アラブの水


その2輪は確かにあった 
疑う余地もなくそこにあった。
黴くさいガレエジの片隅に 
鈍い光を放ちながら
確かにそこに存在した
存在がオイル缶の蓋に鎮座する 
炭酸リチウムのような輩だと
仮定するならば
小躍りするブルックリンの女にとって 
リモコンを弄ぶほどに
容易いことであっただろう
それほどまでに
2輪の存在は忘れ去られていた 
いや隠されていた
隣の住人に聞いてみた 
画鋲を数えながらも 首を横に振った
2輪は1台ではない 3台もあったのだ!

2輪は クロウムの光を全身に帯び、
構造主義を否定しながら 
その存在を誇示していた。
3台目がそこに並べられた時、
好事家たちは斜めから横から眺め 
嘆息を漏らしたものだった
しかしながら はて 
今朝ガレエジを覗き込むと
全て消えていた
昨日までの我々の行為が
悪夢だったかのように 
涼風をまとった 
からっぽのガレエジが
ただそこにあった
長靴の中に刺された3本の薔薇が 
エイレンの腸壁を撫で
ベッドに横たわり
跳ね起きたと思えば 
ドアノブに耳をかけ 
BYKLを唱え出す

キロキロと にじる豚に気がついて 
ハンカチーフを捻り 
クエチアピンを一飲みすると
箸のビニルに電話を乗せ 
白いスピーカーを整列させた
上を見た 
太陽の光が白く網膜に突き刺さり 
その中に小さな影を確かめた
遮断鉛筆は
2階のコンクリート壁から滑り落ち 
その軌跡を残す
地面に落ち 
ガラスのごとく粉々に砕け散った後には
「夭」の一文字が残されていた
焦げ茶のシャツがふと目につき 
アルミ皿に白飯を盛って
掻き込んではみたものの
やはり2輪の面影などなく 
確かにそこにあった確信だけが
心を埋め尽くす

黒いテンプレートに草履を履かせ 
針金で3重巻に固定し 
その有り様から 2輪の記憶を辿る
国道311号線の入り口で 
ガスマスクをつけた白装束が 
何か記録を取っている
2インチのハンドルの冷たい感触 
単気筒の跳ね上がる鼓動
カオス理論を応用し 
陳列権をその場で決定することへ 
不満を持った善良なる市民が
砂漠の民をも扇動し 
鉄パイプを振り回しクリックする

アラブの水

アラブの水

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-09-18

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