樹木

樹木

上司 幾太

植物たちは人間の姿を見て何を感じるのだろうか。

言葉がなくても、動けなくても、そこに生命はある

 日差しが強く、緑が生い茂り、蝉の声が鳴りやまない真夏の日のことである。私はかれこれこの丘の上で100年以上も過ごしている。キツツキが私の体に穴を開け住みつき、枝の上には雀たちが巣を作り暮らしている。
ある日のこと、小さな女の子が私の前にある。タンポポがたくさんの花畑に遊びに来た。眺めたり、首飾りを作ったりして、それは楽しそうに遊んでいた。しばらくすると遊び疲れたのか、女の子は日陰を求めフラフラと私に近づき、足元に寄り添ってスヤスヤと居眠りを始めた。
 そうして、夕方になり、日が落ちそうになってきたので私は心配になり、女の子を起こすために頭の上に小さな木の実を落とした。「うぅぅぅん、あ! お家に帰らないと!」と言いながら女の子は飛び起きて、走り出した。小さくなっていく女の子の背中を私は見送っていると女の子は途中立ち止まって「また、来るね!」と笑顔で言って帰って行った。
 次の日もまた次の日も女の子は遊びに来た。ある日いつものように遊び疲れて私の足元でいつものように居眠りをしていると寝言で「帰りたくない」「寂しいよぉ」「お母さん」と呟いているのが聞こえた。
 次の日には女の子の腕には無数のアザが出来ていた。いつものような笑顔はなく、ただタンポポをひたすら摘み続けていた。しばらくすると、ポロポロと目から涙を流して、「もうやだ・・・」「お母さんどこなの」と呟いて、私の足元でうずくまってしまった。
 私は100年以上生きてはいるが、言葉を発して、笑ったり、動いたり出来る人間がとても羨ましく思えていたのだが、女の子の辛そうな姿を見てそれもきっと辛いことなのだと感じていた。
 孤独で居ることも辛いことだが、関わる者たちが居ることもそれもまた辛いこと、生きることの難儀さを感じながら、私は女の子の頭を撫でる代わりに一枚の葉っぱを頭の上にポトリと落とした。動けない私が出来ることはこのくらいである。100年間私は一体何をしてきたのだろうか、喋れない、動けないこの身がなんとも悔しく感じたのは100年間で初めてのことである。

樹木

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  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-08-30

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