果たせない約束。
「ねぇー、陽介。知ってる?」
「なにをだよ。」
「このビルあんじゃん?すっげー高ぇじゃん?」
「あー、うん。。。ねー。」
そして彼女は、くるりと俺のほうに振り向いて笑った。
「夜景がきれいに見れるんだよ!いつか2人で見に行こうよ!」
あまりノリ気で無い様子の俺に向かって、彼女は小指を差し出した。
仕方なく、俺も小指を差し出して、絡み合わせた。
「約束・・・だよっ!」
・・・まただ。また、この夢を見たんだ。この約束はもう3年も前のことになる。
俺は、とりあえず起き上がり、写真を見つめた。この夢を見た後の儀式のようなものだ。
そう・・・この儀式は、ただただ写真に向かって謝罪をするんだ。
いや、正しくは「彼女」に向かって謝ってるのかな。
ごめん、ごめんな、ごめん、ごめん・・・ごめんなさい。本当にごめんなさい。
謝っても無駄なんだ、彼女はもうどこにもいない。
3年前、俺をかばって・・・絢奈はもう死んだんだ。
幼馴染だった絢奈は、ずっと俺と一緒に居た。幼稚園も、小学校も中学校も。
ほんとは今日だって、一緒に高校を卒業するはずだったんだ。
「絢奈、いってくるわ。」
そう言って、俺は家を飛び出した。するとばったり、クラスメートで同じ部活だった琢磨にあった。
2人で並んで歩く。最後の道。きっと、琢磨に会うことなどもう無いんだ。
「長かったな、3年間。陽介・・・なぁ。」
「琢磨・・・?」
「まだ、絢奈ちゃんのこと気にしてるん?」
俺は絢奈の名前を出されて、立ち止まった。同じように琢磨も立ち止まる。
「・・・本当に長かったよ、3年間。」
俺は、絢奈のことには触れずに、そう答えた。そしてゆっくりと歩き始めた。
琢磨は「お前だけじゃないんだよ」と、そうつぶやいていた。
そりゃそうだ、琢磨は入学してきてすぐ・・・絢奈にほれたんだっけっかな。
卒業式中、俺はずっと絢奈のことを考えていた。一緒に卒業したかった、ただそれだけだった。
あいつは明るかったから、友達もたくさん居た。あいつのこと好きなやつだって居た。
今思えば、俺もそのなかの一人だった、そう言ってもいいのかもしれないけれど。
俺は違う。そこらへんの絢奈の表だけ見て好きになったやつらとは違う。
俺には思い出がある。一緒にすごしてきた、時間があるんだ。
だから、絢奈の葬式では俺が一番泣いていた。・・・と、琢磨が言っていた。
卒業式が終わってから、俺はすぐに約束のビルへ向かった。
俺たちは3年前、約束を果たそうとビルへ向かっていたんだ。
その途中、交通事故にあった。飲酒運転だった。そんなことどうでもよかった。
あの時確かに・・・絢奈は俺の背中を押していた。
振り向いた先には、もう車しかなくて。強いて言えば、赤い液体が飛び散っていたんだ。
ごめん、ごめんな。本当は絢奈はもっと生きれたはずなんだ。
ビルの階段を1段上がるごとに、絢奈の笑顔が、声が・・・聞こえたきがしたんだ。
『はじめまして、隣に引っ越してきた、絢奈です。よろしくね、よーすけくんっ』
無邪気に笑っていた、絢奈が
『陽介はばかだからなー。あたしに任せてればいいのっ』
そう言って、手を引いてくれた絢奈が
『ひとりぼっちはいやだよ。なんで早くきてくれなかったの!』
泣きながら自分の立場を上にしようと頑張る絢奈が・・・。
そんな絢奈が大好きだから。もうひとりになんかしない。
確かに夜景はきれいだった。絢奈が見たら喜んでたんだろう。
俺は屋上にある柵を飛び越えた。
約束は守れなかったけど、生まれ変わったときにきっと・・・。
俺は目をつぶった。落ちていく意識、きらびやかな夜景と一体化する身体。
もうすぐ君に会いに行くからね━━
果たせない約束。