歌と私と、天使のような彼。~せかんど~
こんにちは。音咲奏です。
あの日、軽音部の先輩、宮本響(みやもとひびき)さん(あのあとすぐに教えてもらった)に誘われてからはや1か月。もう少しで文化祭の時期となりました。
―――――――第二音楽室
「あー・・・文化祭、なにすっかなぁ」
「軽音部の舞台発表は毎年大人気なんですよね?クラスの子たちが楽しみにしてました」
「そうそう!俺らってやっぱかっこいいじゃん?」
「・・・・」
いつになっても、先輩の冗談には慣れません・・・・・
「バカなの?響。奏ちゃんにそんな冗談言ったって、素直なんだから信じちゃうだろう」
「おー!秋ぃ。遅かったじゃねーかー」
「おいバカ、まとわりつくなよ」
早川秋輔(はやかわしゅうすけ)先輩、通称秋(あき)先輩。
響先輩とは幼なじみで、家が隣同士なんだそうです。
ちなみに、秋先輩はドラム担当です。
「秋先輩、こんにちは。今、文化祭のこと話していたところなんです」
「あー、そうだな。そろそろ決めないと・・・・文実にも提出しないといけないもんとかもあるし」
「どういう曲を歌うんですか?コピーバンドとか・・・」
「んや、俺らには秘密兵器がいるからなぁ」
ニヤニヤしながら言う響先輩はなんだか悪だくみをしている小学生男児のようでした。
「誰なんです?秘密兵器って」
「俺はあんまり関与してねーんだけどさ、その、秋が嫌がるかなー・・・?」
「別に。俺と会わなかったらいいだけのことだろ。あと、あそこで寝てるやつ。そろそろ起こしてこい」
「あ、はぁい」
音楽室の一番奥に置いてある大きなソファの上で寝ている先輩は、私が来てからといものの、私が起こす以外では起きなくなってしまいました。
「あの、くるちゃん先輩?もうみなさん揃いました。秋先輩が怒る前に起きてください」
「んー・・・・ふぁ・・・・なにぃ?もう秋ちゃん来ちゃったの?」
「もうとはなんだ、俺はお前がいなかった分、ちゃんと掃除してきたんだっつの」
「いいこだねえ」
「殴るぞ、お前」
「ひゃー、怖い。かなちゃん助けて」
そう言って私の後ろに隠れているこの方は、来栖太陽(くるすたいよう)先輩。通称くるちゃん先輩です。
小柄で大きな瞳をもつ愛らしい方で、お二人の小学校からのお友達だそうです。
ちなみに、自分の体より多きなベースを弾いているところは、とても可愛いので、ひそかに愛でていたくなります。
「あ、それで、秘密兵器、ってなんですか?」
「あー、それは」
「やめてった元ボーカル、太陽の従兄」
「へ。・・・くるちゃん先輩の従兄さんって、来栖日向(くるすひなた)先輩ですか?」
「なんで、かなちゃん知ってるの?」
「知ってるもなにも、有名じゃないですか。休みがちな私でも知ってるんですから」
来栖日向先輩は私の2つ上の3年生で、生徒会長をしていて、女子からも男子からも人気高い有名人です。
「まぁ、確かにそうだけどぉ」
「あと、来栖、って苗字の方はめったにお見かけしないといいますか・・・」
「それもそーだな!んで、知ってるなら話は早いなー」
「へ?」
「奏、お前日向に会え」
「え」
「日向はうちの秘密兵器なんだ。だから文化祭にはいないと困る。」
でも、響先輩は輝いてるけど、ほかの二人は機嫌一気に悪くなっちゃいました。
「あの、どうして秘密兵器なんですか」
「太陽の方が説明できんだろー」
「・・・俺、作曲できんの知ってるよね?」
「はい」
「認めたくないけど、あっちの方が何億倍も才能あるんだ。しかも、俺が曲作りの基本教わったのだって日向からだし。昼休みに食堂で流れてるあれも日向の」
「はぁ、すごいですねぇ」
「でも、あいつは俺らを裏切ったから嫌い。あの日から家にだって行ってない」
すごく辛そうな顔。
あまり私が介入しない方がよさそうな問題なような気がするのですが。
「だから、奏が行って来ればいいって言ってんだろ」
「俺はあいつの曲なんか弾きたくねーの!」
「俺だってヤだね」
あぁ、みなさんの機嫌がどんどん悪く・・・
「あ、あの。私、その方の曲、うたってみたいです!」
思い切ったけど、思い切って頭下げちゃったけど、あげたくないっ。今頭をあげたら怖いお顔がふたつ並んでるに決まってる・・・・
「な、二人とも。奏だってうたってみたいってさ」
「「っち」」
綺麗な舌打ちハモリを頂いたので、その日は家へ帰ることにしました。
―――――――――――――――翌日
「えぇと、3年5組・・・・」
結局、怖い顔を見た私は、その怖い顔を忘れるような響先輩の強烈な笑顔に載せられて、曲作りをお願いに来てしまいました。
「うぅ・・・(たどり着いたはいいけど、正直先輩の教室に入るのはちょっと勇気が必要なんだけどね・・・)」
「おい、あんた。この教室になんか用でもあんのか?」
「!・・・あの、来栖日向先輩に会いたくて・・・・」
「・・・俺?」
「へ」
なんというラッキー。
真後ろにいたお方こそが、元ボーカルでくるちゃん先輩の従兄の来栖日向先輩でした。
「あの、今日の放課後少しお話いいでしょうか?」
「放課後?・・・ていいうかあんた軽音に新しく入った音咲だろ?響になんか言われてきたのか」
「あ、はい。お話、聞いていただけますか?」
「聞くだけならな。お前、可愛いし全然いいよ」
「へっ」
「んじゃ、また放課後。中庭で待ってるから」
後ろ手に手を振りながら去って行ってしまった先輩。
私は響先輩にもらったメモ用紙を強く握りすぎてしまっていました。
―――――――――そして、放課後
言われた通り、校内で一番の人気スポット、噴水のある中庭にやってきました。
でも、なぜか来栖先輩はいらっしゃいません。3年生はもう午前授業になって暇なはずなのに。
「あ、音咲さん」
「来栖先輩。こんにちは」
「おー。ごめんね、待たせた?」
「平気です。そんなには待っていないので」
「そ。んじゃ、話聞くよ」
「はいっ」
来栖先輩が来てからはや30分。
ようやく響先輩からの伝言を伝えきったところで、来栖先輩は少し待っていてと言ってどこかへ行ってしまいました。
(もしかして、めんどくさいと思われちゃったのかなぇ?)
「おーい、大丈夫か?ごめんな、ちょっと遅れた」
「・・・・・・忘れられてしまったかと思いました」
「忘れねーよ?」
帰ってきた先輩の背中をみると、大きなケースが・・・というか、ギター?
「あの、来栖先輩・・・・それ」
「あーこれ?俺の必需品」
「はぁ」
「作曲、するんでしょ?」
「・・・・・」
驚いて言葉が出ません。
響先輩以外のお二人は絶対断られる、って言ってたからびっくりです。
「ほら、ぼーっとしないの」
「ふぁっ、すいません・・・じゃ、じゃあ、ぜひお願いしますっ」
「はいはい」
「あの、でもどうやって・・・」
「そうだなー、なんかイメージとかないの?」
「イメージですか?」
「そ。音咲さん・・・奏ちゃんの歌いたい感じとか、まだないの?」
「歌いたい感じ・・・・ですか。そうですねぇ・・・・来栖先輩の作った曲、が今一番歌いたいです」
「え」
「歌いたいです」
にっこりとほほ笑む奏に、引きつり笑を返すしかない、日向なのであった。
つづく
歌と私と、天使のような彼。~せかんど~
ごめんなさい。
またすぐに更新する予定なので、せかんど、見捨てないでくださいっっっ