濡れたワンピースの思い出
あなたとの巡り合わせがない日は
否が応でも大雨に見舞われます
世界は大雨に溺れていきます
世界はわたしとは無関係ですが
巡り合わせが無いのなら
空を晒すことは無駄なことだから
世界は大雨に溺れていきます
わたしは水槽を揺らしている
水草が左右にゆらゆら揺れている
世界は大雨に溺れていきます
わたしは水槽を揺らしながら
雨に濡れる世界を見ていた
わたしの子どもが外に出る
わたしは一応追いかける
子どもが雨に打たれている
子どもが水たまりを踏んでいる
「めぐりあわせが無かったの?」
子どもが水たまりの上で跳ねている
わたしは水槽を持ったまま子どもを追いかけていた
「無かったの」
わたしは答えた
子どもは深い水たまりを見付けた
「あっちに行ってもいい?」
無意識に頷いた自分の顔を
水槽の中に見つけてしまった
わたしは水槽を抱き締めた
水たまりの中は、星雲と恒星だらけだった。
法則はめちゃくちゃで秩序も神様もいなかった。
巡り合わせが無かった
わたしの未完成な心が
未完成なまま産んだ
めちゃくちゃな世界だった
水たまりに飛び込もうとする子どもは
未来(もしくは過去、或いはもう一個のそれ)のわたしが生んだ巡り合わせの結果
それ以上でもそれ以下でも無い
「さようなら」
子どもは頭を下げた
水たまりの中に潜って行く
わたしは手を伸ばした
水槽が地面に落ちた
わたしの足は雨と水槽の水で濡れて
着ていたワンピースもびしょ濡れだった
巡り合わせが無かったから
わたしと世界は永遠に雨に打たれている
巡り合わせを待つのは
次の星が生まれるか
次のわたしが生まれるか
どちらが先か、
その違いしかない
それまでは濡れ続けるほか
なかった
何も、無かった
濡れたワンピースの思い出