手紙信仰
手紙信仰
空が千切れる度に
ヘンゼルは泣き出す
グレーテルを見失うから
空が千切れる度に
あの名前を思い出す
いっそ見失ってしまいたい
合間を縫って手紙を書く
読み手のいない手紙を書く
誰も見ないから安心して書く
この世に1つだけの安心は
誰も読まない手紙を書くことだ
お菓子の家には誰もいない
魔女もいない
ヘンゼルとグレーテルもいない
物語のないお菓子の家に
私の手紙を置いてきた
手芸のうた
これまでの失敗をパッチワークする
完成しない
綺麗じゃない
やめておけばいいと、賢い人は言う
わたしは賢いより懸命でいたかった
布の隙間から覗く
愛想笑いと苦笑い
正しい人たちの曖昧な表情
布を刺す針はわたしの痛み
布が大きくなるたび
わたしの痛みも大きくなり
代わりに
生きてく勇気は小さくなる
布が地球を覆う頃
わたしの存在は誰からも見えなくなる
未完成で美しくないパッチワークが広がっているだけであった
体温計の詩
夢の濃度を計測する
死んだ方がいいという気持ち
愛されたかったという気持ち
チョコレートにチューインガム
雑誌に漫画にSNS
最新機種と昆虫とタイヤと外国語
チューニングが合わない脳波
マフラーを巻くことにした
今朝は寒い
風邪を引きたい
それでも私は休めない
渡せなかったチョコレートは
私の細胞分裂を助け、
中途半端に伝えた気持ちは
何度だって私に首を吊らせる、
世界の周波数と今日も私はズレていく
通勤途中で嘔吐する
身体は擦り切れ頭はおかしくなる
夢の濃度を計測する
世界に対する最期の抵抗
君の平熱ぐらい教えてくれ
手紙信仰