小さな悩み
「周囲と同じような普通の人生を送りたかった」
「普通ってなあに? まったく同じ人生を送っている人なんて
一人もいないのよ」
僕は反論する気にもならず、真っ直ぐ見つめるその目を横目に
遮った。
「これじゃ生きてる意味がない」
「そんな事言ったら生まれて来れなかった子に失礼じゃない。
今生きている事は奇跡なのよ」
僕は愚痴を零そうとしてしまった事を今更悔やんだ。
きっと生涯口をつぐみ続ける事は出来ないだろう。
それは同じ過ちを繰り返してしまうという事だ。
「そんな小さな事で悩んでないで、もっと楽しんで生きればいい
じゃない」
僕は知っている。
それが励ますための言葉ではなくただの個人的な価値観で、
それは僕が正しいと思い込むまで繰り返されるという事を。
だけど僕は知っている。
生きる事を素晴らしいと言っておきながら、どう生きていくかと
いう僕の悩みを小さいという、小さな矛盾を。
小さな悩み