強気恋愛。
01 中学1年生
じーちゃん家から帰ってきたウチは早速みんなにあけおめメールを送った。
そして一番最後に岡森に「あけおめ?」って送った。
何で最後なのかというと岡森はたぶん家にいると思うから、メールが返ってきたら何も気にせずやり取りができるように。
ウチは岡森が好き。
中学に入ったばっかりの4月に、いきなり岡森のことが好きになった。
外見に惹かれたんじゃない。初めてだったけど、直感で性格が解かった。
思い込みとかじゃなしに、どこかでコイツの内面を見た。
4月から今(1月)までずっと岡森のことが好きだった。
なんかわかんないけど2学期からいきなりウチと岡森が両想い(?)みたいな噂が流れ始めて、事あるごとに冷やかされた。
誰やねんそんなこと言い出した奴、とか思いながらも、別に岡森の事が嫌いって訳じゃないからいいか、って思った。
それに公認のカップルみたいで、かえって気が楽になった。
しかも周りに冷やかされてる時の岡森の反応とかを見てると、「コイツもウチの事好きなんかな」とかも思ったりした。
みんなには言わなかったけどちょっとだけ自信が持てた。
色々あって自信は確信に変わった。
2学期頃がいっぱい行事があって一番楽しかったと思う。
行事の度にさり気なく岡森にくっつきっぱなしだった。
毎年1年生は1泊2日で出掛ける行事がある。それの活動班を決める時だった。
男子同士、女子同士で固まって、それから男女を一緒にするという決め方になった。
コイツのグループの男子たちの変な計らいにより、ウチは岡森と同じグループになった。
ウチが岡森と一緒になりたいって言わなくても勝手に決まってくれた。
研修中の2日間も朝から晩までずっと一緒に居た。
久しぶりに見たメガネの岡森も、岡森が友達に対して爆笑してるのも、全部記憶に入れて帰った。
ずっとこのままでいたいと思った。全部のことが楽しかった。事あるごとに 好き、と思った。
そして色んな行事が終わって、冬休み。
この冬休みがウチの中学校生活を一気に落とす発端になるとか、ぜんぜん考えてなかった。
大げさじゃなくそんなことになってしまったけど落ちたって解かったのは半年以上あとになってからだった。
冬休みにあったこと。冒頭に戻ります。
ウチは家族でじーちゃん家にいってた。
帰ってきてから、岡森にメールを送った。
でも岡森はめんどくさがりで、宿題を押し付けてくる。
「やってきて」「やらない」のやり取りばっかりずっと続けてた。
引かんな、と思ったウチは「彼女候補に頼んだら。」って送った。彼女候補が居ないのはもちろん知ってる。
やっぱり岡森からも「彼女候補とかいないし」って返ってきた。
ウチはクラスの親友ミユの名前を出して、「ミユのこと好きなんやろ?」って送った。
でも「違う」ってかえってきた。
宿題の話は好きな人の話になった。
「好きな人だれ?」「教えない」「言ってや。ウチも言うから。出席番号前半?後半?」「前半」・・・
こうやって続いた会話も結局ウチの負け。
「ウチの好きな人は出席番号7番」送ってしまってから、ネタにされたらどうしようとか思った。
「告白?」すぐ返ってきたことにちょっと驚いた。
開き直ってしまって「そうですが」って送った。
しばらくやり取りが続いた結果、「もし俺がお前のこと好きって言ったらどうする?」って来た。
一瞬(・・・遊ばれてる)と思ったからこっちもせめてもの頑張りで「どう、って?」って送った。
でもまたすぐに返ってきた「付き合う?」
・・・・・こうなったら向こうから言わせたる、と思って「うん・・・まぁ相手から言われたらな。」って送ってみた。
「相手からじゃないといやなん?」「告白して振られるのが怖い。女子にはよくあることさ」
まだ余裕、と思ってたら「おれあんずのことすきやねんけどなー」って来た。
一瞬「なに?」ってとまってしまってから、「全部ひらがなやし」って疑ってるっぽく送ってみた。
そしたら「案数のこと、好きやで。」って来た。
ウチは振ったことは何回もあったけどOKしたことは一回もなかったからどうしたらいいか解かんなくなって、
素直に「・・・ウチどうしたらいい?」って送った。
そしてはっきりきた。
「案数の事が好きだから、付き合おう。」
この時は正月。すなわち真冬。しかも時間は午前4時。
極寒の部屋でエアコンもつけずにいたウチは、遂に幻覚を見始めたのかと思った。
でもそれは何回見てもそれだった。
何て言ったらいいか解かんなくて、でも断る理由なんてないから素直に「・・・はい^^」って送った。
手が震えてたのは寒かったからだけじゃないと思う。
すごく嬉しかった。
でもそのときはまだ、そんな楽しい日が毎日続くんだとしか思ってなかった。
そこからはすっごい楽しいメールだった。
毎日、夜12時になったらメールをするのが日課になった。
親が寝てから、こっそりメールをしてた。
ウチは岡森に毎晩「起きてる?」ってメールを送った。
そして朝の6時までずっとメールしてた。
たまに「りん起きてる?」って岡森の方から先にメールが来たりもした。
その時は尋常じゃないくらいテンションが上がってた。
とにかくめっちゃ楽しかった。
でも楽しかったのはこの正月だけ。
要は冬休みだけがものすごく楽しかった。
冬休みが終わっても普通に楽しかったけど、1週間前にしていたようなメールはしなくなった。
ウチはもっと続いて欲しいと思ってたのに、終わり方はすごく情けなくて、すごく呆気なかった。
何回席替えをしてもずっと左隣の席には岡森が座り続けてた。
くじ引きなのにずっとそうだったからみんなには「運命や」とか「仕組んだやろ」とか言われた。
仕組んでないし、運命とかなにそれみたいな感じだったけど、それを言われ続ける間は2人の関係がなくなることは無いと思ってた。
席は隣だったから「仲がいいお友達」の関係は切れなかった。
半年間ずっと隣同士の席だった。
筆箱の取り合いとかばっかりして、授業も真面目に受けないで喋り続けて、すっごい楽しかった。
このまま永遠にこのクラスでいたいと思った。
岡森も、クラスも大好きだった。
最後の最後まで隣の席だった。
いつまでも「バカップル」って言われ続けた。
反抗はしなかった。嫌じゃなかった。とにかく「楽しい」以外の感情を持ってなかった。
今までで、一番楽しい1年間だった。
入学していきなり好きになってから一度も他の人を好きにならなかった。
ごまかすために他の人の名前を言ったことはあったけど、本当の好きな人は常に岡森だった。
クラス替えがあるのはどうしようもないけど、来年も同じクラスになりたいと思った。
同じクラスになったら絶対席は隣になるはずだと思った。
最初は出席番号順だから仕方ないけど席替えしたら100%隣の席だと思った。
でも同時に、同じクラスになれない気もした。
仲のいい人とかと離れてすごい寂しいクラスになるんじゃないかって不安だった。
このクラスよりも騒がしい、楽しいクラスは他には絶対ないだろうって思ってた。
なんかすぐ終わってしまう気がして、終業式がもっと間延びしないかと思ってカレンダーと時計は見ないようにしてた。
でもすぐに1年生は終わってしまった。
春休みは無駄に長く感じた。
早く学校に行きたくて、今度は何回もカレンダーを見てた。
いつの間にか春休みは最終日になった。
用意を一瞬で終わらせて早く寝た。
早く学校に行って、岡森に会いたかった。
02 中学2年生 前半
2年生初日。すっごい急いで学校に行って、クラス発表の表を見た。
自分のクラスより先に岡森のクラスを確認した。
岡森は2組だった。
2組の中にウチの名前を探したけど何回確認してもウチの名前はなかった。
クラスが離れてしまった。
1組の中に自分の名前を見つけたけど、1組の名簿には仲良しの人の名前が全然なかった。
「1年間の絶望が決定・・・」って思ったけどそれは口に出さないで、唯一、本当に唯一同じクラスになった友達の のんちゃんに
「同じクラスやって?!!やった?☆ウチはこれで1年間楽しく過ごせるわ!!」って言った。
言いながら、すごく寂しいと思った。
いつも一緒にいる2人の親友も、同じ部活の友達も、他の人よりも仲がいい男子とも、岡森ともクラスが離れて、すべてにおいて一人ぼっちになった。
しかもその代わりかウチのことをやたらと目の敵にしてくる男子集団と、同じくウチの事をすごく嫌ってる女子集団と同じクラスになってしまった。
新しい教室に絶対入りたくなかったウチは、始業ギリギリまでミユと一緒にいた。
ミユの教室にずっといた。
ミユとしか話さなかったし、ミユのことしか見なかった。
見たら悲しくなるから岡森のことは見ないようにした。
最後の最後まで教室には入らなかった。
チャイムが鳴って仕方なく教室に入ってもウチはずっとのんちゃんと喋ってた。
のんちゃんとは席が前後だったから、それだけが心の支えだった。
新しいクラスの「お友達」とは喋ろうとしなかった。面倒だって思った。毎日泣きそうだった。
はっきりとした記憶が残らないまま1学期も終わりに近づいた。
1年生のときのウチは「どんなに嫌でも、1個でも行きたい理由があるんなら行った方がいいでしょ」って考えてた。
そのときの「行きたい理由」は隣に岡森がいるから だった。
でも岡森がいない上に他の友達もいないクラスには、行こうと思えなかった。
ウチの事を嫌ってる女子たちからの嫌がらせに耐えられなくなった。
岡森とも会えないから、「行きたい理由」が無くなった。
ウチは学校を頻繁に遅刻するようになった。教室に入りたくなかった。
3時間目まで時間を潰してから行ったりもした。欠席もした。
学校には行きたい理由どころか行く意味も無くなった気がした。
遅刻の回数が減っていった。
ウチの愚痴を聞いてくれる人がいた。信用して全部を話せた。
よく放課後に教室にいて、すごい優しくて、ずっと頼ってた。
可愛い名前だなって思ってた美湖。美湖も今のクラスが嫌いって言ってた。
すごくウチのことを解かってくれるし、ウチもすごく美湖のことがわかる気がした。
夏休み、ミユの家族たちと花火を見ながらバーベキューをする約束をした。
ミユと「男子も誘おっか☆」って話になって、流れで岡森を誘うことになった。
ミユはウチが岡森のことを好きだって知ってるから、ウチにメールさせた。
「○日の花火大会のときに ミユたちとバーベキューするから来て」
バーベキューするけど来ーへん?って打ってみたけどそれよりも「来て」の方が来てくれる気がした。
送ったけどなかなか返ってこない。
「メールを受信しました」
やっと来たって思って開いたけど、「俺もその日花火&泊まり」って書いてあった。
「泊まり!?」「そう」そっか・・・その後になんて返信したかは覚えてないけどすごく落ちこんでた。
せっかくもうちょっと頑張ってみようかなって思ったのにやる気が無くなった。
バーベキューはすごい楽しかったけど、なんかが足りないってずっと思ってた。
なんか が何かは解かってた。でももう岡森のために頑張るのは諦めようって思った。
夏休みが終わる40分前までミユと電話してた。
学校が始まらなかったらいいのにって思った。
でもやっぱり学校が始まったら好きって思うようになった。
心に余裕が出来たのかもしれないけど、1学期の頃よりもよく目が合ってる気もした。
夏休み中、いろんな男子に会ったし元彼とも会ったけど、やっぱりウチの好きな人は岡森なんだなって思った。
ウチのことを嫌ってる女子からの嫌がらせは絶えなかったし、むしろ激しくなっていったけど耐えることが出来るようになった。
美湖が全部話を聞いてくれた。
でも色んなことで活躍したりする気は起こらなかった。
競技大会のリレーの走順は真ん中になった。
授業で発言することもなかった。部活も休むようになった。
ミユ達ともあんまりうまくいかなくなって、結局一人で帰った。全部が嫌になった。
それでもやっぱり、岡森のことを見たらちょっとだけ元気になった。
岡森の事を見たらすっごい悲しくなって寂しくなって、泣きそうになるけど、
カッコいいって思って可愛いって思って、好きって思うから、元気になれた。
また岡森に会いに学校に行くようになった。
ウチは体育が嫌いだった。でも今は体育が一番楽しみになってる。
競技大会の練習。
普段は女子だけで2クラスずつだけど競技大会の練習は基本的にリレーだから男子も一緒。
隣のクラスには岡森がいる。だから初めはめっちゃテンションあがってた。
でも、何やってもこっち見ないってわかった。結局もういいかなって思ったりした。
でも信じてたら、やっぱりちょっとだけ近くなった。
また部活休んで教室で美湖と遊んでた。
好きな歌の歌詞を黒板に書き合ってた。
「涙?出ないくらい シラけてるのよ 愛はもう終わったの 気付いているはずよ
そんな目しないでよ ツマラナクナル In fact I love you 傷つけてあげる
・・・淡く想い出に消えて」(YUI:Kiss me)
YUIのKiss me歌詞が大好きだった。
すごく今の自分の状況に合ってる気がした。
ふと見ると、廊下で男子が競争?してた。廊下にある線の上に並んで。
岡森もいた。
「男子って競争・・・好きやんなー」とか言ってたら
男子のうち一人(岡森じゃない人)が「よーいどんって言って」って言ってきたから
ウチは素直に「よーいどん」って言った。
直接岡森と喋った訳じゃないけどウチのよーいどんに岡森が走り出してくれたのがすごい嬉しかった。
目が合ったら自然に笑顔になれた。
作り笑いじゃない、本物の笑顔って何ヶ月ぶりかなとか思いながらずっと向こうまで走っていく岡森を見てた。
向こうまで走っていってもスタート地点(ウチの教室の前)まで戻ってくるから嬉しかった。
岡森とすれ違うとき、ウチはいつもわざとキレたみたいな顔してた。
なんでか解かんないけど、そうしないといけない気になってた。
でも岡森と目が合った瞬間の顔が久しぶりに笑顔で、笑顔を見せれたことが嬉しかった。
もちろん岡森がウチの事を好きになってくれたら一番嬉しいけど、恋愛対象じゃなくてもいいから「友達」にはなりたかった。
ウチが笑顔でいたら仲良くなれるかなって、すごく考えた。
そして笑顔でいようって思った。
03 中学2年生 競技大会
しばらく経ったある日、HRの時に担任が、競技大会のレースの予選のことを言ってた。
「みんな応援も行ってあげてな」
岡森もエントリーしていたことを思い出した。
その日は1日中応援に行くか行かないか考えた。
放課後。
どうせ暇だから行こっか、って思って、仲良しの愛と望月と一緒に応援に行った。
一瞬で岡森を見つけた。
岡森が走る番になったけど、「頑張れ?????」としか言えなかった。名前を言えなかった。
でも走る直前に目が合った。
ウチは、ちょっとでも励まそうと思って1年生の時、まだ両想いだった頃によく岡森に見せていた悪戯っぽい笑顔を向けた。
一瞬、ほんとに一瞬だったけど岡森も笑顔になった。
その後に思いっきり「頑張れーーー!!!」って叫んだ。
走ってる岡森はすっごいカッコよかった。すごい速かった。
でもみんなも速かったから1位にはなれなかったけど、1番カッコよかった。
教室に帰ろうと廊下を歩いてたら2組の教室に入っていく岡森を見た。
急いで3人で走っていくと、教室に岡森だけがいた。
2人が「おつかれ?」「おつかれ??」って言ったら「おう」とかそれぞれに返して、
とっさにウチも「・・・っおつかれ」って言った。
なんか返してくれると思ったのに岡森は驚いたみたいに沈黙でこっちを見たまま止まった。
でもウチは戻れるチャンスだと思って1年生のときに話しかけてたみたいな口調で「・・・っ何の沈黙やねんw」って言ってみた。
そしたら岡森はウチの一番好きなしぐさ(ヒョイって首をかしげる)を返した。
ウチはそのまま「なんでメール返してくれへんのよ?・・・っなんの無視やねん!」って言ってみた。
岡森は何も答えなかったけど、ちょっと笑顔だった。
岡森が廊下を曲がって見えなくなった瞬間「・・・っはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」って絶叫。
「なっちょっおっ・・・あぁぁぁ!!!?」言葉になってない。
ずっと2人にしがみついて「なっななななな!!」って叫んでた。
ずっとお互いに無視し続けてたのになんで話し掛けれたのかわかんなかった。
でも、これからずっと、何かが起こる気がしたから諦めようとするのはやめようと思った。
頑張ることに決めたウチは、勉強に対しては絶対に見せないくらいのやる気でいろんなことに立ち向かってた。
・・・立ち向かうほど何かがあったわけでもないけど、まぁウチなりに頑張ってみた。
でも結局競技大会の練習も特別に凄い事とかはいつも通り何もなくて、ただ単に暇な練習が続いてた。
2日後に本番を控えたリハーサル。
やる気が無かったウチは笑顔少なくで応援もせずに黙ってた。
ふと後ろにある高鉄棒を見た。鉄棒の近くに愛がいた。
愛のところにいったら初めて気付いた。
真横に岡森がいた。
岡森は友達と鉄棒で懸垂してた。岡森の友達が鉄棒から落ちた。
その落ちたフォームが超ツボだったらしく、岡森はずっと爆笑してた。
爆笑してる岡森が可愛くて、ウチも爆笑した。
岡森が懸垂を始めた。
色白で細いのに意外に力が強くて、それがすっごいカッコよかったから「10回やってや!」って勢いで言った。
無視されると思って全然期待してなかったのに「10回とか無理やし!」って返してくれて、それがすごい嬉しかった。
岡森がどこかに行った後もずっと爆笑してた。とにかく楽しいって思った。
競技大会がすごく楽しみになった。
競技大会当日。
すごく楽しみにしながら登校した。
1組が嫌いだったから、岡森のいる2組に絶対勝ってほしいと思った。
ずっと2組を応援し続けた。2組の人を見つけるたびに励まし続けた。
自分たちが勝つかどうかなんてどうでもよかった。
岡森が勝ってくれたらそれでいいと思った。というか岡森に勝ってほしかった。勝って、喜んでる姿を見たかった。
岡森のことだけをずっと見ながら競技大会が進んだ。そしてそのまま終わった。
結果は、岡森のチームが1位。誰より喜んだのはウチだった。
ウチのチームは2位で、微差だった。すごく嬉しかった。
みんなはすごく悔しがってたけどウチはどうでも良かった。
岡森が勝ってくれたから他はどうでも良かった。
・・・1つだけ、すごく気にしていた。
競技大会が終わってしまったことで、岡森との繋がりが切れてしまう。
「誘導係」が一緒だった事が唯一の繋がりになってたのに、それが切れてしまったらまた「他人」になってしまう。
競技大会が終わっても繋がりが切れないことをすごく祈りながら教室に戻った。
すごい不安に襲われてしまった。「もう関われなくなる」そればっかりが頭の中を回っていた。
放課後。岡森の声が聞こえた。
「俺誘導の腕章返しに行かなあかん?」
それを聞いてウチも誘導係で使った腕章を返しに行くのを忘れていたことに気付いて急いで腕章を手に取った。
そして少しだけ期待をかけて、階段を駆け上がった。
3年生のフロアの廊下をUターンしてくる岡森の姿が見えた。
まだ手には腕章を持っていた。係のリーダーの先輩のクラスがわからないらしかった。
目が合った。その瞬間からの記憶がほとんど残ってない。
確か、「俺腕章かえさなあかんねんけど」「ウチも。」「武田さん何組?」「えーっと・・・」みたいな感じになって、
クラスがわかって一緒に先輩の机に腕章を置いたことだけ覚えてる。
その後はパニック状態になりながら一人で帰ったと思う。
誰かと帰ったかもしれないけど、それどころじゃなかった。
岡森のほうから喋り掛けてくれたってことばっかりずっと考えてた。
でもウチの悪い予想は当たっていた。
競技大会が終わったらホントに繋がりが切れてしまって、全然関わらなくなってしまった。
いろんなことにすぐイライラして、ミユたちとも関わらなくなった。
昼休み、昼食を食べ終わると人から逃げるように図書館に行った。
図書館でも奥の方の古い本を一人で読んでた。
人と関わりたくなくて、常に単独行動だった。
04 中学2年生 勘違い
2学期中間テストまであと1週間になった。
友達と一緒に放課後に図書館で勉強することになった。
カバンを持って図書館に行ったら岡森がいた。
反射的にそっちを見てしまったけど気付いてないのかわざとか、無視されてしまった。
いつもの事だからあまり気にしなかったけど、やっぱり1年の時のことを考えるとちょっと悲しくなった。
もういいやって思って、勉強に没頭した。
毎日そんな感じで図書館で勉強していた。
テスト当日。
テスト中もやっぱり岡森のことが気になってた。
1年の時はよく岡森と勝負してた。
ウチのほうが普通に頭よかったから常に勝ってたけど、
勝ってることよりも岡森が毎回負けるくせにテストが返ってくるたびにいちいち悔しがるのが可愛くて、だからテストが好きだった。
テストが終わったら席替えだけど、席替えしても隣になることは確信してたから不安なんかなかった。
テスト1時間目が終わって廊下に出ようとしたら、出会い頭に岡森とぶつかりかけた。
お互いにすっごいびっくりして一瞬立ち止まって目が合ってお互いにだまって通り過ぎた。
黙ってたけど嬉しかった。
そのあとテストは順調に進んで、結果が返ってきた。
まぁ思ったとおりボロボロの成績だったけどコイツよりは高い自信があったw
その日の昼休み。ウチの教室の後ろで男子がたまってた。その中には岡森もいた。
話しかけようと思って近くに行ったけど引き返して、また寄って引き返して、
至近距離まで行って戻れなくなって、眼光飛ばしながらの笑顔で「テスト合計何点やったっ?」って聞いてみた。
一瞬びっくりしたみたいだったけど結構さらっと教えてくれた。・・・けど、
・・・とんでもなく低くてw「はっ!?1教科何点とったらそんなことなんの?」って言ってしまったw
でもまぁ1年の時とは何ら変わりなくてちょっと安心した。
帰り道。男子バレー部の集団がすぐ前にいた。
テストの結果のことを喋ってた。ウチらも入って一緒に喋った。
岡森が自信満々に「俺5教科498点やもん」とか言い出して、
横の奴が「俺なんか499点やもん」って言って、後ろの奴が「俺500点?」って言って、
岡森が「いいってそーゆー嘘w」って言った。
結局3人とも嘘やけどw盛り上がりが1年の時の教室みたいですごい楽しかった。
でもそれから、前進も後退もないままに時間だけがすぎていった。
ウチは岡森がウチの事を嫌ってるって知ってたけど、
また好きになってもらえるんじゃないかって思って可愛くなろうと、好きになって貰おうとしてしまう。
でもやっぱり岡森とウチは関わることがなく、ウチの心は荒んでいくだけだった。
最後の望みを賭けて、ミユとともに、仲良しだったミユ、倉谷、岡森、ウチの4人で遊びに行く計画を立てた。
ウチが「アホの聖地」って呼びながらも、頻繁にこの4人で遊びに行ってたところだった。
半年以上行ってなかったけど、またそこにそのメンバーで行けばあの頃みたいに両想いに戻れるんじゃないかって期待してた。
・・・期待しすぎてた。
期待が大きかった分、落とされる高さも高くなった。
日にちが合わず、2回の変更でも結局断られ、場所も変えて、メンバーも変えて。もはや何やってんだろうって感じだった。
あの頃は皆で楽しんでたのに、結局成長してないのはウチだけで、みんなはあんな「アホ」な遊びには飽きてしまった・・・らしい。
だからもう、岡森と遊ぶこと自体を諦めて、好きになるのも諦めて、一生離れていようって思ってみたりもした。
毎日送り続けたメールも、奇跡的に数ヶ月ぶりに返ってきたけどたった4往復のやり取りで2人が繋ぎ留められるわけもなく。
すぐに向こうからかえってこなくなった。4往復の間にウチが使った「真剣のリアルの一生のお願い」も完全に無視された。
岡森がウチの事を好きになってくれないから、ウチはどんどん暗くなって、
暗いウチを「陰キャ」って言ってクラスメイトに嫌われて、また落ち込むからもっと岡森が見向きもしなくなって。悪循環だった。
「嫌」とかいうレベルを超えていた。本気で死のうと思ったくらいだった。
一生のお願いも聞いてくれへんとか、嫌われすぎやろウチw って一人で笑ってみた。
笑ってるのに涙が出た。笑い泣きやんって笑ったけど、笑ってられなくなって泣いた。
泣いてる自分がアホらしくなって、もっと泣いた。全部が嫌になった。岡森の事も諦めて、一人でいようって思った。
ウチが「ウチ岡森に嫌われてるねん」って友達に言っても、「絶対無いってw岡森絶対凛奈のこと好きやって」って言われる。
その子達は気をつかってそう言ってくれてるんだろうけど、ウチはそれを聞くたびにイライラした。
ホントに起こってることも知らないで「大丈夫」とか言われても幸せな自分たちのことを見せ付けられてるようにしか思えない。
そう思うほどに性格も悪くなった。その悪い性格がさらに岡森に嫌われる原因になった。
全部を諦めて、自分のことだけ考えていようって決意したりするけど、もともとの性格が優しすぎたウチはそんなことが出来るわけも無く。
結局ずっと、誰にも見られないように泣いて、人前ではずっと愛想笑いで、ストレスがどんどん溜まっていくだけだった。
そしてついにあの日から1年が経った。
冬休みが終わったウチは愛たちとカラオケに行く計画を立てていた。
ウチと愛が計画を立てて、愛が城岡に伝えて、城岡が岡森を誘う って決めてた。
ウチなりに頑張って期待しないようにしてたのに、やっぱり内心期待してた。
でもコイツは「案数がおるなら嫌」って言ったらしい・・・。
愛が理由を訊いたら、「嫌いやから」って。
しかもその嫌いってのは、勘違いからきてて。ウチは何もしてないのに嫌われたって事。
・・・こうなってしまったらもう、あの頃には戻れない。それでも岡森を嫌いになれない自分が鬱陶しい。
岡森に対して「ウザイ」とかの感情をまだ1度も抱いたことがない。・・・嫌いになれたら楽なのに。
もうウチは岡森に「可愛い」って言われることも、「大好き」って言われることも、
・・・喋ることもないんだろうって、確信した。
楽になりたかった。
05 中学2年生 バレンタイン
結局、ウチはどうすることも出来ず、ただただ時間だけが過ぎていった。
岡森がウチの事を好きになってくれるっていう事を妄想することすら出来なくなった。
ウチが苦しんでる今のこの時も、岡森はいつものように楽しく、ウチの事なんて頭の中の1%にもなくて、家族や友達とか・・・・他の女の子とかと楽しく過ごしてるんだろうなっておもった。
2月だけどそれなりに暖かかった日の学校の帰り。
普段ウチは、最寄り駅から家までは歩いて帰っている。でもその日は歩いて帰れるような気分じゃなかった。
学校の友達はみんなバレンタインの話しかしない。
その話の輪に入ってると絶対「りんは男子にチョコあげへんの?」って訊かれる。
その子達はみんな、ウチを普通にお喋りの相手と考えて話を振ってくれてるだけなのにウチはすごく落ち込む。
「え?w ウチあげる相手とかおらんし?(笑)まぁ友チョコだけかなー。あ、みんなにもあげるよ」って、無理に作った笑顔で答えた。
そういう状態が何時間も続くからウチは耐えられんくなった。
最寄り駅の公衆電話から、お母さんに電話した。
「お母さん、りんやけど。駅まで迎えに来て?」「えーなんでー?」「・・・寒いから?」「えーわかったー」
ホントは全然寒くない。でもお母さんに心配をかけたくなかった。
駅のロータリーの前。腰の高さのステンレスのフェンスに手を置いた。
小6の頃、塾の帰りはいつもそこでお母さんの迎えを待ってた。
中学受験。それなりに楽しかった。ステンレスの冷たさが手に伝わってくる。
それからまだ2年しか経ってないのに、すごく懐かしい冷たさで、涙が出てきた。
あの楽しさはどこから来てたんだろうって思った。何で今は楽しくないんだろうって疑問に思った。そして泣いた。
人に泣いてるところを見られたくなくて、ブレザーの上から来ているパーカーのフードを深く被った。
肩にかけたかばんはすごく重かった。
お母さんが来るまで結構時間がかかった。
見慣れた濃いグレーのワンボックスカーを見つけた瞬間、妙な安心感があった。
ウチを迎えに来てくれる人はちゃんといるんだって思った。
そして泣いてたことを悟られないように涙を拭いた。
お母さんが家を出発する時にお父さんから頼まれたらしく、スーパーに寄った。
スーパーに入った瞬間、「Valentine’s day」という字が目に入ってきた。
「ほら凛ちゃん、バレンタインやで♪」と、お母さんはウチを楽しませようとしてくれる。
でもその優しさが、今のウチには痛かった。
「うん・・・」って言って、目を逸らした。
逸らした先には沢山のチョコがあった。
また目を逸らすと今度は赤やピンクや白のハートが沢山あった。
どこを見てもバレンタインばっかりで、ウチはそこにいることが苦痛だった。
そんな赤と茶色に彩られた中に自分がいる理由が分からなかった。
バレンタインの雰囲気に耐えられなくなって「唐揚げ 20%OFF」の字を見つめている自分が情けなくなって、また泣いた。
バレンタインの3日ほど前。
ミユたちと、自分で食べるためのお菓子を作るためにウチの家に集まった。
ミユは普段、PCでメールをしている。
ウチのPCからログインして、岡森とメールをしていた。
ウチには全くメールを返してくれない岡森が普通にミユとメールをしているという差が悲しかった。
なぜか分からないけど、今送ったら返してくれるんじゃないかって思って、「今ミユたちとお菓子作り中?」って送ってみた。
「のんきでいいな?」
・・・返ってきた。
受信ボックスに、久しぶりに見た岡森の名前。
岡森は、今まであったことが嘘みたいに、普通に送ってきた。・・・・ずるい。
いつもウチは岡森に遊ばれたり利用されたり、放っておかれたり。・・・ずるい。
メールのやり取りをしてるからといっても、完全に戻った訳じゃない。
ちょっとでも余計なことを言うと、また嫌われる。
ウチは嫌われることを覚悟で「バレンタインなんかあげるわ」って送ってみた。
・・・すごく緊張する。コレで返事が来なかったら、ウチはもう、岡森と目を合わすことも出来なくなるだろう。
「あざっす」
・・・軽いなぁ!!びっくりしたわ!でも拒否されなかった(というかお礼言われた)から、気合を入れて頑張る気になった。
手作りして、失敗したらイヤだから、岡森の分は買うことにした。モロゾフのチョコ。
喜んでくれるかなーとか考えながら選んだ。
2月14日。
朝学校に行くと、みんなに友チョコ・義理チョコを配って廻った。
でも岡森はいつも来るのが遅いから、朝は渡せなかった。
休み時間。愛と、どうやって渡すかの相談をした。
リスクを最小限に抑えたいウチは、色々考える。
雪が降っていた。渡り廊下の柵にもたれて、他校の元彼に今朝貰ったネックレスを見ていた。
元彼が今でもウチの事をすごく愛してくれてるのは分かる。
しかも、ウチと岡森との関係もしっかり理解してくれてる。
今でもウチ的には友達だから、そのネックレスから勇気を貰おうとしたんだと思う。
「バレンタインの時、雪降ってたらいいなぁ」というウチの願いが叶った。
ネックレス越しに雪を見た。
横には美湖や望月がいる。
「・・・なぁ、どうやって渡したらいいと思う?」何度も訊いた。
6時間目。大雪警報。早期下校になったせいで、部活がなくなった。
慌ただしくて、岡森にチョコを渡しそびれた。
ウチが出した答えは、「家に帰ってからメールして、しっかり決めて、明日落ち着いて渡す。」
1日遅れるけど、一番安全だと思った。
雪が降ってる中で、本命チョコを持って告白するって、最高だと思う。だから、明日も雪が降ってて欲しいなぁ。
家に帰って、パソコンを開いた。そして岡森にメールを送った。
06 中学2年生 メール
「今日チョコ渡されへんかったなぁ。明日渡すわ。・・・いつ渡したらいい?」
「佐々木に渡しといて」
他の男子の手を渡って岡森に。それはイヤだった。
「直で渡したいねんけどー」
「ハズいやん」
・・・岡森が、ウチから直でチョコを貰うことを「ハズい」って感じる。・・・戻れる可能性もある?
「人通すほうがハズいやん!」
「それやったら俺ハズくないもん」
「お願い? 4時間目終わった直後とか!」
「きついで」
「お願い!他の時間でもいいから!」
「めっちゃハズいやん」
「・・・ウチだってハズいわ!でも直で渡したいねん!」
「なんでやねん」
「なんでか分からんけど!とにかく人を通すのがイヤやの」
なんでか 本当は分かってる。
「はぁ」
「いい?」
「4時間目終わり無理やで」
「他の時間でもいいから!」
「無理かな」
「お願いお願い・・・お願い!」
「じゃあ俺が男バレとおるときな」
「えー・・・ひど。いじめ?」
「違うわ」
「・・・お願い・・・なんとか」
「男バレとおるときやで バリあるやん」
「いやいやいやいや・・・・ じゃあさぁ、ウチが朝遅く行くから、いつも通学路で会う時間帯くらいに?」
「嫌やし 朝は男バレといくねん」
「だからいつもどおり来てくれたら良い。そのときやったら多分 あ、でも・・・・」
幸せだった。こんなにメールしたのは半年以上ぶりだろう。
「今から風呂やから、布団入ったらメールする から起きとけよ」
・・・起きとけよ!?
岡森のほうからそんな言葉が出ると思ってなかったウチは、かなりびっくりした。
「わかった」
いつまでも、メールが来るまでずっと待つ。
しばらくするとメールが来た。
「布団入った」
「おk♪」
「まぁさっきの続きやけど、通学路はミユがおるからいやちゃうん?」
「んーミユなぁ じゃあいつ?」
「だから男バレとおるとき」
「男バレと って、例えば誰?」
「佐々木やら城岡やら小野やら その他大勢」
「大勢・・・泣 一人とか二人ならまだしも泣」
「うそうそ まぁだから基本最初の三人」
「そかぁ ・・・やっぱ男バレがおるときなん?」
「うん てか基本俺一人ないで」
「まぁ見たことないけどw1対1じゃあかん?」
「だからそれが出来ないの」
「・・・なんでよ」
「俺が一人にならへんから」
「・・・一人になって」
「無理やな」
「ぬー・・・泣 一瞬でいいから 渡すだけやから」
「てかなんで直なん」
「だって直で渡したいやん!友チョコとか義理やったら「コレ渡しといて?」とかゆうけどさぁ」
・・・告白ギリギリ
「友とか義理じゃないん?」
・・・・・・・焦。
「違う って?」
無理やり送ってみた。どう考えても悟られた。
「なんでもない」
「えーゆってよ」
・・・もはや自分が何をしたいか分からなくなってる。
「なんもない てか眠い」
「え???」
「逆にえぇ?」
「笑 結局どうしたらいいの?」
「しらね」
「えー コレ決めないとウチ多分ずっと渡せへんと思うから・・・」
「なんでやねん」
「だってウチこう見えても1歩下がってるタイプやねんから泣」
とくに考えずに打った言葉。でも返ってきた答えは衝撃だった。
「かわいい所あるやん」
岡森がどう思ってコレを送ってきたのかは知らないけど、ウチはパニックになった。
「なにそれ」
「なんとなく」
ウチは本当に何それしか言えなかった。
「ぬ??・・・」
「真剣に眠い」
「寝たらだめ??≧≦」
「明日 学校」
「うん。・・・それは、ウチもや。 どやって渡したらいいか!マジで!」
「俺らがいつも乗ってる電車分かる?」
「えーっと、行き?」
「うん」
「うーん・わからへん でもウチが8時20分くらいに着く電車乗ったら会う感じやんな・・・?」
「そう」
「はい」
「じゃあ決定。おやすみ」
一方的にメールは切られたけど、ウチは幸せに浸っていた。
変化は一瞬で起こるものだって、ようやく学んだ。
強気恋愛。