微妙な距離
【第148回フリーワンライ】本日のお題
君は運命の人じゃない
哀しきかな、
幸せな〇〇と不幸せな〇〇(〇〇は自由)
鬱屈
ハッピーエンドを目指した
#深夜の真剣文字書き60分一本勝負
『――哀しきかな。私の精一杯の告白は、彼の鬱屈とした表情を一瞬でも晴れさせることすらできませんでした。返事を察した私に追い討ちをかけるような彼の「君は運命の人じゃないから」という言葉で私の初恋は無惨に散ったのでした。』
「やっぱり私には恋愛小説なんて書けないわ。これでも一生懸命、ハッピーエンドを目指した方なのよ」
肩を落として、拗ねたように呟きつつ、パソコンのキーボードから手を離します。
私は恋愛小説が書けないのです。克服しようにも主人公達は、進んでバッドエンドの道をかけていくのです。ずーんと沈んでいると背中をバシッと叩かれて言葉の槍が降ってきました。
「もう、しっかりしなさいよ! というかアンタは、初恋を引きずりすぎなのよ」
容赦のない相方の言葉が図星すぎて返す言葉もありません。
「でもでも……これでも男性恐怖症と恋愛恐怖症はかなり克服した感じなのよ!?」
「はいはい、で、それは誰のおかげかしら?」
悪戯めいた微笑みで見つめられるのは、ドキッとしてしまうので苦手なんですよね。
ここは早く折れるのが吉でしょう。さっさとお願いを叶えてしまいましょう。
「ははぁ、あなた様のおかげでございます。で、今日のご所望はなんでございまするか」
「はぁ、アンタさ、その慌てたり緊張したりすると古語使うクセ、直しなさいよ。あとその瓶底眼鏡も。アンタ、可愛いんだからオシャレしなさいよね、もったいないわよ」
「……ほ、褒めても何もでぬでござるよ!?」
可愛いとか言われなれてないので、どう返事をしたものか。
それに私より遥かに綺麗な人に言われても。
「す、す、すまぬでござる」
「あー、でも変な虫がつくと、それはそれで困るわね」
「よ、よく分からぬで……じゃなくて、私には縁がない話すぎて分からないです」
「もー、そうやっていつもアンタは逃げるんだから! よし今日のお願い、きーめた♪」
満面の笑みについ見とれてしまいましたが、今日のお願い、かなり嫌な予感がしますよ。
なんだか気合いいれて言おうとしてますし。
この雰囲気は、そう、あの告白前独特の緊張感。
「アンタ、私とデートなさい!」
「嫌でござる!」
間髪いれずに即答です。無理、無理。だってデートってあのデートでしょ!?
「……いいじゃない、減るもんじゃないし」
「ダメです」
「アンタにとって幸せな出来事を増やして、少しでも早く不幸せな出来事のことを忘れさせてあげるからさ」
「……ダメです」
「そこをなんとか」
「今日はえらくしつこいですね」
少しとげついた言葉を言ってしまいました。
「叶えてくれないなら……出てく」
思い詰めた表情に潤んだ瞳でそんなこと言われると、心がざわざわします。
「……仕方ないですね。ちょっとだけですよ?」
「ありがと――愛してる」
急に抱きつかれて、耳元で囁かれた言葉。
「そ、そういうとこ、ずるいと思います! そういうときだけ男の人の顔をするでな……こほん、しないでください」
「まずは、手を繋ぐことから始めていこう?」
ゆっくりと迷いながらも頷きました。
だって、出てくって言ったとき、ズキッて心が痛かったから。
「じゃ、じゃあさ、エスコートは任せますからね。よろしく」
「あーもー、急に素直になるとこも大好き」
ほっぺに柔らかい感触が。
「待って、いろいろ今飛び越したでござるよね!?」
「そんなことないわよ。ふふっ、アンタをからかうの楽しいわ」
そう言いながら、差し出された手を私は掴んだのです。
まだ私は恋愛小説が書けない。けど、いつかは書ける、そんな気がするの。
微妙な距離