ミラーボールとシンデレラ
嘘でもいいからなんて言う人じゃ無かったのに。
「なぁ、祐美!!あけてくれよ、なぁ祐美!!」
扉を叩く元カレの声がドア越しに響く。
「近所迷惑よ。分からない?」
「俺だってこんなことしたくない…」
「したくないなら帰ってよ。」
ドア前で座り込む音がした。
薄暗い廊下に佇む彼の姿を思い浮かべて自嘲的な気分にすらなる。
「好きですら無いの。帰って。」
出来るだけ声を凍らせて、あなたが「嫌い」のメッセージが受け取れるように話す。
「祐美、ドアを開けて。俺が悪かったよ、本当に本当にお前を愛してるんだ」
「さよならは伝えたじゃない。あなたのことなどもう本当に好きではないの。」
「…いつから、嫌いだったの?」
この人に、最初は遊びだって言ったら泣くかな。あの日、あなたにふれたあの瞬間から、伝えた言葉から何から何まで。
頭の中で描いたプロットをなぞっただけだと伝えたのなら。
「…答えろよ…」
「いつから、なんて覚えてないよ、」
「じゃあなんでだよ」
こんなに好きになる前に手放すつもりだったよ、本当は。
どうしてこんなことに?
「私たちもう終わりだからだよ。」
「他に、好きな奴が出来たの?」
「違うよ。」
「なら、嘘でもいいから好きって言えよ!なぁ!」
目の前の写真立てを伏せた。
この部屋にはあなたの知らない写真が多すぎるから。
「……帰って。」
「俺と結婚するっていうのは嘘だったの?」
「未来のことは分からないって私いったよ?」
「そんなつもりなかったんだろ?」
「何が?」
「俺と結婚するつもりなんて。」
結婚はするよ?あなたの知らない人と、二日後に。なんて言えるわけもないわけで。
なんて言えばいい?
「泣きながらさよならって言うくらいなら戻ってこいよ」
「やだよ。」
「黙って幸せになっとくんじゃねーのかよ。」
「なっとけ、ってそう言えば言っていたよね」
「どうしたら帰って来てくれんの?」
「さぁ、どうでしょう…」
本当はもっと早くに別れるつもりだったよ?
あなたにもらった愛情にこんなズタズタにされる前に。
思い出なんか増える前に。
「好きだって言ってくれてたじゃん」
「言ってたね。」
「なんだったんだよ。」
「あの時は好きだったんだよ。」
「もう嫌いってこと?」
「……好きになれない、ってこと。」
何度も騙せなくなるんじゃないかって思っていたのに。
どうしてこんなにギリギリまで私は好きなままなんだろう。
「俺は只の幼馴染?」
「…うん。」
「そっか。」
唇を噛んでそっぽを向くあなたの顔が浮かぶ。
ドアを開けて、好きだって泣けたら。
手遅れになるまで好きでごめんって泣けたらいいのに。
「…わかった。今までありがとう。幸せになれな。」
「…ありがとう。さようなら。」
ドア越しの足音が消えるまで聞く、私の醜い恋心をどうか、神様許して。
ミラーボールとシンデレラ