ENDLESS MYTH第3話ー26

ENDLESS MYTH第3話ー26

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 ニノラは愕然とした。自分たちがこれまで救世主を守護する運命の者「繭の盾」として後手に回っていたことを嫌悪に思い、先手を打つべく奇襲作戦へ移ったはずだった。だがデヴィルの意図を実現する者たち「咎人の果実」がその目の前に現れた。この現実にニノラは、ただ動揺する心を抑えることだけしかできなかった。
「驚いただろう? ニノラ」
 ファンはニヤニヤと笑いながら黒人青年を見上げた。
 ニノラはこの時、爆発を回避して中空に浮遊していた。
「予想外だったよなぁ、俺たちがここにやってくるなんてよぉ」
 ギョロリとした眼でニノラたちを一瞥するのは、ガロ・ペルジーノである。メシアを逃したことを悔しく、その憎悪が胸の奥でヘドロのように沸き、今それを眼前のニノラたちへ向けていた。
「ここに来ることを予見したっていうのか?」
 皮膚がピンク色に覆われ緑色の渦巻き模様がタトゥのように刻まれたニャコソフフ人のホウ・ゴウは、その独特の鱗のような嘴で唸った。
「それは企業秘密ってやつじゃないですか?」
 と、砕けた言葉で言ったのは赤い巻き毛のロベス・カビエデスであった。
「問答無用で攻撃ってわけか」
 叫ぶイラートに、イラついた顔を向けたのはアンナ・ゲジュマンである。
「先に攻撃してきたのはあんたでしょ? でもいずれにしても殺すのは殺すんだけどね」
 そういうと掌を軽く翻すと、その手に赤色矮星の輝きを鈍く反射させる剣が現出した。
 そこからは本当に問答無用であった。彼女は地面を蹴ると中空へ高速で跳ね上がり、呆然とするニノラめがけ白刃を振り上げた。
 常人では回避など不可能な速度で振り上げられた剣。
 が、巨体がニノラの服を引き、切っ先が辛うじて黒い皮膚を切っただけですんだ。
 イ・ヴェンスはニノラを放り投げるように離すなり、掌を彼女へ向けて爆風を放射した。
 それをなんと彼女は剣で切り裂くなり巨体へ切っ先を突きだした。
 これを今度は鋭い爪が白刃を受けた。ニノラが腕を獣へと変化させ、長く鋭い爪で受け太刀したのである。
 これを合図にイラートは稲妻を両手に握ると、未だ地上に立つ「咎人の果実」めがけ、複数の稲妻を、両手で交互に投げつけた。
 地面に着弾と同時に散弾する鉄球のごとく、稲妻は四方に分散、4人の「咎人の果実」を襲った。
 けれども4つの影が稲妻に焦がされることはなく、中空に跳ね上がるとガロが腕を振り上げる。
 と、空中にそれまでなかったはずの液体が現れ空と衝突して蒸発した。
 空気中に含んでいる微量の水分を集め、鋭い視線の男は自らの武器を空中に誕生させたのである。
 今度は左腕を振り上げると、空中を漂う液体は生き物のようにウネウネと動くと、そのまま稲妻を投げつけたイラートを強襲した。
 稲妻で自らの全面へ防護壁を構築するイラートだったが、水は周囲に分散すると彼の背後で再構築され、イラートの背中に激突した。
 瞬時に稲妻を反転させ背中を守ったイラートだったが、水は彼の背中に大砲の弾ほどもある衝撃を加え、狩人に撃たれた鳥の如く、地上へと落下していった。
 同じ定めを受けた仲間の危機に、ニノラは腕をさらに獣へと変化させると、豪腕で受けていた剣を払いのけると、枯れ葉のように落ちていくイラートの元へ飛行した。
 力で負けることを良しとしないアンナは、ニノラを追いかけようと剣を構え直した。
 そこへ石のような拳が飛び、イ・ヴェンスが、お前の相手は俺だとばかりに、ぶつけた拳を開き、爆発を空中で巻き起こした。
 それを背にしてイラートのそばへ急ぐニノラ。普通の飛行では追いつけないと判断すると、背中の肩甲骨を肥大化、鳥の翼を広げるなり、数回羽ばたかせ、飛行に加速を加える。
 それでも間に合わない。
 ニノラが必死に腕を伸ばした。
 彼以外の面々は距離が遠すぎて助けることはできない。
 地面はすぐそこである。このまま落ちては、超能力者であっても、頭が砕けるのは間違いなかった。
 そんな想像をふり払い、ニノラの翼は羽ばたいた。
 しかし無情にもイラートの身体は地面へ接触した。かに見えた。
 彼は無事だった。力なく落下した彼の身体を地面すれすれです捕まえた人物がいたのだ。
 エリザベス・ガハノフだ。
 実の姉弟、実の姉。エリザベスはメシアの元を離れ「咎人の果実」となり、実の弟と対立する運命を背負っていた。
 弟の身体を地面にゆっくりと下ろすと、エリザベスは中空で静止する翼の生えた男を睨みつける。そして細く白い指先に絡みつくような細い稲妻を発生させると、それをニノラめがけ放射した。
 それは針の如くニノラの翼を痛めつけ、肩甲骨が縮小、黒人青年へと戻ってしまった。
 そのありさまはまさしく翼をむしり取られた鳥の如きだった。
 稲妻の針に突き刺されながらも、身体の痺れに耐え、震える腕を振り上げるニノラ。
 だがエリザベスの攻撃に容赦は無かった。彼女の指先から放射される針のような稲妻は、ニノラの皮膚を裂傷させ、血煙が上がる。
 その時、エリザベスは何かを背後に感じ取った。背中に迫る巨大な何かである。
 正面のニノラは身体が痺れ、血が滴りおちている。それを放って背後を振り向いた時、そこには大きなレンズが見えた。
 何故こんなものがここに?
 唖然としながらもエリザベスは稲妻でそれを迎撃する。彼女に迫ったミサイルは稲妻に撃墜され爆発。
 その爆風の中から人影が現れた。
 身構えるエリザベスはしかし、不可思議な現象に恐れた。自分だ。自分が目の前に立っていたのだ。
「貴女はわたし」
 もう1人のエリザベスはそういうと、掌で構築した鉄の塊を中空で起用に操作すると、高速でエリザベスへ飛ばした。
 呆然とするエリザベスに鉄の塊がぶつかろうとした寸前、それは急激な重力の変化で地面に叩きおとされ、もう1人のエリザベスもまた、自らの周囲の重力が変化して身体が異常なまでに重たくなった。
「それがデンコーホン人のやり方だ」
 ふてぶてしく笑い掌をもう1人のエリザベスにかざしていたのは、面長の男だ。
 不機嫌にファンの顔を見るエルザベスは背後でまだ浮遊するニノラに止めをさすべく指先を黒人青年に向けた。
 とその時、黒人青年は口から大量の吐血をすると、地面に崩れ落ち、胸を押さえてもんどり打った。
 エリザベスは何が起こったのか状況が分からず、唖然とする。
「ニノラ!」
 イ・ヴェンスが巨体を飛翔させニノラのところへ着地、慌て黒人青年を抱き起こした。
 ホウ・ゴウも慌て飛行してニノラのところへ向かおうとした。
 だが、彼女の身体は金縛りになった。そして腹部の激しい激痛に顔が苦痛に歪む。腹部に視線を落とすと、白刃が自分の腹部から生えている。ニャコソフフ人独特の灰色の血を帯びて。
「なによそみしていの? 貴女の相手はあたしよ、姉上」
 宿命の星が大きく動き、ホウ・ゴウの脳内を駆け巡った。
 アンナに背中から剣で貫かれた身体を、前世の記憶が縦に貫く。
 そして「咎人」の物語はホウ・ゴウの中で語られた。

ENDLESS MYTH第4話ー1へ続く
 

ENDLESS MYTH第3話ー26

ENDLESS MYTH第3話ー26

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-09-25

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