100年前の夢の話
大きな鳥が飛んでいる
兎は石の上で昼寝をしている
私は電車に乗った
濡れた芝生の上を電車が走る
空は東が青空 西が曇天
車掌が異国の言葉を呟いた
意味はわからなかった
でも耳に残って離れない
猫が私の膝の上で眠る
前の席に座っていたおばあさんに
「兎とあまり離れちゃいけない」
と言われた
隣の席に座った女の子が辛い飴をくれた
私はむせながら、おばあさんに
「二駅ほどですので」と喋った
私は二駅ほど離れた広場へ出掛けた
広場には石碑がある
石碑以外何もない
私と猫以外誰もいない
石碑には私と私が恋した人のことが下三行に刻まれている
私はそれを眺める
猫は顔を洗っている
私が恋した人はここからさらに10駅乗って飛行機に乗って船に乗って大きな塔に登ってそこから落ちたところで暮らしている。
大きな鳥が空を飛んでいる
下三行に生まれてから死ぬまでのことが刻まれている
つまり、私の恋は一行にも満たないのだ
大きな鳥の影が私を覆った
太陽も遮られて、世界中が暗くなった
不吉な予感が満ち溢れる
「兎に怒られるよ」
猫が呟いた
「そうだね」
私はふたたび電車に乗った
濡れた芝生の上を、
兎が眠る石まで電車が走って行く
草の匂いが濃くなる
思い出が迫ってくる
私は石碑のことを忘れようとした
100年前の夢の話