Revenge On Machine

pakisutan26

長くてすんません

Revenge On Machine

朝の陽ざしがまばゆかった。それは彼の旅立ちを祝福しているようにも見えた。

「くじけずに、頑張りなさい、ケイト」少年のたった一人の肉親である母はそっと少年の頭に手を乗せそっと撫で優しい声音で言った。

「うんっ」少年は無垢な笑顔を浮かべ笑った。

「友達もたくさん作るのよ」

「わかってるよ、もうほんと口うるさいなあ、母さんは」ぶすっとした表情を少年は浮かべた。

「ごめん、ごめん、それじゃあ、いってらっしゃい」彼女は少年にゆっくり手を振る。

「うんっ、りっぱな男になったらすぐ帰ってくるからさ、楽しみにしててよ、母さん」

「うん」

彼女はただ穏やかな笑みを浮かべ、ケイトを見送った。


旅に出て二週間後、少年ケイトはほんの少し栄えたある田舎町にいた。

「喉がかわいた、死ぬ…」ぜえぜえと今にも死にそうな顔をしていた。

旅をするにもお金が必要なのは当然である。しかし、彼の持っていたお金はもうすでに底をつきかけていた。道中、寝ている間に盗賊に金を盗まれたのだ。よって彼はお金を稼ぐために、この町の集会所に行き依頼を受注しようと考えていた。そして、そこでどんな人に会えるだろか、そんな期待もまた募らせていた。

ドアノブにゆっくりと手をかけ、ぐっと前に押す、カラランと鈴の音色を響かせ、ケイトは集会所に足を踏み入れた。
がやがやとしている集会所内、僕一人が入ってもだれも気付かないようだ。
だれかいろいろここのこと教えてくれる親切な方がいてくれると助かるなと思い、あたりを見回す。う、イケてるやつらばかりじゃないか。ど、どうしよう場違いなんじゃないか。不安と焦燥感が僕に押し寄せる。

ぼくは人見知りだった。

学校にいたときも女子に話しかけることもまるでなかった。田舎のある魔法学校、そこで僕はあらゆる魔法を学んだ。水魔法に、雷魔法、炎魔法、ありとあらゆる様々な魔法を学んだ。だが、僕は炎魔法が少し、操れる程度だった。そんな僕に自信などもてるはずもなかった。

だがこの旅で、僕は一回りも二回りも大きくなってやるんだ。そう意気込み近くの妖艶なお姉さんに話しかけてみた。

ぼくはおねえさんの腕をちょんちょんと触り、あ、あっぼくここ初めで、その、あの、ここのこと、いろいろ教えてくれませんかっ?と少しどもってしまった。挙動不審気味ではあったが話しかけることができた。

するとおねえさんはぼくをじっくりなめまわすように見、
「あらそうなの、いいわ、いろいろ教えてあげるわっ」と優しく答えてくれた。

よかったあっ。僕は心の中でガッツポーズをした。

そして彼女はぼくにたくさんのことをおしえてくれた。依頼の受注の仕方や、食べ物屋さんのこと、飲み場、武器屋、パーティーの作り方、いろいろ教えてくれた。

彼女に集会所を案内された後、ぼくは飲み場の座席で一人ぐったりとしていた。「はあ、パーティーねえ」やっぱり強い人と組んだほうがいいのかなあ?でも怖い人とかはいやだなあ、そんなことを考えていた。

「そうねえ、やっぱり信頼できる人間がいいわよねえ」と彼女は言った。

「信頼できる人…ですか…」そんな人いるのだろうか。集会所の中、あたりを見わたしても、派手な格好をしたいわばイケてる奴らばかりであった。その群衆の中に誰かひとり、ぐでっと、倒れ込んだ人を見かけた。

見るからに女性である。運命の予感を感じた。もてない男の勘。

ぼくは急いで駆け寄った。「ちょっと、君―」と心なしかお姉さんの声が聞こえたが、倒れている彼女がどうしても気になり「お世話になりました」と勢いよく言い、倒れている彼女に駆け寄った。近くで見るとほんとに美しかった。ちらっと見えた足は僕を興奮させた。彼女はどうやら寝ているようだ。酔いつぶれでもしたのだろうか。こんなところに女の子一人置いておけない。
よしとりあえず宿屋につれて行ってあげることにしよう。それくらいの金ならある。

彼女を担ぎしばらく歩いて近くの宿屋についた。宿屋のおばちゃんにこの子をよろしくというと、「あら大胆ね、あなた」なんて言われた。

「え、ああ、違いますよ」と軽く笑いながら受け流した。

夜もかなり更けている、僕もこの宿屋で寝るか。



「う、うーん、眠たいなあ」あくびをしながら僕はふかふかのベッドから目をさました。

彼女はどうしているだろうか?宿屋のおばさんに聞いてみよう。

聞くと、「彼女ならもう出て行ったわ」とおばさんは言った。「お礼もないのか」と言いたははと苦笑いをした。
まあ元気ならいいか、そう思った矢先のことである。

凄まじい爆音が聞こえた、それと同時にあたりは真っ赤な炎に包まれた。目の前にいたおばさんのからだは真っ赤に燃えていた。

「は?」なんだ、これ?

「きゃあああああああああああ」おばさんはおぞましい叫び声をあげる。

何が起きたかさっぱりわからなかった。

ただただ走った。走って、走って逃げた。なんだ、なんだ、これは、意味が分からない!上のあれはなんだ!

逃げて、逃げて山の上の崖から見た景色は正に地獄絵図だった。ぼくはこの現実をまだ現実として認識していいものか疑ってさえいた。


―10年後-

「あいつだ!!捕まえろ!!」怒号が暗い地下トンネルに響く。

「ちっ、ばれたか」

「いたぞ!!撃て!!む!?あのガキ、どこに消えやがった!!」

ポチョン、
「む!そこかっ!」

「ばあか、こっちだよ」

「何!」

瞬間、少年の強烈なパンチが男の腹にヒットする。男は気を失い倒れた。そして男の仲間たちは即座にそこから逃げ去っていた。
「フンッ、腰抜けどもが」少年はイラついた様子で透明のマントを脱ぐ。

「帰るか」

あたりに誰もいないのを確かめ、少年が「hack」と唱えると、何もない空間から歪みができ少年はその向こうに行った。

時空の狭間、そこには、magic(魔法)を使う人々の大陸が広がっていた。そしてそこの王都、王室で一人の少年と王の証である冠を被った一人の好々爺がいた。

「ケイト、あの世界はどうであった?」

「王、やつらの侵略は今もとどまることを知りません」

「そうか…」

「戦争しかありません!」少年は大きな声で叫んだ。

「確かに、それしかないのかもしれん、しかしやつらのキカイの力、あれは計り知れんぞう、実際その力によってわれわれは禁術の魔術を使うまでにも追い込まれたのじゃよ」

「ですが!!」

「落ち着くのじゃケイトよ、わかっておる。実は方法が一つあるのじゃ」

「えっ!何ですかそれは?」

「やつらの力を操るのじゃ、キカイを、あのキカイ神を」王である一人の好々爺が神妙な面持ちで答えた。

「しかし、いったいどうやって?」

「それができるのはある一族に限る」

「まさか…」

「そう、魔女じゃ」王は答えた。

「魔女、ですか…」ケイトはうつむき、続けて言った。「しかし、魔女の一族は10年前のやつらの襲来ですべて滅びたと聞きましたが」

王はうなずき、言った。

「そうじゃ、だがおぬしがあちらの世界で調査している間に、水晶の探知でたった一人、魔女の反応があったのじゃ」

「ほんとですか?」ケイトは驚き、王の顔を見据えた。

「そうじゃ、おぬしにはその魔女を見つけ、そしてこの世界を救ってもらう」

「ハッ!しかと承りました」ケイトはお辞儀をしながら言った。

「苦しい旅になるであろう、しかしおぬしならきっと乗り越えていけるはずじゃ」王は言った。

--旅を始めて数十日--
少年はキカイが侵略する西大陸の都市にいた。
それにしても案外、ここにいる人間はこんな格好である私を案外気にしないものか、しかしたまに鉄の塊のようなものをこちらに向けて、光を放ってくる。いったい何なんやつらは。それもこれもキカイのせいなのか?

今思ったがどうすれば魔女が見つかるのだろうか。

少年は途方に暮れて苦笑いを浮かべた。
この世界にはどうやら人間が存在してるようで存在していない。それは、ここにいる人間は極端に個性がない、というよりも奪われているのである。
どうやら彼らは現実というものをすべてロボットにまかせっきりなのである。そして外にいるものは少ない。そして彼らは感情なんてものはあるように見せてるが、なにか「しなければならない」というようなものに従っているだけな気がしてならない。

キカイを持った世界の人間。

これは必然なのかもしれない。

ぼくはあらためて決心をした。

この世界からやつらを消し去ろう。そして綺麗にするのだ。やつらはキカイの毒を受けた人類であるから。


ケイトはビルが立ち並ぶこの都会の町で一人思い悩んでいた。それは服装を変えるか否かであった。

だが、しかし彼には少し抵抗があった。理由は当然、復讐しなければいけない敵の服を着るのは、彼にとって屈辱以外の何者でもなかったからだ。

しかしこのままの格好だと敵の警備にばれるのも時間の問題であった。
「く、仕方ない」とケイトは開き直り、服屋を探すことにした。

しばらくして、彼はそれらしいところを見つけた。
「あった」と声に出して彼は言った。
ウィーンと自動ドアが開く。ビクッと少し彼は体をのけぞらした。「やはり、慣れないなあ、この大きな開く窓」
店内に入ってみるとたくさんの服が置いてあった。彼はなんでもよかったので適当にチョイスをしたのだが、レジに向かう前にロボットがこちらにやってき、「アナタサマ二二アウフクヲワタシガエラビマショウ」と言ってきた。
なんだこいつはと思ったが、とりあえず「よろしく頼む」とお願いした。

しばらくするとロボットが近づき「キマリマシタ、コレデス、ドウゾ」とだけ言い、服をこちらに渡し、所定の位置にもどっていった。

どんな服か見てみると黒のシャツに黒いコート、そして極み付けに黒いジーパンであった。
なんだ、これ真っ黒じゃないか、結局目立つじゃないかと思ったが、まああの冒険服よりはましであろうと思ったので、とりあえず買うことにした。お金は錬金術で何とでもなったので、気にならなかったというより最初から変装服くれ。

そして彼はしばらくこの町に住みつくことになる。

一方、そのころ…魔女は。

整ったインフラ、便利なキカイ、何もしなくていい自由、最高じゃない♪

ひとりの少女がベンチでクレープを食べていた。

あ、そういえば、他の魔女はみんなやられちゃったらしいけどバカよねー。ばれないようにこそこそ逃げればいいのにね、ははは♪

突然、彼女のうしろからひとりの怪しげな男があらわれる。

彼女は驚いて後ろを見る。男はゆっくり口を動かし、

「魔女、いまあなた魔女といいませんでしたか?」

「えっ、あ、いやなにもいってないわよ、あははは」彼女はごまかすように笑った。

「ほーう、何も言ってないねえ…」男はニヤリと笑った。

「ちょっと、こっち来てくださいよ」男が彼女の腕をつかもうとしたとき、

彼女は驚き、さわらないで!と彼の頬をひっぱたいた。男は、なにか驚いている様子であった。

その時、警備兵が「なにかありましたかっ」と言い、近づいてきた。

それから、男は走って逃げて行った。

あの男、どこかで…

少女は思った。


「あの女の人、やっぱりどこかで…」路地裏で一人ケイトはつぶやいた。

いや気のせいか。

そう思った矢先、ビシュンッと何かがケイトの鼻先をかすめた。そのなにかの向かった先を見ると壁に何か貫通した後のようなものがあった。
「これは…」

「光線銃だよ」冷たい声音がケイトの後ろから聞こえてきた。

ケイトは振り返り、その男の顔を見る。ぱっと見、年は20もいかず、端正な顔立ち、髪は長髪でもなく短髪でもない。どこかさわやかな印象を受ける。しかし目の奥はどこか死んでいる。そんな印象を受けた。

「君はここの住人じゃない」その男は言った。続けて何か言おうとする前に、

「それはこっちのセリフだよ!」と言うと同時にケイトはその男との距離をすぐに詰め、短刀で襲い掛かる。

そしてケイトはその男の腕を切り落とした。と思った。

しかし彼の腕はケガ一つない。そのかわりにガキインッと音が甲高く響いた。鉄の音だった。

「鉄の腕…だと?」ケイトは目を見開いてその男をみた。

「いや正確には…」男は服を脱ぎ、

「体すべてだ」といった。

まさにその通りで彼の体はすべて鉄でできていた。ただ顔だけが人間らしさを残していた。

「なんだよ…これ」ケイトは驚かずにはいられなかった。それもそのはず、彼にとってキカイとは所詮、悪魔でも人間の道具でしかないと思っていたからだ。

「どうだ?驚いたか?これが俺たちの世界だ」

「はっ、ついに人間をやめたのか貴様らっ!」

「違うな…おれは、おれたちはれっきとした人間だ」

「人間ねえ…」

「だがそもそも人間とは何か、生きる意味とは何か、という話になってくるのだが、これらに関してはどうしても断定できない、ただわかるのはこんなことを考えるのは、僕たち人間だけだということだ」

「それで、キカイにすべてを託したってのか?」

「ああ、そうすれば私たちは救われるのだ」

「ふざけるな!!そんなキカイに盲従したおまえらのせいで俺たちの世界はうばわれたのだ!」

「すべてはキカイの意思なのだ!」「貴様らは消える運命だったのだ!」

「なにがキカイの意思だ!ふざけるな!」「ただお前たちは考えるのを放棄しただけだ!」

「貴様らに何がわかる!おまえたちの世界は文明が浅いからそんなことが言えるのだ…いずれお前たちにもわかるはずだ、そしてキカイはそうなる前にお前たちを救ってくださったのだ」

「いや、おれたちはけしてキカイなんぞに頼らない」「この力でな!」瞬間、ケイトの腕から赤い炎が勢いよく噴射した。がしかし男は軽々しくその炎を躱した。

「これが魔法か…厄介だな…」男はつぶやき、体を大きく広げ、そして瞬間、体中のガトリングから無数の銃弾が花火のように吐き出された。

「は…ちょっ、ふざけんなあっ」ケイトは最大の力で防護バリアを体の周りに張った。銃弾をはじいても、はじいても、また次の銃弾が来る。少しでも防護バリアを緩めれば、ケイトの体を銃弾がぶち抜く。

数分間銃弾を防ぎながらケイトはどうすべきか考えあぐねていた。がケイトはひとつ考えが浮かぶ。

「よし…」そしてケイトは防護バリアを片手だけの負担で銃弾を防ぐ。そして腰の鞄から、煙幕玉を取り出し、投げる。路地裏一体が白い煙幕で覆われる。

「ちっ…やつめどこにいきやがった」男はキカイの力を使い、ケイトをサーモグラフィーで探る。そしていとも簡単に見つける。
「キカイの力をなめるな!」銃を構えようとした瞬間、グンッと男の体が引っ張られケイトのほうに引っ張られる。
「な、何」

「ぐっ…ああああああああ」

やがてケイトの腕にキカイの少年は吸いついていく。ブンッとケイトはその腕でその少年の腹を右手でぶち抜く。
「がはっ」少年は5メーターほど吹き飛ばされた。「なんでっ…」少年はケイトの顔を見上げる。

「簡単だ、君は鉄だろ?だったら磁石を使えばいい」

「だけど、貴様は磁石なんぞ、どこにも…」

「魔法にも種類がある…でもって磁石魔法ってものもある、つまりさ…」

「ほう、なるほど…で、どうする、おれを」

「それはもちろん…殺すよ」

ケイトはためらいもなく言い放った。

短刀で少年の首を掻っ切ろうとする。が、寸前で止め

「と、言いたいところだが、君にはいくつか聞きたいことがある」

「まず、魔女はどこにいる?」

「魔女だと?なぜそんなものを探している?」

「聞いているのはこっちだ!答えろ、さもなくば貴様の首掻っ切るぞ!」

「ほう?ついに死ぬのか、ずっと生きながらえるものとおもったが案外あっさり殺される羽目になろうとはな、ハハハハハハハハ」狂ったように笑った。

「貴様、何年生きてきた?」ケイトは聞いた。

「たったの50年だ」「この見た目はキカイに魂を売った結果さ」

「ほかにも、お前らみたいなやつはいるのか?」

「いるよ、だけどそんなに数はいない」

「ウッガアアアア」少年は突然苦しみ始める。

「な、なんだ?」

少年は苦しみながら答える。

「どうやら、しゃべりすぎたようだ…ふんっ」

少年の体の中心のランプが赤く光る。

「ちっ、自爆装置か」ケイトは素早くそして高く飛び、建物の上にひょいと乗り、素早くキカイの少年から逃げていく。

路地裏の中、少年は思い出していた。キカイのことも知らずただ草原で愛犬と遊んでいた、ただ穏やかで平和なあの頃のことを…

「こんな世界…俺だっていやだよ…死にたくねえ…生きてえよ!」少年の目から涙はもう出ない。

「くそっ…一体どこで狂ったんだ…」

ズドオオオンと爆発音が響き少年の体は跡形もなくなった。


静かにケイトはビルの上で歯噛みした。

「うーん、どうしようっかね」ケイトは一つの考えが浮かぶ。

やはり、やつらに頼るしかないか。だがケイトにはためらいがあった。

とりあえず…ここから離れよう。

ケイトは休むことにし、このキカイ都市エレクトロニクスから離れることに決め、ここから南、まだキカイによって開発されていない土地、アンダルシアに向かうことにした。ある場所を目指して。

「やつらに頼るしかないか…」ケイトは少し苦笑いを浮かべ、足早にビルをまたぎ、都市エレクトロニクスを離れていった。


「きゃは、パフェ美味しいい」両手を頬にあて、そして目にハートが浮かんでいそうなほど幸せな顔をして騒いでいた。

「ミーレイ、食べ過ぎちゃだめよ」魔女ミーレイの友人エリサは半狂乱のミーレイに心配そうに言った。

「平気、平気、私ってばまったく太んないし」

「確かに、こんなに食べてるのに本当に太んないよねミーレイは」「羨ましいなあ」

「でしょお?でもさーエリサもすごいナイスバディじゃん」

「あたしはあんたと違って、努力してんの!」

「ハイハイ、わかった、わかった」

彼女が太らないのには理由がある。それはずばり彼女の体質にあった。彼女は魔女である。魔力を消費することによってカロリーを消費するのである。

錬金術で金を作り、バカ食いをする。彼女の生活サイクルはこんな風に回っていた。しかし、はじめから彼女はこの生活をこのキカイの世界で送れていたわけではない。

キカイの世界からの襲撃をまぬがれたとはいえ、彼女はピンピンしていたわけではなかった。食べ物もなく、魔力もなく、浮浪児のようにこのエレクトロ二クスにさまよっていた。

だが、そのキカイの世界にも希望はあった。

ある雪の降る日、傘をさしている一人の可憐な少女が路地裏を歩いていると、二人のチンピラが現れた。

「なに、お兄さんたち?」幼いその子は不思議そうにチンピラたちの顔を見た。

「おいおい、そこのお嬢ちゃん、どこの子だい?」チンピラはニヤリと笑い彼女の腕をつかもうとした。

「やめろ!」もう一人の少女が路地裏の奥から、声をあげた。

「あらら、こんなところにもう一匹カモがいるじゃあねえか」

チンピラたちは一同に、笑い声をあげる。

「カモ、それはどうかな?」

そして、その少女はにやりと笑みを浮かべる。そして言い放つ。

「貫けっ、アイスニードルッ」瞬間、氷の槍が男たちの胸にめがけて発射した。

「なっ…」男たちは声をあげる間もなくぐしゃりと胸を突かれ倒れた。

しかし、その少女には体力が残ってないようだった。

「もうげんか...い」と言い残し、バタッと倒れてしまった。



朝の木漏れ日が窓を差していた。

「うん……ここは…」魔女ミーレイが深い眠りから目を覚ます。

足の上には、なにかが乗っている感覚があった。

「うん…?」彼女は目線を自分の足元に落とす。

そこには一人の可憐な金髪の女の子がいた。スヤスヤと、しかし彼女の目元には涙のあとが残っていた。

「ふふふ、私の看病してくれたのね」彼女は微笑んだ。

ということは、わたしは彼女に助けてもらったのかしら?

ミーレイが起きた振動のせいか、その可憐な少女は
ピクリと体を動かし、ふわああっとあくびをしながら、目を覚ました。

「うん?あっ、良かったあ!目が覚めたのねえ!」

少女は笑顔で言った。

「お腹がすいたでしょ?つくってあげる!あなたが眠っている間に、栄養剤とかは注入しておいたけど、やっぱり手作りのほうがきっとすきよね?」

「ええ、まあ、てか栄養剤ってなに?」

「ほら、手首みて!手首!」 

「手首…?」そして彼女は自分の状態にやっと気づく。

手首には針が刺され、ベッドの横には点滴が置かれてあった。

「きゃあ!なにこれ!」彼女にとっては初めての体験であったために驚いた。
あわてて抜こうとするミーレイ。

「だめよ!抜いちゃ!それは大事なものなの、抜いたらあなた死んじゃうかもしれない」

実際は抜いても死んだりはしないが、彼女はミーレイを心配して大きな声で言う。

「ほ、本当に?」

「う、うん、たぶん、おとーさんもおかーさんもいってた」

「そ、そう」なぜかほっとした。彼女には無条件で信用したくなる何かがあった。

心を落ち着ける。

「あ、あの1つ聞いていい?わたし、どうしてここで寝てるの?」

「あなたが私を助けてくれからよ!あの怖い人たちから!」

「あ、そうだった」彼女は思いだし、そして気づく。わたし、魔法使っちゃった。

しかしあのときは無我夢中でいつの間にか彼女を救おうと必死だったからだ。

「あのさ、あのとき使ってたのって魔法だよね?」

ミーレイはやっぱりばれてたかという顔をする。

「お父さんにね、魔法を使う人は悪い人だから関わっちゃだめって言われてたんだけどね……」

「だけどね、違った、あなたは私を助けてくれた」

「だから…その…ありがとう」彼女はひまわりのような無邪気な笑顔を咲かせた。

「だから、アレはふたりだけの秘密よ」

「ねえあなたの名前は?」ミーレイは聞く。

「エリサよっ」

「キレイな名前ね」

「ありがとうっ」エリサは再び綺麗な笑顔を見せた。


ケイトは南の都市アンダルシアに向かおうとしていた。

ケイトは車が乗れない。バイクももちろんである。よって、船や汽車に頼ることとなる。

そしてこの世界にはキカイ汽車というものがあった。

その汽車の操縦、統制、なにもかもすべてはキカイの手によって委ねられる。

ケイトにとってこのキカイの汽車に頼るのは尺ではあったが、移動手段がこれしかないので、やむを得ずこのキカイの汽車に乗ることに決めた。

この汽車、塗装は真っ黒、そして巨大であった。
ケイトもその迫力にゴクリと息を飲んだものだ。

しゅぽうと汽笛が鳴り響き、ガタンゴトンと音が鳴り響く。

ケイトは窓から外をぼんやりと眺めていた。

「変わってしまったな、この世界も、あの頃はこの辺も緑でいっぱいだった」
ケイトは世界をキカイの世界に奪われたことを実感し、悲しげな顔をした。ケイトは感慨にふけっていた。


ふと、ケイトの視界に全身真っ黒の兵士服を着た将校のような二人の男が写った。その男たちは乗員たちに事情聴取のようなものをしながらこの電車を巡回してるようだった。

「まさか…やつらは…」

「俺の追っ手…?」

だとしたらまずい、どうにかしてやり過ごさなければいけない。

やはり透明マントを使うか?だけどここであれを使うと余計に目立つ。どうすべきか模索する。そうこうしている間に二人の男はこちらに近づいてくる。

「まずいな…」空間移動をするか……マナの消費が激しいが、この場合はやむを得ない、ケイトは空間移動を試みる。

が、しかし一歩遅かった。

「手を挙げろ、そこのお前」

ケイトの頭には拳銃がつきつけられていた。

「手を挙げなかったら…どうなるんだ?」ケイトはニヤリと狂気にも似たような笑みを浮かべる。

「そりゃ、もちろん…死ぬだけだ」大柄の男は周囲の乗客を気にせず、躊躇いもなく、あっさり引き金を引いた。

パン!!と銃声が鳴り響く。

ケイトの頭から血がダクダクと溢れる。

「ちょ、アニキ!そいつを殺しても良かったでやんすか?キカイ様からの指示は捕獲でやんすよ」

「うるせえ、あんなやつとっとと殺したほうがいいんだよ、魔法、だったか?その魔法とやらで何かされちゃ困るからよ」

「ありがとうございます!!」乗客の一人が近づき、その大柄の男に礼を言った。

「礼なんかいらん、だがおいっ!おめえは誰だ?」

「なあに、ただの魔法の世界の住人ですよ」
その乗客らしき人物はニヤリと笑い、魔法を唱える。
「ダスト!」と言った瞬間、その大柄の男ともう一人の細身のからだの男の視界が真っ暗になる。

「がっ…」大柄の男は身悶えた。

視界が開けた瞬間、見えたのは、気を失って倒れている乗客。自分のからだは何か見えない何かに縛られていた。

もう一人の細身の男は眠ったように気を失っていた。
「ちっ…侮ったな」

「そうだろ?魔法の力は偉大だ、しかしこれらはすべて俺自信の手で手にいれたものだ、所詮貴様らはキカイの力に頼っているだけの屑なんだよ!!」

「ほう…まあ侮ったというのは貴様らのことをいったのだがね」

「キカイの世界にはなあ、特定の人間にはキカイの特殊能力ってものがあたえられるんだよ…」

大柄な男のからだの回りから鋼鉄で出来たような腕がどんどん生えてくる。
1本、2本、3本、4本と数は増していく、最終的に10数本の腕がその男のからだからどんどんと増えていく。
そして男はフンッというとケイトの魔法によるからだの縛りをパリンッ言わせぶち壊す。

「うそ…だろ?」ケイトは驚きを隠せない。

「俺の能力は…そうだな、名付けるなら千手観音てとこか?」

「おいおい、キカイ様ってのはバケモンなのかおい?」ケイトは言った。

「バケモンねえ?こっちにとっちゃお前らのほうがバケモンだよ」その大柄の男は自嘲気味に笑った。

「千手観音…大層な名前じゃねえか…こちとらおまえらの文化なんぞよく知らんが」

「まあ、千本も生えてはないが…ふっしかしお前を殺すにはこの数で十分だよ!」

数十本もの鉄の手がケイトに襲いかかる!

ケイトは体をよじらせ、かわす。またかわす。1本、2本、3本、4本とギリギリのとこでかわす。

ケイトにとって、この程度の攻撃は、魔法の国での鍛練のおかげで朝飯前であった。

「だが…これならどうよ?」

次の瞬間その数十本の腕が同時にケイトめがけて迫ってきた。

「防護シールド展開!」

ギンッと音が鳴る。

防護シールドをはり、ケイトはなんとか男の攻撃を防いだ。

「そんなヤワなシールドで大丈夫かぁ!?」

突然キカイの腕は攻撃をやめたかと思うと、シールドに乱打、乱打、乱打のタコ殴り。

「チッ…クソっ!」ケイトは防護シールドを強めるために、歯を食いしばる。

ガンガンガンガンと防護シールドを叩く数十本の鉄の腕の激しい攻撃を防ぐ、しかしそれも長くはもたず、3分もたたないうちにパリンッと音を響かせ、防護シールドをぶち壊した。

そしてケイトに数十本の腕が襲いかかる。ケイトはかろうじてかわすが、3本目の腕をかわしたあと、4本目の腕がケイトの腹にクリーンヒットした。

「ぐふっ!」ケイトから声が漏れる。

そしてまた、もう一本の腕がケイトの顔面をぶち抜き、ケイトは吹っ飛ばされた。

ここは、汽車車両。ケイトの体は2枚もの車両の扉をぶち抜くことになった。そして、ふっ飛ばされたさなか、火事のために置かれた消火器が抜かれ、あたりは真っ白になった。

「が…がはっ…ざけんなよ…クソっ」ケイトはうめきながら愚痴りだす。

「まあ、気にすんなよ、俺はこのキカイの世界でもかなり強いほうだ、おまえが恥じることはない、だから、潔く諦めな」

「ふざけんな…ここで終われるかっ!」

それからケイトは手から炎をだし上の屋根に大きな穴を開け、ひょいと電車の上に飛び乗る。

「上か?逃がしはしないぜ」と大柄な男は言い、【千手観音】の力で車両の天井に穴を開け、数十本の腕を巧みに扱い、屋根の上にのる。

「どうしたよ、こんなところに来てよぉ」大柄な男はケイトににやつきながら言う。

「あんたの力、外なら、使いづらいと思ってな」ケイトは冷静な顔をして言った。

「ほおっ…少しは考えたな」

「だが、この足場の狭いここでも君の不利は変わらんぞ」

ケイトに鉄の腕がまた襲いかかる。

その腕が、ケイトを捉えたと思ったかに、思われた。

だが、そのケイトの姿はゆらゆらと消えゆく。

大柄の男は慌てて、後ろを向こうとする。が自慢の鉄の腕は前方のケイトとおぼしきものに向けていたため、大柄の男の背中はお留守の状態であった。

「死ね」とケイトが言うと、大柄の男の背中には魔術の紋様が浮かびあがった。爆発。

真っ赤なマグマのようなものが男の体を燃やす。

「てめえどうやって…」大柄の男は苦しみながら言う。

「どうやってか…おまえが天井ではしゃいでるときに俺は必死に、下で走ってお前の開けた穴を通って来たんだよ」

「なるほど…そういう……ごくろうなこった」

「がしかし、とんでもなくあついなあこれ?」男はタバコを吸いながら言った。

「そりゃ、どうも」

あのとき消火器をぶっこわしてなかったら、どうなっていたか。そう思い、ケイトは一息つく。

そして、しばらくし、男はバタリと倒れ、死んだ。
キカイ汽車の音が甲高く響く。車内にもその音は明瞭に聞こえる。
車内は整然としていた。なぜかというと、ケイトが乗客全員を睡眠魔法にかけ、眠らせていたからである。
この睡眠魔法の効果は二時間と持たないが、南の都市アンダルシアに行くまでには十分余裕な時間があったので、ケイトは特に気にも留めなかった。

ケイトは倒れこんで眠っている人には目もくれず、とある昔の書物を読みふけっていた。

その書物は魔法世界magicaの書物であった。

そのとある書物の一節に、こんなものがあった。

「やつらの持つキカイの力は我々の聖なる領域を犯すであるだろう」

この書物はあの大柄の男から奪った物であった。
この書物はケイトの炎で焼けただれていたこともあるが、いつの時代のもの、誰が書いたものであるかもはっきりしないほど古く、難解な物で、読むには、魔法世界でも教養がある方であったケイトにも難しく、その一節以外解読は不可能であった。
だが、その書物が、魔法世界magicaのものであるとははっきりと認識できた。
なぜならその本の分厚い表紙にはクロス十字が描かれてあったからである。
そのクロス十字が示すものそれは、魔法世界magicaそしてその王国、セイントワイズの紋章にほかならなかった。

そして、魔法世界magicaがキカイの世界について認識したのは侵略された、ここ十年間の間であるはずであった……

ぶおおと鈍い音が鳴り響く。汽笛が目的地の到着を報せるように鳴り響いた。
ケイトは目的地であるアンダルシアに到着していた。だが、彼は街をゆっくり見渡すこともなく、足早にここアンダルシアのとある場所に向かった。
「うまくいくといいが」ケイトはその目的地に行くに際してある不安を抱いていた。

 屋根から屋根へと、俊敏な動きで跳び移りながら移動する。その姿はさながら獲物を追うハイエナのようである。移動し始めて三十分ほど経った頃、美しい樹海が見えてきた。ケイトが目指していた目的地である。
「やっと着いたか」額から溢れる汗を右手の甲で拭いながら言った。
 だが、この樹海には大抵の人間は入ることが許されない。門があって門番に止められるとかそういうことではない、強力な結界魔法が張られているのだ。
 つまりこの樹海には魔法世界の住人が住んでいるのだ。魔法世界がこの大陸に存在していたころから張られていたこの結界の為に、この森林一帯もキカイ世界の人間からの侵略を免れていたのである。

しかし、この結界にも侵入できるほどの力がケイトにはあった。
両手を広げ結界侵入の魔法を唱える。
「我、主らの鍵となりて、扉を開かん」

結界の膜をするりと入るケイト、だが、問題はこれからにあるのだ。ここの住人たちが、ケイトを敵を見なすかもしれないということだ。

 滝で水を汲んでいる一人の少女。ピクッと体を揺らし「なんだ?誰かがここに入ってきた?」一人の少女が異変に気づく。おさげに黒髪、焼けた肌、なにより整った顔立ちをしていた。名はカヨと言う。

「族長に知らせなきゃ」言いながらカヨは駆け足で駆けていった。

 赤、青、黄に緑、色彩豊かな果実の数々。まさに山紫水明の言葉を表すにふさわしい自然、キカイに支配されている地域では見られない魔法世界固有の動物、植物系がたくさんあり、ケイトは安心感さえ覚えていた。
しかしそれも束の間の安息であることは言うまでもなかった。奥に進むにつれて騒がしくなるどころか、静けさが辺りを包むようになり、ケイトは緊張感を持ちながら歩いていた。

 髪を後ろに束ねた二十代前半頃に見える男は一人、樹海のなかでも一際大きな木の上で、歩くケイトを視界の中に捉えていた。
「そいじゃ…どんなもんか見せてもらおか」その男は指をパチンと鳴らす。
 十数人の男が閃光のように無音で散る。

「来たな…」ケイトは戦闘の達人と言ってもいいほどの実力を持っていた。だからこそ彼にはわかった。ここに近づく敵の戦闘力の高さ、異常さを。

やがて開けた場所に出た。その場所の周りは森林に囲まれ、まるで闘技場のような地形になっていた。

「ここでやろうってか…」ケイトはニヤリと笑った。
 瞬間、民族服を着た一人の男が突然現れ、ケイトに素早く右ストレートを放つ。だが難なくケイトはかわす。続け様に右、左と交互にケイトの顔に向けてジャブを放つ。ケイトはなんとかこれもかわしつづける。そして、次のパンチが来た時、ケイトはそのうでを掴み、体の勢いを利用し男の体をひょいと背負い投げのように、投げ捨てる。
だが、その次の瞬間また同じような民族服を着た男がケイトを襲う。その男は蹴り技を中心として、攻めてくる。
「俺の力を…試しているのか?」
ならば、とケイトも蹴り技で応戦する。相手が右のハイキックをケイトの顔に向けてかますと同時にケイトもハイキックで相手の顔にハイキックをかます。コンマ何秒かの差でケイトのキックが先に男の顔面にヒットし男は五メーターほど、吹っ飛ばされる。

そこでそのケイトが倒した男の仲間であろう民族服を着た人間達が全員出てくる。そして全員でケイトを襲おうとする。

まずい、この人数は…とケイトが思った瞬間、長い髪をまとめたスカした男が上からその民族服を着た男達の前に表れ、手で彼らを制止する。

「悪いねえ、君の実力がどんなもんか試してみたかったんだよ、救世主くん?」男はニヤリと笑い、言った。

「救世主?」ケイトは真意を問うようにその長い髪をまとめた男に言った。

「そ、君は俺たちアロイ族の間じゃ有名なんだよ、あのキカイの世界のやつら相手にケンカ売ったんだろ?」

「それで、俺の実力が見たかったってか?」

「ま、そんなとこかな」

「にしても君強いね、あっけに取られちゃったよ、あの二人はおれたちアロイ族のなかでも10本の指に入るってのに」男は苦笑いを浮かべる。

「大したことじゃない」ケイトは謙遜ではなく、本当にそう思っていた。

「嫌味だね」男はハハッと笑う。

「ねえ?俺と一発手合わせしない?」

「なんの意味があるんだ?」

「俺が君と戦いたいと思っているからさ!」

男はケイトに向かって、瞬時に距離をつめる。
そのスピードは尋常ではなく、おそらく身体強化系の魔法だろうとケイトが瞬時に考えを巡らせたが、避けるすべもなかった。

ケイトは避けるのを諦め目を閉じる。だがケイトの体には何のダメージもなかった。
目を開き、そこにあった光景。

ケイトにめがけて殴ろうとしている男の腕が一人の筋骨隆々の老人によってガシッと腕を掴まれ、男の体がピクリとも動かないというような異様な光景であった。

やがて「このバカ野郎があああ!!!」ということばと共に男は筋骨隆々の男に足を掴まれ、ブンブン振り回され、どこか樹海の遠くに吹き飛ばされた。

その際その長髪の男は「このくそじじーーーーい!!!!」と吹っ飛ばされながらも言っていた。

筋骨隆々の老人が、ケイトの方を向く。ケイトは少し萎縮する。

「悪いねえ、うちの族の問題児なんだよ、あいつは」

「いえ、気にしておりません、あなた様は?」

「ああ、申し遅れたな、ワシはここの樹海の住人、アロイ族の族長バハットじゃ、よろしくな」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

「そうじゃ、カヨっ、カヨっ、お主も挨拶せぬかあ」
奥の木陰でこちらを見る一人の少女がいた。

「悪いの、つくづく無礼なやつばかりで」

「構いませんよ、子供なんですし」

「年をとってもバカなやつもおるがな」そう言ってバハットはハハハハと笑った。

「まあ、奥の方でゆっくり話そうじゃないか、ついてきい」

「はいっ」とケイトは答えて、彼の背中を追った。


バハットのの背中を追い、ついた場所はアロイ族の集落だった。いかにも原住民族が住んでいそうな木造の家が森の木と一体となり不思議な形を成していた。

「ほれこっちじゃこっち」

バハットの手に招かれついていき、集落の奥へ奥へと進む。やがてひときわ目立つ大きな集会所のようなものが見えてきた。煙突からはもくもくと煙が出ていた。

「ここじゃここ」

樹皮でできた暖簾をよけ、バハットはその集会所に入る。続いてケイトも入る。

中には大勢のアロイ族の人間であふれかえっていた。何人かキカイの世界への愚痴、魔法都市への失望から出る愚痴を時には怒りを放ちながら語っていた。

そしてケイトが入ると同時、けして歓迎ムードとは言えない鋭い視線が彼に向けられた。

「おい、族長の後ろのあいつだれだ」

「知るかよ」

「ちょっとちょっかいだしてみっか」男はナイフを取り出しヒュッと空を切るように投げる。

ナイフはケイトの後頭部に向かって突き進む。ケイトは何の反応も示さない。

「あ、やべっ殺っちゃった?」

しかし、当たる直前、防護シールドがあらわれギインと音がし、そのナイフは地面に落ちた。

「なんだあいつ....」男はぽつりと言った。


「よっこらせっと」バハットはため息ながらに椅子に腰を下ろす。

「すまんな、うちの族のモンが君にちょっかいばかりかけて」

「いえいえどうせこうなるだろうと思ったんで」

「それにしてもここは賑やかでいいですね、キカイ側に支配された同じ大陸とは思えませんよ」

「そうじゃろぉ、ご先祖様のおかげじゃ、感謝感謝」言いながらバハットはグビグビと発泡酒を飲む。

「ほら、おぬしももっと飲め飲め」

「い、いえ、僕お酒はあまり飲めないんですよ」

「何ぃ?」

「帝国一の魔法使いが聞いて呆れるわぁ」

「そんな帝国一なんてそんな….とんでもない」

「謙虚じゃなあ、おぬし」

「ところでおぬしは何の目的があってここに来たんじゃ?」

「もしや戦力がほしいのか?それなら断るぞ」バハットは陽気な顔から一転少し顔をしかめケイトを見据えた。

「いえ、そうではありませんがただ少し力を借りたいんです」

「なんじゃ?」

「ここの民族の女性は探知魔法が使えますよね?その探知魔法が必要なんです」

「ぬっ、おぬしよく知っておるな、救世主様は博学でもあられるようじゃな」

「その程度の要求くらいならいくらでも答えてやろう、だがひとつだけ聞かせてくれんか?」

「なんですか?」

「やつらの世界、キカイの世界は存在するに値するか?」

ケイトは少しだまり「そんな問い….わかりきってることじゃないですか」

「そう..じゃの….すまぬ余計な事を聞いたの….」

「いえ….」

「母さん、母さんは...死んだの?」ケイトはひとり船の中打ちひしがれていた。

母さんはもういない、なんで、なんでだ。あの日、僕が旅に出なければ助けれた?いや違う。きっといてもやつらに殺されていた。僕は弱いから何もできない。だからこうして今、こんなとこまで逃げて、ここにいるんじゃないか。どうして弱いんだ。どうしてこんな思いををしなければならない。そうだ、あいつらのせいだキカイのせいだ。俺は悪くない、あいつらが悪い。母さん、母さん、かあさん、かあさん、カアサン、カアサンッ。

キカイは消す。消えるべきなのだ。

俺は強くなる。そしてあいつらに復讐する。

待っていやがれよ。ケイトは立ち上がって憎しみに満ちた眼光を離れていく大陸に向かって放った。

「そこのおぬし」一人の老人がケイトに向けて呼びかけた。

「わしのもとに来ぬか?」

「おい、おぬし、起きんかあ」バハットはケイトに何度も声をかける。

「うん、なんだ?」ケイトは重い瞼を開けようとする。

あれ俺なんでこんなとこで寝てんだろ。そうだった、バハットさんにお酒を馬鹿ほど飲まされて、それで、酔っぱらって寝ちゃったんだった。

「おぬし、本当に大丈夫か?」バハットはケイトに心配そうに尋ねる。

「あ、いえ、まあ、なんとか」たはははと苦笑いする。

「そうかい、ならちょっと表に出んか」

「わかりました」ケイトとバハットは一緒に集会所の外に出る。

「実はなおぬしの言っていた探知魔法、うちの孫娘がこの族内でもその魔法の一番の使い手なんじゃよ」


「あ、あの、もしかして、あの時の」ケイトは長髪をまとめたあの男に襲われたときに、バハットがいた近くの木陰から覗いていたあの小さな少女を思い出していた。

「たしか名前は...えっと」

「カヨというんじゃが、ほんとにかわいくてのう、ほんとは常に肌身離さず近くにおいておきたいのじゃがのぉ、反抗期というのかのぉ、最近は突然どっか離れていくのじゃ」

「いいじゃないですか、成長している証じゃないですか」

「そうかのう、じゃけど、わしゃすこしさみしいのう」

「まあ、仕方ないですよ」

「そうかのう」


滝水であふれる場所に、一人の少女が滝を見上げて、感嘆の声を出していた。

「うおお、すごいなあこんなものがあるなんて知らなかったや、ずっとここにいたのに」

少女は手でその水をすくい、その水を口元に運び、すうっと口に水を注ぐ。

「うんっ、とってもおいしい、それにしてもあの人かっこよかったなあ」その少女は彼を思い出し、頬を赤く染めた。


そして木の上から、彼女を視界の内にとらえている一人の巨漢がいた。

「いちちちち、あのじじいいくらなんでもやりすぎじゃねえか、ここはどこら辺だあ?まったく...」長髪を束ねた男は頭を抱えながら、森の中をさまよっていた。
それにしてもここは本当に植物だらけだ。うんざりしてしまうほとだ。いつかは父さんみたいにここを出ていっぱしの男になってやる。キカイの世界か...確かに気に食わないが興味はある。魔法もやはり今のままじゃ通用しない、ヤツらの力を奪ってでも俺たちは戦わなきゃいけないんじゃないか?

長髪をまとめた男の名前はヨウと言った。彼の父は10年前キカイ勢力に立ち向かうためにこの族の代表として、この集落から旅立ったのだがいまだに帰ってきてなかったのだった。集落の者は皆彼の父はキカイ勢力に殺されたと言っているが、彼は父がまだ生きており、きっとどこかでうまくやっていると信じていた。

「そういや、ここら辺に滝があったな」ヨウは歩き疲れ喉が渇いていた。

「あれ?」そこには彼の妹、カヨの姿があった。

「おーい、あのじじいはどうしたぁ」なんだ?カヨの奴なんか言ってる。

「兄さん、上!」

「え?」ヨウは何だ?と思い見上げると、巨漢の男が四本もの鎖鎌を携えてヨウに向かって跳びかかろうとしていたところだった。
ヨウはとっさに、身体強化魔法を発動し、バックステップし、その攻撃を何とかかわす。

そしてヨウがいた地面は、スパっと豆腐のように割れた。

「なんだよこれは...」

「僕の任務の邪魔をしないでくれないか、ロン毛君」その巨漢は仏頂面で、また野太い声で言った。

「うるせえよ...このデブ」ヨウは額に汗をこぼし、言った。

「てめえキカイ側のモンだろ?どうやってこの樹海に入ったんだ?」

「それをお前に教える義理はナイヨ」と言い、その巨漢は鎖鎌をフワッと宙に浮かし、ヨウにめがけてそれを投げ放つ。

ちっと言いヨウはそれをかわす。しかしその鎖鎌の刃がヨウの耳元の先を少しかすめ、そこから血が滴り落ちる。

「いってぇ...」

「ミンチにしてやるヨ」その巨漢はまたその鎖鎌を放つ。

「されてたまるかっての」

「ブースト発動!」ヨウの足に魔法エネルギーが充填される。そしてヨウの体は高速移動し、その攻撃を軽々躱していく。

「おいおい、そんなもんかい?」ヨウは余裕の面持ちであった。そして鎖鎌の攻撃を次から次へと楽し気にステップを踏むように躱す。

「ぬうっ」と巨漢は低い声で唸る。

瞬間、長く鋭い四本の鎖鎌はヨウの周りを囲うように刃の先を向ける。そして四本同時にその鎖鎌はヨウの顔めがけて、迫ってくる。

「なっ」

ヨウは驚き、そしてその攻撃を躱そうと辺りを見渡す。しかし、四方八方、逃げ場がなかった。

ならばっと、ヨウは膝を精一杯曲げ、ジャンプする。そして約7メーターほどヨウは空中に浮く。そして鎖鎌は鎖鎌同士攻撃を相殺するように、ギインッと音を鳴らし、鎖鎌はボトッと落ちた。

「次はこっちの番だぜっ」とヨウは大きく声を張り上げ、続けて「空中ブーストッ」と言うと宙に浮くヨウは足から魔法力を吐き出し、ブオッと巨漢の顔目がけて、キックをお見舞いした。

巨漢の体は、ふっ飛び、次から次へと森の木をへし折り、ばきばきと音を鳴らす。

ヨウは妹カヨのもとに急いで駆け寄る。

「おい、なんともないか?カヨ」

「うん、大丈夫、でも兄さんがいなかったらと思うと…」

「まあ運がよかったというべきだったよ、にしてもキカイ側の奴らがどうやってここに入った」それになぜカヨを狙おうと?

「ん?」

巨漢をふっ飛ばしたその先を見据える。すると、ひゅるひゅると鎖鎌が飛んできた。

「しつこいなあ…」ヨウは体を少し横にのけぞらせ、軽々とかわす。

巨漢はのそのそと森の奥から出てきた。ヨウによって蹴られた顔にはくっきりと足の跡が残っており、その姿は尋常なものではけしてなかった。
皮膚は焼けただれ、その下にはキカイでできた血管が所狭しと詰め込まれ、辛うじて眼球は人間のそれであった。

「いやっ」カヨは顔を背け、その姿を見まいと努めているようだった。

しかし、ヨウはキッとその姿を目で捉えた。

「キミ、やるねえ?でもまだまだ僕は戦えるよ?」その奇怪なキカイの巨漢はまるで言葉を覚えたての幼児のように言った。

「....」いつも浮ついている軽薄なヨウもこの異常な姿に慄き、ただ黙っていた。だがやがてぽつりとカヨ、逃げろとそれだけ言った。

カヨは自分がいてもただ邪魔になるだけであると悟った。即座にコクリとうなずき「族長に助け呼んでくるよ!」と言い残し走って集落に向かっていった。

ヨウと巨漢の戦いはいつの間にか殴り合いの激しい戦いへと激化していた。

「おらああ」ヨウは蒼く輝く魔力を体中に纏わせ、疾風のごときスピードで巨漢に迫り、何発もの拳を腹にぶち込む。巨漢のお腹からは白く湯気が立つ。しかし、巨漢はピクリともせずにっと笑い、カウンターパンチをぶうんっと振り抜く。その拳はヨウのお腹をもろに捉え、ブハッと血を吐く。だが、ヨウは一歩も引かず、その腕をがっしりと掴み、前に押し倒すようにその腕を引く。重い巨漢の体は安易に重心が傾いた。続けざまに、腕を掴みながらクルッと後ろを向き、そこからバク転をするように弧を描き巨漢の後頭部に魔力を極限までに凝縮した右足でキックをかます。

バキッと音が鳴る。割れた後頭部からは銀色の頭蓋骨がむきだしになっていた。

「キサマ、なかなかやるな」

「おいお前、ここにどうやって入った?まずそれを言え」ヨウは唇からこぼれる血を拭いながら問う。

「シカタナイ、お前の強さに免じてとくべつにオシエテやろう」

「我々がこの世界を侵略しにきた時のことだ、ワレワレはすぐに魔法世界の人間らの反抗にあった....」

10年前、突然のキカイ側の侵略により大陸各地で戦いが繰り広げられた。やがて大陸は二分され、東、キカイのウェルサリウス大陸、西、魔法のレイン大陸となる。

西のウェルサリウス大陸がキカイ側に完全に支配される前、魔法世界の人間は激しく抵抗した。

数々の魔法使い、そして魔女がキカイの力を前に敗れ、捕らえられた。

「ソノ魔法使いたちは今、どうなっているト思ウ?」

「は?どういうことだ?」

「教えてアゲルヨ」巨漢は右手に付けている腕時計のようなものを見、ピッと押した。

その腕時計のようなものから、やがてビーっと音が鳴り、映像が空中に浮かびでた。

プッと画面に映ったのは体すべてが重厚なスチールで椅子に固定され、目も目隠しによってふさがれた一人の30代半ばの男性の姿だった。

「なんだよ、これ…」ヨウの頭は真っ白になった。あの筋肉質かつ細身の体、髪は白くなっていたが、直感でわかった。あの囚われの男は自分の父親であると。

「早く答えろ、死にタいのカ?」映像の中の巨漢は無機質な口ぶりでその男に言った。

「いやだ、死にたくない..、死にたくねえよっ...」男の体は小刻みに震えていた。よく見ると、指には何枚ものはがされたであろう爪のあとがあった。

「なら答えろ、オマエの故郷の場所、そしてドウやってハイる?」

「知、知らん...」

「ザンネんダ」

ずびゅっと何かがちぎれる音がした。

うあああああと男は喚く。揺らす、体を揺らす。ガクガクと、小刻みに。

しばらくして、小さな声がぼそっと聞こえてきた。

「します、話します、話します、話します」延々と男はその言葉を繰り返す。

椅子は人差し指から出る大量の血で染められていた。

ブツンッとそこで映像は消えた。

「ふあ?」ヨウの目はどこを向いているかわかず、ただただ動転し口を開け、よだれを垂らしていた。

「う、あ、うあああ」なんで父さんが...なんでなんで、あんなに強かった父さんが...あんな風に..。
ヨウは父を尊敬していた。誰よりも。民族でも一番の強さを誇り、自信に溢れたあの父の顔が何よりも好きだった。
「行ってくるよ、ヨウ」そう言ってまだ幼いヨウの頭をガシガシと撫でてくれた。
あの時以来父さんは僕の前に姿を現さなかった。
「意味が分からない」ボソッっとつぶやく。ヨウの目は虚ろであった。
「あれ?アレはもしかして君のお父さんだっタ?」にかっ、と薄気味悪い笑顔を巨漢は浮かべた。
「ねえソウなの?ねえソウなの?」愉快とばかりに巨漢は笑う。
「ねえ悲しい、悲しいの?だったらヨカッタよ!この映像持ってきてヨカッタ!」この時見せた巨漢の笑顔は今までで一番人間らしい表情をしていた。
「殺す、お前は殺す」無機質な声をしていた。ヨウは殺意と狂気が入り混じった、そんな目で巨漢を見据えた。
「ウレシイイナア、喜んでクレてさあ」巨漢はその言葉に対して意にも介さず、恍惚の笑みを浮かべていた。
突然、巨漢の前にいたヨウの姿は消えた。
「あれッ?」
ズブッと音が聞こえた。何の音ダ?と思い巨漢はあたりを見渡す。そして胸のあたりに何か違和感を感じた。
「ナニこれっ?」
巨漢の胸のあたりにあったのは、人間の手であった。
「殺す、殺す、コロス、コロス」ぶつぶつぶつとつぶやきながらヨウは巨漢の胸を後ろから突き刺し、貫いていた。
「ナニ、シテルの?キミ?」巨漢はゴポッと大量の血を吐いた。
「父さんはもっとつらかったよね?」空を見上げ、ヨウは涙をこぼした。
「父さん?見ててね」と言うと、ヨウはずぷっと腕を抜き、後ろから巨漢の背後に乗りかかる。そして巨漢の指を掴み、グッと力を入れる。ボグッと音が鳴る。
「とうさんの気持ちを知れよ、なあ!」ヨウは涙を流しながら怒鳴りつけた。
「あ、うああああああ」巨漢はうめき声をあげていた

森の中、素早く動く3つの影があった。


「こっちです、族長、ケイトさん!」カヨは急かすように大きな声を出した。「はい、カヨさん」ケイトはカヨのあとを追った。



時をさかのぼること数十分前、突然、ただならぬ形相をした少女が、族長バハットとケイトの前に走り現れた。

「カ、カヨッ!カヨじゃないか!どうしたんじゃ!そんな顔してっ」バハットはあまりの彼女の動転のしように驚いた。
「兄さん、兄さんがっ、一人で、たぶんキカイの世界から来た敵とっ....カヨはぜえぜえいいながら何とか絞り出すように言った。
「なっ...キカイ側のやつらだと...」やつら、どうやってここに...。それはともかくあいつらの強さは尋常じゃない。早くたすけてやらないと。
「カヨさんっ、案内してください!」
「は、はいっ!」
「もちろんわしも行くぞ」
「頼みます」


やがて鬱蒼とした森をぬけた。少し開けた場所で、滝が勢いよく流れていた。だがその空間からは異様ともいえる不気味な何かを感じた。
「なんだ?....」ケイトは嫌な予感がした。あたりをよく見回すと折れた木が何本もあった。

やがてククククと気味の悪い高笑いが森の奥から聞こえてきた。
「なんだ...この声...まさか..キカイの奴らか...」許さない、必ず始末してやるとケイトは思った。

「そんな、それじゃあ、兄さんは...あいつに...」カヨは絶望の表情をうかべる。

「わかりません、僕が奥に行って、見てきます。カヨさんはここで待っててください」

「ですが...」

「お願いします、あなたをかばいながら僕は戦えない」

「わ、わかりました」

「ワシも行こう、と言いたいところじゃがのカヨはわしが守らないかん、じゃからオヌシ、頼むぞ」

「はい、わかりました」

ケイトは覚悟を決め、声が聞こえる森の奥へと足を向ける。


うっすらと空が暗く染まっていく。星もちらほらと見えてきた。そんな空の下、ケイトが居たその場所はあまりにも悲惨なものであった。あたりは血が飛び散り、吐きそうなほど生臭い臭いで充満していた。そして聞こえてくるシネシネと連呼する怨念のこもった声。ケイトは臆さず、さらに奥へ進む。前に歩を進めるたびに聞こえる音が増えてくる。ぐちゃり、ぐちゃりと泥の上を歩いた時のような音がケイトの耳元に届く。やがてある二つのシルエットがケイトの視界に現れる。そこにあったシルエット、その正体は恐らく人間と思われるもの、そしてカヨの兄と思われる一人の長髪の男だった。だが明らかにその光景は尋常ならざるものであった。その人間とおぼしきものの姿、顔の皮膚は剥がされたあとがあり、指はすべて向いてあるべき方向を向いてなかった。そしてケイトはぐちゃりという音の正体を知る。それは長髪の男が手で腸を割いている音だった。死ね死ねとただぶつぶつとしゃべりながら腸を割くその男はちらとケイトのほうを見た。
その男の目の色は絶望、そして復讐の色に染まった赤であった。
「オマエ、だれだ?」ぽつりとその男はつぶやいた。
「僕は一度あなたに会いましたよ、覚えてないんですか?」
「シラナイ、ダレだ?オマエも殺してやる...」
魔力の暴走か...。これじゃ話も通じないな。仕方ない、本気出すしかないな。
「死ねええええええ」と言い、獣のようにその男はケイトに向けて跳びかかった。ケイトは何とか後ろに下がりそれをかわす。だが服の一部は引っかかれ、裂かれていた。
「やるか」ケイトは身構えた。


ケイトは身構え、ある魔法を使うことを決めた。彼はありとあらゆる属性の魔法を扱うことができる。だがその中でも彼の得意魔法は炎属性の魔法。ありとあらゆるものを燃やし、焼き尽くす、暴力的な炎、そしてそれを自在に操る、それが彼の才能であり、また彼はそれを極めた。そして彼はついにある禁術を会得していた。

「仕方ない、あまりこいつは使いたくないんだがな...出でよ魔神イフリートッ!」

ケイトは手を空にかがげ、そして振り下ろし、地面にたたきつけるように触れる。すると地面には幾重にも重なる紋様が浮かび上がる。そしてその紋様の上にずうっと何かが現れた。そこから出で来るモノ、これまた明らかに人間ではない異形の姿をしていた。
身長は2メーターを由に超え、大きな体躯、二本の角、鋭く巨大な爪、そして見るものすべてを震え上がらせるような漆黒の眼光。

「力を少しでいい、貸してくれないか?」ケイトはもう何度か対面しているのかその姿に怖気づく様子もなく言った。

「良かろう」その魔神は低く野太い声をしていた。

「だがわかっておるじゃろうな、この契約魔法はお前をいずれ蝕むことになるやもしれんぞ」

「わかってる、だけど俺はこいつを止めなきゃないんだ、妹のカヨさんも心配してるだろし...」

「わかった、なら始めるぞ」

「ああ、行くぜ、俺の力になれっイフリートッ!」

瞬間、魔神イフリートは小さく赤い球体へと姿を変えた。そしてケイトの体へ向かいズッと入り込む。途端、ケイトは体を揺らしながら悶え始める。

「ぐ、がああああ、うおおお、はあああっ......はぁっはあっ、ふうっ何とか抑え込めた」

ケイトの目は赤く染まっていた。だがそれ以外の彼の身体に大した変化は見られなかった。

「さてやりますか、おにいさんよ」赤く燃え上がる剣を手元に発現させ、ケイトはヨウに挑発的な言葉を投げかけた。

ケイトの体の周りを小さな火の粉が渦巻く。今の彼は魔神イフリートと契約を結び炎を自由自在に扱うことができた。
うがあああああと雄たけびを上げ、獣のようになった男、ヨウはケイトに狙いを定め走ってくる。ヨウの体には黒い紋様が浮かび上がり、また魔力の色も黒く染まっていた。
「あれは恐らく、何かの悪魔に取りつかれてる...目を覚まさせてやらねえとなっ」と言い、紅蓮の剣をヨウに向かって振り下ろす。
だがあっさりとそれはかわされ、ケイトの顔に向かってとてつもないスピードで蹴りがかまされる、またそれをケイトはかがみ、避ける。
前転し、ヨウの左測面に立つ。そして手から爆炎を放つ。ボンッ!と音が鳴り、辺りは煙で漂う。
ケイトはヨウと距離を空ける。
「どうだ?....」
気を失ってくればいいとケイトは思った。だが爆炎の煙が消え、見えた姿は、何のダメージも負っていない男の姿であった。
「闇の魔力を盾替わりにして防いだか...」
休むもなく、その狂った男はケイトに向かって襲い掛かる。ケイトはヨウの黒く染まった拳に対して赤く染まった拳をぶつける。
ズンッと辺りに衝撃波が走る。木が揺れ、嵐が起こった時のようであった。

少し離れた場所にいた彼らも何か異変が起こっていることを察知していた。
「おい、何が起こっとるんじゃ、この膨大な魔力のぶつかり合いは?」

「兄さん....なの?」

不安そうに、カヨは空を見上げた。

 赤き戦士と黒き獣は拳をかわす。次第に戦いは激化し、戦場は荒地と化した。鮮やかな草原の緑は見る影もなくなっていた。

ヨウは徐々に攻撃の速さを上げていき、ケイトはその速さに適応できないようになっていた。捌けていた攻撃もやがてケイトの体を少しずつ捉えていく。
「ちっ...」
ケイトは襲ってくるヨウに対して10メーター程跳躍し、距離をとる。両手を開き、紅く燃え上がる炎の玉を創り出す。そしてそれをヨウに向かって投げる。しかしヨウは本能でそれを軽々躱し、ものともせずケイトに向かって走ってくる。
「ふんっ、かかったな」ケイトはニヤリと笑みを浮かべ、人差し指をくいっと動かした。するとヨウが避けたはずの炎の玉が再び角度を変え、ヨウに向かっていった。そのことに狂人と化したヨウは気付くはずもなく、その炎の玉はヨウの背中を捉えた。その瞬間、爆弾が爆発した時のような音が響いた。
「がっ...」
ヨウの背中は焼けただれ、足はフラフラとしていた。

「どうだ...」

しばらくするとヨウはビタッと体の動きを止め、何か叫びだした。
「ああっ、ああっ、許さない許さない父さんをっ、よくも父さんを、はあっああっ」ヨウはもがくように立ち上がろうとする。

「父さん..ね、復讐ってとこか...」

魔力は人間の創り出した物ではない。それは知らず知らずのうちに体の内にいる神によって魔力を与えられているに過ぎないのだ。ただし、僕のようにある一定のレベルまでにいくと自分の中にいる神を発現させたり、力を丸々取り込めたりする。だが、依り代が人間であるため力を取り込むのにかなり危険が生じる。
そしてもう一つ、人間が大きな力を得る場合がある。それは怨恨、怒りなど強烈な否定的感情が人間を巣食ったときである。その感情は悪魔を呼ぶ。神ではなく悪魔である。それは人間の弱みに付け込み、思うがまま人間を操ろうとする劣悪なものである。悪魔に心を奪われたものは魔力を暴走させ、意識がなくなっていく。

ヨウと思しきものは野獣のように叫び、もがきながら立ち上がろうとする。

「復讐の悪魔、てとこか...待てよ、今帰してやるから」と言うとヨウは指から赤い糸のようなものを出し地面に這わせると、ヨウに向かって赤い線は伸びていく。その赤い線はヨウの体全体を包みやがて蓑のような姿へと変えていく


赤色の糸のような物がヨウの体全身を包んでいく。やがて足の付け根から頭のてっぺんまでその糸のような物でヨウの体は赤く染められた。ヨウは身もだえし抵抗しようとしたがやがて意識を失いバタッと倒れた。「よしっ」
ケイトは意気込み、両手を合わす。そして瞑想するように目を閉じる。

ケイトの意識をヨウの深層意識に侵入させる。この糸のようなものは神の糸、人の心へ入り込む唯一無二の糸である。悪魔を追い払う唯一の手段である。そしてケイトは今ヨウの心の傷が作り出した精神空間にいた。

「ねえお父さんは?」幼きヨウと思われる少年が母親に問う。

「お父さんはね、今みんなのために戦ってるの、だけどすぐに帰ってくる」

「ほんと?」

「うん、だからね、いい子にしてて待つのよ」

「これは...あいつの記憶か...成功したみたいだな」よかったと一息つくとまたヨウの記憶がケイトに流れ込んできた。

「ねえ母さんっ母さんっ、どうしてっどうしてっ僕たちをっ」棺の前で泣きじゃくる少年の姿が、そして何もわかっていない様子でその棺桶を呆然と見据えている少女の姿があった。周りの女性の二人がこそこそと話す声が聞こえる。
「ええ、あの日からよ、帝国の使いが来てからよ、様子がおかしくなったのよ」
「子どももいるのに気の毒に」
その声はヨウの耳元に聞こえ、そして察した。母親が死んだのはは父親が死んだからだと、しかしそんな事実はヨウには受け入れられなかった。
そうだ、きっとこれは嘘だきっとこれはなにか悪い夢なんだ。父さんは生きてるんだよ帰ってくるんだよ。母さんが言ってたんだから。
ヨウはある決心をした。
「父さんと会うためにここを出る」

「ダメじゃ」族長バハットは言った。

「なんで?」

「なんでもじゃ」

「チッ」少年は苛立ちながらドアを乱暴に開け出ていった。

「すまんな、ヨウ」バハットはポツリとつぶやいた。

「こんなことがあったのか...」

「だけど、なにがあいつを暴走させるきっかけになったんだ?」

「ぐっ....」

そこでまた記憶がケイトの頭の中に流れる。

「殺す殺す殺す、フザケルナ父さんをっ」

そこにはただ一方的に惨殺されている巨漢の姿があった。その巨漢の声はかすれ、絞り出すだけが精一杯でただひたすらああっああっとと言うだけであった。とてつもなく大きく膨らみあがった憎悪は溜まり、そしてダムの決壊のように一気に崩れ、溢れ出した。

「父親になにかあったのか...」ケイトはポツリと言った。

「知りたい?」妖艶でいて絶望の入り混じった声が聞こえた。

「誰だっ?」

ケイトは振り返り見る。そこには真っ暗な空間の中、ポツリと立つ裸体の一人の女がいた。その女の姿は淫靡であり美しくもあった。大きな乳房、細い体つき、見るものすべてを魅了する体をしていた。だが目のあたりには真っ暗な靄がかかり、口角は右に少し吊り上がり薄気味悪い笑みを浮かべていた。

「誰だお前は...そしてここはどこなんだ」

「そうやって女にずけずけ聞く男はモテないわよ」

女はフフッと笑う。

「そうか、お前が悪魔か....」

「あら、察しが良くて助かるわ」

「ならここから...消えろっ」

ケイトは両の掌の上に赤く燃え上がる炎の玉を創造し、女に向かって投げ放つ。

「あら野蛮なコ」

「話しても無駄だからね」

「それもそうね」

放たれた赤く燃え上がる炎の玉が女に迫る。

「逃げても無駄だぜ」

「知ってるわ見てたもの」

「ならどうするんだ?」

「精一杯逃げてみようかしら」

と言うと、女は背中の皮膚をぶち破りにょきにょきと木が一瞬にして育つように、漆黒の羽を生やした。

「なっ...」

「さあ、始めましょうか」

黒き翼を大きく広げ、うふっとその悪魔は笑った。

漆黒の翼を広げその悪魔は飛んだ。そして追ってくる炎の玉に背を向け、勢いよく風を切るように飛んで行った。それでも炎の玉は悪魔の女に付きまとうように向かっていく。

「めんどくさいわねえ」

悪魔は口をあんぐりと開けると、闇の魔力で作られた大きく黒い丸い玉を口から吐き出し、炎の玉にぶつけた。
二つの玉はぶつかり、闇の魔力が炎の魔力を侵食し吸いとった。黒に染まったその玉はドロドロとヘドロのように溶け跡形もなくなる。

「それじゃあこっちの番よ、うふふ」

バサッと羽音を鳴らし、悪魔の女はケイトめがけて飛んでいく。

「なっ…」

女は手元に黒く染まった闇の剣を創り出し、ケイトの頭上めがけてその剣を振り下ろした。瞬時にケイトも炎の剣を創り出しその攻撃を防いだ。重くのしかかる攻撃をヨウは何とか耐え、振りほどくようにその女を弾き飛ばす。弾き飛ばされた女は地面に着地し余裕の笑顔を浮かべる。

「うふふ、楽しくなってきたわねえ!ねえ...もっとたのしみましょっ」

と言って狂気の笑顔を浮かべ、剣をケイトに向かって何度も振り払う。それを受け身でケイトは防ぐ。剣と剣が何度も交差し、火花を散らす。

その剣の打ち合いの途中、女はケイトに一定の距離を空け口をもごもご動かし何かを吐き出そうと試みる。
「あがががああああああ」
と言うと口から禍々しい闇の波動がケイトに向かって放たれた。
「んなっ…」
とっさに右手を突き出し、防護シールドを出すケイト。だが勢いよく放たれた闇の波動はその防護シールドを粉粉に打ち砕く。
「ぐああああああ」
ケイトはその攻撃をもろに受け、叫び声をあげる。
「ああなんだこれは…おれの心が見られてるのか」

あら…あなたも相当な復讐心をもってるじゃない、うふふふふ。

「イフリート…頼む」
と言うとグンッとケイトの体はのけぞり気を失った。しばらくして、その闇の波動は一気に打ち消された。そしてただならぬ何かをケイトは纏っていた。火の粉が体にまとわりつき、頭からは仰々しい角が生えていた。

「神に委ねるのね…」

「さて始末するか」そのケイトと思しき男は吐き捨てるように言った。

「あら、なめられたものね」

「はあああっ」ケイトは勢いよく地面を蹴り、一瞬にして女との距離を詰める。そして燃え上がる炎を纏った拳は女の虚弱な腹へとえぐり込み、女は大量の吐血をする。

「あなた、やるわねえ」尋常ではない痛みを感じながらも女は苦笑いを浮かべながら、勢いよく暗い闇の空間の奥深くへとふっ飛ばされた。

そしてただ真っ黒に染まっていた空間がぴしぴしと卵が割れるように、崩れていった。同時にケイトの意識も遠のいていった。

「おい、大丈夫かぁオヌシおぅい」

ん、声が聞こえるなと思い、瞼をゆっくり開くと目の前には厳格な形相の族長バハットの顔があった。

「お、目が覚めたか」

「ち、近い」そして酒臭いです。

「おぬし、何があったのじゃここで」バハットは不思議そうに聞いてくる。

「それはまあいろいろと……話すと少し長くなります」

「それより、お兄さんは?無事ですか?」

「あ、ああ、あいつか、それがおぬしと一緒でずっと眠ったままじゃよ」

ケイトと少し離れた場所に地面には横たわって寝たままのヨウとその妹カヨの姿があった。ヨウはカヨの小さな膝の上に乗り、ぐっすりと眠りこけていた。

「兄さん、起きてよ……ねえ私を独りぼっちに、しないでよ……」カヨの目から青い涙の粒が零れ落ちた。その涙はヨウの頬をすっと線を描くようになぞった。彼女にとってヨウはたった一人の家族、何よりも大切でかげがえないものだった。

「カヨ……カヨなのか」ヨウはゆっくりと目を開けながらぽつりとつぶやいた。

「兄さん……よかった、よかったよ」カヨは安心感を覚え、ヨウの胸に飛び込んだ。

「おいっ、こら重いよ」

「いいじゃんっ」カヨは無垢な笑顔な笑顔をうかべ、ふふふっと声を出した。

「いいのう、うーむうーむ」バハットは頬を赤らめにやけていた。

「うっわ、きもっロリコンかよっ」ケイトは小さくつぶやいた。

「えっおぬし今なんか言わなかった?」

「いえ何も」ケイトはまじめな顔をして言った。

木造の巨大なロッジ、バルコニーであたたかいお茶を飲む老人が一人、紅茶を飲む男が一人いた。

「お口に合いますか?ケイトさん」カヨが心配そうに言った。

「ええ、とっても美味しいです」

「なんにしてもケイト君おぬしのおかげで本当に助かった、ほんとにありがとうの」バハットはニヒッとしわを寄せ笑った。

「いえいえ、当然のことをしたまでですよ」

「ほんとお人好しじゃの、オヌシ、ところでおぬし…魔女を…探しに行くのじゃろ?」

「ええ、もちろんです。お願いできますか、カヨさん」ケイトはカヨの顔を見、尋ねた。

「は、はいっ。任せてください」カヨは両手をぐっと握り、まじめな顔をした。

「これから準備を始めます」

カヨはテーブルの上に透き通った青色の水晶を置き、それを中心に据え、魔力が微量含まれたチョークでカッカッと音を鳴らし魔法陣を緻密に描いていく。

「では…次は術式を」彼女は目を閉じ、手を水晶にかざす。すると水晶を中心に魔法陣が光り輝きだした。

「我に教え給え、求むるもの今ここに表せ」

と言うと、眩く、青い光を水晶が放った。

「見、見えました」水晶にはその魔女の思しき女の姿が映る。顔は童顔、ぼさぼさの黒髪、スタイルは抜群と言いたいところが胸のあたりは残念であった。ただ服装は魔女にはまるで見えない。サングラスをかけ、短く赤いスカートをはき、靴はヒールを履いていた。

あれこの顔、どっかで見たような。ケイトは思った。

「あれっ、なんかもめているような」カヨは訝しげに言った。

「ちょっと、なによっ」その魔女と思しき女は言った。

パーティー会場のような場所、彼女は黒ずくめの筋肉隆々の男三人に囲まれていた。周りのどよめきも聞こえる。

「そうよっ、離れなさい」魔女の友人と思われる人間の声が聞こえた。

「まさか、ばれたの…」小声で言い、しばらく沈黙し言った。「ごめんね、エリサ、今まで本当ありがとうねっ」

「ミーレイ?何、言ってるの…」

「じゃあねっ」と言うと彼女はその場所から一瞬で姿を消した。

「ちっ、逃げられたか」黒ずくめの男たちの一人が言った。

そこで、水晶からは何も見えなくなった。

「なっ……」ケイトは動揺した。

「まさか、魔女、追われているのではないか」バハットは心配そうに言った。

「場所はキカイ都市、エレクトロニクスです」

「いたのか…あそこに」ケイトはぽつりと言った。

「ですが今はどこにいるのか、正確な場所は分からないんです…すいません」

「いやいいんです、容姿もわかりましたし、何とかしてみます」「それに、どうやら追われているようですしね」

おいっ、という声が後ろから聞こえてケイトは振り返る。するとそこにはバルコニーへの入り口のガラス張りのドアを開くヨウの姿があった。体には包帯を巻き、とても快活には見えなかった。

「兄さんっ、安静してないとっ」カヨは慌てて言った。

「わかってる、少しだけだ」

「う、うん」

「すまねえな」

「救世主さん、あんたには本当に世話になった、ありがとう」彼は深々と頭を下げた。

「もう、いいですよ」ケイトは人懐っこい笑顔で笑った。

「それにケイトでいいですよ、お兄さん」

「ケイト、か….俺もヨウでいいぞ」「お兄さんだなんて、カヨを嫁にやった覚えなんてないし、まあカヨはあんたに惚れているみたいだし構わんがな」はははとヨウは冗談めかして笑った。

「ちょっと、兄さんっ、何、言ってるのっ、バカなんじゃないのっ」カヨは顔を真っ赤にしてポコポコとヨウを殴りだした。

「ちょっ、痛い、痛い、痛いからっ、マジでやめてくれ」

「ケイト、とにかく頼んだぜっ」

「ああ、わかったよ、ヨウ」








一週間後、真夜中、ケイトはある巨大なビルの前に一人立っていた。

「ここが…」

5日ほど前、ケイトはキカイ都市エレクトロニクスへともどっていた。彼はまず、魔女の姿を書いた肖像画を住人に聞いて回った。だが、この肖像画を見ると街の人間は皆、はじめ、少しあっと見覚えのあるような反応をするのだが、しばらくすると、いや全く見覚えがありませんと煙に巻きどこかへ行ってしまうのである。
そんな状況の中なかなかめぼしい情報も得られず途方に暮れていたのだ。

「これは…電子掲示板というやつか」ケイトは不思議そうな目でそれを見る。

人類文明の発展の終着地とも言えるキカイ都市、エレクトロニクスでは、あらゆるものが魔法世界と異なっていた。乗り物、宗教、文化、科学、そして化ける科学と書く化学。魔法がある世界とない世界はあらゆる点で違ってくるのである。魔法がなければその代わりの物が必然的に作られるものであるのだ。そしてこれもまたその文明の産物、電子掲示板。街のあちこちに設置され、人々の情報源となっている。
そしてケイトの見た掲示板には文字と一緒に動く写真があった。ケイトはそれを見た瞬間、驚いた。

「なっ、この姿、間違いない、魔女だ」そこに映っていた映像ははカヨに見せてもらった水晶での映像そのまんまであった。
映像が流れる隣の文字には、こう書いてあった。

タイトルはこうだ。“逃げた美女は魔法使い!?”

このなんともポップなタイトルに「うっ」となったケイトであった。
しかし大事なのは文面である。ケイトは目を凝らし、文面に目を通す。

“先日、都内某所のパーティー会場にてある暴動が起きました。突然パーティー会場に三人の屈強な男たちが入ってきたかと思うと、突然一人の女性に拳銃を向けだしたのです。するとその女性は突如姿を消したのです。その三人の男は実は秘密警察だという噂があり、魔法使いを捕えに来たと思われます。しかし魔法使いが近くにいると思うとやっぱり怖いですよね。皆さんも気を付けてください。ちなみに映像はたまたま鉢合わせた人に提供していただきました。ありがとうございました。”

なるほど、状況は分かった。つまり魔女は今秘密警察とかいうやつらに追われている身と言うわけか。

「なら早く見つけてやらないと」ケイトは不安の表情を浮かべた。



「しつこいっ、もうっ、あいつらどうして私の居場所がわかるの。」黒いコートを羽織った魔女ミーレイが屋根の上を颯爽と走りながらつぶやく。その後ろからは三人の男がミーレイを迫って来ていた。皆、黒のスーツに黒のサングラス、個性なんてものがまるで感じられない均一で不気味な格好をしていた。

時をさかのぼること8時間ほど前、パーティー会場を瞬間移動で姿を消した彼女は、パーティー会場のある建物から3キロほど離れた住宅街の屋根の上に隠れていた。
「どうして、今ごろになって奴らは私を捕えにきたの…」ミーレイは誰もいない住宅街で一人、つぶやいた。
とりあえず、この街にいるのは危険だと思い、彼女は魔法の国、そして祖国に帰ろうと決意する。そうなると彼女は命の恩人であり、唯一無二の親友であるエリサと会うことももういであろう。しかし彼女に選択の余地などもはやなかった。

「いたぞ、あいつだ」後方から男の声が聞こえた。

「ちっ、どうしてここが…」彼女は虚を突かれたように驚き、逃げだし、そして今に至る。

「目的補足、現在追跡中」三人の男の中のひとり、どうやらリーダーであると思われるその男は手元の腕時計のような形をしたもの向けてにぼそぼそっと話した。誰と話しているのかは分からない。

「ああもうっ、これでも、くらえっ」ミーレイはうんざりしながら言うと、走りながら男たちのほうにチラッと振り向くとぴきぴきと何百もの小さな氷柱のかけらを掌から創造し、男たちに向けて一気に放つ。

「ちっ、おいっ、シールドを使え」リーダーと思しき男は大きな声を出しほかの二人に指示する。

「はいっ」二人は声を揃えるとスーツの内ポケットから短い鉄の棒を出した。

「はっ、そんな棒切れで…」防げるとでも、と言おうとしたミーレイだったが、その光景を見ると言葉が途切れた。

男たちが取り出した短めのその鉄の棒は両端がバキッと曲がったかと思うと、その両端からレーザーの波状が出てき、それは盾の形へと形を成した。

そのシールドによって、小さな氷柱のかけらはキンキンと音を立て、あっさりとはじかれた。

「なんなのよっそれっ」ミーレイは歯噛みし、もう一度、魔法を放つために呪文を唱える。

「アイスニードル」と唱えると、先に放った小さな氷柱と比べ、一回りも二回りも大きな氷柱を三本、創造した。

「くらえっ」

三本の巨大な氷柱が放たれた矢のように勢いよく三人にそれぞれ向かっていく。

これなら防げないはずだとミーレイは確信した。

だが、その予想はまたしても裏切られた。三人の男たちは皆、シールドに使われている鉄の棒に取り付けられたボタンをピッと押しシールドを解除したかと思うとその鉄の棒の片方からはレーザーがにゅっと出てき、それは刀へと姿を変えた。男たちは皆それを巧みに操り、大根を切るかの如く、勢いよく迫ってくる氷柱に対してまっすぐ切り落とした。切られた氷柱は近くの家屋の屋根に無残な姿で突き刺さった。

「なっ」ミーレイは声を失った。

「おい、貴様っ。もう終わりだ、観念しろ」リーダーと思しき男はレーザーの刀の先をミーレイに向けて言った。

「ふんっ、まだまだよ」と言い、次の魔法を唱えようとした次の瞬間パンッと銃声が響くと同時ミーレイはばたっと体勢を崩し倒れる。

「なっ、あ、足が…痛っ」右の太ももから溢れ出る血液、立ち上がることができない。

「後ろから襲うなんて卑怯よっ…」ミーレイは絞り出すように言った。

「あんたにあんまり暴れられちゃ困るんでね」長い茶髪をまとめた長身の男がたばこをふかしながら言ったのを聞きミーレイは意識を失った。


都市郊外、南方、森の中。

「おいっ、二等兵、二等兵はおるか」ある兵隊の一人、頭の禿げた男が大きな声で部下を呼ぶ。

「たくっ、あのばか、どこ行きやがった」

ここキカイ世界側が保有するウェルサリウス大陸では日々、魔法使いの捜索が行われていた。
あくまで、キカイ側が支配することができたとはいえ、いまだこの大陸に潜んでいる魔法使いはいるはずだと中枢がにらみ、こうして兵隊に定期的に調査を行わせているのである。

「あんのやろう、小便でもやってんのか?」は不機嫌そうにペッと地面につばを吐いた。その時であった。

「貴様、森を汚すなよ」男の耳の中へ小さくだが怨念のこもった声が響いた。

「なっ、誰だ―」振り向き、声を上げようとした瞬間、首を羽交い絞めにされ、やがて男の意識は遠のいていった。

「うん?ここは…」兵士は目が覚め、あたりを見渡す。どうやらここは洞穴の中のようである。本来暗いであろう空間には明るい炎が一つ灯され、それに一種の安心さえ覚えるほどであった。体は全身、ロープで巻かれ身動きが取れない状態であった。

「たく、なんなんだ、これは」何とかできないかと悶えるがもちろんそんな行動は何の意味も持たなかった。

「目が覚めたか」奥から、若い男の声が聞こえ、やがて姿が見えた。長身、黒い髪に黒い服、全身真っ黒の服。

煙草を口にくわえ、ケイトは無様に寝転んでいる男の前に腰を下ろしそして言った。
「おい、魔女はどこだ」ケイトは鬼の形相で問うた。

「はっ…魔女だと…逃げたあの魔女か?」

「ああ、そうだ教えろ」

「知らん」

と言った瞬間、頭部に灼けるような痛みが走った。ケイトは煙草を兵士の禿げた頭部に押し付けていた。

「アツイ、アツイ、やめろっ」

「さあ、早く答えろ」ケイトはそのたばこを頭に押し付けながら続けていった。

「知…知らん…」

「見上げた根性だ」さらにケイトは指をパチンッと鳴らし、指に炎を灯すと兵士の残り少ない、髪の毛に火をつけた。

「ああああああ、あちいあちいあちいあちい、わかった、わかった、何でも聞く、だからやめてくれ」

「ふん、ちょろいな」ケイトはニヤリと笑みを浮かべた。

「さあ、吐け」ケイトは急かすように言った。

「捕まった、そいつは捕まったよ」あっさりとその男は言った。

「なに…捕まった…だと」まさかあの魔女が…。

「だが捕まった…だと、その言い方だと殺されたわけじゃないんだな」

「言え、何処だっ、魔女はどこにいる?」ケイトは怒鳴るように言った。

「収容所だ」その兵士は淡々と答える

「収容所…だと」

「ああ、秘密裏ではあるがあそこにはな、俺たちが捕らえた魔法使いがいるんだよ」

「なっ…」ケイトは愕然とした。

「まあ、そこで何が行われているかまでは知らんが…」はははと薄ら笑いを浮かべ言った。

「収容所とはどこにあるんだ」

「そ、そこまでは知らねえよ」

「そうか、火あぶりでいいか?」

「わ、わかった、教える、教えるから」

「北だ、ここから北のガイス島、一応、無人島となってはいるが、そこには実は、そこに収容所がある、まあ行ったところで無駄足だと思うがな」

「なあ、こんだけ言ったんだ、助けてくれるよな」その兵士は希望のまなざしをケイトに向けた。

「ああ、ご苦労だった」と言いケイトは満面の笑みを浮かべた。

よかったこれで生きて帰れるとその兵士が安堵を覚えた瞬間のことであった。

「もう用済みだってことだよ、この売国奴が」冷酷な顔をしてケイトは言った。

「は…」そんな理不尽なと思い、驚きの表情をする。

「おい、やめろ、やめろ」

ケイトは手から炎を創造し、兵士の顔全体を覆いつくすように、噴出した。

「熱い、熱い、熱い、やめろ、やめろ、水をくれ、水を…あ、ああああ」

火は全身に回り、真っ黒に焼け焦げた。

叫び声はやがて消え、その洞穴は静寂な空気に包まれた。

「おいおい、あんたの部下はなんもしゃべらなかったのによお」

「ダメな上司を持つと大変だなあ、おい」

洞窟の奥には全身真っ黒に焼け焦げた兵隊服を着た男の遺体があった。


――――――――――

ぶうんと不気味な音を立て、空を舞う一機のヘリがあった。両翼にはプロペラは存在せずただ鉄でできた輪があるだけである。どのように空を飛んでいるのか、その仕組みは全くわからない。

機内には、担架に乗せられ、拘束されたミーレイの姿があった。

「私をどこに連れて行く気よ」ミーレイはキッと鋭い目つきで、長身長髪の男を見上げた。

「おいおい、やめてくれよ、そんな目つきでこっち見ないでくれよ、怖いじゃないか」その男は軽薄な態度で答えた。

「いいから、教えなさいよ」

「知りたいか?」

「何よ」

「知ったところで、どうしようもないよ。まあ、あんたの処遇は少し特別だと思うがな」

「どういう意味よ」

「おいっ」男はクイッと顔を動かし、部下たちに指示を出した。

了解と言うと、部下の男たちはミーレイの口のあたりに小さなボンベを押し付けてくる。

「や、やめろっ」ミーレイは抵抗したが、そのボンベの中から出された気体はミーレイの口元に吹きかけられ、その気体はミーレイの体内へと届き、やがて、気を失ったように眠った。


断末魔が聞こえる。おぞましい、寒気を覚えるほどの断末魔。何も見たくない。だけど聞いてるだけで私が異常な場所にいることだけははっきりと分かった。異様な叫び声、滴る血の音、ビリビリという電気がほとばしったような音、炎がごおっと燃えている音。魔法の音なの?

いったい私はどこにいるんだろう。怖いよ。見たくないよ。やめて。


コツコツと足音が聞こえる。足音がするたび、その音は次第に大きくなっていく。こちらに近づいてきているのだろうか。突然、足音は止まった。ピッと音が鳴り、ガラガラとゆっくりと音が鳴り始め、しばらくしてその音は止んだ。そしてコツコツという足音の連鎖はさらに大きい音で、そしてはっきり私に近づいていると感じさせた。やがて目的地へとたどり着いたようにその足音は消えた。

「おい、目を開けろ」長髪長身の男が言った。

「いや」鎖につながれ、体の自由を奪われたミーレイは言った。

「怖いのか」男は問うた。

「怖いに決まっているじゃない」ミーレイは答えた。

「そうか、でもこれが現実だ、見ろ」

「いや、見たくない」

「ならはっきり、俺の口から言っておこう。ここはな、お前ら魔法使いをとじこめ、実験台にするための収容所だ」
「…」ミーレイは押し黙った。

「私はどうなるの」

「さあな、俺は上の指示を仰ぐだけの人間さ」

「まあ、お前は貴重な魔女だ。そう簡単に始末されたりはしないと思うぜ、安心しな」

それじゃあな、と言い残し彼はミーレイから離れていった。

「なんで、やだ、エリサっ、どこにいるの、助けてよ……」ミーレイは牢屋の中、一人、あふれる涙を止めることはできなかった。孤独、から湧き出る不安。この先自分がどうなるかわからない不安。だけど、きっと誰かが自分を助けてくれる、そんな不確かな希望も心の奥に存在していた。


夜、太陽の光を浴びない雲は地上から目で捉えることはできない。月が灯す場所だけが雲の形を映していた。空と月と太陽だけはずっと変わらない。変わらずそこにある。変わるのは僕たち人間の住むこの星だけだ。
上を見上げケイトはそう思った。
その変わらない空の下、海にポツリと浮かぶ小さい島、ガイス島があった。そしてその島には一つの巨大なビルがそびえたっていた。ビルのところどころには青い光が備わっていたがそれ以外めぼしき光源はなかった。
ケイトはビルの中へと入っていった。ビルの中は照明があるにはあるが、必要最低限の照明しかなかった。
足を踏み入れるとコツコツと足音が響きその空間を震わせる。
ケイトはあたりを照らすために魔法を唱え、炎を指に灯す。その炎は小さくケイトの周辺しか照らさなかった。そのため部屋の全体図はつかめない。だが、歩き回っているうちに部屋の全体図が少しずつではあるが掴めてきた。どうやらここは本当に収容所のようで、鉄製の格子がいくつかあった。しかし、どこにも人はおらず、静けさと不気味さが空間を満たしていた。
物怖じもせず歩を進めていく。ケイトの心に迷いというものはなかった。
やがてエレベーターと思しきものが見えてきた。ボタンを押すと、ピンポーンと間抜けな音が鳴り響く。ウィーンと音を鳴らし扉が開く。中に入るとボタンが15個、壁に配置されていた。どうやらこの建物は一階から十五階まであるようだ。さてどうしようかとケイトは悩み、手を顎に添えた。
収容所の中の暗闇に潜むケイトを設置された小型の監視カメラははっきりと捉えていた。

「ほう、こいつがねえ」低い声だった。

壁中にたくさんのモニターが配置された部屋の中、長身長髪の男がほうといった具合に監視カメラに映った映像の中のケイトの姿をまざまざと見ていた。その男の名前はダグラと言った。魔女ミーレイを捕えた張本人である。

「救世主君は魔女を救えるのかな?」ダグラはニイッと口角をあげそして挑戦的な笑みを浮かべた。

「おい、こいつらは使えるのか?」ダグラは監視人の一人に聞いた。

「はい、問題ないです」

ダグラはいくつかあるボタンの中の一つの起動ボタンをゆっくりと押した。するとMass Production Type 起動と女性のアンドロイドの声が流れた。

そしてまたボタンを押す男がもう一人いた。
ケイトは最上階まで上がろうと意気揚々とボタンを押した。理由はシンプルで敵をすべて叩けばすむと思っていたからであった。エレベーターのボタンを押した瞬間、突然赤いランプが光り、ビイッビイッと甲高く不快な音を立てエレベーターの中を照らした。

「なんだ?」ケイトは動揺する。

やがてガコンッと音とともにエレベーターは自動的に上昇し目的地へと向かいだした。チンッと音と同時にエレベーターの上昇は止まった。エレベーターの扉がガチャガチャと機械的な音を立て開いた。そこには床が全面、鉄でできた広大な空間が広がっていた。

「おいおい、なんだ?こんなでかい空間は」

ケイトは広大に広がる空間を見渡す。空間全体はドームのように丸みを帯びていた。ケイトは何の気もなしにエレベーターから降りた。足を踏み入れたと同時にまた不快な警戒音のようなものが鳴り響いた。そして女性のアンドロイドの声が響く。「侵入者探知、システム作動」その声とともに十何体もの人型ロボットがケイトの周りを囲んだ。
そのロボットは皆、同じ姿をしていた。全身鉄のパーツで組み合わされ、人間のような形をしていたが皮膚はなく骸骨の屍のようだった。彼らは一人ひとり違う様々な種類の武器を持っていた。拳銃やレーザー銃を持つ者もいれば日本刀やナイフなどをもつ者もいた。雑兵の大群が押し寄せる。

「ちっ…」ケイトは身構え、炎のオーラを纏う。

ケイトは炎を纏いながら、舞踊のように踊り、雑兵を蹴散らす。広大な空間を縦横無尽に動き、時に敵に背を向け逃げ、時には攻勢に転ず、それを繰り返す。機械の雑兵どもは獰猛な炎の攻撃に慄き、キエッと奇声を上げ一目散にケイトから離れだした。

「フン、この程度か、誰の差し金かは知らんが、お前らはここで全員跡形もなく消し炭にしてやる」

ケイトは高慢な顔をしながら言った。

--監視ルーム—

「ほう、この男が…なかなかやるな」

ダグラは微笑をうかべた。

「だが、まだまだこれからだ」

またボタンをひとつ押した。


ケイトは背を向け逃げ惑う機械兵にうしろから飛び乗り、首をぐっと掴みジュッと高熱の炎で首を溶かし始めた。機械兵はギエーッ、ギエーッと叫び、のたうち回り始めた。

「言葉もろくに話せないガラクタとはなめられたものだ」

やがて雑兵どもは皆ケイトに打ちのめされることとなった。ケイトはエレベーターのある方へと足を向けようとする。するとグンッと床が揺れ動いた。ケイトの立つ床だけが丸く切り取られ、ぐんぐん上昇し始める。やがて動きは止まり、見ると、そこには先のような広大な空間が広がっていた。そこには不気味な青い液体が入っている大きなカプセルがいくつも並べられていた。その姿は異常であった。そこには人間、それも子供が入っていた。彼らは皆安らかな眠りについたような顔をしていた。

「なっ…」ケイトは慄いた。

そしてまた決まったように女のアンドロイドの声が流れ出した。

「artificial children起動」

その声が聞こえたと同時、カプセルの中の液体が泡立ち始め、やがてカプセルのハッチがゆっくりと開きだした。その子供たちは裸体のままそのカプセルから這い出てきた。人工的な赤さを灯した彼らの眼球達はまるで監視カメラが人間を捉えるようにケイトを見据えた。彼らは口をそろえて言った。

「モクヒョウ補足、排除」

彼らはケイト目がけて、俊敏な速さで迫ってくる。先の雑兵どもとは天と地の差であった。先に一人が飛び蹴りを放った。それをわずか数センチの差でかわす。かわした先にはもう一人の拳、それを何とかつかみ勢いを利用して投げ飛ばす。足元への蹴り。それを跳躍しかわす。次に、腹への容赦ない拳、これは避けることができない。その一撃はその小さな体に似合わず重かった。
ケイトは血を吐きながら何十メートルか吹き飛ばされた。だが吹き飛ばされながらも体勢を整え、すぐに攻撃の構えをとり、子供たちにめがけて走り出す。炎で燃え盛った右手で頭を鷲掴みし、焦がす。苦悶の表情のその子供は狂ったように高い声で叫びだす。

「ぎいいいいいいい」

「こんなガキまで」

ケイトは苦い表情を浮かべた。

「悪いが、死んでもらうぜ」

爆炎が起こった。

「こいつもか」

皮膚だけが焼け消え、鋼鉄の表層だけがのぞかせていた。
その子供は白目をむき、肌は焼けただれ悲惨な顔をしていた。

「ギエ…ギエエ…ダズケデ」

ケイトの手元からその人間のエゴによって作られた玩具は汚物のように落ちた。

Revenge On Machine

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更新日
登録日
2017-09-06

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