二人だけの秘め事の国

黒埜

月下の青

深夜。多分、丑三つ時より少し前。
寮室の窓辺に座り、なるべく光を身体へ取り入れる。
宝石達にとって夜は動力の光源が少ない為に動きも鈍り、宝石達を装飾品にすべく飛来する月人(つきじん)の襲来も無いとされる、まさに束の間の安息の時間。

こんな時間にこの部屋の扉を開けるのは、ペアを組んでいる相方のみ。
もうそちらに目を向けずとも分かる。


一目もくれる気ぃ無いんかいな、無愛想なやっちゃなぁ。と、いつもより落ち着いた声が不満を口にしたのでそちらに目を向ける。

陽の光の下では派手に目立つご自慢の紅いスピネルの長い髪も、暗い部屋の中では色を落ち着かせるどころか闇に溶け込み、何処が髪であるかの判別を曖昧にさせる。
当たり前のように向かい合って窓辺に座って外の景色を眺めるその姿に、愛おしい、触れたいと、そう思ってしまう。


紅い髪や己より女性らしい姿に視線を釘付けにされたまま、吸い寄せられるように伸ばした手は、触れるか触れないかの距離で相手の制止の声に阻まれ、行き場を失う。

「この世界やと触ったら人様に厄介にならなあかんねん(割れるんや)から辞めとき。あの子(ルチル)の世話なりたないやろ?我慢しいスカシ、いいやシュンスケ。」
可笑しそうにくすくすと笑う彼女は、何時ぞやにも見たことがあるような気がして、何処か安心を覚えさせた。ついでに不満と照れ臭さも。


遠い遠い過去の記憶を持ったまま二人、宝石になって。
この時間の、この空間、今だけは二つの宝石だけの。二人の恋人だけの秘め事の国。

暗中の紅

深夜。多分、丑三つ時より少し前。暗い廊下を一人歩く。
誰も居ない寮の廊下はシンとしていて、宝石が夜に弱い事がよく理解出来る。こんな時間に活動する宝石なんて、変わり者か毒の彼(シンシャ)くらいなものだろう。奇しくも同じ赤い宝石だからか親近感すら覚える。

こんな時間に出歩く理由は一つしかない、ペアを組む相方の部屋へ向かう為、それだけの事。


もう断り無く扉を開けても咎められなければ、こちらに振り返ることすら無く、誰が来たのかくらい見ずとも分かること言い表しているのだと理解出来る。
振り返らないことを軽く指摘してやれば、ようやくこちらに向き直る。

陽の光の下ではさして目立つことのない青いトルマリンの何処か雑に切り揃えられた髪は月下の中となれば話は別のようで、宝石本来の美しい光を部屋の中に惜しげも無く拡げている。
当たり前のように向かいの窓際に座り、空に浮かぶ月を眺める。あの月から、宝石達を捕らえるべく狩人(月人)がやって来るとは何処か考え難いとさえ思えてしまう。

先刻から痛いほどの視線を向かい側から感じ、髪に触れそうな指先を静かな声で制する。
触れたいのはよく分かってる、けど、我慢して。あの時とはもう違うから。

「この世界やと触ったら人様に厄介にならなあかんねん(割れるんや)から辞めとき。あの子(ルチル)の世話なりたないやろ?我慢しいスカシ、いいやシュンスケ。」
その言葉を聞いて少しの不満と照れ臭さに視線を逸らした彼があまりに昔と変わらなくて、つい笑ってしまう。


遠い遠い過去の記憶を持ったまま二人、宝石になって。
この時間の、この空間、今だけは二つの宝石だけの。二人の恋人だけの秘め事の国。

二人だけの秘め事の国

宝石の国の世界観が曖昧なまま、勢いだけで書きました。どうぞ暖かい目で見守ってやってください。
名前だけ登場した「ルチル」と「シンシャ」は、宝石の国の医療担当の宝石と、無尽蔵に出る毒液の為に他の宝石から距離を置いている宝石のことです。お時間があったら調べてみてください。

二人だけの秘め事の国

宝石の国クロスオーバーの今鳴♀。 見た目等は絵で描いた通りの、インディゴライトトルマリンの今泉とレッドスピネルの鳴子♀。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 恋愛
  • アクション
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-08-30

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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  1. 月下の青
  2. 暗中の紅