贖罪の少年 第17章 3部

樫之木千里

仮面の面談会

 美和と川崎誠が初めて面会したのは、料亭での会席の場であった。
 名義の両親である親戚の青木夫妻に連れられて行った料亭の席には、既に川崎誠が座していた。
「ようこそ、よくぞいらしてくれました」
 そう言って笑顔で迎える誠に、青木夫妻も
「こちらこそ、このような席をご用意いただき、ありがとうございます」
 とお礼を述べた。
 そして右も左も分からず戸惑う美和に、青木夫人が席へ座る様、彼女を促した。
「美和ちゃんはここよ」
 そう言う婦人が指示した席は、誠と対面に座する中央の席だった。戸惑う美和に、青木の主人も彼女にこう説明をした。
「今日は美和ちゃんが主役だよ」
 その言葉に、誠も多いに賛同してこう言った。
「そうだとも。今日は私の願いを聞き入れてくれた上、わざわざ出向いてくれたんだ。こんなに有り難いことは無いよ」
 その言葉を聞いた美和は、やっと納得したかのように、促された中央の席に正座をして座った。
 それを確認した青木夫婦もそれぞれの席に座り、こうして面会の席は進められることとなった。
「今日は私の願いを聞き入れてくれ、この場に参加してくれたことに深い感謝を述べます。そして改めまして、自己紹介を。私は川崎不動産会長の川崎誠です」
 誠の挨拶を皮切りに、青木夫妻も自己紹介をし、美和も清楚なお嬢さんらしく品よく自己紹介をした。
「青木美和です。山守高校の二年生です」
 こうして自己紹介が終わったころ、昼食である会席料理が次々と運ばれて来た。
「わずかばかりですが会席料理を準備しましので、思う存分味わって下さい」
 そう言う誠の言葉とは裏腹に、どの料理も高級な食材を生かした美味なものばかりであった。青木夫妻も美和も、滅多にお目にかかれない美食の数々に、満足しながら品鼓をうった。
 その中で、誠は青木夫妻と談笑していた。誠の話しでは美和との母との出会いを
「昔遊んだ幼なじみだったが、大人になって仕事上で再会することとなった。このときお互い異性として引かれ合い、関係を結んだ」
 と説明をし、お互い別の人と結婚したことも
「それぞれの両親の意向にそって、私が結婚していたこともあり、不本意ながらも別の道を歩む事になった」
 と非常に都合のいい解釈を、いかにもという体で青木夫妻に説明をした。青木夫妻は、後藤夫婦から美咲と誠の関係を一切聞かされていなかったため、すっかり誠の話しを信じ込んでしまった。
「そして先日、妻との間に出来た娘が亡くなりまして……。私達は娘の死の悲しさもあって、娘のことでお互いにいがみ合う様になりました。でもある日、妻から『いがみ合う私達を娘は望んでない。これを機会に離婚して、お互いに頭を冷やしましょう』と言われたのです。
 そこでやっと私は、父親として不甲斐ない自分を知りました。
 でも丁度その頃、私の部下がたまたま美和さんの存在を知り、私に教えてくれたのです。最初は美和さんに会う事を迷いました。だって私は父親失格者ですから。でも気持ちは会いたかった。そんな私に、親族達はこう助言してくれたのです。
『一目だけ見てくればいい』
 と。この席を用意したのも、基はと言えば私の我が侭なのです。でもそんな我が侭を美和さんも、青木さんも了承して下さるなんて……」
 誠は最後には、涙声で訴える様に言葉を口にした。
 それを見た青木夫妻は、ついつい同情の涙を流し、会席の空間は湿っぽい空気に包まれてしまった。
 その空気の中で、美和は当然のようにこんな言葉を吐いた。
「我が侭だなんてそんなこと無いです。親が子どもに会いたいのは私、普通のことだと思います」
 その美和の言葉に、誠は驚いたように涙を止めた。そんな彼に美和は、とどめをさす『嘘』をついた。
「それに私、川崎さんの娘の美雪とは、学校で一番の仲良しだったの。美雪言ってたわ。『私のお父さんは世界一』だって。娘がそう言うのだから、川崎さんは絶対にいいお父さんだったはずよ」
 その言葉を聴いた誠は、声を殺すように泣き崩れた。
「私は……世界一幸せな父です……。なのに娘を助けてやれなかった」
 悲痛にもらす誠の言葉に、美和は周りの空気に流されるかのように、こんな提案を出した。
「それは私も同じ。親友なのに、美雪を助けられなかった。だからせめて私、美雪のお父さんの助けになりたい。彼女への罪滅ぼしみたいになるけど、私、美雪が大好きだったお父さんを近くで支えたいの」
 美和はそう言った後、青木夫妻の方をチラと見て、小声で
「いいかな」
 と、二人に尋ねた。もちろん青木夫妻は
「いいよ」
「寂しくはなるけど、美和ちゃんの決めた事を応援するわ」
 と快く了承してくれた。
 それを聴いた誠は、神様が目の前に来たかのように伏せていた顔を上げ、目を大きく見開いて驚いた。そして目の前にいる美和に焦点を当て、女神にすがるかのごとく彼女の瞳を見つめた。
 そんな誠に、美和は優しい笑顔で答えた。
「私、正式に川崎さんの娘になりたい。美雪の分も親孝行させて欲しいの」
 それを聴いた誠は、感無量になり泣き崩れ、何度も美和と青木夫妻に
「ありがとう」
 と礼を述べた。
 その会席の場は、一見はとても温かな気持ちに包まれていた。青木夫妻はその空気を素直に受け取り、父娘の再出発を祝福したが、美和の心の内はそうではなかった。
(誠の懐に飛び込めた。此れからが正念場だわ)
 彼女は笑顔の裏でひっそりと、母の敵である誠の殺害に決心を固めた。

贖罪の少年 第17章 3部

贖罪の少年 第17章 3部

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-09-05

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