時の足跡 ~second story~25章~28章

Ⅱ 二十五章~さよなら~

すっかり陽は沈み街のあちこちに明かりが灯り始めた頃に、幸恵さんはお兄ちゃんの遺骨を抱いて帰って行った・・・、
さよならじゃなくて、またね・・・、そう言って笑顔を見せた、幸恵さんに・・・、その笑顔に、うちも、さよならじゃなくて、
またね、って笑顔で返したら、幸恵さんは、笑顔と一緒に涙を零してた・・・、

また会いたいから、きっとまた会いに来るから、だからさよならじゃない、そう言ってくれた幸恵さん・・・、
だからうちは、待っていようって思う、この先も、ずっと・・・。



そして何とか帰り着いた店に、みんなはそれぞれの椅子に腰を降ろすと、とりとめない話しで盛り上がってた・・・、
そんなみんなの話しに、何処かうちは気持ちの遣り場が持てなくて・・・、

「今日はお兄ちゃんの為に、色々ありがとう・・・、それじゃあたしはこれで・・・、悪いけど先に休ませて貰いますね?
お疲れ様でした・・」って頭を下げて、部屋へと戻った、


戻ってきた部屋に、うちは窓の傍に坐りこんで空見上げてた、でも何故か涙が出て止まらなくなって窓枠に顔を埋めてた・・・、
そんな時、足音が聞こえてきて、慌てて涙を拭ってたら、みんなが揃って顔を見せた、

するとアンちゃんが、
「亜紀ちゃん?よかったらまた山にでも行かないか?亜紀ちゃんが好ければ明日にでもって思ってるんだけど・・・」

って言うとヒデさんが、
「朋ちゃんも明日まで休み取ったって言うしさ、亜紀、嫌かな?」って聞かれてた

でもうちは泣き顔見られたくなくてうつむいたまま頷いたら、アンちゃんが
「亜紀ちゃん、嫌なのかな?あまり気乗りしてない?」

って、なんか誤解されちゃったみたいで、うちは焦って・・、
「あっそんなんじゃないよ!」ってついムキニなって顔を合わせてしまったら、

するとアンちゃんが、
「あっごめん、こんな時に言う事でもないのは分かってるんだけどさ、少しは亜紀ちゃんの気晴らしになるかなって・・・、
ごめんな?・・・」って謝った、

「ああっあたしの方こそ、ごめんなさい、ほんとごめんね?あの、機嫌直して貰えるなら行かせて貰ってもいいかな?」
って聞いてみた、

するとアンちゃんが、
「当然だよ、亜紀ちゃんの為の計画だからさ?ああ好かった、朋ちゃん?行けるよ?」

って言うと、朋子さんは、
「はい、亜紀さん?楽しみにしてますね?」って笑顔になった・・、

するとヒデさんが、
「それじゃ~明日な?」てそれだけ言うと、みんな揃って店へと降りて行ってしまった・・。
取り残されてしまった空白に行き場のない寂しさがこみ上げてきたら、うちはうずくまる事しかできなくて膝を抱えた・・。



翌朝、息苦しさに目が覚めて、うちは窓際に腰を下ろして空を仰いだ、でも明るくなりだした空をみてたら、外の空気が
吸いたくなって店の外へと出た・・、

少し肌寒く感じた朝の空気は、今のうちには何処か心地よかった、夕べ、朋子さんが泊る事になったってわざわざ教えに
来てくれたアンちゃん・・、朋子さんとはいい関係になってくれそうで、何処かほっとしてる・・・、でも如何して、
アンちゃんのこと気にしてるのかなって思ったら、なんだか可笑しくて笑みが零れた・・・。


そんな時店の中からアンちゃんが出てきた、でも今アンちゃんの事考えていただけに、ちょっと気まずい気もして・・、
「あ、あれ?アンちゃん、どうしたの・・・」って、焦ってバカなこと聞いてた(おはようだよね~何言ってるのよ・・・)
って思ったけど、もう遅かったみたい・・・、

アンちゃんは
「どうしたのはないだろう?俺だって早起きはするさぁ・・・亜紀ちゃんこそどうしたんだよ、こんな早くにさぁ?」
って聞かれた、

「ああ、あたしも早起きしちゃったの・・・、だから、少し外の空気吸いたくなっただけ・・」

って言うとアンちゃんは、
「そっか?実は俺もなんだ?・・・亜紀ちゃん?ほんとに今日、好かったのかな?・・・無理させたんじゃないのか?ごめんな?」
アンちゃん、気にしてたんだ、うちよりずっと、やっぱりアンちゃんだよなって思えた・・・、

「そんなこと無いよ、行きたかったのはほんとだもん、あたしがあんな言い方しちゃったからだね、その所為でアンちゃんに
余計な心配までさせちゃって、ほんとごめんね?・・・でもありがと?凄く嬉しいよ、ほんとありがとねアンちゃん?・・」

って言ったらアンちゃんは、
「そう言ってくれると、俺も嬉しいよ、あ~好かった~、今日は張り切って行くぞ~!」
って加減はしてたみたいだけど叫んでた、

すると、ヒデさんが顔を見せて、
「なんだよ~朝っぱらから~?近所迷惑だろう~?張り切るのは分かるけどさ~ほどほどにしな?・・」って怒られた・・、

するとアンちゃんは、
「は~い、すみませんでした~!気をつけま~す!」って言いながら笑ってた、

そしたらヒデさん・・、
「コラ靖?お前、真面目に聞いてないだろ~?ああそうか~いいよ?そいう事ならお前の飯、作ってやんないからさ・・」
って言い出した、

するとアンちゃん、少し焦った顔になって、
「ええ~ヒデさん、それはないよ~あっあのすみませんでした、ほんと気をつけます、だからヒデさん?ねっ飯、お願い?」
って手を合わせた・・、

するとヒデさん、「しょうがないな~、まっ、許してやるとすっかな・・」だって・・。

その後、朋子さんも起きてきて一緒に朝食をすませたらヒデさんが「さて・・そろそろ行くか~?」って言うと
アンちゃんも朋子さんも一緒になって、元気に「は~い!」だって・・・。

なんだか幸恵さんの時じゃないけど、どうもうちは調子が狂っちゃって何も言葉が出なかった・・・。



そして辿りついた故郷の町・・、行きなれた道を歩き出してから、やっと辿りついた裏山を目の前にした時、
急にヒデさんが、
「亜紀?行けそうか?」って聞いた、「ああ、あたしは平気よ、駄目な時は言うから、ありがと・・」

って言うとヒデさんは、
「そっか、それじゃ~行こうか?・・」そう言ってまた登りだした・・、

そしてやっと目的の大木を目の前にして、うちは息が途切れ途切れになってちょっと限界のように思えたから・・、
「ごめん、少し休ませてもらっていいかな?・・」

って立ち止ったら、ヒデさんが、
「なら俺、おぶってやるよ?もうそこだし、いいよな?」

って言い出して、ちょっと焦った・・、
「駄目、絶対駄目、駄目だから、ね!」って言ったら、なにが可笑しかったのか三人が一斉に笑い出した・・・。



そしてなんとか辿りついた場所に、大木を目にしたら、うちは苦しかった事も忘れて大木に触れて空を見上げた・・・、
何時からか、此処へ来るとうちは樹に話しかけてる、辛くなった時も楽しい時も、何も応えてはくれないけどそれでも
この樹はうちを癒してくれる・・、それからうちは大木の幹に腰を下ろした・・、

そんな時アンちゃんが、
「亜紀ちゃん、大丈夫?登れそうかな?」って聞かれた・・、

するとヒデさんが、
「靖?朋ちゃんと登って来いよ?せっかく来たんだ、朋ちゃんも登ってみたいだろ~?」

って聞かれて、朋子さんは、
「あたし、初めてなんですけど一緒に登ってくれるなら登ってみたいなかな?」って笑ってた、

するとヒデさんは、「ほら靖?一緒に登ってこいよ?」ってなんかかきたててた、

するとアンちゃん
「そうだな?それじゃ朋ちゃん?登ろうか?」って言うと朋子さんは「はい!お願いします」
って嬉しそうに言われて、アンちゃんは少し照れくさそうにニコッと笑って「それじゃ行こうか?」・・・、
そう言うともうふたりは一緒に登り始めてた・・・。


ヒデさんは二人が登り始めるとうちの隣に腰を下ろして「亜紀?もう大丈夫なのか~?」って聞いた、

「あたしはもう平気、でもおんぶって言われた時はちょっと焦っちゃったけどね?」

って言ったらヒデさんは笑い出して、
「だってさぁ亜紀辛そうだったし、俺は亜紀が喜んでくれると思ってたんだけどなぁ・・」って言いながらまた笑ってた、
ちょっと悔しい気もしたけど、それはヒデさんの優しさだって知ってたから、だから、うちは何も言えなかった・・、

ただあまりにも笑いすぎるから止めたくて思わずキスしたら、ヒデさんの笑いが止まった・・、
そしたらうちの方が可笑しくなって笑い出すとヒデさんが、
「こら~亜紀~?わざとやったろう~?まったく~」って抱きつかれてそのまま地べたに寝頃んだ・・・、

するとヒデさん、うちの顔を見て、
「亜紀?ずっと一緒だからな?そしてさ?お兄さんの分も幸せになろうな?・・」って言って空を仰いでた、

「そうね?そうじゃなきやお兄ちゃんに怒られそうだし・・・・ねえヒデさん?あたしね?・・・」って言いかけて、
でもその先がどうしてもいいずらくて黙ってしまったら、ヒデさんに「なんだよ~?」って急かされた、

ちょっと恥ずかしいから顔を背けて
「あたし・・・子供、ほしいなぁ・・・って・・・」って言ってしまったら、ヒデさんの顔見られなくなった、

するとヒデさん、急に笑い出した、
「もう、どうして笑うのよ?・・・もういい、あたしじゃやっぱり駄目だよね?ごめん、もう忘れて・・・」
って言ったら自分がちょっと情けなくて起き上がろうと思った、

でもヒデさんが、
「亜紀?俺もほしいよ・・・、けどさぁ?もう俺は亜紀がいてくれたらそれでいいって思ってる・・・、それはさぁ、
亜紀の身体が第一だからだよ、それだけなんだ・・、無理して亜紀を失いたくないからな?分かってくれるかな?」
って言った・・・、

「ありがと、でもあたし分かってたよ?無理だって事も知ってるから、ごめんもう言わない、だからもう忘れて?
ごめんなさい・・」
ってその場所から離れた、
泣き出してしまいそうだったから、ヒデさんの気持ちは嬉しいって思う、でもそれはうちには、慰めでしかない、
うちは知ってる、ヒデさんが本当はほしがってたこと、だから分かってても聞いてみたかった、
ただ居てあげるだけの存在でいたくないって、でもそれはうちがヒデさん失いたくなくて、しがみついていたい
だけなのかもしれない・・・。

するとヒデさんは、
「亜紀、誤解するなよ?俺は諦めたんじゃないよ亜紀との子をさ・・?亜紀がほしいって言ってくれるのは俺だって
正直嬉しいよ、でももしそれで亜紀に何かあってどちらか選べって言われたら俺はどっちも選べないの分かってる、
だからさ?分かってくれよ?」
って言うとうつむいてた、

「ヒデさん?あたしのわがままなのごめんね?・・・だからもう忘れて、ね?」って言ってたら、

その時、アンちゃん達が降りてきて、「お待たせ~待った~?」って声をかけてきた・・、
ヒデさんは、少し塞込んでたけど、でも笑顔を作って、「遅かったなあ?どうだった?朋ちゃん感想は?」

って聞くと、朋子さんは、
「すごく怖かったけど、でも登ったら最高でした、気持ちよかったですよ?・・」って嬉しそうにはしゃいでた・・、

そんな時アンちゃんが、
「亜紀ちゃん?登るのは辞めたの?」って聞かれた、でも今日は登れる気がしなくて、言葉に詰まった・・、

するとヒデさんが、
「亜紀~?登って見るか?心配するな俺が支えてやるからさ・・」

って言うと、アンちゃんが、
「亜紀ちゃん?登りなよ?ヒデさんも言ってくれてる事だしさ?・・」って後押しされて、断り切れずうちは頷いた・・、

するとヒデさんがうちの手を掴んで、「それじゃ行こう亜紀?」って言われて一緒に登り始めた・・、

うちが登り始めて後にヒデさんは付いてきた、登り始めて途中、無理はしたくなくて木の枝に寄りかけてたら、
ヒデさんが追いついて来て「もう無理そうか~?」って聞かれた、

気持は嬉しいけど、でも・・、
「無理だなんて聞かないで?此処まで来たんだから・・・」って言ったらヒデさんは笑って「それもそうだな?」だって・・・。

それから何とか辿り着いた頂上で、うちは腰を降ろした、その時ヒデさんが登って来て「大丈夫そうだな、よかった・・」

ってそう言いながらうちの隣に腰を降ろすとヒデさんは、
「なあ亜紀?子供が居なくても俺は、亜紀がいたらそれで十分なんだよ?亜紀は子供が居ないと不安なのか~?
俺が出来ないって言ったのは亜紀が駄目だからじゃないんだよ?今は子供より亜紀が必要だからだ、信じて貰えないか・・・」
って言った、

「ごめんなさい、もういいの、正直言ってあたしずっと不安だったの、何にも出来なくて、だから焦ってたのかもしれない、
こんなあたしだから、あたしの方がヒデさん失いたくなかったんだと思う、でももういいのごめんね?・・」

って言ったら、ヒデさん、
「心配ないよ、俺は亜紀が居るだけだっていい亜紀がいやなら別だけどな?けど俺は亜紀が居てくれるだけで十分なんだよ、
だからさ・・・、子供は亜紀がよくなったら何人だって作るさ?五人でも十人でもな?・・」って笑ってた、

でも・・・、
「ヒデさん?あたしそんなに作れる自信ないよ?・・」って言ったら、ヒデさん大笑いし出した、訳が分からず、
「もう~笑わないでよ~?」って叫んでしまった・・、

すると下に居るアンちゃんが、
「なに騒いでるんだよ~?もう降りてこいよ~」って叫んでた、うちは慌てて口を押さえたらヒデさんが、
「亜紀?もう遅いと思うよ?仕方ない、降りようか~な~亜紀?」って、うちの顔を覗き込んで、「もう大丈夫か~?」
って聞かれて、うちが頷くと「それじゃ行こうか?・・」って言われて、一緒に降りた・・。

アンちゃんは、顔を見合せた途端、
「随分騒がしかったけど亜紀ちゃん?ヒデさんに虐められでもしたのか~?」って聞いた、

するとうちが応える前にヒデさんが、
「おいコラ!誰が虐めるんだよ~?人聞きの悪い事言うな~知らない朋ちゃんが本気にしたらどうすんだ、まったく~」
って怒ってた、

そしたらアンちゃん、
「それはヒデさん次第だからね?それよりさ~みんなお腹空かない?」ってお腹を押さえた、

すると朋子さんが、
「あれ?靖さん、さっきパン食べてたじゃないですか~?」

って言われてアンちゃんは、
「だってさ~あれだけじゃ~足しにもなんないよ~」って言うと、またお腹を擦ってた、

するとヒデさんが、
「朋ちゃん?こいつの腹は底なしだから、そんなもんじゃ足んないんだよ?な?靖~・・」

って言いうと、アンちゃんは、
「そうだけど~底なしは余計だろう~それよりほんとお腹空いたよ~」って悲痛な声を出してた、

そんなアンちゃんを見兼ねて山を降りる事に決ったら、ヒデさんは「まったくしょうがない奴だな~」
ってぼやいてた、
でもそう言いながらもアンちゃんの言葉に応えてあげてるヒデさんは何処か楽しそうで、そんなヒデさんを
分かってるのか、アンちゃんは嬉しそうにヒデさんのぼやきを聞き流してた・・。


帰りの途中で食事をすませて朋子さんを家まで送って後、店までの帰り道を歩いていたら、その時お父さんに会った・・、
するとお父さんは
「あれ?みんなお揃いで、今帰りかな?カナ身体の方はどうだ?ああ、そうだった、渡そうと思っていたんだよ、おお
これだ、カナ、慎一君から預かってた手紙だ、自分がもしもの時はカナに渡してくれと頼まれててね?ずっと預かって
いたんだが・・・、会えてよかった・・」
そう言ってお兄ちゃんからの手紙を手渡された・・、

「あ、ありがとう・・」って言ったら、お父さんは、
「カナ?思ったより元気そうで好かった、すまない私の力が及ばなくて、ほんとすまないカナ・・」って頭を下げた・・、

「お父さん?それはお父さんの所為じゃない、だから謝らないで?お兄ちゃんはお父さんに感謝してた、あたしだって
お父さんが居なかったらお兄ちゃんの死に目にだって会えなかったの、だから本当はあたしの方がお父さんにお礼を
言わなきゃいけないの・・・、お父さん、ありがとう?お兄ちゃんと過ごさせて貰ってほんとありがとう・・」
想いが込みあげたら、涙が溢れた、

そしたらお父さんが、
「ありがとうカナ?思い出させてしまったようだね?もうよそう、すまなかったね・・・、また何時でも、顔を見せてくれ、
ねえカナ?待ってるよ・・・、呼びとめてすまなかったねヒデさん?また寄らせて貰うよ、カナのこと宜しく頼みますね?
それじゃ、ねカナ・・」
そう言うと手を振って帰って行った・・。

そんなお父さんの後ろ姿を見送ってたら、ヒデさんに
「亜紀?俺たちも帰ろう?な?」って言われて、また帰り道を歩き出した。


会話のないまま店の前まで来た時、うす暗い通りをうちの横から誰かすり抜けて行く人の姿に、うちは一瞬、寒気を感じた、
誰だか分からない、でも知っているような気がして、誰だか確かめたくて目で追って見た、でも暗くなった通りの中を
見つけるのは難しくてうちは諦めて店へと入った・・・。


それから部屋に戻ってからお兄ちゃんの手紙を開いた・・・、

 カナ・・
 お前がこの手紙を読む時はもう俺はこの世にいないだろうな、
 そうあってほしくはないが仕方のない事だと俺は覚悟を決めた、だからお前に、最後の手紙を送ることにしたよ・・・、
 
 カナ、今まですまなかった、そしてお前の優しさ数えきれないほど貰った、本当にありがとう・・、
 こんな私でも兄と慕ってくれたお前に、俺はなにも残してやれない、それだけが俺の心残りだよ・・、
 カナ、身体は大丈夫なのか、お前は隠してたようだからあえて聞くのは辞めておいた、でも早く治した方がいい、
 ヒデの為にも、 お父さんの為にも、俺は何もしてやれないが元気なカナで居てくれる事を願っているよ・・、
 最後に建の事、お前は関わるな・・、もうあいつの事は忘れていい、お前は自分の身体の事とヒデを大事にしてくれ・・、
 幸せ祈ってるよカナ・・。今まで本当にありがとう・・。


うちは涙が止まらなくて手紙の文字がかすむたび何度も何度も拭っては読み返した、お兄ちゃんは自分の最後を分かってた、
それでも、いつだって会う度に笑顔を見せて、辛かったよね、苦しかったよね、お兄ちゃん、もっと話したい事一杯あった、
お兄ちゃんと手を繋ぎたかったよ、ずっと夢に描いて、願ってたのに、もう届かないところに逝っちゃったから・・・・、
うちの願いは夢で終わっちゃった、でも想いは、うちの心の中にずっと有るから手は繋げなくなってしまったけど、
でも想いはずっと繋がってるって・・、ずっと一緒だって信じてる・・・。

気づくとヒデさんがうちの隣に腰を下ろしてた、何も聞かれる事はなかったけど、でも涙を拭いてくれて抱きしめた・・・、
そしたらまた涙が溢れだして堪えきれなくてヒデさんの胸にすがって泣いた・・。


翌朝、少し目が腫れてしまったように感じながら眼が覚めて、また独り早い目覚めにため息つきながら窓の外を覗いた・・・、
まだ人の通りのない外の静けさに、薄っすらと霧がかかった街の景色は、ひんやりとした空気が流れて、思わず身震いしてた、

そんな今日も、また朝の空気が吸いたくてうちは店の表に出た、少し肌寒く感じたけど、でも気持ちが好くて深呼吸しようと
両手を広げたら、何処から現れたのか、あの人が目の前に現れた、

どうして此処にって思い反してたら忘れてた記憶が蘇えって、うちはその場から動けなかった・・、
すると
「久しぶりだね亜紀ちゃん?元気そうじゃない、ヒデとは上手くやってるの?どうせなら俺とも仲良くしない?子供、
駄目だったんだろ?それってヒデが悪いんだよ?あいつと居てもつまんないだろ~行こうよ俺とさ~ずっと亜紀ちゃんの
事見てたんだよ?あれからずっとさ?やっぱいいよね~、あいつにはもったいないよ、行こう!」
そう言ってうちは手を引っ張られた、

怖くなって思わず「ヒデさ~ん~!」って叫んだら、そしたら彼に思いっきり顔をひっぱたかれて、
「ほら~なにやってるんだよ~来いよ~!」って言うとうちは身体ごと掴まれて、彼はいきなり走りだした、

何処に行くのかわからないまま引きずられてた、
そしたらその内息苦しくてうちがしゃがみ込んだら、彼は、「なんだよ~世話やかすなよ~」

そう言うと彼は一緒になってしゃがみこんでうちに顔を近づけてきて、
「ほら~立てよ?行こうよね?ダダこねないでさ~?もう子供じゃないだろう~?」そう言うとうちの腕を掴んだ、

そんな時、ヒデさんの声が聞こえてきてきた、すると彼は「しょうがないな~またな?亜紀ちゃん・・」
そう言うと横目に見ながら逃げるように去って行った・・、

動けずにいたうちの傍へ駆けよって来るヒデさんの姿を眼にしたらまた泣いてた、するとヒデさんがうちの顔を覗き込んで
「亜紀、今の・・?大丈夫か?さあ帰ろう、立てるか?」って抱きかかえてくれて店へと歩き出した、

店に帰りついたらヒデさんはうちを椅子に坐らせると、
「大丈夫か?な~亜紀?さっき逃げるように走って行ったの、あれってもしかして淳、か?、な~?・・」

って聞かれて、うちが頷くとヒデさんは黙り込んでしまった、
未だに震えが治まらないうちは椅子の上で膝を抱えてうずくまった、
するとヒデさんがうちの隣に腰かけてうちの肩を抱き寄せると、「亜紀~?あいつに何か言われたのか~?・・」
ってうちの顔を覗いてた、

うちは頭の中を整理しながら・・、
「あの人、あたし達の子供、駄目だったって知ってた、ずっと見てたって、それからまたなって言ってたの、ヒデさん?あの人
また来るのかな?あたし怖い、もう会いたくない・・」うちはまた膝に顔を埋めた、

そしたらヒデさんが、
「ごめんな俺の所為だ、ほんとごめんな?でももう終りにさせるよ、亜紀?今度は俺、ちゃんと守るからさ?・・」って言った、

ヒデさんが終りにするって言った言葉の意味を、うちは考えてしまったらなんだか不安になって・・、
「ヒデさんがそう言ってくれるのは嬉しいけどでも、ヒデさんの所為じゃないの、だから無理だけはしないで?お願い・・・、
ヒデさんにもしもの事あったら、あたし・・・」

って言いかけたらヒデさんは
「亜紀?心配しなくても大丈夫だよ、無理はしないさ、だからそれは心配するな、な~?さて・・」
そう言ってヒデさんは店を開ける支度を始めてた、

そう言われてもうちには不安で、なにもあってほしくない、そう思いながら坐り込んでしまってた、
その時アンちゃんが顔を出して、
「おはよう~あれ?亜紀ちゃん早いね~?どうしたの何か有った~?」って聞かれて「あ~なんでもないよ?おはよ~・・」

って言うとアンちゃんはうちの顔を覗き込んで、
「やっぱりなんか有ったんだろ?なにヒデさんに虐められたの?」って言うと、

何時の間に何処から聞いてたのかヒデさんが顔を出して「靖~?誰が虐めたって~?」って声を張り上げた、

するとアンちゃんは
「あれ?聞こえちゃった~?だんだんヒデさんの耳は地獄耳になっていくよな~?ね~亜紀ちゃん?」って苦笑いしてた。

そんなアンちゃんには何も言えなかった、言える事じゃない気がしたから、今はまだ・・。


陽が沈み、行き交う人も減り始めたら、店に入るお客もまばらになって何故か会話もなく店の中は静まりかえってた・・、
何処かぎこちなくて、少しだけ店の外を覗いて見た、そしたら今朝の事思い出して咄嗟に顔を引っ込めた、

何処かで見てるかもしれない、そう思ったら怖くて胸に両手を握り締めたら、その時アンちゃんに、
「亜紀ちゃん?どうしたの、変な人でもいたのか?」

って聞かれて何て言おうか迷って、「あっええっと・・あの、アベックが変なことしてたから・・、ね・・」

って咄嗟にでた嘘・・・、するとアンちゃんが急に笑い出して、
「亜紀ちゃん?それってもしかしてキスでもしてたのか?だとしたらちっとも変っじゃないだろう?」
って言うとまた笑ってた・・、

抵抗なくそんなことうちには言えないしそれに嘘だし・・、素直に受けてくれたのはいいけど、でもなんか複雑な気もして・・、
でもアンちゃん受け過ぎ・・、
「なにもそんなに笑う事ないでしょう?そんな事軽くなんて言える訳無いんだから・・・」

って言ったら、アンちゃんは、
「そっかなぁ?俺は平気だよ?それにさぁみんな普通に言ってるだろ?まっそう思うのは亜紀ちゃんぐらいだね?きっと・・」
ってまた笑った・・、

そうなのかな、それが普通だって言われるとうちは可笑しいのかなって、考えてく内に、やっぱり恥ずかしくて、
「そんな恥ずかしい事、普通だなんてやっぱり変よ、いいの?あたしは普通じゃなくても、だからいいの!・・」

って少し意気込んでしまったら、アンちゃんが、
「ああっごめん、なにも亜紀ちゃんが普通じゃないなんて思ってないから、そんな怒んないでくれよ?ごめんな?」
って謝ってきて、少し戸惑った、

怒ったつもりなかったのに、
「あ、あの、あたしも、ごめんなさい・・」って言ってから、なんだか可笑しくなっていつの間にかふたり笑い出してた、

でも・・・、そんな中に独りだけヒデさんは何か考え込んでた、あの人の事考えているのかもしれない、そう思うと・・・、
「ねえ、ヒデさん?今日はもう店じまいしない?ヒデさん疲れたでしょう?ね?そうしよう?」

って言うとアンちゃんが
「へえ?亜紀ちゃんからそんな事言うなんて珍しいな?ねえヒデさん?」

って言うとヒデさんは、
「ああ、そうだよな、まあ、いいかもな閉めようか?」ってどこかぎこちない返事が返ってきた、

するとアンちゃんが、
「ヒデさん、どうしたの?なんからしくないよ?なにか気になる事でもあるの?亜紀ちゃん?なんか知ってる?」

って聞かれてうちは応えられなくて戸惑ってたら、ヒデさんが、
「ああ、いやぁ何も無いさ?少し疲れただけだよ、悪いな?それじゃ~閉めるとしますか~、ねえ?」
そう言ってヒデさんは、かたずけ始めた・・。

アンちゃんは、ヒデさんの様子が可笑しいって気づきだしてた、でも何も言わずに店のかたずけを始めた・・、
その後ヒデさんは、
「これでよし、靖~?亜紀?お疲れさん!俺はもう部屋に戻るけど、いいかな?」って聞いてきた、

ちょっと気になってたけどアンちゃんの前では何も言えなくて、うちが頷いて見せたらアンちゃんも一緒になって頷くと、

ヒデさんは、「そっか、それじゃお先に~・・」そう言って部屋へと戻って行った・・。

ヒデさんが部屋へ戻ってしまうと、アンちゃんがうちに向き直って、
「亜紀ちゃん、何か知ってるでしょ?教えてくれないかな?それとも俺じゃ頼りになんないのかな?亜紀ちゃん・・」
って言った、

アンちゃんにはまだ言えないって思ってた、でもヒデさん見てると、嫌な予感ばかりが過ぎって気が滅入ってた、だから、
アンちゃんの言葉にうちは気持ちが傾きかけてた・・、

そしたらアンちゃんが、
「今朝、何があったの?俺、途中からだったけど少し聞いちゃったんだ?ごめん、別に聞こうって思ってた訳じゃないんだけど、
ねえ亜紀ちゃん?あいつって誰?ヒデさんのなに?教えてくれよ、頼むからさ?俺じゃ~約不足か?」
ってそこまで言われちゃうと、もう隠すのは諦めた・・、

「アンちゃん助けてくれる?ヒデさんの事・・・、あたし怖いの・・・」
って言ったらアンちゃんが「どう言う事?話してよ亜紀ちゃん?」って言われて、うちはすべてをうち明けた、

そしたらアンちゃんが、
「そう言う事か、亜紀ちゃん辛かったね?俺、自分の事でなにも気づいてやれなかったごめんな・・・、分かったよ亜紀ちゃん?
ヒデさんの事は俺も見てくから心配するな?ちゃんと亜紀ちゃんには話すからさ、ね?」って言ってくれた。

「ありがとうアンちゃん・・・」って言ったらアンちゃんが「亜紀ちゃん?ヒデさんの傍に居てやんなよ、ね?」
って言ってうちを追いやった・・・、

「ああ、そうね、そうする、ありがと・・」って言ったらアンちゃんは、笑顔を見せて手を振った・・。

アンちゃんに言われて部屋へ戻ってきたらヒデさんは、壁を背にして考え込んでた、
うちはヒデさんの隣に腰を下ろしてヒデさんの肩にもたれかけたらヒデさんは、何も話しかけてはくれなかったけど、でも
笑顔を見せてうちの肩に手をまわしてくれた・・。

窓から見えた空には、月明かりで薄っすらと暗闇、照らしてた、そのうす暗い中の明るさは余計にうちを不安にさせて、どうか
このまま何も起こらないでほしいって願った・・。

Ⅱ 二十六章~連鎖~

失ってしまった悲しみも、その悲しみに苦しんだ想いは、時が癒してくれたように思う、自分を責めて苦しんで病んでた
心も、やっと自分を取り戻せた、もう二度と繰り返したくないって言ったその思いは今も変わらない、そう言ってた、
あの人に出会ってなければ、そう何度も悔やんでた、もう二度と会う事はない会いたくない、その思いは今も変わらない・・・、

眠れないまま、ヒデさんと壁にもたれかけてふたり過ごして迎えてしまった朝、
何を想い何を今考えているかなんてうちには分からない、ただずっと天井を見つめて何処か遠い眼をしてるヒデさん・・、
でもそんなヒデさんに何も声をかけられないまま、うちは傍に居続けた、そんな時窓越しから朝焼けが射し込んできて、

ふいに眼をあわせたヒデさんが、
「また心配させちゃったな?・・・、けど俺は大丈夫だよ、ごめんな?・・」って言ってうちの髪を撫でた・・、

「あたしの事はいいの、あたしが勝手にいるだけだから、だからヒデさんが謝る事はないよ?・・」
って言ったらヒデさんは「そっか、ありがとう・・・」そう言ってうちのおでこに自分のおでこを突き合わせて笑って見せた、


ヒデさんは寝ないまま店を開けた、それからいつものように店に顔を出してきたアンちゃんは、ヒデさんの顔を見ると、
「おはようヒデさん?疲れは取れた?あまり無理はしないでくれよ?ねえヒデさん?」

って言うとヒデさんは、
「ああ、おはよう?心配させたようだな?けどもう大丈夫だよ、悪かったな?・・」って笑顔を見せてた、

そしたらアンちゃんは、
「それならいいけどさ、亜紀ちゃん?おはよう・・・」って言われて、「ああ、おはよう、アンちゃんは、眠れたの?」
って聞いて見た、

そしたらアンちゃんは「そりゃ~ね?ちゃんと寝ましたよ?・・」だって・・、

「そうなんだ~それは好かった~・・」って言うと「あ~・・」って笑顔を見せてた・・。
いつもの変わらない朝、でもどこかぎこちない、多分それはヒデさんもアンちゃんも同じ気持ちで居るのかなって思う・・、


忙しかった店も少しのゆとりの時間ができた昼下がり、アンちゃんが、
「ヒデさん?少し居間で休んだら?なんか疲れてるようだしさ、忙しくなった時は声掛けるからそうしてくれよ、ねえ
ヒデさん?」って言った、

その思いはうちも同じだった、
「ヒデさん、あたしからもお願い?少し休んでてよ、多少の事ならアンちゃんとで大丈夫だから、ね?お願い・・・」

って言ったらヒデさんは、
「ああ、ありがと?そうだな、それじゃ、二人がそう言ってくれるんだし、せっかくだから、そうさせてもおうかな、悪いな?」
って言いながら苦笑いしてた、

するとアンちゃんが、
「ヒデさんは少し働き過ぎなんだから、ゆっくり休んでていいんだよ・・」って言ったら、ヒデさんは「ありがと・・」
そう言って居間へ入って行った。


それからしばらくして店に景子さんが顔を見せた、
「こんにちわ~あれ?ヒデは~?どっか具合でも悪いの?珍しいじゃない・・」って店を見渡してた、

「ああ景子さん、いらっしゃい?あの、ヒデさん、少し疲れ気味なので休んで貰ってるんです・・」

って言ったら、景子さんは
「あ~そう~?優しいのね亜紀さん!ね~ちょっと顔、覗いてもいいかしら?」って言われて少し戸惑った、

でも心配してくれてるのに悪い気がして
「ああ~はい・・」って居間を覗いたらヒデさんには聞こえてたみたいでうちの顔を見るとヒデさんは「あ~いいよ・・」
って笑って見せた・・、

うちは景子さんに「どうぞ?」って言うと景子さんは「あら、悪いわね?それじゃちょっとだけお邪魔させて貰うわね?」
そう言うと入って行った・・、

その後アンちゃんと店の椅子に腰かけて退屈な時間を過ごした、そんな時アンちゃんに、
「亜紀ちゃん、気になるだろ?ヒデさん・・」って、唐突に聞かれて気にならないって言ったら嘘になるけど・・、

「そんな事聞くなんて、アンちゃん意地悪だよ・・・」

って言ったらアンちゃんが笑い出して、
「ああ、ごめん、ごめん、俺、ちょっと様子見てきてやるよ?だから機嫌直して?ね亜紀ちゃん?」
って言うとうちの肩を叩いて立ち上がると、なにか飲み物入れ出して居間の方へ入って行った・・。

ヒデさんの事ほんとは凄く気になってた、でもヒデさん信じてる、信じていたいって思う、それなのに想いがこみ上げて、
なんだか泣いてしまいそうで外に出て空を見上げた、

でもその時うちの前を歩いて来るあの人に気づいて咄嗟に店の奥へとテーブルの下に隠れた、
震えが止まらなくて、堪えきれずにうちは涙がでた、店に入って来るかと思うと足ががくがく震えだして心の中何度も
ヒデさんを呼んだ・・。

そんな時、アンちゃんが来て、
「亜紀ちゃん?なに、どうしたの?」って、うちの顔を覗き込んできた、

その言葉にアンちゃんの顔を見たらうちは一気に気が抜けてその場に坐り込んでた、

するとアンちゃんが、
「亜紀ちゃん?そこから出てきなよ、ね?大丈夫!俺がついてるからさ、ね?・・」って手を差し伸べた、

その手に思わず涙が零れたら、アンちゃんは笑って、
「泣くこと無いだろう?ほら、亜紀ちゃん?!」ってうちの手を握るとテ―ブルの下から引き上げた、

するとアンちゃんは、
「大丈夫か?ヒデさん呼んで来るよ?」って言うと、うちを椅子に坐らせて背を向けた・・、
「アンちゃん?いいの・・・、ヒデさんには言わないでいいから・・・」

って言ったらアンちゃんは
「どうしていいんだよ~?どうしてさ?ヒデさんが他の人と、あっごめん、なんか飲もうか、ね?・・」
ってなんか気まずそうにそう言って、調理場へと入った、

アンちゃんが何を言いたかったのかうちは分からない、でも気持ちの何処かで分かってた気がした、でも今は・・、

そんな時、居間の方から景子さんが出てきて、
「どうも~?長いしちゃってごめんなさいね?お邪魔さま?ヒデ~またね~?それじゃ・・」
って手を振ると帰って行った。

アンちゃんは無言なまま、うちの前に来ると、飲み物をテ―ブルの上に置いて椅子に坐り込んだ・・、
何も言わなくなったアンちゃん見てたら、胸が痛くなって・・、

「アンちゃんごめんね?心配してくれてるのにあたし・・・、でもこれ以上は言えないの、あたしは大丈夫よ?だからそんな顔
しないで、ねえアンちゃん?」

って言ったらアンちゃんは、
「そっ?そこまで言うならもう俺のでるまくないよな、でも亜紀ちゃん?独りで抱え込まないでくれよな?隠し事は無しだよ?」
ってうちを睨んだ・・、

「わ分かった、分かったから、だからそんな怖い顔して睨まないでよ~」

って言ったらアンちゃんは、
「ははは~ごめん?そんなつもりじゃ・・悪かったね?」って頭をかいてた。

その後、お客もじょじょに増え出して来て、ヒデさんに声をかけて夕暮れ頃まで休む暇もないまま一日の仕事を終えた、
やっと店を閉める頃にはアンちゃんも言葉少なくて店を閉め終わるとそのまま自分の部屋へと戻ってしまった、


その後、ヒデさんと二人になったらうちは何も話せなくて椅子に坐り込んでた、
するとヒデさんが
「亜紀、どうした~?そろそろ部屋に戻ろうか、な?」って言われて、二人部屋へと戻ってきた、

でも部屋へ戻ってもヒデさんは何も話そうとはしなかった、そんなヒデさんに言葉も見つからなくて窓枠に頬杖ついてた、
何も話せない、そして何も聞けない、そんなこと考えてたら、ついため息が漏れた、

気くと何時の間にかうちの隣にヒデさんが腰を下ろして「亜紀?どうした~、ため息ついて~」ってうちの顔を覗いた、

「えっああ、何でもないよ、もう寝ようか?ヒデさんも疲れたでしょう?もう寝よう~ね?そうしよう~ヒデさん?」
って、うちは寝床にもぐりこんだ、

するとヒデさんは「亜紀~?なんか変だよ?なにか有ったのか~?」って聞いた、

でも何も言えそうになくて
「何も無いよ、ちょっと疲れただけ、だからもう寝よう?」って言ったらヒデさん、それ以上はなにも聞かず寝床に着いた。



あれ以来、あの人の姿を見る事もなくて、二周間が過ぎた・・、
朝から振りだした雨は、夕暮れになっても止みそうになくて、そんな雨の日は何時だって客足は遠退いてしまうから、
店の中は何時だって暇を持て余してた・・。

そんな雨の日、景子さんが今度は友達を連れて店に顔を見せた・・、
「又来ちゃった、ヒデ~?今日はうるさいのも一緒だけど宜しくね?」って前に一緒に来た卓也君と勇次君を見て言った、

すると勇次君が、
「景ちゃん?そのうるさいって俺たちの事か~?それって酷くないですか?まったく!あっ亜紀さん?どうも~」
ってうちの手を握った、

すると卓也君が、
「ああ、ずるいぞ勇次!亜紀さん・・」ってもう片方の手を取って握り締めた・・、

そんなふたりを見てた景子さんは、
「ほら~亜紀さんが困ってるわよ~?もう・・・ねえ処でヒデ?今度のあれ・・、考えてくれた~?」って聞いた、

するとヒデさんは、
「ああ、そのことか、だからそれは断っただろう?諦めてくれよ、な?」って苦笑いしてた、

すると景子さん、
「ねえ亜紀さん?一日でいいんだけど、ヒデ、ちょっと貸して貰えないかな?ヒデにどうしても来てほしいのよ~、
ねえ亜紀さん、駄目かしら?貴方の事気にしてるみたいなのよねえ、無理?・・」って聞いた・・、

そんなこと聞かれても、うちにはどう応えていいのか分からなくて迷ってたら、ヒデさんが、
「なんで亜紀に振るんだよ~俺が無理って言ってるんだろう~、いいから諦めろ、な?」って言った、

その言葉に景子さんは、頬杖ついてため息を漏らしてた、うちの所為、そう思うとやり切れなくて、
「ヒデさん?あたしの事は気にしなくても平気よ?せっかくの誘いなんだし、行って来たら?」

って言ったらアンちゃんが、
「そうだなヒデさん、少し働き過ぎなんだからさ?たまには自分のことで楽しんだらいいんじゃないの?店には俺が居るしさ」
って笑って見せてた、

すると景子さんは満面の笑顔を見せて、
「ほら~ヒデ~?みんないいって言ってくれてるじゃない、ね?行こうよ!ね?もう決めたわよ?明後日、朝には迎えに
来るわね?亜紀さん靖さんありがと?それじゃあたしこれで帰るわね?卓、勇?先に帰るね?どうも御ちそうさま・・」
って言うと手を振りながらさっさと帰ってしまった・・。

景子さんは御ちそうさまって言ってた、でもまだ何も食べても居ないのに、ってそう気づいたら彼女はヒデさんの返事が
聞きたかった、ただそれだけだったって、その時、うちは理解した・・。

景子さんが帰ってしまうと、二人の彼は、言葉もろくに交さないまま、食べ終えたらさっさと帰って行った、
なんだか悪いことしちゃったような気もしたけど、それよりヒデさんの何も話してくれない事の方が気になってうちは
椅子に腰をおろした、

そんな時アンちゃんが、うちの傍に来て、
「亜紀ちゃん?言ったこと後悔してるの?もし後悔してるなら俺から取り消しにしてもいいよ?」って言って笑った、

「あたしは、後悔なんてしてないよ、そう言う事じゃ無くて、自分でも好く分かんない、ごめん・・」って言ったら、
アンちゃんは「そっか・・」ってそれだけ言って離れた・・、

それからしばらくすると、急にヒデさんが、
「今日はこれで店終いにするか~な~靖?亜紀~?一緒にかたずけ頼むよ・・」って言うとかたずけ始めた・・、


そんな時、店にずぶ濡れになった姿で女の人が入って来た・・、
するとうちの顔を見ていきなり、「あの~ヒデさんは?」って唐突に聞かれた・・、

「ええっあの、ああ、ちょっと待っててくださいね?」って慌てて「ヒデさんにお客さんよ~?」
って言ったらヒデさんは動かしてた手を止めて「誰~?」って言いながら駆けてきて彼女と顔を合わせた・・、

そしたらヒデさん、驚いた顔で、
「どうして此処に・・、もう此処へは来ない筈だろ?何か有ったのか?」って聞いた、
そう聞いてたヒデさんは立ち止ったまま身動きもしなかった、この人とどんな関係なのか知らない、でもうちはタオルを
彼女に手渡して椅子へと招いた、

そしたら彼女が、
「すみません突然、迷惑だとは思ったけど、でもあのヒデさん~?あたしを此処へ置いて貰えない?・・」って言った、

するとヒデさんは、
「何言いだすんだよ~お前旦那はどうしたんだ?あいつと・・悪い此処にはもう入る部屋は残ってないんだよ、だから
旦那の処に帰った方がいい、俺ももう一人じゃないんだ、女房も居る、だから悪いが帰ってくれ?頼む・・」
って言うとヒデさんは頭を下げてた、

その声は何処か悲痛な声に聞こえて、うちは後ずさってしまった、
ヒデさんの過去なんてうちは何も知らない、好きになりだしてた頃は知りたいって思った、でも知らなくてもいいって
思うようになってた、悲しい顔をみせるヒデさんが、うちを不安だけで一杯にさせて、そのままうちは、居間へと入った、

ヒデさんは、何時か話せる時が来たら話すって言ってた、でもあれから、もう忘れてしまっているのかもしれない、
でも今の彼女は・・、もうなにもが分からない、
うちは知らないことの焦れんまに涙が零れた、でもこんなことでまた空回りなんてしたくないって自分に言い聞かせて
涙を拭いた。

ふと気づいた時、店に彼女の姿が見えなくて、慌てて店に戻ったら、ヒデさんは、椅子に坐り込んでた、
「ヒデさん~?あの、今の人は?あんなにびしょ濡れだったのに、風邪、引いちゃうんじゃないの~?」って言ったら、
ヒデさんもアンちゃんも噴き出して笑った、

うちは嘘は言ってない、そう思ったら笑われてるのが、悔しくて、
「どうして笑うの~?ほんとに風邪引いちゃうんだから~あたし嘘は言ってないでしょう?」ってついムキニなってた、

でもそれ以上何も言えなくて、椅子に膝を抱えて坐り込んだらヒデさんが、
「亜紀~ごめんな、悪気はないんだ、機嫌直してくれよ、な?」

って言うとアンちゃんが
「亜紀ちゃんごめん?でも亜紀は優しんだな~」って苦笑いしてた・・、

「もういいよ、そんなに謝まられてら、あたしの方が謝らなきゃいけない気がして来るから・・」
って言うとまた笑い出した、

その笑いがどうにもうちを苛立たせて、「もう笑っちゃ駄目~」って思わず叫んでた、そしたらもうこの場に居られなくて、
うちは居間へと逃げた・・。

その後、部屋へ戻って来たらなんだか色々考えてた所為か疲れて、壁に背を預けて眼を閉じたら、そのままうちは眠ってた、
不意に眼が覚めて気づいたら、うちに毛布が掛けられてて、ヒデさんはうちの傍で膝を抱えて何か考え事してた・・、

うちは声がかけられなくて毛布を頭から包まったら、ヒデさんに「亜紀?起きたのか~?」って聞かれて、「うん・・・」
って返事したけど、でもヒデさんは何も言わずに考えてた、

それからしばらくしてヒデさんが、
「俺、亜紀には何時か話すって言ってたのにまだ何も話してなかったよな~?ごめんな・・」

って言うと頭を壁に預けて・・、
「今日来てた彼女、エミって言うんだ、この近くに住んでたんだよ、けど顔を合わせる事はあっても話しもした事なかった、
ただ挨拶代りにお辞儀する程度でさ、けどその内少しづつ声掛けあうようになったら、店にも食べに来るようになって、
お袋とも何時の間にか仲良くなってた・・、俺も嫌いじゃ無かったから家に呼んでお袋と三人で飯も食ったりもしてたよ
その内お袋は嫁さんにって乗り気になってた・・、けどあん時の俺は、そんな感情が持てなかった、店の事で必死だったからな、
その頃なんだ、あいつ淳と知り合ったのは・・・、
それからだった、エミが店に顔も見せなくなってさ、でも俺は仕事が忙しいんだろうくらいにしか思ってなかった、だから
俺は気にもしてなかったよ、
そんな時、淳が、店に来ては飲みに行こうって誘いが必酷てさ、俺、断れなくなってあいつに付き合ったんだ・・、
散々飲み屋を付き合わされて、あいつ最後に行った店じゃもう、かなり酔ってた・・・・、
その時に・・・・、あいつ酔いの勢いか俺に言ったんだ・・・、エミは俺の女にしたってさ・・・、その後あいつは・・・、
(お前エミに一緒になる約束したんだってな~?エミが本気でお前なんかと一緒になるとでも思ってたのか?お笑いだな)
ってさ、そう言ってあいつ笑ってた・・・、正直俺には訳が分かんなんなくてさ、だから、エミに会って聞いたよ・・・、
俺は約束なんかした覚えなかったからさ、けどエミは、俺が煮え切らない所為だって、ただ泣きわめいて、挙句に、もう会わない
って言ったっきりどっかにいなくなって、それきりだ・・・・、
俺にはもう、なにがほんとかなんて、もうどうでもよくなってさ、それからは、淳にも、エミにも、会わなくなったよ・・・・、
けど、それから二カ月した頃だったかな、淳が突然店に来たんだよ、その時あいつ、昼間から飲んでたみたいで、暇だからって
お袋にちょっかい出してきたんだ、それでついカッとなって、あいつと殴り合いになった・・・、
そん時に、あいつにエミはもう結婚してたって聞かされたんだ、淳はそれだけ言って出て行ってそれっきり来なくなった、
けどお袋はショックだったんだろうな・・・、エミの話しに触れる事しなくなってた・・、
けど倒れた時にさ、お袋がひと言だけ言ったんだ、俺に、すまなかった、ってさ・・・、だから、俺は・・・、ごめんな?亜紀・・」
ってヒデさんは膝の上に腕を組んで顔を埋めた・・、

うちには何も言えなかった、でも受け止めたいって思った、ヒデさんがうちの苦しみを受け止めてくれたように、
そう思えたら、言えた、「ヒデさん?ありがと~」って・・。

そしたらヒデさんは
「悪かったな?今さらこんな話し言い訳にしか聞こえないよな、ごめん?」ってうつむいてしまった、
でも何か思い出したようにうちに向き直ると、
「そう言えば亜紀?どうして景の誘いに返事したんだ~?俺は散々断ってたのにさ~?靖まで・・気持ちは嬉しいけどな」
ってうちの顔を覗きこんできた・・、

「たまにはヒデさん自分の為に羽根伸ばしてほしいって思ったからよ?いつもあたしがヒデさんにして貰ってるからね?」
って言ったら、ヒデさん苦笑いして、「そっか?ありがとう亜紀?けど・・」

って言いかけたけど・・
「ヒデさん~?もしかして、あたしの事心配してくれてるの?それは大丈夫よ?アンちゃんも居るから、あたし何処へも
行かないし、ちゃんと帰り待ってる、だから、あたしは平気よ?・・」

って言うとヒデさん
「そうだったな~それじゃ~さっさとつき合い終わらせて帰るよ、ありがとな亜紀~?」そう言って苦笑いしてた、



それから二日後の朝、眠りの浅いまま早くから目が覚めて窓の外を覗くと空は薄い雲が広がってた、
まだ起き出さないヒデさんの寝顔を見たら、何故か不安が入り混じって少し寂しさが込上げた、気づいたらうちの傍には
何時でもヒデさんが居た、そう気づいたら、うちはヒデさんに甘え過ぎてたのかもしれないって思えた、

そんな時、店から物音が聞こえてきて咄嗟にヒデさんって思ったけど、でもこんな事で起してしまうのは気が引けて、
うちはホウキを手に店へと降りた、
するとアンちゃんが何か探し物をしてるようだった、うちは慌ててホウキを隠したら、その時アンちゃんが、

「ああ、おはよう亜紀ちゃん?ごめん起しちゃったね?ちょっと頭痛たくてさ?薬を探してたんだけど見当たらないんだ・・・」
そう言って頭を押さえてた、

そんなアンちゃんの顔が赤く思えてうちは、おでこに手を当ててみた、
「アンちゃん、熱あるよ?薬はあたしが持って行くから部屋で休んでてよ?ね?お願いそうして?・・」

って言ったらアンちゃんは、
「あ~分かった、悪いそれじゃ頼むよ?ありがと」そう言って部屋へと戻って行った、

うちは冷やすものと薬を用意してアンちゃんの部屋で、声をかけたら、「あ~いいよ~?」って言われて部屋に入った、
それからとりあえずの事をすませて、
「アンちゃん?後で何か作ってあげるね?それまでゆっくり休んでて?出来たらまた声掛けるからね?それじゃ~・・」
言ってうちは部屋を出た、

そして自分の部屋へ戻って来たらヒデさんはもう起き出すところだった、
ふいに顔を見合せたらヒデさんが不安げに、
「亜紀?何か有ったのか~?」って聞かれて「あ~アンちゃん熱が有るようなの、だから今薬持ってってあげてきたの」

って言ったらヒデさんは
「そっか~あいつ無理するからな~それで?大丈夫そうか~?もし・・」

って言いかけたけど、でもヒデさんが言いたい事分かった気がしたから、
「ヒデさん?後は心配しなくてもあたしが居ます、それともあたしじゃもっと心配?」

って言ったら、苦笑いして、
「そうだったな、それじゃ~亜紀?後は頼むな」って言うと「ありがとな?早く帰るからさ、留守、宜しくな?」
って抱きしめた
「うん、待ってるね?」って言ったら、「じゃ~、行って来る・・」っておでこにキスしてくれた、
少し寂しい気もしたけど手を振ったら、ヒデさんはそのまま出て行ってしまった・・。

ヒデさんを見送って、うちはアンちゃんの朝食を作った、
それからアンちゃんの部屋へ声をかけて、食事を運び入れると、アンちゃんは、壁にもたれかけて窓の外眺めてた、

「アンちゃん?気分はどう~?あの、朝食作ってみたんだけど食べられそうかな~?食べてくれる?」

って聞いたら、アンちゃんは
「あ~ありがと~ほんとに作ってくれたんだ~?食べるよ!嬉しいな、ありがとね亜紀ちゃん?」

って笑顔を見せた、
「好かった~、でもほんとにって言うのは余計でしょう?でも食べてくれて、嬉しい・・」

って言うとアンちゃんは急に箸を止めて「亜紀ちゃん?ヒデさん行ったの?」って聞いた、
「えっ行ったよ?でも分かってた事でしょ?どうしてそんな事聞くの?」って聞いたら、アンちゃんはまた食べ始めた、

そんなアンちゃんが何処かうちを不安にさせてうつむいてしまったらアンちゃんは、
「あ~美味しかった~?ありがと亜紀ちゃん?俺元気出たよ、あっ気にさせたかな?ごめん俺頭がボーとしてたから
聞き直しただけだよ、だから、そんな気にしないで、ね?亜紀ちゃん!」って言った・・、

何処か無理言ってるようにも聞こえたけど、受け流す事にして・・、
「そう~分かった、そう言う事にしといてあげる、アンちゃん?もう少し休んだ方がいいよ、無理はしない方がいいから、
何か有ったら呼んで?あたし部屋にいるから、ね?」

って言ったら、アンちゃんは、
「亜紀ちゃん?もう少し此処に居てくれないかな?こんな事言うと笑われるだろうけど寂しいからさ、無理ならいいんだ、
ごめん・・」ってうつむいて謝ってた、

アンちゃんの意外な言葉に正直戸惑ってた、今までそんな事、口にも出さなかったアンちゃんが、でも寂しい想いの先は
違っても、うちも寂しいのは一緒だから・・・、
「笑ったりなんてしないよ?アンちゃんが居ていいって言うならあたしはずっと居るから、だから少し休んで~ね?」
って言ったら、「ありがと・・」って言って横になった、

するとアンちゃんはうちの手を掴んで握り締めた、「あ、あの、アンちゃん・・?」

って言うと、アンちゃんが、
「亜紀ちゃん?俺さ~亜紀の事好きなんだよ~ずっと、ヒデさんより前からさ?俺は亜紀しか・・」
って言いながら、ふいに眼を逸らして、
「あれ~可笑しいな俺、悪い、少し頭いかれたかな~悪い忘れて?ごめん・・」って言うとそっぽ向いて目を閉じてた・・、

うちは動けなかった、言葉も見つからなくて窓の外を見た、自分の耳を疑ってしまいそうなアンちゃんの言葉に戸惑ってた
どうして今さらそんな事、でも・・、
「アンちゃん?あたしもアンちゃん大好きよ?それはヒデさんに出会う前からあたしも、でも、でもね?それは多分・・、
好きな意味が違うかなって、でもどうしたの~?今日のアンちゃん、いつもと違う気がする、ねえアンちゃん?何かあった?
あるなら教えて?ねえアンちゃん?」

って言うとアンちゃん・・、
「ごめん亜紀ちゃん、気にしなくていいよ、ただ、ちょっと言いたくなっただけだ、亜紀の気持ちは俺、分かってるから、
亜紀ちゃんが幸せで居られたら俺も幸せだって思えるから、それで十分だから俺・・、でも亜紀ちゃん?ヒデさんの事
しっかり見てないと駄目だよ?、あの人も載せられやすい人だからさ、俺・・」
って言いかけてアンちゃんは慌てたように黙ってしまった、

「アンちゃん?」ってうちはその先が聞けなくなった、聞くのが怖くなったから、そしたら、急に雨が降り出すのが見えて、
うちは思わず窓にかけだして空を仰いだ、
そしたらそんなうちの背中越しからアンちゃんが抱きついて来て、何も言わずにただ抱きしめて、頬にキスした、
そしたらアンちゃん、抱きしめてた手がさらに力を増して「亜紀、好きだよ?」ってうちの耳元で呟いた・・、

夢であってほしいって願った、感情に負けてしまわないように、もう後戻りはできないから、
心に誓った愛する人はもう変わらない、だから、ごめんアンちゃん・・、降りだした雨を眺めて、想いが溢れてきてヒデさん
の顔が浮かんだら、うちは何時の間にか涙が零れてた・・。

ふいに気づいた触れるアンちゃんの身体の熱さに、うちは思わず、
「アンちゃん?まだ熱いよ~?まだ寝てなきゃ駄目だよ、おとなしく寝てようよね?お願い!」って笑顔を作った・・、

この場をこの雰囲気を変えたくて、そしたらアンちゃんは
「あ~そうだな、わかった、寝るよ、でも居てくれるよね、ね亜紀ちゃん?」って言った、

その顔はまるで子供のように思えてきてうちはつい笑ってしまったら、アンちゃんが
「笑わないでくれよ~?もう寝るからさ・・」って言うとうちの手を握った、

うちはその手を引き離す事も出来なくて、ただアンちゃんに手を引かれるまま坐り込んで、降り出した雨を眺めた・・、
その時そんなうちの耳元に雨の音に混じって寝息が聞こえてきた、気の所為かなって、そっとアンちゃんの寝顔を
覗いて見たら、アンちゃんはもう眠ってしまってた、

このまま此処に留まっている事に、居てほしいって言ったアンちゃんの想いに、うちは応えられそうになくて握ったままの
アンちゃんの手をそっと引き離して、アンちゃんの部屋を出た・・、

そのまま自分の部屋へ戻っては来たけど、でもなにも手につかないまま窓の外を眺めた、その時胸元からペンダントが
揺れ落ちて、慌てて拾いあげたけど、どうして取れてしまったのか見ても分からなくて、仕方なくポケットに仕舞いこんだ、
降り出した雨は次第に、雨脚も勢いを増すと部屋に迄入り込んでくる雨に、仕方なくうちは窓を閉めて、部屋の壁を背にして
坐り込んだ・・・、

何も考えたくなくてうちは目を閉じた、今朝は眠りが浅かった所為か、うとうとしだして何時の間にかうちは眠ってた、
ふと目が覚めた時、アンちゃんのこと思い出して慌ててアンちゃんの部屋へ声をかけて見た、
でも返事がなくてそっと戸を開けて覗いて見るとアンちゃんの部屋は誰もいなくて何処へ行ったのか少し不安になって
店へ降りてみた、

するとアンちゃんは、
「あ~亜紀ちゃん?ちょっとお腹空いちゃったから何か作ろうかと思ってさ~」って言うと、何か支度をはじめてた、

つい寝てしまった自分が少し申し訳なく思えて、
「アンちゃん?それならあたしが作るよ、だからアンちゃん休んでて?ごめんね気づいてあげられなくて、今作るから、
ね?休んでてよ!まだ無理しない方がいいから、お願い?」

って言ったら、アンちゃんは
「ありがと・・、それじゃ~頼む、俺、居間で休むからさ・・」って居間へと入って行った、

そんな時、店の戸を叩く音が聞こえてきて、怖くて居間に飛び込んだ、するとアンちゃんが、
「亜紀ちゃん?此処に居なよ、俺が出るからさ、ね?」って言ってアンちゃんが店の戸を開けた、

するとそこにエミさんが立ってた、
「あの~ヒデさん呼んでもらえませんか?すみませんお願いします・・」って言うと頭をさげてた、

アンちゃんは、
「今、留守ですよ?また改めて来て貰えますか、留守の間に入れる訳にはいかないんで、すみません・・」

って言ったら、エミさんは
「分かりました、それじゃ~、何時頃、帰ってきますか?その時また来ます・・」って聞いた、

アンちゃんは、
「それは俺にも分かりません、すみません」って言うと、エミさん「それじゃ~奥さんは?」って聞いた、

するとアンちゃんは「一緒に出ましたから・・」って言った、

するとエミさんは、少し考え込んでるようだったけど、「そうですか、分かりました、すみません又来ます・・」
そう言って帰って行った、

アンちゃんは彼女が行ってしまうと再び扉を閉めた。

でもどうしてあんな嘘・・、
「アンちゃん?どうしてあたしが居ないって言ったの?」って聞いたらアンちゃん、「あ~、何となくさ・・」って言った、

「何となくって、あたし居るのに~、アンちゃんそんなの可笑しいよ・・」って納得できなくてついムキニなってた、

するとアンちゃん、
「それじゃ~亜紀ちゃんあの人と会って何を話すって言うんだよ?もしあの人がヒデさんと別れてくれって泣かれたら
亜紀ちゃんなんて応えるんだ?あの人はヒデさんと寄りを戻したがってるんだよ~?俺は別に、ごめん俺、部屋に戻るよ」
そう言って部屋に戻って行った、

うちは、アンちゃんに返す言葉が無かった、うちの知らない話しだったから、あの時うちは何も聞いてなかった、
そんな話し、ヒデさんだって口にも出さなかった、でもヒデさんは、あの時どうしてあの人の話しをしてくれたの・・、
考えてたら応えが知りたくなってうちはアンちゃんの部屋へと入った・・、

「ねえアンちゃん、教えて?あの時、何を話してたの?あたし何も聞いてなかったの、だからお願い?」

って言ったらアンちゃんは、
「そんなこと、俺に聞くよりヒデさんに聞いて見たら?俺が話せる事でもないし、さっきは俺、どうかしてた、ごめん・・」

って言うと目を逸らした・・
「アンちゃんが謝る事ないの、あたしが、ごめんね?あたし何も知らなくてほんとにごめんなさい、あっお腹すいたでしょ?
ごめん、今持って来るからね?」

って、部屋を出ようとしたら、その時アンちゃんが、
「亜紀ちゃん~?ヒデさんからなにも聞いてないの?あの日、あの人ヒデさんにしがみついて置いてくれの言ってん張り
だったんだよ、それでヒデさん今度ちゃんと話ししようって約束してやっと帰ってくれたんだ、何時とは言ってなかった
から、だからあの人はその話しがしたくて、今日来たんだと思うよ?俺はそう思ってるけど、ヒデさんは多分亜紀ちゃんに、
余計な心配させたくなかったから、だから言わなかったんじゃないのかな、多分ヒデさん、はっきりさせるつもりなんじゃ
ないのかな?」って言った、

うちは気持ちの整理がつかなくて、ただ、アンちゃんに、「ありがと・・」だけを言って部屋を出た・・。
その後アンちゃんに食事を運び終えてから、部屋へ戻って来た、
窓の外を覗くとあんなにどしゃ降りだった雨は小降りになって、街には明かりがともり始めてた、通り過ぎる人の流れを
眼で追ってたら、何故かヒデさんの姿を探してる自分が居て、早く帰って来てほしいって思いながら窓際に腰をおろし、

するとまた店の戸を叩く音が聞こえてきた、またエミさんかもしれない、そう思うだけで胸が痛くなった、でも出て行か
なきゃ、そう思いながらもアンちゃんの言ってた話しが、頭から離れなくて、動けなくて戸惑ってた、

その時アンちゃんが来て、
「亜紀ちゃん、俺が出るから此処に居て・・」そう言って店へと降りて行った、


しばらくするとアンちゃんが戻って来て、
「亜紀ちゃん~?お兄さんが来てるよ?居間の方に通したけど好かったのかな?・・」って聞いた、こんな時間から、
そう思いながらふいにお母さんの事、思い出してうちはアンちゃんに「ありがと・・」だけ言って、居間の方へとかけ降りた、

「お兄ちゃん?どうしたの、何か有った?あの、お母さんに何か?」って言葉が続かないでいたら、

お兄ちゃんが
「悪いな、こんな時間に、カナ?あの人が死んだんだ、三日前に、それでお前に手紙書き残してあったから遅くなったけど、
渡した方がいいと思ってさ、持って来たんだ・・」って言って、しわしわになった封筒を手渡された・・、

うちは言葉も出なくて、貰った手紙を開いて見た、

 カナちゃん・・、
 元気でいるの、最近、顔を見せてくれないんだね、あたしはだんだん身体が弱ってく一方だよ、昨日血を吐いたんだ、ほんと
 言うとあたしはもう長くないんだ、ガンなんだとさ、建は知らないだろうけどね、でも言った処でどうしようもないからね、
 カナ、散々酷い事したあたしなのに、ありがね、この頃はカナが来てくれるのが一番の楽しみだよ、だからカナの顔が
 見れないのは寂しいよ、でももう逢うのが嫌になったんだろうね・・・、でもお前が来てくれるまで生きていられるように
 頑張ってみるよ、幸せになってねカナ、母さんって呼んで貰えて、ほんと好かった、嬉しかったよカナ、ほんとに今まで
 すまなかったね、また・・、


お母さんはこの手紙を病室で書いたんだ、ずっとうちの来るの待って苦しいのに頑張るってうちの為に必死で辛さと寂しさに
耐えてうちのこと待ってた、それにまだ手紙書き終わってないよ、(お母さん、ごめんね・・)涙が止められなくて、うちは
堪えきれずに泣き出してた、

そんなうちにお兄ちゃんが、
「カナ?今までありがとな?あの人さ~初めて俺に今まですまなかったって涙見せたんだよ、正直驚いたけど、それで気づいた、
分かったんだ、お前のお陰だってな、その手紙、封もなんもしてなくて、なんだかわかんなかったから、勝手に読んじゃったんだ
悪い、まあこんな俺でもさ、何か困った時は、いつでも顔見せてくれよ、なカナ?それじゃ~俺帰るわ、まだやる事が残ってる
からさ?ヒデさんに宜しく伝えといてくれ、じゃ~な!」
そう言うとお兄ちゃんは振り向きもせずに帰ってしまった、

うちは泣き止む事も涙を拭うこともできなくて坐り込んでた・・お母さんが残した手紙をくしゃくしゃになるまで握り締めて
しまって、気づいた時は涙でぬれてた・・、

そんなうちの隣に何時の間にか腰をおろしてたアンちゃんが・・、
「亜紀ちゃん?好かったじゃない、亜紀ちゃんの想いはちゃんと繋がってたんだよ、亜紀ちゃんの優しさがそうさせたんだ・・・」
そう言ってうちを抱きしめた・・、

うちは思わず自分の泣き顔が恥ずかしくてアンちゃんに背を向けて涙を拭ったらアンちゃんがクスって笑って、
「亜紀ちゃん?今さらだろ?あれだけ泣いてたのにさ~、俺は気にしてないよ・・」って言ってクスクス笑い出した、

そこまで笑われたら余計に恥ずかしさが増して、「アンちゃん笑いすぎでしょう~?それって意地悪だよ~?・・・」

って言ったらアンちゃん
「ごめん、でも意地悪じゃないよ?正直に言っただけだ」って、ニコって笑った・・、
そんなアンちゃんは何処か優しくて何時の間にか、うちも笑顔になってた、

その時そう言えばってアンちゃんのおでこに、手を当ててみた「アンちゃん、熱は下がったみたいだけど、でも大丈夫なの?」

って聞いたら、アンちゃんは、
「亜紀ちゃんの手料理のお陰かもね?もうすっかり調子いいよ、ありがとね?亜紀ちゃん・・」って言って笑った、

すると今度は戸ぐちが開いて「ただいま~今帰ったよ~遅くなってごめん~・・」ってヒデさんが帰って来た・・、

色々あった、うちにとって長い長い一日、でもそんな一日もヒデさんが帰って来てくれたらその嬉しさに何もが吹き飛んでた・・・。

Ⅱ 二十七章~恋慕~

長く思えた一日は、終りを告げるかのように店の扉が開いて、「ただいま~」ってヒデさんが帰って来た・・・、
その声に思わず居間から飛び出して「お帰り・・」ってヒデさんの顔を見たら、うちは笑顔じゃ無くて涙が溢れた・・・。

するとアンちゃんが、
「あ~お帰り~!」って声をかけたら、ヒデさんは、

「ああ、ただいま、あっそう言や~靖?身体の方はもう大丈夫なのか?熱は下がったのか?飯は?・・」
ってなんだかもう永遠に続きそうなヒデさんの言葉に、苦笑いしながらアンちゃんはヒデさんの話しを遮って、

「ヒデさん?俺、子供じゃないからそんなに心配してくれなくても大丈夫だよ?それに亜紀ちゃんに手料理食べさせて
貰ったし、もう全然平気だよ・・」ってにやけて見せた、

するとヒデさん、
「そっか、そりゃ好かったな?ああ、俺も熱出さないかな~、どういう訳か俺は、身体だけは丈夫なんだよな~、それ考えると
なんか損した気分だよな~・・」

とか言いだして、うちには訳がわかんない・・、
「ヒデさん?なんか可笑しなこと言ってな~い?どうしてそうなるの~?」

って言ったら、ヒデさん、
「だってさ~亜紀の手料理、食べたいだろう~?なんか靖が羨ましいかなってさ、それに靖のすがすがしい顔見たらちょっと、
焼けてくるだろう~?」って、本気なのか分かんない事言いだして、もう呆れるしかなくて、ため息が漏れてた、

するとアンちゃんが
「ヒデさん?そんなこと考えなくても亜紀ちゃんはヒデさんの為ならちゃんと作ってくれるよ?だから余計な事考えなくて
いいんだよ?そんな余計な事したら亜紀ちゃん作ってくれないよ~?」

って言われたヒデさん・・、「そっか?それもそうだよな?ああ~なんか疲れた・・」だって・・・、
そんなヒデさんにアンちゃんと顔を見合せたら可笑しくて笑ってた。


そんな時、店の戸を叩く音が響いて、うちは思わず隣に居たアンちゃんの腕を掴んでた、

するとアンちゃんが、
「ヒデさん?エミさんだよ?さっきも来たんだ、また来るって帰って行ったから、多分そうだと思う・・」って言ったら、
その言葉にヒデさんの顔から笑顔が消えた、ヒデさんはうちの顔を見て何か言いたげな顔で何処か迷ってるように見えた・・、

「ヒデさん?話しするんでしょ?あたしの事気にしなくても大丈夫だから、開けてあげて?待ってるよ?」って言ったら、

ヒデさんは「あ~そうだな・・」って言って黙り込んでその内に覚悟決めたのか扉を開けた・・・、
予想道理そこにエミさんが立ってた、でもエミさんはヒデさんの顔を見たら「ヒデさん~!」っていきなり飛びついた・・、

するとヒデさんは、
「エミ、此処じゃ何だから、入ろう、な?・・」って言うと引き離して店の椅子に坐らせた、

エミさんは頷いて椅子に腰かけると、
「あたし旦那と別れた・・・、ごめんね、あたし嘘ついてたのに酷い事言って・・・、でもヒデさん好きなのは嘘じゃないよ?
ヒデさんの事忘れられなくて、だから戻って来たの、淳が何人かの女の子連れてるの見かけたからその中に割り込んで、
あたし色んなこと話してもらった、ねえ~もう駄目なのあたしじゃ?あたしもう行くと来ないのよ、ヒデさん・・・」
そう言うとエミさんは泣きだした・・・、

ヒデさんの顔が悲痛な顔に変わってくのが分かったらうちは目を背けてしまった・・、体中が震えだしてた・・、
押さえきれなくなって、アンちゃんの腕にしがみついてしまったらアンちゃんは何も言わずうちの手を握り締めた、

その時ヒデさんは
「俺はもう、お前と元に戻る気はないよ、ほんとにお前が俺の事想っててくれたなら、如何してあの時言わなかった?
お前はただ居場所がほしかっただけなんじゃないのか?淳に一緒になろって言ったんだろ?俺はあいつの事を全部信じてた
訳じゃないけどそう聞いたよ、なあ?もういいだろう?もう終りにしよう?今の俺には守りたい人が居るんだよ、だから・・」

って言いかけた時エミさんはうちを見た、そしたら急に立ち上がってうちの処へ駆けよって来ると・・、
「あなたが亜紀さん?ねえヒデさん、あたしに譲って?お願い、あたしにはもう他にいないの、だから、ねえ?いいでしょう?」
って、うちにしがみついた、

どうしていいのか分からなくて、身動きが取れずに彼女を見てたら、そのうち彼女の悲痛な叫び声は独りの寂しさで溢れてて、
何処か自分を見てるようなそんな感情に胸が締め付けられて、うちは身体が硬直したみたいに動けなくなってた・・、
それでもしがみついて離さないエミさんはうちを押し倒して、「亜紀さん?あたし行くと来ないのよ~ねえ?・・・」
って泣き出した・・・、

するとアンちゃんが、
「おい~辞めろよ?ほら、離せよ?」って必死に引き離してた、
でもエミさんは・・、
「ねえお願い、亜紀さん、お願い・・・」そう言いながらうちに乗りかかってきて、それが次第に苦痛に変わったらうちは息苦しくて
耐えられなくなってもがいてた、その時、ヒデさんの声が聞こえたような気がしたけど身体中の力がぬけて、うちは眼を閉じた・・。

眼が覚めた時、気がついたらうちは居間に寝てた、起き上がろうと思ったけど身体が思うようについていかなくて諦めて隣を見た、
するとアンちゃんが心配そうにうちの顔を覗き込んで・・、
「亜紀ちゃん?好かった気がついたんだね?ほんと好かった・・」そう言って息をついてた、

ふと彼女の事を思い出して、「アンちゃん?あの人は~?ヒデさん・・」

って言いかけたら、アンちゃんが、
「あ~彼女を連れ出して出て行った、でも大丈夫だよヒデさん帰って来るから、少し寝てな?帰ってきたら起してあげるからさ」
って笑って見せた、アンちゃんのその笑顔になんだか癒されて「ありがと・・」って言ってたら何時の間にかうちはまた眠ってた。

それからどれくらい寝てたのか、ふいに目が覚めたらヒデさんが傍に坐って何時の間にかアンちゃんの姿はそこには居なかった、
ヒデさんの横顔を見ると、何処か悲しげな顔でうつむいて考え込んでいるように見えた、何か言葉をかけたくても、うちには
かけられる言葉が見つからない、だからヒデさんの横顔見てた、

するとヒデさんが、
「亜紀、起きてたのか?大丈夫か?悪かったな?けどエミの言った事は気にしなくていいからな?エミには帰る場所はあるんだ、
ただエミが帰りたくないだけなんだからさ、俺はもう関わるつもりはない、それだけは信じてくれ、なあ亜紀?・・」って言った、

「あたしはヒデさん信じてるよ?でもどうして彼女に居場所があるなんてヒデさん分かるの?このまま諦められるのかな~?
あたしは、彼女の事何も知らないからほんとの処は分からないけど、でも此処まで来てあたしにせがんでまでヒデさんのこと・・、
そんな彼女が、あ、ごめんなさい」

って言ったら、ヒデさん、
「亜紀は俺にどうしてほしいんだ?エミの頼みを聞けって言うのか?今日帰りにさ、淳見かけたから捕まえて話しをしてきた、
エミの事もさ?・・・エミには旦那と暮らしてる家が有るんだよ、エミの親も一緒にな、エミの家だそうだ、エミは淳に一緒
になってその家で暮らそうって持ちかけたって言ってた、どこまで本当なのかは知らないけどさ、なあ亜紀?もういいんだよ、
亜紀が気にしてるのはエミの事だろう?心配なんだよな?・・・けどもう亜紀が心配する事は無いんだ、大丈夫だよ、なあ亜紀?」
って言った・・、

「ごめんなさい、あたし余計な事言ったみたい、ほんとごめんなさい・・」
もう何も言えなくなった、ヒデさんにそこまで言われてしまったら、うちの言う事なんて何もない気がしたから・・・、

するとヒデさんが、
「ごめん、俺の方が亜紀に余計な心配かけてたんだよな、最初っから俺が話していればよかったのにさ、ほんんとごめん・・」
そう言ってうつむいてた、


その後、身体の調子も戻り始めて二人部屋へと戻った、でも部屋についてからしばらくすると胸が痛みだしたら気分が悪くて、
うちは壁に寄りかけて坐り込んだ、

するとヒデさんが不安げにうちの傍へ来て、
「亜紀?どうした、まだ苦しいのか?」そう言って抱き寄せた、
でも返事するだけのそんな元気が出なくてヒデさんの肩に寄りかけてたら少しだけ痛みも和らいできた、

「ごめんね?少し休めば治まると思う、でもどうしたちゃったのかなあたし、ほんとごめんね・・」

って言ったらヒデさんは、
「どうして謝るんだ?俺の方が謝んなきゃいけないことだよ、辛い思いさせて悪かったな、亜紀?・・」って言って抱きしめた・・。

でもその後、みんなが寝静まった深夜、うちは息苦しさに目が覚めた、そしたらまた痛みが増して耐えきれなくてヒデさんの
顔を撫でた・・・、

するとヒデさんは、飛び起きて、
「どうした痛むのか?亜紀?」って言われて、「ヒデさん・・」って必死に呼んだら、もう喋る気力が無くて疼くってしまった、

するとヒデさんは「靖・・・!靖・・・!ちょっと来てくれ!頼む・・!」って叫んでた、

するとアンちゃんが、勢いよく駆けだしてきて、「なに?どうしたの?亜紀ちゃん?どうして・・」って言って困惑してた・・。

その後うちは、お父さんの病院へと連れて来られた、言われるままに来てしまった、
病室に入れられて嫌な点滴までうたれて、痛みも和らいできた頃に、ヒデさんとお父さんが、病室に入って来た・・、

するとお父さんが
「カナ、どうだ?少しは治まったかな?でも好かった、このままほっておいたら危なかったからね?しばらくは居なさい、
いいね、カナ?」そう言ってうちの髪を撫でた、

ヒデさんは、
「どうだ?もう痛みは取れたか?少しの間、我慢してくれな?お父さんがついてるから大丈夫だよな?・・」
そう言って笑って見せるとヒデさんはお父さんに「宜しくお願いします・・」って頭を下げて、
うちの顔を覗いて
「亜紀?明日また来るよ、ゆっくり休みな?おやすみ?・・」そう言って手を振ると病室を出て行った・・、

そしたらお父さんが、
「カナ、寂しいか?少しの間だけ辛抱しておくれ、なるべく早くヒデさんのところへ帰してあげるから、ね~カナ」
って笑って見せた、

「ありがと、お父さん?・・」って言うと、お父さんはうちの手を握って「大丈夫だ、心配いらないからもう休みなさい・・」
そう言ってお父さんも病室を出て行ってしまった・・。

病室の窓からの景色は真っ暗で何も見えない、ガラスの張った窓は光が反射して自分の姿を映して、影を映したような
自分の姿に、今までの事、想い起こした、生まれてくるはずだった子供の事も、お母さんとの再会も、そして、お兄ちゃんとの
別れの日の事も、その全部が頭の中を駆け廻って蘇えったら何時の間にかうちは取り残されたように思えて涙が零れた・・、

エミさんのことは、ヒデさんは大丈夫だって言ってた、ヒデさんの思いはうちの傍にずっといてくれる事信じてる、でも
エミさんの思いがこれで本当に終りにしてくれるなんて、うちの不安はまだ消えていない、ただ今は大丈夫だって信じて
いたいだけ、ヒデさんの言葉を信じたい、ただそれだけだから・・・。


入院してから一周間が過ぎた時、お父さんの説得からうちは検査に踏み切った、それからの入院生活は検査だけに
費やされて、気づくともう二週間が過ぎてた、
そんなうちの病室へヒデさんは店だけでも大変なのに、毎日のように顔を見せてくれる、そんなヒデさんになんだか
悪い気がして、
「いつもは大変だから・・」って言いかけたら、ヒデさんは

「亜紀の顔見ないと俺が嫌なだけだ、だから亜紀が気にする事ないよ?」そう言って笑顔、見せた。
その言葉は少し心苦しい気もしたけど、でもうちも同じ気持ちだから返す言葉も見つからなくて頷いて見せてた。

それから三日目の昼下り、お父さんが病室に顔を見せた、
「カナ、もう此処の生活も慣れたかな?身体の調子はどうだ?もう少しの辛抱だからね?」って、椅子の腰を降ろした、

「お陰ですっかり調子はいいの、お父さんのお陰ね、ありがと?でも此処の生活にはあまりなれたくないかな?ああ、でも早く
治したいから頑張るね?」

って言ったらお父さんははははって笑って、
「そうか?カナのその笑顔みたら、元気づけられて私の頑張れるよ・・」ってまた笑ってた、でも・・、

「ねえお父さん?もう検査の結果は出たんでしょう?だいたいでいいの教えてくれない?あたし大丈夫よね?」って聞いた、

するとお父さんは、少しうつむきかけて、うちの顔を見ると、
「そうだねえ・・・、正直大丈夫とは言えんな・・・、今のままではね?だが治せない訳じゃない、だからもう少し辛抱してくれカナ?
なるべく早くヒデさんの元へ帰してあげるからね?・・」ってうちの手を握ってた・・。

詳しい話しはしてくれなかったけど、でもお父さんの笑顔が消えてしまいそうで、それ以上に聞くのは辞めた。


その日の夜、中々顔を見せなかったアンちゃんがヒデさんと一緒に顔を見せてくれた、
アンちゃんは
「亜紀ちゃんどう?調子はいいの?中々来れなくてごめんね?なんたってヒデさん、人使い荒くてさ~?困っちゃうよ・・」
ってヒデさんを見た、

するとヒデさんは、
「何言ってるんだよ?優しいもんだろうが・・、亜紀?本気にするなよ?靖は連れて来れなかったから拗ねてるだけだからさ?」
って苦笑いしてた・・・。

久しぶりに聞く二人のやり取りが、まだそんなに日を重ねてないのに、懐かしく思えてきたら、うちは涙が出た・・、
するとアンちゃんが、
「亜紀ちゃん、どうしたの?なんか悪い事言っちゃった?ごめんな?」って謝った・・、

「ああ、違うの、こんな会話聞くの久しぶりかなって思ったらなんだか懐かしいなって、だから気にしないで、ごめんね?」

って言ったらヒデさんが、
「亜紀?すぐ帰れるさ、また一緒に山、行こう?な亜紀?」って言って笑った、

アンちゃんは、うつむいてた顔を上げて
「亜紀ちゃんの手料理、また食べたいな?亜紀ちゃん、帰ってきたら、また作ってくれる?ヒデさんには内緒でさ?」
って笑って見せた、

「アンちゃん?それ本人前にして言ったら内緒になんないでしょ?ほら~ヒデさん、睨んでるよ?」

って言うとヒデさんは、
「靖?お前そう言う事、俺を前にして言うか?バカ野郎!」って、アンちゃんの頭をこついた、

するとアンちゃん、
「痛~!それじゃ~ヒデさんの前じゃなきゃいいのか?そっか分かったよ、それじゃこれからはそうしよ~・・」
って言うと苦笑いしてた、

するとさすがのヒデさんもちょっと呆れた顔で、
「はあ、お前には敵わん、いいよ俺だってさ?なあ作ってくれるよな亜紀?」だって・・、

なんだかこの展開にうちは堪えきれず笑ってしまったら二人とも一緒になって笑い出してた・・。

ほんの短い時間でもこんなに笑える時を過ごせるなら、寂しさなんてまたすぐに笑いに変えて笑顔になれる・・、
当たり前のように傍に居てくれたのは、本当は当たり前なんかじゃないって、当たり前にしちゃいけないってこと、うちは
忘れてたように思う・・、

絶えず笑顔をくれる優しさに、一人じゃないって教えてくれるから、その笑顔が元気をくれるから・・・、
だから寂しいなんて言わないでいようって思う、ずっとその笑顔、絶やさないでほしいから、また一緒に笑えるように、
ずっとその笑顔、見ていけたら寂しさも忘れられる気がするから・・。



移り変わる季節は、いつしか大粒の雪を降らせて、窓越しから見えた雪景色が、冬の訪れを教えてくれたように思う・・・。
何時の間にかこの入院生活にも慣れてきた頃にはもうひと月が過ぎて、あれ以来なにも教えてはくれないお父さんは、
ただ、もう少し、大丈夫、そんな言葉しか返って来なくて、日を追うごとに不安だけが過ぎって知らず知らずの内に、
うちは、ため息ばかりが増えてた・・・。

そんな夜にアンちゃんとヒデさんが顔を見せて、うちの顔を見るといきなりヒデさんが、
「待たせたな亜紀?さて帰ろうか?俺たちの家にさ?」って言いだした、うちは訳が分からず「だってお父さんに・・・」

って言いかけたらアンちゃんが
「それは大丈夫だよ?今会って許しも貰って来たからさ?」って言った、

「ええっうそ、だって二日前にお父さんに会った時は、帰れるような事、なにも言ってなかったのよ?・・・」

って言うとヒデさんは、
「そんな気がしたからさ?だから話しに行って来たんだ、それとも亜紀はまだ此処に居たいのか?」

って聞いた・・、
「そんな訳無いでしょう?帰りたいの?もうヒデさんの意地悪・・」

って言ったら、二人がくすくす笑い出して、アンちゃんが、
「ああ好かった、亜紀ちゃんが此処に居たいって言ったらどうしようかと思っちゃったよ~・・」

って言うとニコって笑った、
「アンちゃんまでそんな事言わないでよ、あたしは帰えりたいの?早く帰ろう、ね?」

って言ったらヒデさんは、
「そうだな?帰ろう・・・」って言うとアンちゃんは笑いながら頷いて、一緒に病室を出た・・。

降り出してた雪の中、頬にあたる雪の冷たさがもう帰れないかもって思い始めてたうちには冷たさよりも心地よかった・・。

店の前まで来た時、ヒデさんが、
「亜紀・・、お帰り?」って言うとアンちゃんが「亜紀ちゃん?お疲れ様!」って笑顔を見せた、
うちは泣きそうになるのを堪えて「だだいま?ありがと・・・」って言ったら堪えてたはずの涙が零れた、

するとヒデさんが、
「寒かったろう?さあ中に入ろう?」そう言って戸を開けて入った、
やっと帰って来た店の中、何処か懐かしく感じた、

うちは何も言葉に出来なくて店を見渡しながら椅子に腰かけた、ただ帰って来たことの実感を噛みしめてた、
もうこの場所はうちの居場所だから・・・、そう思えるのは、やっぱり二人が居てくれるおかげなのかなって思う。

そんなうちの前に何時のまにか、二人がしゃがみこんでうちを眺めてた・・、
「ええっなに?なに、あたし、なんか可笑しな事してたの?ねえどうしたの?」って聞いたら、

二人ともニコニコして笑いだすとヒデさんが、
「亜紀が、なんかすごくいい顔してるなってさ?こっちまでなんか嬉しくなったらついな・・・」

って言うとアンちゃんは、
「好かったよ、やっぱり亜紀ちゃんが居ないとさ?ヒデさん落ち着かなくてな?それに店に出てもなんか気が抜けてるしさ・・」

って言ったら、ヒデさんが
「そんな事は、まあ多少はあったかな?・・けどいいんだよ、そんなことはどうでも~余計な事言うんじゃないよ、まったく・・」
って言うと、ヒデさんはうちに向き直って、
「亜紀、疲れたろ?少し休むといいよ、な?けど、お腹は空いてないか?」

って聞いたらアンちゃんが、
「ああ俺、空いた~、ヒデさん?なにか作ってくれるの?嬉しいな、ありがとう?・・」ってなんか喜んでた、

するとヒデさんは
「俺は亜紀に聞いたんだぞ?何でお前が喜んでるんだ?それにお前、病院行く前に食ってたろう?しょうがない奴だな~」
って苦笑いしながらヒデさんはうちに向き直って
「亜紀?なにか食べるか?・・」って聞いた、

アンちゃんの顔を見てたら、うちが断ったらちょっとかわいそうな気もして「うん、少しだけ、ね?ありがと・・」

って言うと、ヒデさんは
「よし!それじゃそれまでちょっと休んでてくれ、な?」って言われて「ありがと、それじゃ、居間で少し休ませてもらうね?」
って言うとヒデさんは「ああ、そうしてくれ・・」って言ってくれて、うちは居間へと入って腰を下ろした、

ふとテーブルの上を見たらお母さんの手紙がしわくちゃだったシワも伸ばされて置かれてた・・、その時、うちは思いだした、
お母さんの事も、エミさんの事も、そしたら気持ちの何処かやり切れない思いがこみ上げたら涙が零れた、

そんな時アンちゃんが、顔を出してきて、
「亜紀ちゃん?もう出来たからね?・・」って声をかけにきて、うちは、手紙をしまった・・、

二人のもてなしで食事をすませた後、ヒデさんが
「ああ、そうだ亜紀?はいこれ直しといたから・・」ってうちの手に握らせてくれたのは、鎖が取れてしまってペンダント・・・、
あの時、持って行く事すらできずに、置き去りにしてた・・、

「ああっ・・・、どうもありがと・・」

って言ったらヒデさんが
「何時から切れてたんだ?言ってくれたらすぐにでも直してあげたのに・・・」って笑ってた・・、

「ああ、そうよね?ヒデさんが出かけてた日に取れちゃって、なくすといけないと思って仕舞ってたんだけど、でもあの日は枕元に
置いて・・・、あっ、余計な話しだったねごめん?でも好かった、ありがと?」

って言ったらヒデさんは、
「いいよ?今度はちゃんと言ってくれよな?何時でも直してやるからさ?・・」って言ってくれて「ありがと・・」って言ったら
ヒデさんは笑顔を返してくれた、

でも何処か悲しそうな顔してて、そんなヒデさん見てたらずっと無理して笑顔見せてくれてたのかなって思えた・・
アンちゃんを見たら、アンちゃんまでもが黙り込んで、いつものふたりらしくないなって、そう思うとなんか遣り切れなくて、

「あの?あたしの為に無理させちゃってごめんね?疲れてるんでしょ?もう休んだ方がいいんじゃない?ね?」

って言ったら、ヒデさんが、
「そうだな?そうするか?けど無理なんかしてないよ?だから謝る事ないよ?さて靖?今日はありがとな?もう休めよ、な?」
って声をかけた、

するとアンちゃんは、
「あ~そうだね、亜紀ちゃんも疲れたろ?ゆっくり休んでよ、ね?それじゃ、おやすみ?・・」って部屋へ戻って行った

その後からヒデさんと部屋へ戻って来た、久しぶりの部屋に、窓の外を覗いて見ると
街の明かりもわずかな明かりを残しただけで、降り出してた雪は、家の屋根に薄っすらと雪を残して、晴れ間を見せてた・・、

やっと帰って来たって実感出来たら窓から顔を覗かせて心の中で叫んでみた(ただいま・・)って、その時胸に付けたペンダントが
揺れて、そっと握り締めたら、泣けてきちゃってうちは拭いきれないまま空みあげた・・・。
少し沈んでいるように思えたヒデさんには何だか声が掛けられなくて、うちは涙が止まるまでを空見ながらは窓枠に頬杖ついた・・。

そんな時うちの背中越しからいきなりヒデさんが抱きつてきて「亜紀?お帰り・・」ってうちの背中に顔を埋めた・・、
「ただいまヒデさん?・・ねえ、何か有ったの?ヒデさん・・・」

って言ったら、ヒデさんは
「いや、何も無いさ、ただ嬉しいだけだ、亜紀が帰って来てくれたからな・・・」って顔を上げるとうちの顔を見て笑った、
ヒデさんがどこか無理してるのは感じてた、でもその笑顔にうちはこれ以上聞けなくて、笑顔を返した・・。


翌日、店には出しては貰えなかったけど、それは仕方のない事だからせめてふたりの近くに居られたらって居間で休んだ・・、
二人の何処か寂しげな顔が少し気にはなったけど、店を開けると二人の元気な声が響いてきて気持ちも少しだけ楽になれた・・。

でもその日、店を閉めて居間に二人が腰を下ろした時、店の戸を叩く音が聞こえてきて一斉に三人が顔を見合せたら、
ヒデさんが、「ああ~俺が出るから・・」そう言って店の戸を開けた・・・、

するとあの人が息を切らせながら立ってた、ヒデさんは
「どうしたんだ、こんな時間に・・・?」って少し声を荒げてた、すると彼は「エミの奴が自殺しやがったんだよ・・」って言った、

うちはアンちゃんと顔を見合せて、うちが立ち上がろうとしたらアンちゃんに引き留められた・・、

その時、彼が、
「今さっき、エミは病院に連れてった、けど・・・、もう手遅れだと思うけどな・・」って言った、そして・・・、
「とりあえず、お前に知らせようと思ってさ・・・、」って言ってうつむいてた、、

するとヒデさんは、
「それって何時の事だよ?エミは何時自殺なんか・・・、お前が傍にいたんじゃなかったのか?如何してそうなるんだよ!・・・」
そう叫んだヒデさんの声は悲痛な叫びに聞こえてきて胸が締め付けられた・・・、
何処か後悔のような叫びにも聞こえたヒデさんの痛みは、今のうちには何もできないってことうちは知ってるから・・・。

その時ヒデさんはうちの処へ来て、
「亜紀?こんな時に悪い・・・・、俺、ちょっと行って来たいんだ、だから・・・・」

って言いかけたけど・・・、
「そんなこといい、行ってあげて?あたしは心配いらないから、だから・・・、早く行ってあげて、ね?ヒデさん?」

って言うと、ヒデさんは
「ありがと・・・、靖?悪いけど、後を頼むな?悪い・・・」って言うとアンちゃんは「ああ、大丈夫だよ・・・」
って言ったらヒデさんは、あの人と一緒に行ってしまった・・・。

ヒデさんが出て行った後、空白の時間だけが過ぎた、何時の間にかあの人とエミさんが一緒に暮らしはじめてた事今になって
うちは知った、でもそれはただ、うちがヒデさんに聞けずに居ただけだから・・・、
でもその記憶がつい昨日の事のように思い浮かんできたら、やり切れなくてテーブルに顔を伏せた・・・。

するとアンちゃんが、
「亜紀ちゃん?考えすぎるなよ?誰の所為でもないんだからさ・・・、ヒデさんは大丈夫だよ、俺はそう信じてるよ・・・、
亜紀ちゃん、ヒデさんの事好きなんだろ?なら信じて待ってようよ、なあ・・・・・、
俺さぁ?正直亜紀ちゃんがヒデさんと一緒になった時は落ち込んでたんだ?こんな自分じゃ無かったらなって悔やみもしたよ、
だから俺、亜紀ちゃんの顔も見に来れなかったんだ?・・・、それに、それどころじゃなくなっててさ・・・、でもさ?来て好かったって
今は思ってるよ?多分あのまま亜紀ちゃんの顔も見れずにきてたら俺、もっと後悔してたなって気づいたからな?
それに亜紀ちゃん見てたら、俺はヒデさんで好かったなってそう思ったんだ・・・、
亜紀ちゃん?・・・・、あん時はごめんな?俺どうかしてたよ、ほんとごめん?ずっと言いだせなくてさ?でもこんな時にこんな事
言う俺もどうかしてるけどな?ごめん・・」って言ってうつむいてた、

「ありがとうアンちゃん?・・・、あたしね?アンちゃんと知り合ってからいつもアンちゃんの事考えてた、会えなくなった時も
家を飛び出してからもずっと・・・、でも、あたしは恋愛感情なんて分からなくて、自分の気持ちにも気づけなかったの・・・、
だからヒデさんと出会ってなかったらあたしはきっと、ずっと知らずに来たのかもしれないって思う・・・、
でもね?今だからこれだけは言える、あたしはアンちゃんが居たからヒデさんに出会えたって、アンちゃんがいてくれたから、
今のあたしが居るって・・・、あたし勝手言ってるねごめんなさい、でも意味は違っててもアンちゃんの事大好きだから、
だからあたしはアンちゃんの気持ちは、ずっと大事にしたいって思ってる、だから・・・、ごめんなさい・・」
って言ったらもう涙が止まらなくて膝を抱えて顔を埋めた、

アンちゃんは、
「亜紀ちゃん泣くなよ?ありがと?それ聞けただけで俺、嬉しいよほんと、だからさ?泣かないでくれよ・・・、亜紀ちゃんが
謝る事なんてないんだからさ?・・・、亜紀ちゃん?負けないでくれよな?病気にもさ?俺見守ってくから、な亜紀ちゃん?」
って言った、
うちは何も応えられなくて、顔もあげられないまま頷くしか出来なかった・・・。



それからしばらくの沈黙が流れて静まりかえった店に、夜も大分更け出した頃、ヒデさんは帰って来た・・・。
言葉もなくて帰って来たヒデさんの眼がしらは赤く腫れてるようにも見えた・・・、
そんなヒデさんは何も言わず居間へと腰を下ろして、うつむいたまま坐りこんでた・・・、
そんなヒデさんに、うちは声もかけられなくて、ただ何か言ってくれたらって思いながら、ただヒデさん見てた・・・、

そしたら急にヒデさんが
「心配かけてな?ちょっと警察に足止めされてさ・・・、エミは身内の者が連れて帰ったよ、それでやっと帰して貰えたんだ・・」
って言うとうちに向き直って、
「亜紀?結果がこんな事になっても、俺は後悔してないよ?これは彼女が選んだ選択だったって思ってる、だからもう亜紀が
気に病む事ないんだよ、なあ亜紀?分かってくれるか?・・」って言うとうつむいてた、

その言葉にうちは気づいた、あの時うちが言った言葉をヒデさんはずっと気にとめてた事、
「あたしは大丈夫よ?ヒデさんが後悔しないならあたしはそれで十分だから、余計な心配させてごめんね?・・」

って言ったらヒデさんは「そっか、ありがと・・・」って言うと何処か無理して居るようにも思えたけど、でも笑顔、みせてた・・。


それから一周間が過ぎた頃に、サチから手紙が届いた・・・、
思いがけないサチの手紙に、うちは封を開ける前から涙が零れて、つい手紙を握り締めてしまったらアンちゃんに、
「亜紀ちゃん?読む前からそれじゃ手紙が涙で読めなくなるだろう?・・」

って言うと、ヒデさんが、
「そうだよ?好かったら読んでくれないか、亜紀?・・・」って言われてうちは慌てて涙を拭いた、
ちょっと涙でぬれてしまって、少し鳴き声になってしまったけど手紙を開いた・・、

 カナ、ヒデさん、お元気ですか、ご無沙汰してました・・・、
 カナ?身体の方は大丈夫ですか・・・、私の事、許してくれますか、
 今頃になってこんなこと言うのは遅すぎることは分かってても、言わずにいる方がもっと辛くなりそうなので、
 言葉に出来そうにないから手紙にしました、ごめんねカナ?カナを苦しめてしまったこと本当に後悔してます・・、
 でもこんな私でもまだ友達だと思ってくれたら、また会いたいと思ってます、ごめんなさい・・
 ヒデさん、滞在中は本当にお世話になりました、それと私の所為でヒデさんにまで迷惑掛けてしまった事許してください、
 本当にすみませんでした。 
 そんな私ですが、今度結婚する事になりました、アトリエに来てくれてた人ですが大事にしてくれて今幸せです、
 もしお二人が、私の事、まだ友達だって思ってくれるなら、ささやかですが祝いの席に来て貰えたらって思います・・、
 アンちゃんにも一緒に来てくれる事願ってます・・。 

読み終えたらまた泣いてた、情けないくらい涙は止まってくれなくて泣き崩れてしまったら、ヒデさんが、
「亜紀?嬉しいな?もう吹っ切れたろう?なあ亜紀、祝いに行こうよ、みんなでさ~?・・」って、うちの髪を撫でた、

アンちゃんは、
「そうだね?しょうがない、行ってやるかな、ねえ亜紀ちゃん?サチの花嫁姿、冷やかしに行こうか?・・」

って言いだして、うちの涙が引いた、
「アンちゃん?何言いだすのよ!そんなことしたらあたし、怒るからね?」ってついムキニなって顔をあげたら、
急に二人が、噴き出して笑った、

するとアンちゃんが、
「冗談だよ?亜紀ちゃん、すぐ本気にするんだからなぁ?でも好かった、元気な亜紀ちゃんのムキな顔見れてさ?・・」
ってまた笑ってた、

するとヒデさんは、
「そうだな?そうするとさっちゃんの次は靖?お前の番だよなあ?なあ朋ちゃんとはどうなんだよ?」

って急に振られたアンちゃんは、
「それは言ったろう~?俺はその気は無いってさ~?だから俺の事はいいんだよ?・・」って言って目を逸らしてた、
ヒデさんはそんなアンちゃんを横目に見ながら少し苦笑いして「そっか・・」って言うとそれ以上に聞こうとはしなかった。

でもアンちゃんは、ヒデさんに向き直って、
「ヒデさん?そんな心配しなくても時期が来たら俺も考えるよ?ただ今は自分の事は考えられないだけなんだ?
だからさ?その時がきたらちゃんとヒデさんに報告するから・・、ね?そん時は宜しくね、ヒデさん?」
そう言ってヒデさんの肩を叩いて笑って見せてた、

そんなアンちゃんに、ヒデさんは、
「そっか?まあ~爺さんになってないこと、祈ってるよ?・・」そう言ってアンちゃんに笑顔を返してた、

するとアンちゃんは、
「ヒデさん~それはないでしょう~?亜紀ちゃんが言ってたからってそれは無いよ~酷いな~?」
って言いながらヒデさんと顔を見合せたら笑い出してた・・。



そしてひと月、街は雪一色に染まった・・・、
そんな夕暮れ、店には、入って来る客の足も遠退いて、音もなく降り続く雪と一緒に店の中も静けさでみたしてた・・。
サチの結婚式が三日後に迫って何処か気持ちにゆとりの持てないうちは部屋の窓から外を眺めた、
でもそれでも落ち着かなくて居間へと降りたら、その時店に誰か来ているのか、ヒデさんの話声が聞こえて、気になって
そっと店を覗くと、何時来たのかお父さんが来てた、

何時もならうちの処へ来てくれるのにどうして、そんなうちの気持ちをよそに、ヒデさんが
「亜紀に、それは・・」って言うと、お父さんは「ああ、まだだ、ヒデさん?カナの事、どうか、宜しく頼みます?・・」
ってお父さんは涙を見せてた、ヒデさんは、「はい・・・」ただそれだけ言って頭を下げた・・・、

アンちゃんは離れた場所から椅子に腰かけたままうつむいてるのが見えた、何の話しをしてるのかうちには、まだ理解は
できな居けど、でも此処に居ちゃいけない気がしてうちは部屋へと戻った・・・。

部屋に戻ってからまた窓の外を眺めてヒデさんの顔を思い浮かべた、ヒデさんのあの悲しげな顔が頭の中を離れなくて
窓枠に顔を埋めた・・・。

Ⅱ 二十八章~命の選択~

遠い記憶の中に、いつも手を繋いでいてくれた優しい手の温もりは今でもこの手に残ってる、不安な心に何時だってその笑顔で
癒してくれた優しさは、ずっと消えたりはしないから、たとえ気持ちがはぐれてしまっても、その手を離す事があったとしても・・、
また繋ぎ合えるって信じてた・・・、ずっと願ってた、何時かその手が握ってくれる事、だって今でも貴方が大好きだから・・・。


あんなに降ってた雪も、今では晴れ間を覗かせて何時しか空には気持ちがいいほど、青空が広がってた・・・、
寝つけないまま目覚めた朝、未だ残る苦痛も、この空が癒してくれそうな気がした、冷たい空気が空の青さがうちには心地良くて
窓から空見上げて大きく深呼吸してみた・・・。


そんな今日は、サチの結婚式の日・・・、でもうちは壁を背にして坐り込んだ・・・、
気づけばうちには祝いの席に着ていける服がないって事、夕べ寝る前になって気づいてしまったから・・・、でもヒデさんにも、
かといってアンちゃんにも言えなかった・・・・、
ヒデさんと一緒になって買った服は祝いの場には、とても着て行けそうにないものばかりで、今さら気づいて焦ってみても、もう、
どうしようもない事わかってるから、だからもう諦めるしかないのかもって、そう思ったらうちにはため息しか出て来ない・・・。

独り落ち込んで坐り込んでたら、そんな時ヒデさんが起き出して来た・・・、
「あれ、亜紀おはよう?どうした、坐り込んで?なにか心配ごとか?・・・」って聞かれて「えっ?ああ、おはよう・・・」

って言ったらヒデさんは、
「どうしたんだ?元気無いな~今日は・・・、あっちょっと待ってろ・・・」って言うと、突然居間へと駆けだして行っちゃった・・・、
(待ってろって言われても、何処にも行きようがないのに可笑しなヒデさん・・)って思ったら、またため息が漏れてた・・、


それからしばらくして部屋へ戻って来たヒデさんは、うちの前に紙袋を置いて、
「亜紀?渡すのが遅れたけど、貰ってくれるかな?今日の為に用意してたんだ・・・、気に入ってくれるといいけどな?・・」
って言われて開けて見ると服が入ってた・・・、

するとヒデさん、
「気に入ってくれるかな?ちょっと自信はなかったけど、靖にも見立てて貰ってこれにしたんだ、好かったら着てほしいんだ?」
って言われた、落ち込んでたうちには最高の贈り物で嬉しくて、思わず泣いてしまったら、

ヒデさんが「何?気に入らなかったのか?」ってなんか誤解されちゃったみたい・・・、

「ああ、ち・違うのヒデさん?嬉しいの、凄く嬉しくて・・・、ありがとう?・・」って言うと、

ヒデさんはほっとした顔して、
「そっか好かった?そだ亜紀?それとさ?俺は亜紀に花嫁衣装も着せてやれなかったから、その変わりになるか分かんないけど、
これ、今さらだけど、受取ってくれるか?この日だから貰ってほしいって思ってるんだけど・・」
そう言って渡された小さな箱は、開けたら・・、ヒデさんはうちの指にはめてくれて、おでこにキスした・・、

本当にヒデさんのお嫁さんに・・、って、そう実感できたら嬉しくて、
「嬉しい・・・、ありがと?・・」って思わず抱きついてしまったらヒデさんの胸で泣いてた、

そしたらヒデさんが、
「亜紀、大好きだよ?でももう泣くなよ、な?そんなに泣いてたら結婚式に泣き顔見せるようになるだろう?」
ってうちの顔を覗いた・・・。

そう言われて慌てて涙を拭いたらヒデさんはクスっと笑って「よし、それじゃ支度しようか?な亜紀?」
って言うとまた笑ってた、

「そんなに笑うこと無いでしょう?もう泣いてません!」って言ったらヒデさんは「ああ、ごめん?俺もつい嬉しくなってさ・・」
って苦笑いしてた・・・。


それから支度をすませて居間へ降りて行ったらアンちゃんもヒデさんも何だか驚いた顔でうちを見てた・・・、
何処か可笑しいのかなって、ちょっと気になって・・、「な、なに?そんなに可笑しい?あたし、変かな?」って聞いてみた、

するとアンちゃんが、
「可笑しくないよ、亜紀ちゃん別人みたいだ、凄く綺麗だよ?ねえ?ヒデさん・・」

って言うとヒデさんは、
「あ~見立ては間違いなかったな?」って言いながら見られてて、なんだか恥ずかしくなって「あっあのそろそろ行こう?ね?」
って言ったらやっと動き出してくれて店を出た・・。



それから辿りついた故郷の町・・・、でもうちの帰る居場所はもうこの町には、何処にも無い・・・、お母さんもお父さんも、そして、
お兄ちゃんも、もう居ない・・・、でも思い出はずっとうちの中に生きてる、だから今は大切な友の為に、またこうして帰って来た、
(ただいま・・)・・・。

式を挙げる場所はサチの開いたアトリエの店、でも身内だけだって手紙の後書きには書いてあったけど、でも来てみたら、かなりの
人で表までも溢れてた・・。

戸惑いながらも中へ入って行くと、中々前には行けそうになくて、うちは人の合間から覗いて見た・・・、
横顔しか見えないけど、着飾ったサチの顔は、見違えるほどに綺麗で以前と違って別人に見えた・・・、

でもうちは声をかけるのに戸惑ってた、なんて声をかけたら、なんて切り出せばって、想いはいつも空回りして言葉にできない・・・、
うちはどんな顔してるのかな、ずっと遠周りしてた想いは、まだ届きそうになくて、引き返そうって戻り始めたら、その時・・・、

背中越しから、聞こえてきたサチの声・・・、
「カナ?・・・カナなんでしょう?待って・・・、お願い・・・」って言った・・・、
サチの声だ、飛び出したあの日うちを呼びとめたあの声、あの時となにも変わってない・・・、そう思ったら懐かしさに振り向いた・・・、
でももうサチはうちの前に立ってた・・・、そんなサチに何も言葉が出ないまま、ただ涙が溢れた・・・、

でもサチはそんなうちの手を取って握り締めて・・・、
「よく来てくれたね?・・・ありがとうカナ?ありがとう?待ってた・・・、カナに会える日をずっと・・・、ごめんねカナ?あたし・・・」
ってサチは涙ぐんでた・・・、

そんなサチに言えなかった言葉が今なら言えそうな気がして・・・、
「サチ・・、結婚、おめでとう?それから・・・、ありがとう?・・・」やっと言えた、そう実感出来たら涙が止まらなくて顔を覆った・・・、

するとサチは、
「カナ?泣き虫なとこは今も変わってないよね?なんだか嬉しい?・・」って言ってクスって笑った、

そんな事言われたら涙も引いて、
「サチ?泣き虫が嬉しいってそれって可笑しくない?あたしはちっとも嬉しくないんだからね?それに・・・、笑わないでよ?
恥ずかしいでしょ?みんなが見てるじゃない・・・」
って言ったら、サチは余計に笑い出してた、

つい耐えられなくて「サチの意地悪!・・」って言ったら、

サチは苦笑いしながら、
「ああっごめんね?でも好かった?いつものカナで、それにしてもカナ?今日は見違えちゃったな?最初分かんなくて人違いかと
思っちゃった?・・・、カナ、綺麗だよ?・・」

ってまた可笑しなこと言ってるサチに・・・、
「ああもういいの?サチの方がずっと綺麗なんだからね?あたしなんかよりずっと、ね?・・・、サチ?幸せになってね?・・・・」

って言ったら、サチは笑みを浮かべて「ありがとう?カナもね?・・・あっ、そう言えば二人は?・・」

って聞かれて、
「ああっ、表で待ってるの、人が多くて入れそうにないからって、いずれ出てくるだろうから表で待つんだって?・・・」

って言うとサチが、
「そうなの・・・、それじゃあ、ねえカナ?二人で腕組んで出て行こうか、ねえ?」って言い出した、

うちは慌てて「サチ何言ってるのよ?そんな事・・・」って言い終わらない内にサチはうちの手を取って人の間をすり抜けた・・・、

呆気にとられたけど、でも、山に登った時、あの時もサチはこんなふうにうちの手を取って駆けだしてたなって、
ふいに思いだしたらなんだか嬉しくなった・・・。

なんとか表に出て見たらヒデさんとアンちゃんは、サチと一緒に居るのに驚いたのか、駆け寄って来た、
するとヒデさんが、
「おおっおい、花嫁さんがこんなとこ来ちゃ駄目だろう?・・・、まあ、いっか・・・、さっちゃん?おめでとう?・・」って言った、

するとアンちゃんが、
「サチ?ちょっと見違えたちゃったな・・・、サチ?よかったな、おめでとう?・・」って笑った・・、

サチは、
「ありがとう?ほんと来てくれて好かった、嬉しい・・・・、色々迷惑掛けちゃって、ほんとすみませんでした・・・」
ってサチは頭を下げてた、

そんなサチにうちは、何も言えなくてうつむいてしまったら、ヒデさんは・・・、
「さっちゃん?もう辞めよう、それはお互い様なんだよ、俺もさっちゃんには色々迷惑掛けてた・・・、だからさ?もうそれは
言いっこなしだ、なあ?それに今日はさっちゃん主役なんだからそんな顔してたら旦那さんに心配させちゃうだろ?だからさ?
笑ってくれよ、なあさっちゃん?」そう言って笑顔を見せてた

するとサチは少し泣き顔になってたけど、でも笑顔を作って、
「そうね・・・、ありがとうヒデさん?それじゃ、またみんなに会いに行ってもいい?今度は旦那も一緒に、駄目、かな?・・・」
ってうちの顔を覗き込んで笑った、

「あっあの?いいに決まってるでしょ?そんな改ためてなんて聞いたりしないいでよ?あたしの方が言おうって思ってたのに・・・」
って言ったら、みんなが笑い出してた・・・。


その後、披露宴の席でサチのお母さんと顔を合わせてヒデさんも交えたら・何故か話しはつきなくなって初めてヒデさんの店で顔を
会わせた時の事まで話しはさかのぼって、永遠と続くかと思えるくらい話し込んでた・・・、
でもそれもサチのお披露目が始まるまで・・・、サチの花嫁姿を目にしたら、誰もがみんな釘ずけになって、話しなんてもう何処かへ
追いやってしまってた・・、客席からは一斉に歓声の声が響き渡ったて、拍手迄もが湧き上がってた・・・。


それから何とか終わりに入った披露宴・・・、そしてサチとも別れる間際になった時、うちは思い出した・・・、
「ねえサチ?これ、好かったら貰ってくれる?あたしが作ったお守り、あまり上手くは無いけど・・、サチとはずっと友達だから・・」
ってお守りを手渡したらサチは泣いてた・・・、

うちも泣きそうになったけどでも堪えた・・、そしたらもう言葉にして何も言えそうにないから、サチの手を握りしめた・・・、
するとサチが、
「ありがとうカナ?大事にするね?だからカナ?また会おうね?」って言われてうちが頷いたら手を握り返してくれた・・・。



帰り道、まだ地面に積もった雪の上を歩きながら、ふと見えたあの山が何処か懐かしく思えて、つい足が止まって見上げてた・・・、

そしたらヒデさんが、
「亜紀、どうした?・・・」って言いながら、うちの見てる方を見て「亜紀?行きたいのか?山に・・」って聞いた、

でもうちは応えられなかった、言ってしまったら、ヒデさんから笑顔が消えてしまいそうな気がして、黙ってさえいれば・・・、
そう思えた・・・、
「ああ、そうね?でも別に登りたい訳じゃないの、だから気にしないで?ごめんね、もう帰ろう?ね?」

って言うとアンちゃんが、
「ほんと亜紀ちゃんは嘘が下手だな?行きたいならそう言ったっていいんだよ?」って言った、

何だか今の自分の心の中を見透かされたような気がして遣り切れなくて、
「そんなんじゃないの!ほんとに登りたくないんだから・・・、だから、もう言わないで!・・」ってつい声を荒げてしまった、・・

言ってしまってから後悔が残って「ごめんね・・」って謝ったけど・・、でももう、二人は何も話しかけてはくれなかった・・。


何とか店に帰り着いた時、店の前にアンちゃんのお母さんが立ってた・・・、
「おばちゃん?何時から此処に?ずっと待っててくれてたの?」って声をかけたら、

おばちゃんは、
「ああ、カナちゃん?元気そうね?ああ、ちょっと靖に話しておきたいことがあってね?さっき来たとこなのよ?」って言った、

でもおばちゃんの居た足元の周りの雪だけ、融けて水浸しになってた・・・、「おばちゃん?中に入って?ねえ?」

って言ったら、おばちゃんは、
「あっいいんだよ、すぐ帰るから、ね?ありがとカナちゃん?ああ、靖?母さんね?一緒になりたいって言ってくれる人が居るのよ、
それでお前の気持ち聞きたくて・・・、っその人仕事仲間の人なんだけどね?お前の事も話したら、それでもいいって言ってくれて
それで・・・、靖?・・・」そう言ってアンちゃんの顔を見てた、

するとアンちゃんは、
「もう俺に気を使うこと無いよ?母さんがいいと思って決めたんだろ?なら俺は構わないよ?もう母さんは自由なんだからさ?」
って笑顔を見せた、

そしたらおばちゃんは、目に一杯涙を溜めて、
「ありがと、ありがとね靖?来て好かったよ、靖?好かったら、たまに家に顔見せに来ておくれよ、ね?ちゃんと紹介するから?
身体、壊さないようにね?それじゃ母さんは帰るよ、カナちゃん、また会いに来て?靖のこと宜しく頼みますね、それじゃ・・・」
そう言って帰って行った・・。



翌朝、アンちゃんにひと言、謝りたくて二人が居る調理場へと向かったら、その時二人の話声が聞こえてきて、うちは足を止めた・・、
アンちゃんが、
「そりゃ朋ちゃんはいい子だし可愛いしでも今は俺、亜紀ちゃんが店に出られるまではその気にはなれないんだ?けどヒデさんが
心配しなくても俺だって潮時ぐらい知ってるから、だから大丈夫だよ?それよりヒデさん?亜紀ちゃんの事・・・」

って言うと、ヒデさんは
「ああ、分かってるよ?俺がはっきいすればいい事だ、けど正直怖いんだ、確率ってやつがな?亜紀が・・・、ああ、もうよそう、こんな
話し、朝からするような事でもないだろ・・・、さて靖?そろそろ店開けるぞ?」

ってその言葉にうちは慌てて部屋へと戻った、(ヒデさん、何を悩んでるの、うちの事なの・・)そんなこと考えながらいたら、ふいに
あの時お父さんとヒデさんが話してた事思い出した、そしたらやっぱりうちのことなのかもしれない・・・、
それならお父さんに聞いたら・・・、って思ったら、やっぱりお父さんに会って確かめてみようって思った・・、

そんな時、アンちゃんが部屋に顔を覗かせて、
「亜紀ちゃん?おはよ、朝飯できてるからさ、一緒に食べよう?」

って言われて、
「あっうん、ありがと?あっアンちゃん?あの・・、昨日はごめんね?あたし酷い事言ったよね、ほんとにごめんなさい・・・」

って頭を下げたら、アンちゃんは、
「なんだ、亜紀ちゃんそんなこと気にしてたの?平気だよ、俺は全然気にしてないからさ?そんな謝るほどの事じゃないさ、ね?
それより飯・・食べよう?俺、もう腹ペコなんだよ、行こう~?」って、急かされてしまった・・、

なんとなく切り出せない雰囲気に気持ちが引いてしまいそうになってた、でも知りたい・・、
「ヒデさん?あたし少し散歩してきたいんだけど、いいかな?すぐ帰るから、駄目?ですか・・」

って言ったらヒデさんは
「何だよ、その改まった言い方、別に構わないけど、珍しいな亜紀がそんなこと言うのも、まあ散歩ぐらいゆっくりして来いよ?・・」

って言った、内心胸を撫で下ろしながら、「ありがと・・」って言うと、アンちゃんが

「俺もついてってやろうか?ひとりじゃちょっと心配だしさ、ねえヒデさん?・・」

って言い出して、ヒデさんは、
「ああ、そうだな?その方がいいか、それじゃ頼むよ?・・」って言い出した、(あ~もう駄目、諦めるしかないのかも・・)

ってついため息がもれたら、するとアンちゃんが、
「なに亜紀ちゃん?俺と行くの嫌なのか?そりゃね、ヒデさんとの方がいいだろうけど、けどさ、俺傷つくよな?ため息なんか
されちゃうとさ・・・」
って言って拗ねてた、(うわ~とんでもない誤解・・)

「あの、アンちゃん?それは誤解だから、あたしアンちゃんが嫌でため息ついたんじゃないの、別の事だから誤解しないで、ね?」

って言ったら、またこれも問題発言だったのか、ヒデさんが、
「亜紀?なに別の事って、何か心配ごとか?気になる事でもあるのか?もしかして亜紀?・・」
って、二人がうちの顔を覗き込んだ・・、

「な、なに?なんなの?あたし何も、いやだ、変な詮索しないでよ?ただ一人もいいなって思ってただけだから・・・」

って言うとヒデさんが
「そっか?まっいいさ?どっちでも、行ってこいよ、な?」って笑って見せた、

ヒデさんが何を思って言ってくれたのか、うちにはわかりようもなかったけど、でもその笑顔にどこか癒されてた・・。


結局、アンちゃんと一緒に朝の散歩へと歩き出したのはいいけど、もうお父さんには会いに行けなくなってしまったから、
いやでも諦めるしかなくて、何処へともなく歩いてた・・・、そんな時、不意にあの樹を思い出した・・・、

「ねえアンちゃん?ちょっと行きたいとこあるの、行かない?」って言ったらアンちゃんは「えっ何処?構わないけど・・・」
って返事にうちはアンちゃんの手を握って少し早足で歩きだした・・、

するとアンちゃんが、
「亜紀ちゃん何処行くんだよ?そんな急ぐこと無いだろう?」って聞いた、

でもやっと樹の下に着いた時アンちゃんは
「ああ、これ?学校に在った樹と似てるなあ?へえ・・・」ってちょっと笑顔になった・・・、

「ねえ驚いた?此処ね?幸恵さんと休んでた場所なの、あの時は見る余裕なかったんだけど、でも後から気がついて・・・、
でも、きっとアンちゃんなら、分かるかなって、それでアンちゃんにも見せたくなったの!」

って言ったら、アンちゃんニコッと笑って、
「そっか?なんか思い出しちゃうよな?ねっこの樹、登ってみようか?そんなに背は高くないし、亜紀ちゃん、どう?」

って聞かれて人目が気になったけど、でもこの場所は人の通りの少ない場所だし朝は誰も通らないから、いいかなって思えて、
「うん、いいかも、登ってみようか?」って頷き合ったら、一緒に登り始めた・・、

樹はまだ、湿りを残して・・、樹の枝に残った雪を落としながら登って行くと、樹の感触と冷たさは着る服からも伝わって来た・・、
それでも登り着いた樹の上は、山のあの大木に比べたら少し味気ない気もしたけど、でも気持ちが好かった、その時また、
痛みだしたけど、でも堪えきれそうな気がしたから、アンちゃんには、言わなかった、

その時アンちゃんが、
「亜紀ちゃん、どうしたの?大丈夫?」って聞かれて「ああ、うん平気よ?たまにはこういうのもいいよね?・・」

って言ったらアンちゃんは、
「そうだね?少し迫力には欠けるけど、でも気持ちいいよな?たまには、いいかもな!」って、笑った、

樹の枝から伝ってくる湿った朝露が、時々頬を濡らして、うちが顔に手を当ててたら、アンちゃんが「そろそろ、行こうか・・」
って言われてうちが頷いたら一緒に樹から下りて店へと帰りの道を歩きだした・・・。


穏やかな日々の中をゆっくりと時は過ぎて、何時しか季節は木の枝に緑の葉を蘇らせて・・、優しい風が吹き抜けたら、
名残惜しそうに道の隅に残ってた雪も何時の間にか其処には緑の草花が芽吹いて春の香りを漂わせてた・・・。

サチの門出を祝ったあの日から早くも二か月・・・、
未だヒデさんには何も聞けないままで、それでもこのまま一緒に過ごせるならそれでもいいように思いはじめたら、
やっと出させて貰えた店の中で、考える事も不安な思いもうちはもう自分の中に閉じ込めてた・・・。


夕暮、少しの時間をうちは店の椅子に腰かけて街を覗き見ながら坐り込んでた、そんな時ヒデさんが
「亜紀?靖が、またみんなで出ないかって言うんだけど、どうかな?朋ちゃんも誘ってさ?・・」

って言うと、アンちゃんは
「もうすっかり暖かくなったし、亜紀ちゃんが好ければ、朋ちゃんも誘おうと思うんだけど、行かない?」って言った、

「えっ?それはいいけど・・・、それで何処へ行くのか決まってるの?」

って聞いたら、ヒデさんが、
「ああいや、まだだよ、亜紀の返事次第だったからさ?・・」って頭をかいてた・・、

「ああ、ごめんね、それじゃ、あたし海・・、いいかなって思うんだけど、どう?」って聞いてみた、

するとアンちゃんが、
「ああ、それもいいねえ、俺はいいと思うけど、ヒデさんはどう?」って聞いた、するとヒデさんはニコッと笑って
「そうだな・・」って言うとアンちゃんと向き合って手を叩き合ってた。

それからの二人は、意気も合って、朋ちゃんに声をかけて、三日後には、もう行く日までが決ってた・・、

そして迎えた当日の日・・・、朋ちゃんが、早くも店に顔を見せて・・・、
「おはよう亜紀さん?誘ってくれてありがとう、あの、二人は?」って聞かれた・・、

その時、ヒデさんが出てきて、
「ああ朋ちゃん、おはよう?早いんだな?靖の奴、もう来るからさ、もうちょっと待っててくれ、な?」って苦笑いしてた。

それからしばらくしてやっと顔を見せたアンちゃんは、
「ああ、悪い、遅くなっちゃったね?ごめん、さて行こっか?」って苦笑いしてた、
そんなアンちゃんが何処か可笑しくて朋ちゃんと顔を見合せて噴き出してしまったら、アンちゃんは少し照れくさそうに
してたけど、でも反論はしなった・・・。


店を出てから歩き出した時、何時の間にか朋ちゃんがうちの隣を歩きだしてた・・、
すると朋ちゃんが、
「あの、亜紀さん?靖さんて、好きな人居るんですか?あっごめんなさい突然こんなこと、ただちょっと知りたいかなって
ごめんなさい・・」
って言いながらうつむきながら歩いてた、

少し驚いたけど、でもそんな朋ちゃんの想いは、なんだかずっと前から知ってたような、そんな気がした・・・、

「そうね?分かんないけど、でも少なくとも今は、付き合ってくれる彼女は朋ちゃんだけだって思うよ?ねえ朋ちゃん?
アンちゃんの事、好き?・・」って聞いて見た、

すると朋ちゃんは、
「はい!大好きです、うわっあたし・・、あっすみません?でも今の正直な気持ちなんです、あのあたしじゃ靖さん・・・」
って言いかけて口ごもってた・・、

「朋ちゃん?あたしが言うのも変だけど、大丈夫よ?アンちゃんて、ああ見えてその気のない人と付き合う事出来ないから・・、
幼馴染のあたしが言うんだから間違いないって思うよ?だから朋ちゃん?自信持って・・・、ね?」

って言ったら、朋ちゃん
「ありがと?あたし少し勇気が出ました、ほんとありがとう亜紀さん?聞いて好かった~、でも亜紀さんと靖さんて
幼馴染だったんですか?・・・、そう?ああそっか~その所為だったんですね?靖さん、よく亜紀さんの事話してますから・・」
って苦笑いになってた・・、

「そう言えば言ってなかったね?でもアンちゃん何も言ってなかったの?あたしはもう知ってるもんだって思ってたから・・・、
ごめんね?ねえ朋ちゃん?アンちゃんに言ってみたら自分の気持ち・・・、きっと受け止めてくれると思うよ?アンちゃんてね?
ああ見えて自分から切り出せない処あるの?だから・・・、ね?」
って、なにあたし、あおってるのかな、想いが先回りして、自分でも可笑しいくらい、勝手な事喋ってる気がする・・・、

すると朋ちゃんは、
「そうですね?そうしてみます、駄目でもともとですよね?ありがとう亜紀さん?何だか勇気貰っちゃって凄く嬉しいです・・」
そう言って何だか顔が生き生きしてた・・。


何時の間にか、気づかない内に、目の前を海が広がってるのが見えて、うちは思わず朋ちゃんの手を握った・・、
「ねえ朋ちゃん?海、海よ?行こう?ね?」ってうちは堤防までを駆けだした・・・、

朋ちゃんは「亜紀さん?そんなに急がなくても・・・」って言いながら、でも一緒に走って来てくれた・・、

この時この手がサチだったら、うちの方が朋ちゃんのように言ってたのかなって、ふとサチの顔が浮かんだ・・・、
もう昔のように手をつなぐ事は出来なくなったけど、それでもずっと友達だからそれぞれの道歩き出してもずっと繋いでいける
この海のようにずっと繋がってるって信じてる・・だから朋ちゃんに出会えたんだってそう思えた・・。


そんな時、また少し苦しくなって、気づかれないように塀にもたれかけた・・、そんな時、追いついてきたヒデさんが、
「亜紀?そんなに走って大丈夫なのか?無理するなよ」って、怒られてしまった・。、


ふと気づいたら朋ちゃんはもうアンちゃんと海へと走り出してた、でもうちはヒデさんと一緒に塀に頬杖ついて、何の会話も
なくて、たた海眺めてるだけ・・・、それはうちにとって何処かぎこちない気もしてた・・・、

そんな時ヒデさんが、急にうちの顔覗き込んできて、
「なあ亜紀?どうして海に来たかったんだ・・・?ほんとは行きたかったんだろ?山にさ?」

って聞かれた、半分当りかなって思う、でも・・・、
「そんなこと、無いって言ったら嘘になるけど、でも海に来たっかったのはほんとよ?こうしてみんなで来るのって・・・・・、
ねえヒデさん?あたしたちも砂浜に行こうよ?せっかく来たんだから、ね?行こう?」

うちはヒデさんの手を引いた、そしたらヒデさん少し戸惑ってたけど、「ああ、そうだな、行こう!」って砂浜へと歩き出した、

そしてアンちゃん達の居る場所に辿りつくと、アンちゃんが、
「よ~お二人さん?遅いから待ちくたびれちゃったよ・・・、あれ、どうかしたの?浮かない顔して?・・」
って言うとヒデさんの顔を見てた、

するとヒデさんは
「そんなことはないさ、どう朋ちゃん来て好かった?」って聞くと、朋ちゃんは「はい、楽しいですよ?とっても・・」
ってニコニコしてた、

うちは気になってた朋ちゃんに指で丸のサインを出してみた、すると朋ちゃんも同じ丸サインを出して笑顔を見せた・・、
そんなやり取りに朋ちゃんと目があったら、なんだか可笑しくなって、ついうちが笑ってしまったら、つられたのか朋ちゃん
まで一緒になって笑いだしてた・・・、

するとアンちゃんが、
「なんだよ、二人してなんの合図?嫌だな~ヒデさん知ってる?」って聞かれたヒデさんは「さあ?なんだよ亜紀?」

って振られて、
「ああ、何でもないの、これは朋ちゃんとあたしとの秘密、ね?朋ちゃん?」って言ったら、「はい、内緒です・・」
って、二人で顔を見合わせたら、また笑い出してた、

するとアンちゃんが、
「なんだよそれ~、何時の間にそんな内緒ごとしたんだ?まあいいけどさ、それよりさ?なんかお腹すいちゃったよね?」
ってお腹を擦ってた、

すると朋ちゃんが、
「ああ、それならあたしサンドイッチ作って来たんですけど食べませんか?靖さん、前に山へ行った時お腹空くの早かったから、
もしかしたらって作って来たんです、亜紀さんもヒデさんも好かったら、どうですか?」って聞かれた、

するとヒデさんが
「さすが朋ちゃん!靖?好かったな?」って言われてアンちゃんはニコニコしながら「ありがと?朋ちゃん?」だって・・。
堤防の上でみんなが並んで坐るとアンちゃんはもう食べ始めてた、

陽が陰りだした頃に、ヒデさんが、
「靖?もう決りだろ?観念しろよ、な?」って言い出した、

するとアンちゃんは、
「ああ、そうだね?でもまだ言わないでくれる?」って、なんだか意味不明な会話をしてた、気になって、「ねえ~何の話し~?」
って聞くと、アンちゃんもヒデさんも二人揃って「ああ・・、内緒・・」だって・・、


帰る頃には何時の間にかアンちゃんと朋ちゃんが並んで歩いて、そんな二人の後をヒデさんと歩いてた・・・、
そんな時ヒデさんが、
「靖の奴、朋ちゃんの事決めたってさ?なあ亜紀?朋ちゃんと何に話してたんだ?俺には聞かせてくれてもいいだろ?」
って聞かれた・・、

「ええっああ、朋ちゃんね?アンちゃんの事が大好きなんだって、朋ちゃん!・・・だからあたし、気持ち伝えてみたらって
言ったの、そしたら朋ちゃんほんとに伝えたみたいで・・・、それがどうも好かったみたいなのよね?」
って言うとヒデさんが、急にクスクスと笑いだした・・、

なんだか気になって「なに?あたし可笑しな事言った?・・・ヒデさん?」

って聞くとヒデさんは
「ああ悪いな、いやあ、これで靖も決ったなって思ったら、なんか靖の顔が浮かんできてさ・・」ってまた笑い出してた、

可笑しなヒデさんって思ったけどでも前を歩く二人を見てたら何だか嬉しくなってヒデさんの笑いに一緒になって笑ってた。


そうしている内に、朋ちゃんのアパートの前まで来たら、アンちゃんは、
「朋ちゃん?今日はお疲れさん?サンドイッチ美味しかったよありがと?それじゃまた今度ね?」

って言うと朋ちゃんは、
「はい、楽しみにしてます、今日はすっごく楽しかったです、亜紀さんヒデさん?ありがとうございました・・」

そう言ってお辞儀までされてちょっと戸惑っちゃったけど、でもヒデさんは、
「いや~、お陰でこっちも結構楽しめたよ、ありがとな?機会があったらまた行こうよ、ね?」って笑顔見せてた、

すると朋ちゃんが、
「はい、その時はまた誘ってください?それからあの・・、亜紀さん?今日はありがとう?好かったらまた、話し相手に
なって貰えますか?」

って言われた、
「ああ、うん、もちろん!いつでも、また遊びに来てね?今日は楽しかった、ありがと?それじゃ、またね?」

って言うと朋ちゃんは「はい、また・・」って手を振って別れた。


帰ってきたその夜、痛みも息苦しさも感じないのに、何故か気分が悪くて早くに床に着いた・・・、
そんなうちを気にしてくれたのかヒデさんが、
「どうした、調子悪いのか?熱は?」って言うと、うちのおでこに手を当てて「熱はなさそうだけど、何処か痛むか?」

って聞かれた、
「それは無いけど、ちょっとね、でも少し疲れただけかも、大丈夫よ、きっと寝たら治ると思うから、ありがと?・・」
って言うとヒデさん少し考え込んでた、

「ヒデさん?ほんと大丈夫だから、ねえ?」って言ったら、気を取り直したのか笑顔を見せて、
「そうだな?今日はお疲れさん?・・」そう言って一緒に床に入った・・。



翌朝、いつものように店へと入った・・・、
でも夕べの気持ちの悪さは感じられなくて、やっぱり疲れだったのかなってどこかホッとしてたら、ヒデさんが急に・・・、
「亜紀?もう大丈夫かなのか?無理しなくていいんだからな?」って、うちの顔を覗き込んできた、

するとアンちゃんが、
「なに?亜紀ちゃん、具合悪いの?なら無理しない方がいいよ?」って言いだして・・・、

「あっありがと?でももう大丈夫よ?疲れてただけみたいだから、ごめん心配させちゃって・・」
って言うとヒデさんんが「そっか・・」って言うとアンちゃんは納得してくれたのか、それ以上には何も言わなかった・・、


その後、店が込み始めて忙しくなった時、ちょっと調理場へと入ったらまた気分が悪くなって、その時になってうちは気づいた、
あの時と一緒だって・・・、

その時、ヒデさんに
「亜紀?もう此処はいいから休んでな?頼むそうしてくれよ、な?」って言われてしまった、

そう言われても仕方ないって、もう気づいてしまったら、もう無理は出来ないって思った・・・、
「分かった、そうさせて貰うね、?ごめんね・・」言ってうちは居間へ腰を下ろした。

うちはお腹に手を当ててみた、もしかして出来たのかもしれないって思ったから、でも予想もしてなかった事の不安とそれでも
何処か嬉しいって思える自分がいて、そんな自分にうちは戸惑ってた・・・、
もし出来てたらヒデさんはなんて言うだろ、ヒデさんは気づいたのかな、もし気づいてたらこんな身体で駄目って言うの・・・、
そんなこと考えてても何も応えは見つからなくて、ただ前ほどに辛さは感じないかなって思えたら、少しの間だけ横になった・・、

そんな時、店にお父さんが顔を見せて・・、
「カナ?どうだいあれから調子の方は?今日は体調がすぐれないって聞いたんだが大丈夫か?熱は?もし何なら・・・」

って終わりそうになくて、
「お父さん、あたしは大丈夫よ?熱も無いし、ただ、ねえお父さん?もしも、もしあたしが子供作りたいって言ったら、あたしは
大丈夫?あたし、産んでも大丈夫?ねえお父さん教えて?正直なこと知りたいの、お願い?・・」

って言ったら、お父さんは、
「カナ、それは・・、今はお前の身体が第一だ、諦めろとは言わん、ただ今それはお前の身体には負担が大きいだろうね、だからカナ?
気持ちは分かるが身体を直してからだ、分かってくれるねカナ?」って言った、

もううちのお腹には赤ちゃんが居るって知ったら、きっと産めとは言ってくれない、って事なんだって、うちはそう理解した・・・、
「分かった、ありがと?・・」

って言ったら、お父さんは、
「そうか、分かって貰えて好かった・・・、何か有ったら何時でも顔を見せておくれ、ねえカナ?また顔出すよ、じゃあね?・・」
そう言うとお父さんは帰ってしまった。


それから店も閉め終わった頃に、ヒデさんが居間へ入って来た、でもうちは何も言えなくてただ黙ったまま膝を抱えてたら、
ヒデさんが、
「亜紀、大丈夫か?お父さん、診てくれたのか?・・・」って聞かれて、何ていえばいいのか分からなくて戸惑ってた・・・、

するとヒデさんは、
「亜紀、どうした?お父さん、何か言ってたのか?亜紀?・・・」って聞かれて「ヒデさん?やっぱり駄目なのかな・・・、もう・・」

って言ったらヒデさんは、
「亜紀?何?何が駄目なんだ?お父さんがそう言ったのか?なあ、ちゃんと話してくれよ、亜紀?・・・」

ってうちの傍へと駆け寄ってきた・・・、
「あたし、産みたい・・・、ねえヒデさん?あたしは・・・」

って思わず言ってしまったらヒデさんは驚いた顔して、
「亜紀・・・・、それってまさか?それって、出来たって、ことか?うそ・・だろ・・、そんな・・・・」そう言って、その場に坐り込んだ・・・、

そんな時アンちゃんが顔を出して・・・、
「あっあれ・・・、なに、二人ともどうしたの?何か有った?」って聞いた、

そしたらヒデさんは、
「ああっいや、何もないよ・・・、ああ、悪いな全部任せちゃって?あっそだ、悪い明日、ちょっと店閉めるわ、亜紀・・・、ああ、
亜紀を病院に連れて行きたいからさ?悪いな・・」
って言った・・・、

「えっヒデさん?・・・」って言ったらヒデさんは「確かめた方がいいだろ、なあ?そうしよう?靖?そう言う事だ、悪い・・」

って言うと、アンちゃんは
「ああ、分かった、それじゃ俺は部屋に戻るよ、お疲れ?・・」そう言うとアンちゃんは部屋へと戻って行った。



翌朝、ヒデさんに言われるまま、うちは病院での診察を受けた・・・、そして診察を終えて病院を出ると、店に帰り着くまでの間、
ヒデさんは何も話しかけてはくれなままで、部屋へと戻って来た・・・、

うちは壁にもたれかけて膝を抱え込んだ、するとヒデさんも一緒になってうちの傍に来て坐り込んで、黙りこんだまま、ただ
天井を見上げて見てた・・・、
何も言ってくれないヒデさんに、不安も想いも涙で溢れたら、堪え切れそうになくて、うちは立てた膝に顔を埋めて泣いた・・・、

そんなうちをヒデさんんは何も言わず抱きしめた・・・、でも交す言葉なんて何も見つからなくて二人そこに坐りこんで、ただ
時間だけが過ぎてた・・。

そんな時、扉越しからアンちゃんが・・・、
「ヒデさん・・・、帰ってる?今店に亜紀ちゃんのお父さんが来てるんだけど?・・」
って言われて、思わずヒデさんと顔を見合せたら、二人一緒になって店へと駆け降りてた・・・、

するとお父さんはうちの顔を見るなり、
「カナ?病院へ行ったって聞いたが、まさか・・・、出来たのか?昨日帰ってからお前の聞いてた事がどうにも気になってしまて、
それで来てみたんだが・・・、カナ?そうなのか?ヒデさん?・・・」

って聞かれると、ヒデさんは「すみません・・」って頭を下げた、

するとお父さんは、
「なんて事だ・・・、あっいや、すまない・・・、だが男と言うのは情けないものだねえ・・・、
私は静を苦しませた後悔でずっと苛まれてきた男でねえ?そんな私が君を責める資格なんてないんだよ、だから君が謝る事は何も
ないんだ、ヒデさん・・・、本当なら喜ぶべきなんだがね・・・、だが今のカナに私は・・・、素直に喜んで遣れないんだ、すまないカナ?
お前は・・・・」
そう言いかけてうつむいてしまった・・・。

「お父さん?あたし産みたい?だって分からないでしょ?大丈夫かもしれないじゃない、ねえあたし頑張るからお母さんがもし
生きてたら同じ事、きっと望み捨てたりしなかったって思う・・・、だから・・」

って言ったらヒデさんが、
「亜紀?そんな賭け俺にはできないよ?もし駄目な時はって亜紀はそこまで考えたのか?俺は前に話したよなぁ?俺には選択肢
なんて選べないって・・、俺が今必要なのは子供じゃない、今亜紀が生きて元気になる事だよ、それからなんだよ・・」
そう言ってヒデさんは言葉を詰まらせてた・・。


何処かすれ違う想いの先は見えない未来が、選べない命の重さが繋ぐ言葉さえ見失って、ただ時間だけが否応なく過ぎた、
失いたくない想いは同じでも、かみ合わない想いは、何も見出せない・・・、それでももがいてる自分にうちは苛立ちを覚えてた・・・・。

「ごめん、それでもこの子は失いたくない、あたしの命に代えても守りたい、もう失ったあの想いは、治るか分かんないあたしの為に
犠牲になんてできないよ・・」

って言うとヒデさんは
「それじゃ亜紀?・・・、亜紀にとって、俺は・・・、もう二の次なのか?・・・」って言った・・・、「そんなんじゃない!・・・そんなの・・・」

って思わず声を荒げてしまったら、アンちゃんが、
「二人ともさぁ?少し冷静になろうよ?亜紀ちゃんもヒデさんも気持ちは一緒なはずだろ?俺には、どっちなんて言えないけどさ?
けど今すぐ結論に急ぐ事もないんじゃないのかな?・・・それにお互い分かり合えるはずだろう、よく考えようよ?・・」
って言った、

すると、その言葉にお父さんが、
「そうだね?今此処で結論に急いでもいい応えも解決も見えないだろう、ゆっくり考えてよく話し合ってみてくれ?私にはそれしか
言えないが、頼む?・・・こんな無力な親で本当にすまない・・・・、私はこれで帰らせて貰うよ・・・、
カナ?お前の気持ちはよく分かるつもりだよ、だがヒデさんの事もよく考えてから決めておくれ?頼むよカナ?・・・、すまなかったね
また来る・・」
そう言ってお父さんは帰って行った・・。

でもヒデさんは、うつむいたまま椅子に坐りこんでた・・・、
「ヒデさん?・・・、あたし、治る?この子失って、あたしは治るって言ってくれる?あたしはずっとこんな自分が、ヒデさんの重荷に
なってるって・・・、それでもヒデさんの苦しむの見たくなくて、早く良くなりたいって思ってきたの、でも、酷くなるばっかりで、
みんなにまで心配ばっかりかけて、あたしの生きてる意味ってなんだろって、ずっと考えてきた・・・、
あたしはヒデさんのお荷物になりたい訳じゃない、ヒデさんの傍に居たいのはこんなあたしの為に苦しませる為でもないの、
この生活を失いたくない・・、山だってみんなとって、でもあたしが居たら、こんなあたしに期待なんて出来ないでしょ・・・・、
ヒデさんの気持ちは凄く嬉しい、あたしだってそう在りたいって思う、でもあたし治るのか先が見えて来ないの、ねえ?教えて
あたしは・・・」

想いをさらけ出してしまったら、またうちは泣いてた、溢れた感情を押さえきれなくて、ただヒデさんの顔を見てた・・、でも、
なにも応えてくれないままに時間だけが過ぎて、耐えきれそうにもなくて部屋へ戻ろうとした時・・・、

アンちゃんが、
「亜紀ちゃん、ちょっと待って?ヒデさん?もう話すべきなんじゃないのかな?すべて話してそれから決めるべき時じゃないか
って俺は思うよ?俺が口をはさむ事じゃないのは分かってるつもりでいたけどさ?けどもう迷ってる時じゃないって思うんだ、
お互い求めてるもんは一緒だろ?二人とも惚れてる同士なんだから、さらけ出せばいいんじゃないのかな?だからさぁ頼むよ、
そうでなきゃ俺、結婚できないだろうが・・・・」って言い出した、

突然のアンちゃんの発言に、話しの方向がアンちゃんに向いたら、うちはヒデさんと何時の間にか顔を見合せてた・・・、
するとヒデさんが
「お、おい靖?今何て言った?・・・、お前決めたのか?ほんとか?・・・」って声が上ずってた、

するとアンちゃんが、
「嘘もほんとも、俺は決めたんだよ、だからさぁ、俺の事考えてくれるなら、頼むよ?ヒデさん?・・」
って言うとヒデさんは顔をしかめてた・・・、

それでもヒデさんは、中々話そうとはしてくれなくて、
「もういいよ、あたし部屋に戻るね、アンちゃん?楽しみにしてるね・・・」って部屋へ戻ろうと居間に入りかけた時、

いきなりヒデさんが・・、
「亜紀?待ってくれるか?ちゃんと話すから・・・、だから、頼むよ・・」
って言った、でもそう言いながらもヒデさんの顔は辛いの無理してるようにしか見えなくて、うちは目を逸らした・・・。

するとヒデさんは、
「お父さんが言うには治る確率が10%だそうだ、それは手術をしての確立だって言ってた・・・、けど俺にはどうしてもその
確率って奴に望みを託す事が出来ないんだ・・・、俺は臆病でさ?せめて五分五分ならもしかしたらって期待も出来たんだろう
って思う、けど・・・、けどそれでも、こんなんで子供を産むと言うのはその望みも確率ももっと減るんだよ・・・、分かるかぁ?
そんな選択・・、俺には出来ないよ・・・」そう言ってヒデさんは頭を抱え込んだ、


うちは頭の中が真っ白で、言葉が出て来なかった、何に望みを託していいのかさえ、応えが見つから無くて、そしたら・・・、
握り締めてた手に涙が零れ落ちて、また泣いてるって気づいたら、うちは胸のペンダントを握りしめてた・・・、


その時アンちゃんが、
「亜紀ちゃん?確率がどんなに低くてもゼロじゃないよ?でもさ、子供を産むのはゼロに等しいってことなんだよ・・・、俺も
亜紀ちゃんには生きてて欲しいし、ずっとこの関係を大事にしたいって思ってる、だからさ?それを忘れないでほしいんだ?」
って言った・・。

「分かった、ありがと・・・、でも、少し考えさせて?ちゃんと応え出すから・・・、だから、お願い・・・・」

って言ったらヒデさんは
「ああ、待ってるよ・・・」って言うと膝の上で両手を握り締めてた・・・、うちは「ありがと・・」って、そのまま部屋へと戻った・・。


窓の外覗いたら、街に灯りがあちこちに灯り始めてた、でも空は、星一つ見当たらない・・・、
うちは何やってるのかな、想いはいつも一緒だって、ずっと傍に居るって、確かめあってきた筈なのに・・・、如何して・・・、
如何してこんなに苦しいの・・・、何やってるのかな・・・、子供が出来たって知った時、希望が見えた気がした・・・、
でもそれは違ってた・・・、うちが今叶えようとしている事は、ヒデさんとは一緒にはいられない・・・、
ずっと傍には居られない、そう言う事・・・、それでも子供は・・・、
アンちゃんは言ってた、確立はゼロじゃないって・・・、でも分からない、どうしたらいいの・・・(ヒデさん・・・どしたら・・・)。



その時ヒデさんが部屋へと戻って来た・・・、でもうちは、窓の外に眼を逸らした・・、
それなのにヒデさんは、そんなうちの隣に腰を下ろして・・・、
「なぁ亜紀?俺達ずっと一緒だよな?・・・、俺は亜紀とずっと一緒で居たいって思ってるよ?亜紀が好きだからさ?これだけは
譲れないんだ、誰にもな?・・・だからさぁ亜紀?俺を・・・置いてけぼりにしないでくれよな?頼むよ・・・」
そう言って天井を仰いでた・・・、

「ヒデさん?・・・子供諦めて手術受けなくてもあたしはずっとヒデさんと居られるの?治る?・・・あたし分からないの・・・」


「その応えは俺にも分からない・・、けど俺は亜紀には自分を見失ってほしくない、勝手かもな俺、でもさ?俺は、子供が居たとしても
亜紀がいなきゃ俺には意味がないんだよ・・・、なあ亜紀、居よう?ずっと一緒に、何があってもさぁ?先の事はこれから二人で考えよう
亜紀がいつか教えてくれた、後悔しないようにさ?なあ、そうしよう?・・・駄目かあ?」


「そしたらヒデさん、またあたしの事で苦しむ事になるのよ?ずっと・・・」って言ったら


「亜紀は亜紀だ、どんな事あってもな?亜紀が俺を嫌にならい限り俺は、苦にはならない、なあ亜紀?もう隠す事はしない、だから、
二人で、泣くのも笑うのも一緒だ、苦しい時は二人で分けあえばいいだろ?それは亜紀が俺に教えてくれたことだよ?そうだろ?」


これから先を二人で・・、きっとこれが応えなのかもしれない・・、独りで思い悩んでた事も、先の見えない不安も一緒に分け合おうって
言った・・、ヒデさんの言うようにうちは自分を見失っていたのかな・・・、

はじめて出会った時から、ヒデさんはうちの隣に居てくれた、どんな時も支えてくれたのはヒデさんだった、すべてを受け止めて
愛してくれた、だからその愛に応えたくて、この人の為にって心に誓った・・・、それがいつしか、うちにはヒデさんが全てだって
そう思えたら愛してた・・、
なにも迷う事なんて無い、応えは身近にあったのかもしれない・・、こんなに近くに・・・、そう思えたら訳も分からず涙が溢れた・・・、
でも見えた訳じゃないこの先の不安も・・・、せっかく授かった命にまだ諦めがつけた訳でも・・・、ないのに・・・、


でもヒデさんはうちを抱きしめて
「亜紀?俺に分けてくれるよな、亜紀の辛さもさ?俺達はずっと一緒だ・・・」そう言ってヒデさんはうちの手を握り締めた・・。

時の足跡 ~second story~25章~28章

時の足跡 ~second story~25章~28章

  • 小説
  • 中編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-08-22

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. Ⅱ 二十五章~さよなら~
  2. Ⅱ 二十六章~連鎖~
  3. Ⅱ 二十七章~恋慕~
  4. Ⅱ 二十八章~命の選択~