ハーシュノイズ論



 ノイズミュージックは世界中で作られ,作風も多岐にわたる。海外ではノイバウテン,SPK,ホワイトハウス,日本においてはMerzbowを筆頭に,マゾンナ,Hanatarash,非常階段などが挙げられる。  

 世界広しといえどもノイズミュージックには日本にしかないジャンルがある。それはジャパノイズと呼ばれ、基本,リズムや旋律が存在せず、エフェクターで極端に歪ませたギターや金属音や絶叫などで構成される音楽である。海外のほとんどのアーティストたちはノイズを音楽の1構成要素と捉え、はっきりしたリズムの上にノイズ音を乗せていた。また、そのリズムに使うパーカッションを金属にしたり、少し歪ませたりしたが,はっきりと構成が分かる曲であった。それだけに世界のノイジシャンに与えた衝撃は大きくフォロアーが生まれ,徐々に広まりつつある。

 ジャパノイズの1つであるハーシュノイズは、難聴になるほどの極端な高音が特徴であり,これを気持ち良いと感じるか不快と感じるかで、その人にとって音楽となり得るかが決まる。テレビの砂嵐音をただずっと流すとだれでも退屈である。しかし複数の様々な周波数の音を重ねると、予期しないようなドーパミン大放出の音が生まれることがある。これがハーシュノイズの醍醐味である。その音が常に変化し続け,複数の周波数の音が絡み合い、時には融合し、時には反発し合い、予期せぬ音の洪水が出来上がる。ベースとなる音はアーティストにもよるが,シンセサイザーで生み出した音を様々なエフェクターによって歪ませたり、乱高下させたりして作る。後はその音を組み合わせてノイズの化学反応を待ち、調整していく。この制作段階はまさしくDADAである。

 ハーシュノイズを聴きこむと,これも音楽の一形態だと痛感する。音自体を楽しむのである。音楽ではなく、音。ハーシュノイズは雑音でヘビメタは音楽。両者の違いは?ヘビメタは既存の楽器を使っている、リズムがある、旋律がある、歌がある・・・そんなところだろうが、逆にいうとそれだけの違いである。ギターの音がかなり歪んでいるのは同じであるし,絶叫も、高速なのも同じ。ライブハウスに行くと耳を塞ぎたくなるような大音量。同じなのだ。ただ、ハーシュノイズは、既成楽器のギター、ベース、ドラムを,電子音やギター音,自作の金属楽器などに置き換えただけなのである。だから、ヘビメタやハードコアパンク,グラインドコアなどを好む人は既成概念から脱却できれば突き刺さる音でドーパミンを浴びる点で同じ快感を味わえるだろう。ハーシュノイズは限りなく実験音楽の頂点である。シンセやギターをエフェクターにつないで手を動かすまでどんな音になるか制作者も分からない。分からないからこそ面白い。計画するのはノイズを出す音源と録音する機材だけ。

 SowSectはコラージュノイズと同時にハーシュノイズにも挑戦する。面白いか、面白くないかそれだけである。ノイズに溺れながら快感に身をゆだねる。そんな健康に良いハーシュノイズを作っていく。

ハーシュノイズ論

ハーシュノイズ論

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-09-18

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