生活のうた
トマトのうた
1つのトマトを2つに切る
夕方は残酷な事件で溢れてる
何食わぬ顔をして
1つのトマトを2つに切る
離れ離れのトマトの気持ちを
140文字で表すことは
つまりは、文化でしかない
役者の人生
皆きらびやかな衣装を着て
皆声高な長台詞があって
光の中で生きて行く
暗転の中でも
光る筋書き通りに生きて行く
それが生きることのようであった
私は鈍い色の服を着て
ああ、ええ、ということだけ言って
仄暗さの中で
明るさを保って
暗転にはしゃぎつつ
見えない筋書きを
探しながら生きている
それが生きることのようであった
遠近法の病
星が、水たまりが、風が、木々が、
曇りが、焚火が、夢が、神が、
疲労が、曜日が、歴史が、仕事が、
全て君のような気がしてしまう
君が遠ければ遠いほど
僕の体に纏わりつく
煩わしさや日常に
君を感じるようになってしまった
ところで君は生活している?
最近の君を知らなすぎる。
なのに、君のことはこれまで以上に近く感じている
これはなんという症状でしょうか
対価のうた
音楽聴いて死んだフリ
アラーム聴いて起きるフリ
チャイムを聴いて働くフリ
機械仕掛けになれない私は
そういうフリをして
「生活」をする
理不尽には銀貨を
皮肉には小切手を
自慢話には花束を
全てを愛するフリをして
其の実何も愛していない
チョコレートを食べている時
その瞬間だけに蘇る
生き返る心地になる
(対症療法だ。)
ネジを巻くようなもの
「生活」とはそういうものだった
仕方がなかった
先立つ物を得るために
生活のうた
世界がズレた
違った
私がズレた
私が斜めに切られたように
音もなくズレていった
上司が後ろから声をかけてくれなかったら
多分私はバラバラになっていた
それは救いなのか秩序なのか
よくわからなかった
生活をして、生活をして、
かすり傷を重ねていく
それは「生活」そのもので、
存在の維持とは代償ありきで、
たまにそうでない人がいるが、
それは恐らく「生活」の檻に打ち勝った
そういう人であろうとぼんやり思う
沈黙するおばあさん
何も言わないおばあさんがいる
いつも遠くを見ている
もうここにはいないような
途方も無い遠くを見ている
こちらが何を聞いても答えない
ご飯を食べたり
お茶を飲んだり
お酒も飲んだり
テレビを見たり
煙草を吸ったり
「生活」はしている
「言葉」がない
何も言わない
何かを思っても
何も言わない
ここでは「生活」しか、していない
その他は別なところで済ませている
そんなおばあさん
何も言わない おばあさん
カーテンコール
私の生き方は
役者のそれとは似て非なるものだった
筋書きなど無く
アドリブだらけで
脚本家などいなかった
舞台監督は仕事を放棄し
演出家は逃げ出した
取り残された役者は私だけ
カーテンコールまで
長くもあり短くもある
私の心音は拍手の代わり
私の涙は照明の代わり
私の口から溢れたら
それが台詞であった
重ねていけば台本となった
千秋楽の頃には私はベッドの上で
いつか来る出番を待っていた
ベッドには脚本家も舞台監督も演出家も集まっている
私は舞台挨拶をする
心音が ひときわ 高くなる
拍手喝采の中
強くなる照明を浴びて
生活のうた