翅の寓話
呪われている
気がついた時には遅かった
私の周りにバラバラと
破片が散らばる
「翅が透き通ってないから駄目」
手旗信号がその日から
左折禁止を私に言いわたす
愛されたかったと呟けば
破片は余計に散らばった
私の翅は粉に覆われている
模様は生まれた時より掠れている
頭の上を蝶が飛んでいく
「病気?」
「呪い」
「呪い」
蝶が私を見ている
聴きたくなかったが
蝶の声は私の耳を貫いた
好きな人に会うことを
繰り返しているうちに
私の器は擦り切れていった
擦り切れた器は呪いを受け易い
蝶が飛んで行く
火山のある方角だった
ありとあらゆる
美しい翅のある生き物たちは
火山の上で
火の粉と戯れて
炎を宿すのだった
それは、祭のようなもので、
その日から、
私のようなものは、
籠ることになっていた
私は私を真夜中に幽閉する
「あなたに愛されたかった」
虚しく呟く言葉は
誰も呪えない
力を持たない
弱い言葉
炎を宿せない
呪われている
翅は透き通ってない
そういう理由で願いは叶わない
そんな、
理由は後付けだと
アブラゼミに笑われたことがある
そのアブラゼミは前日、
アイスコーヒーに溺れていた
最期はカフェインに溺れていた
破片が散らばる
私を作る破片が、
バラバラと
(硝子、炭素、夢、記憶…)
私の翅は破けてしまった
私の破片が破いてしまった
全くの無為で。
お陰で、
向こうの火山を見通せる
透き通ったように、よく見える
好きな人が炎を宿すところまで
見える。
厭になるほどに
よく見える。
翅の寓話