ちょっと待って、はにわさん。聞きたいことが一杯あるんだけれど……」
 冷静になり、整理し、問いを投げかける。
 その疑問に被せるように、食い入るように、応答。
「いいよ。ちょっとくらい待ってあげるよ? 2800億年も待ったんだもの、あとちょっとでまた『アノ(いっかいめの)』移極くんとデート出来るなら、待つよ」
―――まず最初に訊かねばならない事、
「………『これ』は何?」
 抽象的すぎるが、そうとしか訊けない。全く意味不明なのだ。
今の現状も。何もかも全てが。
「『これ(このせかい)』は私たちのユートピア。私たち二人だけの」
「それだけ?」
「それだけ。他には?」
 『ユートピア』、その一言で済むような状態なのだろうか。それに、何故こんな状況になっているのか、未だ分からない。あとは、2800億年って―――。
 謎は多い。
だが、それよりも気になることがある。それは――、
「じゃあ、母さんやクラスメイト達、逢はどこに――」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………」
 今まで聞いたことの無いような大きな溜息で質問を遮られる。
「移極くん、またアノ子? 移極くんはアノ子の事ばっかり。私なんてどうでもいいのね。もう一回世界構築からやり直させるの? もう嫌よ! 2800億年も待った。それなのにこの仕打ち! 私が一度消した記憶を上書き出来るくらいに『しあわせ』になって、周りもそれを祝福してくれて。邪魔なアノ子はいなくて。―――最高じゃない? ………移極くん、私はあなたが大好きなの……。本当に大好きなの……。私だけ見て欲しいの……。アノ子はもう此処には居ないの。分かる? 私だけ見ておけばそれでいいの」
 眼が黒い。当たり前の事だけれど、何故か分からないけれど、何となく、黒いと感じる。
 黒。
 あの時、告白した時に感じた、ふわふわっとしたはにわさんでは無い。明らかに常軌を逸している。
 どす黒い。
 何があったんだ……?
 何かがあったのか……?
 その脳内の疑問に応えるように、
 全てが。

「仕方ないね。とりあえず移極くんの疑問に全部答えるよ。移極くんの考えてることは全部分かるんだから、私は。
2800億年。それは私が移極くんの為に繰り返した時間なの。移極くんが今思い出したあの『世界(じかん)』が一回目。今回の『世界(せいしゅん)』は1374億3869万1328回目の『青春(じかん)』だね。一回につき大体二年間。短いようで長いよね?
―――何故こんな風になったか。それを説明するには一回目から話さないといけないね。
一回目に、アノ子が事故で死んで、移極くんはずっと、うじうじうじうじうじうじと哀しんでいたの。覚えてるよね? それがもう、何と言うか、見てられなくて。いつまでうじうじ女々しく悩んでるんだよ、気持ち悪いなぁ、って思っちゃって。ちょっとだけ、ホンのちょっとだけ、嫌いになりかけてしまったけれど、一瞬前はあんなにカッコよかった移極くんをあんな状態にしてしまったアノ子がもう許せなくて。
だからとりあえず移極くんのアノ子に関する記憶を消したけど消えなくて、だけど私に関する記憶を消してみたら消えて。
………結局、アノ子が全て悪いんだ、ってことが分かったの。
 だから、アノ子の居ない、邪魔する人の居ない世界を創ろうとした。アノ子が卑しくも移極くんの彼女になったりするものだから、何回か『遊ん』だりはしたけれど。それもたったの一〇〇〇回分くらいだよ? 1400億回のうちのたった一〇〇〇回。軽いものだよね。
 まあそんなことはどうでもいっか。
 そして、私は悪魔になったの。『ラプラスの悪魔』に。
 私の能力はテレパシーだけじゃないよ? 何だってできる。火だって出せるし、天候も替えれるし。今みたいに相手の考えている事だって分かる。
………『全能』なんだよ。その『全能』に『智識』が加わって『悪魔』になれたの。
 全部、全部全部。
全部が移極くんの為。移極くんが思い出して、さらに『しあわせ』になれる。
 嗚呼、私はホントに『しあわせ』に成れたんだ………。」
脳内を埋め尽くすような応答の羅列。
有無を言わせない言葉の連続。
『大好き』。
 俺だって大好きだ。
 ずっと大好きだ。ずっと『しあわせ』だ。
 今も大好きだ。今も『しあわせ』だ。
 だけどなんだろう、この違和感は………。
―――………一言で。最低な一言で。彼女に投げ掛けるべきで無い言葉で。全てを片づけてしまうと、

―――ドン引きした。そして、これは流石に『やり過ぎ』だ。

考えてることが全部分かるんだろうけど、敢えて全部話す。

「………………俺は、『普通』の高校生ライフを過ごしたかったんだよ。
異能力を持って生まれても、それをうまいこと使って今までやりくりしてきて。
父親が最低のドクズでも、どうにかこうにかやってきて。
色々あったけれど頑張って高二まで生きて、気が合う彼女も出来て、その上親友も出来て、どんどん人生がよくなっていって。
友達は居なくても毎日が楽しくて」

―――語る。
それが誠意だから。
それが感謝だから。
だからこそ言う。だけどさ―――

「………何、コレ?
 死んだら哀しむ。普通だろ。
 いつまでも引きずる。親友なんだ。普通だ。
 でもいつかは立ち直る。それが普通じゃないか。
 たった一ヶ月。それぐらい哀しんだって、悲しんだっていいじゃないか。
 それが待てなくて2800億年?
 どうしろってんだ。
長い、途轍もなく長い時間待ってくれてありがとう。俺も本当に愛してる。
………けれど、―――違うんだ」

違うんだ。

「相談くらいしてくれよ。
 男らしくないなら、言えよ。
 やめてほしいなら、言えよ。
 一緒にいたいなら、言えよ。
 全部言えよ。言わなきゃわかんねぇよ。伝える努力をしろよ。言ってもダメならもっと言えよ。何回でも言えよ。はっきり言えよ。言葉でダメなら殴ってでも伝えろよ。男なんだから多少の痛みには耐えれるんだから」

 彼氏なんだから。

「『現代のアダムとイヴ』とか、わざわざそんなロマンチックな設定しなくても普通に結婚するよ。俺はずっと愛してるから。
回りくどいんだよ。はっきり言えよ。
何がしたくて、何をして欲しくないか。
俺に出来ることは全部やるよ。
『全能』だとか『悪魔』だとか。………知らねえよ。余所でやれ。厨二病も好きだけど、あくまでそれは二次創作だろうが」

厨二よりもお前が好きだ。何よりも、逢よりも、他の誰よりもお前が大好きだ。
 大好きだ。

「最初に言った。俺はラブコメがしたいんだよ! お前と!!」

 原点に還る。

「それで、逢もいて、クラスメイトもいて、『tea茶ー』も、いて。皆で仲良くやりたかったんだよ。異能力なんてただのオマケなんだよ!
 『異能』ではなくて『日常』依りのラブコメ。もう出来上がってたんだよ。だけど、逢が死んで――――――――」

□   □   □

「私が、『壊した』……………………………??」

□ ■ □ ■ □

絶望。
………私の2800億年はただの、『早とちり』?

「―――う、うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!」

 『悪魔』にまで成ったのに、成ったというのに、全く意味が無かった。
 その事実が、世界ごと私を踏みにじる。
――――――ゴオオオオッ!!!
『悪魔』の暴走。最高速の別れの歌なんぞよりも速く吹き荒れ狂う暴風。全てを破壊しようとする天変地異。
謎の切断面が『この世』と『あの世』、その他全ての世界を混ざり合わす。
―――グシャアァァァッッ!!!
 巨大な何かが思い切り潰れる音。目の前に見えていた島が灰燼に帰している。
―――ドゴオォォォッッ!!!
 小さな隕石のようなものまでも降り注いでくる。
 ここまでほんの一瞬の出来事だった。
―――私は、もう…………。

□   □   □

「―――ッ!!?」
 正直、言い過ぎた。
まさか『こうなる(ちきゅうをはかいしだす)』とは思いもしなかった。一言で言うなら「あ、やっべ……」だ。
 『全能/悪魔』の何がどう作用してこうなるのかは、凡人の俺には全く意味が分からないが、こういう時、どうすればいいのか、俺の頭の中には大体お決まりのパターンがある。
 そのパターンを決行するため、はにわのもとへ走り、駆け寄る。ダッシュで。
だだだだだだだッッ!!! と、紙のようにぺらぺらでは無い、心も体もはにわの為に思い切り振って心の中のBボタンを押す。
―――刹那、視界が無数の小隕石で覆われる。
「やばっ」
咄嗟に避けようとするも、間に合わない。
嗚呼、はにわさん、俺がやっぱり悪かったよ、ごめ――

「―――『救世主狩り(イート・ゴット・アライブ)』!!!!!」

瞬間、謎の切断面からスーパーカッコイイ叫び声と共に『たすけ』が舞い降りた。
………それは、相相逢、その人。
「我ながらカッケえええええええ!!! ヤバいなこれはヤバいな漫画だったら二ページ見開きドンだな!」
………これが無ければもっとカッコイイのだが。
 そんなことより、
「………逢!!!??」
 逢は死んだ。死体も見た。何で。
「い、移極………!」
逢にも多少の焦燥と驚きが見て取れる。
その数瞬の間に場の状況を把握したようで、
「い、いや、相棒!! 今は『そんなこと(かんどうのさいかい)』より、はにわの方が先だろうが! 速く行ってこい! いや、疾く言ってこい!!」
「………分かった! ありがとう! 『また後で』!!」

□   □   □

「『次』は絶対、移極が『たすけて』くれよ……」
 その眼には安堵と何かが見えた。

□   □   □

「―――ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ――!!!!!!!!!!!!!」
 吼えるはにわの全身からはベッタリと血が、グッショリと汗が、噴き出ている。
それは明らかに力を制御できていないことを示していた。
自分を制御できないで何が『全能』だ。何が『悪魔』だ。
ふざけるな。
 あと数歩。
 駆け抜ければすぐ。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
走る。駆ける。足を出す。手を伸ばすッ!!!


……………ギュッ、と。


 力強く抱きしめる。
 耳元に向けて、
「大好きだ、はにわさん。本当にありがとう……」
 瞬間、バッと景色が切り替わる。
………広大な森、晴れ渡る青空、澄んだ湖、威圧感のある山々。
 美しい。そうとしか形容しがたい景色。
―――カナダ、か……。
 ありがとう、逢。でも今はそういう老婆心はいらねぇよ……。
 当の抱きつかれたはにわは、少し驚いて、涙にまみれた顔を真っ赤にして、零れ出るように、喘いで、
「…………もっと、ギュッとして……」
「うん」
「…………大好きって言って……」
「俺ははにわのことが大好きだ。世界で一番愛してる」
「…………もっと……」
「大好きだ。何度でも言う。大好きだ!」
「もっと………!!」
「今よりももっと、大好きなはにわを『しあわせ』にする!!」
「もっ―――
 口を口で覆う。
 自発的なキスは初めてかもしれない。
数秒か、数十秒か、後。
「…………………………私も大好きだよ、移極くん」
「俺はもっと大好きだ」
 はは、ふふ、という笑い声。
―――これで、ようやく。
俺達の『日常(せいしゅん)』はスタートする。

□   □   □

「…………お楽しみのところ申し訳ないんだが、相棒とはにわ」
 申し訳なさそうに、という訳でも無く、とても嫌そうな顔をして話しかけてきたのは逢だった。
「あ、逢。ありがとう。ホントに。生きててよかった」
「何で生きてるのよ……。逆に尊敬するわ……」
ひどい言い様に流石に俺も少し睨んだ。
 すると、
「…………今まで、ごめんなさい。到底許されない事を貴女にしてしまった。一生かけて償うから。許して貰えるとは思ってないけれど。何でもする。本当に、ごめんなさい」
と、土下座した。これもいきなりでやり過ぎだ……。
「いやいやいやいや、何で土下座してるの!? 何も悪いことされてないよ私!?
………まぁ、でも。でもさ、何でもしてくれるって言うなら………さ、逢って呼んで……くれる?」
「……………………ありが、とう。逢、これから、よろしくね」
「うん!」
 二人は泣いていた。
それは嬉し泣きだろう。
キャラも能力も関係ない。二人は普通の女子高生だ。嫌いは好きの裏返し。
………『これから』、か。
「で、感動のシーン中申し訳ないが、逢。何?」
「これ、どうすんの?」
逢は案外、切り替えは早かった。
「これって?」
「世界と原爆」
「「………ッッ!!!」」
「カッコつけんでいい。マジでヤバいぞ。いやもう厨二とかどうでもよくなるくらいに」
「…………何てな。俺だってバカじゃない。こうなった時からちゃんと考えてたよ。『最後』は俺がやる。はにわさんは無茶しすぎるし、逢じゃどうともならないしな」
「何だと!『救世主狩り(イート・ゴット・アライブ)』をナメるな!」
「名前はカッコいいけど能力自体はそのままだろ? 一人一人にしてたらいくらあっても時間が足らない」
「じゃあ、どうするの? 移極くん……?」

「『消す』んだ。見ててくれ」

 その名を叫ぶ。叫ぼうとする、が、一考。
 これで本当にいいのか?
 全部、無かったことになる(・・・・・・・・・)ぞ? と。
―――でも。いいんだ。
 無くなっても、消えないから。
 だから、

「『忘却の彼方(イントウ―・ジ・オブリビオン)』!!!」

□   □   □

―――俺の能力は、記憶の一部を消すこと。
『地球』の、いや『セカイ』の記憶を消すことで、そこで起きた全事象が人々の記憶から消される。巻き戻される。―――無かったことになる。二人も含めて、だ。
原爆も、『2800億年の結晶(あくま)』も『この世界(あくまのさんぶつ)』も。
それに『虚(あいのいたせかい)』も、『傷(トラウマ)』も。
残るのは元の『青春(じかん)』。元の『日常(せかい)』。
記憶するのは『心』と『言葉』。
『無かったこと』になっても、何となく覚えてる。
記憶なんて曖昧なんだ。有無の境界線は、無い。
…………増えるのは、俺のトラウマだけ、って訳だ。
 何はともあれ全てこれで解決だ。
―――ここから、始まる。
俺達は、俺達の『時間(せいしゅん)』は、『最初(はじまり)』から始まるんだ。

□ ■ □ ■ □


始まりあれば終わりあり。
終わりがあるから頑張れる。
頑張ればまた始まれる。
始まる為には終わりが無いと。
―――さあ、始まりの終わりを始めよう―――。
―――さあ、終わりの始まりを終えよう―――。
 巡り廻った【全て】は、ここから始まるんだ。








□□□ エピローグ① 八月、御石移極と相相逢 □□□□□□

「なあ相棒」
「何? 逢?」
「はにわと私どっちが可愛い?」
「はにわさん」
「……即答だな」
「当たり前だ。彼女だからな。ちなみに逢はこの世で2番目だぞ」
「あんまり嬉しくないし、フォローになってない」
「まぁでも一番仲がいいのは逢だろうな。それこそ一択で。話してて楽しいのははにわさんもだけど、趣味のジャンルが違うからちょっとズレるんだよ」
「……そうか」
「だから気を落とすな」
「落としてない!! そんな事言うなら墜とすぞ!! この『救世主狩り(イート・ゴット・アライブ)』で!!!」

□□□ エピローグ② 八月、船井はにわと相相逢 □□□□□□

「ねぇ逢ちゃん」
「何? はにわちゃん」
「移極くんのこと好き?」
「……………好きだけどLOVEじゃなくLIKEの方だよ。恋愛感情は皆無だ。安心してくれ」
「へー………」
「疑うのはよくないぞ」
「そうだね。じゃあ私は?」
「大好きだ」
「速いよ、即答過ぎるよ!」
「私の初めての『友達』だからな!! 当たり前だ!!! なんならレズと言われても甘受する!!」
「それは遠慮しておくよ」
「遠慮しないでいいぞ!! さあカモン!!!」
「やめなさい」
「………わかりました。あ、移極が呼んでるぞ」

□□□ エピローグ① 八月、御石移極と船井はにわ □□□□□□

「うーみーはーひろいーなーおおきーなー♪ つーきーはーのぼるーしーひはしーずーむー♪」
「テンション高いね、はにわさん」
「ん? だってデートだよ。移極くんから誘ってもらったのは初めてだよ!! そりゃテンションも爆上がりだよ!!」
「いや、たまには誘っておこうと思って」
「しかも海だよ。海岸線を一緒に歩くなんて乙だね!」
「照れるからやめて」
「いいじゃん」
「やめなさい」
「いいじゃん」
「やめて下さい」
「いいじゃん」
「クレープ奢るから」
「物じゃ釣れません」
「………。愛するはにわさんの為なんだって」
「や、やめてよ! 照れるよ!!」
「な?」
「………はい」
「まぁ海にしたのは自然が見たかったてのもあるけど、俺の愛の深さ広さを知って欲しかったんだよ」
「海は陸地の約2.42倍の広さで、平均的な深さは3729メートル。富士山を沈めて先っぽが少し出るくらいの深さ。とか?」
「…………今度は逢と来よう……」
「嘘だよ嘘だよ! 冗談だよ! 先言ってごめんってば!! 照れ隠しだよ!! ………って言わせないでよ!!」
「言わなきゃ分かんねぇよ! 俺は大好きだ!!」
「私はもっと大好きだ!!」
「何おう!?」
「こっちだって!!!」
「…………馬鹿らしいから止めよう…」
「…………そうだね…」
「でもまぁその通りだよ。海を見て『傷』を癒そうとしてた。二人の。いや、みんなの」
「?」
「あ、ごめん。聞かなかったことにして」
「教えなさい」
「却下です」
「ほら早く」
「……トラウマなんです」
「しょうがないなぁ…。いいよ。仕方ないよね。トラウマなら。………今思ったんだけどさ。トラウマって便利な言葉だと思わない? ほんと」
「嘘じゃないから止めてほんとに」 
「分かってるって。移極くんのことなら何でも」
「笑えねぇ……。まぁありがとう」
「―――海と言ったらさ」
「急だね。海と言ったら?」
「大体堤防の上を歩くよね? 白いワンピースで」
「うん、まぁそうだね。で。その為にわざわざその服を着てきたの?」
「いぇす! 海行くって聞いたらそりゃあね!! もうこれは国民の義務だよ!! 海はすっごくキレイだし!! 着て来てよかったよ!!」
「…………何これ、すっげぇ可愛い……」
「………………………○ね」
「発禁用語は止めよう!? 照れ隠しでもそれは止めよう!? はにわさんなら本当にやりかねん!!」
「ひどいよー。冗談なのに」
「そっちが先に言ったんですが!?」
「ふふふ」
「笑って誤魔化すな!!」
「……そんなことよりさ」
「そんなことよりって言われたよ……」
「そんなことよりさ。やっぱり田舎の海ってキレイだよね、ほんと」
「電車で二時間かけた甲斐があっただろう? わざわざ行くならキレイな所がよかったしな。砂浜は無いけどこれはこれでいいと思う。誰もいないし。前から俺から誘う初デートは心が洗われる場所って決めてんだ」
「ありがとうね」
「どういたしまして」
「山でもよかったけど、やっぱ海かなって。白ワンピースも見れたし」
「そうだね。じゃあ堤防上らなきゃね。義務義務! とうっ!」
「危ないぞ」
「大丈夫大丈夫! 落ちるときは陸に落ちるから!!」
「逆だろ普通!」
「え、移極くん支えてくれないの?」
「支えます。だけど安全第一です!」
「ありが、とおっ!」
「うわまじかっ、自分から飛んできたよ。まさかだよ」
「小説アニメ特有の『0.1秒長ぇなオイ!』タイムを使って準備しなさい!!」
「メタ発言はやm……ぐはっ! 危ねぇ!!」
「いたたたた……。もう、ちゃんとお姫様だっこしてよ!」
「さすがにムリです! 支えたでしょ! 一応は!! 怪我無い!!? 大丈夫!!?」
「ないよ!!! ありがとう!!!」
「ほら。本当にもうはにわさんは………、よっこいせっと」
「―――!?」
「お望みにお姫様だっこですよ。これでいいんでしょう? 姫」
「………」
「………」
「………」
「黙られると困るんですが。降ろしたほうが良い?」
「………だめ」
「分かったから話してください。じゃないと話が進まないって」
「……………緊張して、何も、話、せない……」
「仕方ないなぁ……。重いから降ろして良い?」
「………………………○ね」
「だから発禁y―――ぐはっ! ちょ、蹴るのはダメ!」
「くそっ、止めときゃよかった……」
「おほほほほ! 姫ですわよ! 言葉を慎みなさい!」
「………これはこれで面白いな。うん、そうだと思おう」
「………すみませんでした」
「はにわさんが謝るなんて……。明日は天変地異が起こるぞ!!」
「……やめて。調子に乗ったんです」
「はいはいお姫さま」
「そうよっ! 私は姫よ!! かしずきなさい!!」
「…………」
「ごめんなさい」
「許して使わす」
「そろそろ降りるね。ありがとう」
「ああもう腕痛いよ。明日筋肉痛決定だな…。あれ? 蹴らないの?」
「私がいつ愛する移極くんを蹴ったって言うの? 蹴って欲しいって言うならいくらでも蹴るけど?」
「遠慮しておきm」
「○ね」
「ぐはっ」
「どう? 気持ちいい?」
「嫌な聞き方しないで! 今日のはにわさんおかしいよ!!? キャラ崩壊してるよ!! いくら照れ隠s」
「だから○ねぇぇぇええい!!」
「……ぐふっ………」
「……あ、これはちょっとヤバイかもしれない。反応がさっきと違う」
「…………」
「大丈夫?」
「…………」
「ねえ冗談は止めて」
「…………」
「照れ隠しだったんですって」
「…………」
「私は移極くんのことが本当に大好きなの!」
「…………」
「だから起きて」
「…………」
「起きてよ!!!」
「………………ぷっ」
「!! よかった……」
「起き、てる……」
「もう、やめてよ!」
「ついでに今の録音させて頂きまs」
「○ねぇぇぇぇぇ!!!」
「ぐはっ! 冗談だって。もうやめて…」
「―――はっ! もうやらない。ふざけすぎた。ごめんなさい」
「いいよ。照れ隠しは可愛かったし、こういう場面でどういう反応をするかも知れたし。もう、いいよ……」
「テンション上がるとこうなるんだね、人間って」
「はにわさんはテンションあがるとハイパーツンデレになる、と」
「そういうことだね。照れ隠しって便利な言葉だよね」
「マジか。ただ殴りたかっただけなのか」
「違うよ! ばか!」
「馬鹿で結構です」
「ばか!!」
「はいはい。分かった分かった。じゃあもうそろそろ帰ろう」
「えー」
「子供か」
「子供です」
「幼児か」
「高校生です!!」
「じゃあ帰るぞ」
「最後なんだしもうちょっと出番増やしたくて」
「メタ発言は控えようね」
「おっと、危ない危ない」
「いや、だから帰るって。電車で二時間だぞ」
「そうだねぇ……。もっと居たいんだけどなぁ」
「田舎の電車は一本遅れたら一時間待ちとかあるんだから。早く行こう。そんなに居たいならまた来たらいいだろう?」
「だね。また連れてってね」
「もちろん。何度でも。次は海水浴かな、違う海で」
「よろしくね! これからも! じゃあ水着買わなくちゃね」
「おうとも! じゃあ帰ろう」
「うん!」

「俺たちの居場所へ!」

□□□ NEXT PROLOGUE 【世界の裏の裏】 ××の独白 □□□□□□

「愛だの恋だの異能だの。どうでもいい」

「【円】も【底】も【虚】も。自分自身のために自分勝手な行動を起こした」

「結果、『こう』なった」

「いつだか【虚】が言った。『人間何も刺激が無くては生きれない』と」

「私が言いたいのは、それだ」

「こんな安っぽい『青春(しげき)』はいらない」

「必要ない」

「私は『次』の『刺激(せいしゅん)』を追い求める」

「では、『次』で会おう」





「おーい、n…………」
――――――ザンッッッッ!!!
→『NEXT STORY』

忘却の彼方

読んで下さりありがとうございました。
どうでしたでしょうか。伝わっている気がしません。(苦笑
まぁ改稿するので……。
……改稿するんです。……受験終わったら改稿するんです……!!
感想もうれしいですが、この作品だけは感想よりも改稿案やダメ出しがほしいんです……。DMも解放してますので……。ぜひ……。

忘却の彼方

はずかしいので限定公開とさせていただきます

  • 小説
  • 中編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-09-30

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted