ノースタルの部屋



父は僕を置き去りにした
僕は状況が飲み込めず 
遠ざかる父の顔を
ずっと見つめていた
緑のトラックの
ウィンドウガラスに映る
父の横顔は ひどく汚れていて
油と埃にまみれ金属臭が漂っていた

そう言えば昨日の夕時 
テーブルに
2枚のハンカチが広げてあった
父は油をすすり 
そのハンカチを避けるように 
湯呑みを置いた

ネジに囲まれたこの部屋 
床に置かれた
花瓶の薔薇さえも錆に侵食され
もはや時間の問題だとは思っていた

コペンハーゲンの電信は 
Pのさえずりをこの部屋に与え
シグナル構想を馬に乗せ 
蛮国の客人に
お茶をふるまったものだ
そんな環境の中 
専従公務員は赤い鉄柱を横に並べ 
溜息をついていた
行け!行くのだ!
モハンの門は金物の従属を待っている
それに応えることこそ
専従公務員の使命では無いのか

19世紀から続く
プラットフォームの模範演技
ドラム缶から顔を覗かせる白豹 
演台に上って無神論を唱える
アルコールを口にしたため 
ペンを握って契約を交わした
もはや逃げられない 
逃げる術も無い 
鉄条網に囲まれ最後の夕食を頬張った
砂鉄にまみれて
身動きが取れなくなってから 
僕は状況を察した
状況は変わらない 父の意志を引き継ぎ

そして今日父は僕を置き去りにした 

ノースタルの部屋

ノースタルの部屋

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-09-18

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