となんのツバサ

コンビニエンスストアの前にリムジンが停車してしまいました。
エンジンストップ。
パーティーを控えたお嬢様は腹を立てますがどう仕様もありません。
仕方がなく、お嬢様は自分が散々罵倒したコンビニエンスストアで待機することになります。
しかし―――――――

まったくエンジンというものは厄介で仕方がない。
都心から少し離れた郊外のコンビニの前に、土地柄に似つかわしくない一台の車が止まった。
黒の大きな外車。リムジン。
出入りしようとしている人々をお構いなしに入り口前を堂々と塞いだ。
「まったく何なのですの!?」
高そうな黒いスーツを着た男にドアを開けてもらいながらお嬢様の風雲寺マリは車を降りながら叫んだ。
「申し訳ございません」と後から降りてきたもう一人の執事らしき男が彼女に頭を下げる。
その執事が言うには、ペダルを幾ら踏んでも車からギュウンギュウンと変な音が出るばかりで前に進めはせず、可笑しいなと思いボンネットの中を調べたところ妙な煙がもわもわと出ていたらしい。直そうとしたところ機械が余りにも熱すぎる為触れる事もおろか顔を近づけることさえ儘ならなかったというのだ。
「ああ?もう! なんで動かないのよ!!」
「お嬢様、我々も手をつくしたのですが……」
執事ははっきりと口に出さなかった。
―――エンスト。エンジンが故障した……。
まさかの事態にうろたえる事しかできなかった。
「なんでよりによって今日なのよ! 今日はかねてのパーティーがあるんですよ。 いくら待ちわびたと思ってるのです? 私(わたくし)だけ遅れて品のない無礼な女だと思われるじゃありませんか」
「申し訳ありません……」
「2月の頭からずっと待ち続けて今日でちょうど2カ月。長かったのに。オーケストラも聴けるとおっしゃられておりましたから楽しみにしていましたのに。どうするのですか、テルーブ」
「ええ、しかし」
テルーブと愛称で呼ばれたさっきからマリと話し続けている執事は眉をハの字にして手で覆うように鼻を触った。
「ああ、しかもこんな品のないチンケな店の前に止まって……。動物が生活してそうな店ですこと。何故、私のようなものがこんな店の前に。最悪ですわ」
「あの、お嬢様。ここは庶民の方がよく利用するコンビニという店で――」
「分かってますわ。安くて、防腐剤がたくさん入った変な食べ物などを一日中売っている店ですわよね?」
「『変な』とは……。ちょっと」
 テルーブは一つ咳払いをして、傍にいたもう一人の従者にアイコンタクトしケータイから業者に連絡するように指示した。そしてもう一度咳払いした。
「お嬢様、只今業者の方に連絡を取りました」
「よかった。では、パーティーには間に合うのかもしれ―――」
「いいえ、それはまだ……。それにエンジンがかなり熱くなっていましたし。しかし、どちらにせよ時間がかかるので、そこのコンビニでお待ちになってください」
「ええ!?」
「それともこの路上でお待ちになりますか?」
「う゛……わ、わかりましたわ! 仕方がありませんね。それでは、私は、厭々ながらこの小汚いこの店の中で、気分を害しながら、仕方なく待っておくとしましょう」
「……お願いします、お嬢様」
マリはその後もブツブツと呟いて悪態をつきながらもコンビニの中へ入って行った。
残された執事は「全く世話の焼けるお嬢様だ」と内心思いながらも、手順の準備に入った。



―――続く―――

となんのツバサ

となんのツバサ

短編

  • 小説
  • 掌編
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-02-16

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