死刑宣告と生きること

 私は体育の授業でグラウンドへ行くときに、他の生徒がたくさんいる中で、他の生徒と同じように、上靴から外靴へと履き替えていた。当然人が密集しているわけだが、私は誰かのかかとを踏んでしまった。とある男子生徒だった。彼は何かの症状を持っていて、かかとを踏まれたことにより…即死だった。私は状況が呑み込めていないうちに、すぐさま警察官に連行され、すさまじいスピードで裁判所に出廷した。取り調べなど一切無くして、だ。

 私は有無を言わさず、死刑判決が下された。そのまま、私は目隠しをされたまま他の死刑囚共々刑場へ連行された。刑場に到着し、目隠しをはずされて周りを見渡した私は息をのんだ。そこには私がよく見知った学校のグラウンドがあったのだから…。他の死刑囚と共に、私も一列に並ばされた。近くの囚人に話を聞けば、金銭や恋人絡み、死刑になりたくて無差別殺人をしたなどという、聞くに堪えないような理由で刑場にいる者たちばかりだった。そんな中私に、「かかとを踏んで人を死なせることが死刑に値するほどの犯罪なのか?」という思いが少なからず沸き起こっていた。

 しかし、時は待ってくれない。ひとり、またひとりと死刑が執行され、いよいよ私の番が来た。後ろを向かされ、両手を後ろで縛られて目隠しをされた。___バンッ! 銃殺刑だった。

 刹那、私は身体から魂が解放され、とても心地よかった。皮肉なことだ。幽霊となった私は特に行く当てもないので、とりあえず教室に戻った。教室に入ると授業をやっていたので、後ろのロッカーに腰かけて、誰にも認知されないことを切なく思っていた。そう。普段と何の変りもなく授業は行われていたのだ。
すると、クラスの子がちらっとこちらを見て、授業中であるのにもかかわらず席を立ち私の前までスタスタと歩いてきた。
わずかな希望を胸に私は、
「あなたは、私のことが見えているのですか?」
と聞くと、その子はにっこり笑って
「もちろん!」
と答えた。

 その後、もう一人別な子が来て、
「私はこれをあげるよ!」
と言いながら私に手を差し出してきた。その手の平にはピンク、黄色、みどりの五芒星が三つ連なっているストラップがのっていた。私は心が温かいものであふれた。そして最初に来たこと抱きしめあって喜んだ。心の中の歪みがすぺて消え、心の中の黒いものがすべて浄化されていくかのようだった。あぁそうか、人に認知されるというのはこんなにも喜ばしく、幸せなことなんだと、私はようやく気が付いた。

 当時私は、「生まれ変わり」の話に影響を受けていた。また、自らも少し変わった体質である所以か己の「前世」のようなものを幾度となく認識していた。無論、他人のもである。そう言った経緯から「どうせ生まれ変わるのなら、生きようが死のうが関係ない」。そう思っていた。この夢を見てから私はいかに浅はかな考えをしていたかを知り、考えは改まった。

 どんな人でさえ、気づきこそせずとも誰かが気にかけていてくれている。そう思うと私は、たまらなく今を良く「生きたい」と感じられる。

死刑宣告と生きること

死刑宣告と生きること

以前見た夢です。

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • ミステリー
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-08-29

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted