ただの愚痴ですカラー

   なんだかんだ縁があって今は家庭教師をしている。もともと後輩が受け持っていた生徒だったのだが、彼女が留学に行くということで急遽、僕に話が回っていたのだ。これまで人に勉強というものを教える機会に恵まれてこなかった僕にとっては図無い課題が立ちはだかったものだと感じたのをよく覚えている。最初の授業の前に一度、僕と生徒とその親御さんで軽く面談をした。中でも数学が苦手なようで、普段の課題に加えてそれを重点的に見てくれとのことだった。小生ごときがありつけるアルバイトの中では一等級のホワイトカラーであるため、一回一回成果を残すことが求められているのだと杞憂を募らせた。

   初めての授業の日に目が覚めてからずうっと憂鬱であった。僕は自分に自信がないのだ。大学まで出た身でありながら中学生の学習内容に得体の知れない恐怖を覚えていた。しかし今思い返してみれば、カリキュラムに恐れを抱いていたというよりも、見知らぬ中学生と長時間過ごすことへの黒い恐怖だったのだろう。子供は不可解だ。何を隠そう僕は子供が嫌いなのだ。黄色い奇声をあげながら無意味な行動をとる。しかも何度もだ。見え見えの魂胆を隠そうともせず大人を出し抜こうとする。馬鹿者め。この話をすると世界中の子供愛好者(マイケル・ジャクソンではない)から批判を受けるのだろうが、根っからの勉強好きな僕は学ぶことのない相手と過ごす時間が怖いのだと思う。人の親になれば変わるものなのかもしれない。だが、今は無理なのだ。自分が特別だと思っている、周りより優れていると考えている、恐れを知らない、そして疑うことを知らないあの眼が受け入れられない。

   鬱屈とした僕が授業に行くと生徒が無言で課題をこなしていた。声をかける。反応はない。席に座ると気怠そうに課題や配点について説明し始める。こちらも相手の気力レベルに合わせた態度で灰色に返す。とはいえ、コヤツを手懐け課題をやらせることでお金をもらうのだ。そうそう文句も言ってられない。全ての文句を心の中にぎゅうぎゅうに仕舞い込んで課題をやらせる。

   だめだ、ここまで書いていて気が滅入ってきたので金のビールをあおることとする。真面目に書け!なんて言わないでおくれよ、今日もアルバイトに行ってきた帰りなのだ。たまにはいいじゃあないか。ついでにタバコも吸ってくる。君たちもここで五分休憩でも挟んでくれ給え。そんなに急いで読むべき文章じゃないんだ、これは。

   さて、続きを書く。そうだ、自分を黙らせて課題をやらせたところだった。さすがにまだまだ簡単なものを扱っている。そりゃそうだ、中学生なのだから。第一回の授業を終えて胸のモヤモヤが薄まったような気がした。家庭教師は子守ではないのだと気づいたからだ。あくまで勉強という一点のみに集中して良いのであって、好き勝手する子供の監督をしなければいけないのではなかったのだ。しかも数学ならば相手が道理の通用しない妖怪であったとしても数字の事ばかり喋っていればいい。簡単な事だ。

   まあ、なんだかんだその後も続けている家庭教師バイト。心の中で割り切ってしまえば給料のために頑張れる。なんせ時給が半端なく高い。家庭教師の中でも特に割高だ。僕の案件は。子供の相手と思わずに数学をしに行くと考えてやっと続けていけるこのバイトも結局続いているところを見ると性に合ってるのかもしれない。仕事はホワイト顔はブルー。



I wonder if there is a sound confession.

ただの愚痴ですカラー

ただの愚痴ですカラー

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-09-19

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted