異世界へ転生しませんか?
異世界の勧誘は、なかなかうまくいかない。
「行くわけないだろ。異世界になんて。」
「おい、まただぞ。」
「なんでなんだ。この世界では異世界が流行ってるんじゃないのかよ。」
「これで100人くらいには拒否されたな。」
薄汚れた白衣を着た、三人の男が落胆する。研究室のモニター越しに見える太めの男性は、暗がりでパソコンを睨んでいる。画面の青い光が散らかりきった部屋をぼんやりと照らす。部屋の散らかりも異世界への招待も、おそらく彼にはどうでもいいことなのだろう。
「やっぱり転生先が美形でないとダメなんだろうか…。そればっかりは俺らにもどうしようもないのになあ。」
「可能性はあるだろ。なれるかも…って書いててもバチは当たらないはずだぞ。」
「本当に無理やり連れてこられないのか?」
「覚悟が条件なんだ。転生するって覚悟が本人にないと、無理なんだよ。」
一人は頭を抱え、一人は腕を組んだ。残りの一人はコーヒーをすすり、遠くを見つめる。
ブランケットと段ボールで出来たお粗末な寝床や、インスタントで溢れかえったゴミ箱が予想させる彼らの生活は、お世辞にも健康的とは言えなさそうだ。
「ネットで呼びかけるのが一番効果的なはずなんだ…。」
「おかしな話だ。あれだけ異世界へ興味を持ちながら、いざとなると誰も来ようとはしないじゃないか。」
「最初は喜んで転生してくれるものと思ったが、さすがにここまで上手く行かないとなると、計画を根本的に見直すことになるかもな。」
「そんな時間、もうないだろう。」
「助からない…のだろうか。」
皆、視線を落とす。ここだっていつ襲われるか分からないという状況は、彼らを後ろ向きにさせた。
部屋の隅には、書類で一杯のダンボールが積まれている。それら全ては向こうの世界の出来事についての文献や情報をコピーしたもので、彼らはこれを元に計画を立ててきたようだ。
「誰一人として来たがらないのはさすがに不思議だ。こちらに落ち度があるのではなかろうか。」
「報酬の前払い…が、欲しいとか?」
「例の石をプレゼントするって、書いとくか?」
「虹色に光る石なんてどこにあるんだよ。騙されたと分かったらどうなるか分からないぞ。」
「最強の種族だからな、人間は。剣術武術はお手の物。中には特殊な能力者までいる。」
「そして異世界好き…のはずだったんだが。」
獣のような顔をした彼らの種族は危機に瀕していた。異世界に生息し、他の世界の種族を幾度となく助けたとされる人間の存在はまさに救いだったのだ。
「石は嘘でもやっぱり書こう。来てくれなければ始まらないのだ。」
「人類…我々の最後の希望…。」
またか、もうウンザリだ。
『異世界に転生しませんか?』
スマートフォンでインターネットの動画を見ようとすればでてくる、あの広告。
『美少女にもなれるかも?!』
『しかも今なら石を大量プレゼント!』
あからさまなゲームサイトへのリンク。しかもこの手のゲームはだいたいつまらない。
「行くわけないだろ。異世界になんて。」
異世界へ転生しませんか?