瞳の先で泳ぐもの
瞳の先で泳ぐもの
つぶらな瞳に映るもの
物憂げなピエロ
一本調子のモーツァルト
変化に富んだ現代文
つぶらな瞳に映るもの
奇を衒った道路標識
夢ばかり語る着信音
嘘つきばかりの公開討論会
誰かマフラーを巻いてくれ
マフラーは青いものがいいと聞く
青いほど太陽に見つけてもらえると
発生する延滞料金とそのいびき
思わず笑った冬の夜
つぶらな瞳に映るから
口元を隠す、青いマフラー
真っ青な私よりも青いマフラー
つぶらな瞳に映るから
朝焼けに焦がされて
通勤ラッシュが私の影を踏みつける
音楽の最期
何もかも投げ出して
空中分解を繰り返す
空中分解しながら
パラシュートを広げて
愛の夢を見ていた
この世界のどこかが
あなたの腕の中に繋がっている
…そんな気がして
深海に向かって急降下
溺れていることに気付かずに
死んでゆく音楽を集めて
ベストアルバムを抱きしめる
分離していく液体を
何百年も見つめていた
(暗譜は苦手でピアノに噛まれる)
無責任に光る星雲に
失恋の痛手をぶつけ続ける
私の先に何がいる?
放り投げた疑問は
恐ろしく美しい放物線を描いた
遺失物
君が生まれ落ちるところを
私は偶然目撃する
私は慌てて追いかけた
追いかけた時に慌てたせいで
私は未完成なまま地上に落ちた
未完成な私は熟れた果実と大差なく
柔い存在を鳥につつかれて
気付いたら無くなってた
私は浮遊物になり君を追いかけた
君はすっかり老いていた
皺々になった君の手に縋り付くと
君は私を振り払った
私は悲しくなって泣いていた
涙は出ないし声も出ないから
泣き止むことを忘れていた
気付いたら君は地上にいなかった
私はもう一度天上に上がった
泣き止まずに上がったら
ある地点からは、
行き止まりとなった
オゾン層あたりだったか
もう目に見えるものしか
認知できなくなっていた
君を追いかけただけだった
追いかけただけで
たくさんたくさん無くしていた
瞳の先で泳ぐもの