ネムノキ4
相も変わらずネムノキの続編です。
彼方円花はそのキレやすい性格と反して、静かで落ち着いた空間を好んでいる。
今日も騒がしい下校の時刻を避けるため、放課後居残って自習をしていた。
(静かな場所と言うのは実に良い。集中力も上がるし、何より心穏やかに過ごすことが出来るのは素晴らしい。)
・・・・さっきから教室の隅っこで何やらごそごそしている二人の姿がチラつかなければ、の話だが。
あーもう絶対なんかろくでもないことしてるに決まっている。触らぬ神に祟りなし。無視だ無視無視。
「あっ、おーいカナちゃーん!」
(あっちから来たーっ!)
「じゃっじゃじゃじゃーん!見て見てーっ」
柊くるみがノートパソコンを開いて勢いよく目の前に突き出してくる。
「のわっっ、なんだお前は藪から棒に!」
鼻先にディスプレイを突き出され、慌てて彼方は腰を浮かせた。「っぶねーなー」
「ついに私たちの汗と涙の鼻水の結晶が日の目を見ることになったのです!」
「鼻水は・・・ちょっと、嫌。かな・・・」
笑顔満面のくるみに寄り添う様にして立ち、無表情に近い微笑を浮かべる雲雀。
「いや確かに鼻水は汚いけどまず何の話をし...」
困惑しきっていた彼方は画面を覗き込み、沈黙した。
「・・・・」
「ね!どう!すごいでしょー!ね!もー!なんか言ってよねぇったら!」
ディスプレイにはどこかのホームページが映されていた。
トップには「ひばり☆くるみの創作るぅむ」と書かれたタイトルの下に、愛らしい少女が今度はセーラー服を着てこちらに手を振っている絵がドドンと載せられている。
ただしそのルックスは「彼方そっくり」であるわけだが。
「小説と絵が溜まって来たら・・・サイトを作って公開出来るようにしようね。って・・・二人で、言ってたの。ね?」
ぽそぽそと可愛らしく、恥じらう様に話す雲雀はとっても愛らしいのだが、今はそんなことを言ってる場合ではない。
「お前ら、自分たちの妄想と願望を詰め込んだ小説絵その他諸々一般公開したと・・・全世界どこからでも見られる状況にしたと・・・そういうことでいいんだな」
冷静に、冷静にと努めながら事態を把握しようとする彼方。正直今すぐにでもブチ切れそうだが。
「うん!このトップの絵かーわいいでしょー!」
ブチッ
「っなわけあるかァッ!何でお前らはこう次から次へと人の神経を逆撫ですることをやってのける!てか何でそれを平然と私に見せる事が出来んだよ!お前らどっかおかしいんじゃねぇの!?」
一息に言い終わって、ハッとした。・・・今のは明らかに言い過ぎだ。
「わ、悪い。いや、そんな怒ってたわけではないから、そのっ、すまん!!」
机の上に置いていた鞄をひっつかんで、走って教室を出る。
(くそ・・・っ。くそッ!何だよ・・・こんなはずじゃ・・おかしいのはあいつらじゃなくて今の私だっっ!)
廊下を走る。走る。すれ違った教師がこちらに見咎めるような視線を送ってくるが、それも無視して突っ切る、走る。
視界の隅にぼんやりと、植木鉢がゆらめく。
「くそっ、どけ!この幻覚がッ」
---クラスメイトも親も教師も、みぃんなみぃんなあなたのこと
「..るさいどけッ、どきやがれってんだよ!!」
浮かんだ声も、あるはずのない植木鉢も振り切って、走る。廊下を突っ切り、行き止まりに突き当たって曲がり階段を駆け降りようとした、その瞬間
「えッ...」
階段を踏み外して落ちたと気付いた時には、彼方の身体は地面に強く叩き付けられていた。
ドシャッと、鈍い音が耳に響いた。
ネムノキ4
いい加減登場人物のフルネーム覚えられなくなってきたどうしような作者です。次も続きますよーとだけお伝えしておきます。