夕立の後、透き通るような薄青い雲が流れていった。
氷砂糖のように半透明なそれは夏らしい雄大さを湛えていた。

どこからかひぐらしが鳴く声と青々とした稲穂の香りを私の感覚が捉えた。

100年後
この風景を覚えている人が何人いるだろうか?



私を覚えている人が何人いるだろうか?



私がこの世界に居なくて悲しむ人が何人いるだろうか?


否、きっと誰も居ないだろう

落、落、落


それでも人は何故生きるのだろうか?
ゴールのない迷路のような
答えのないテストのような
正しさのない道徳のような
行くあてのない旅のような
永遠に続く夜のような
そんな不確かな今を何故生きるのだろうか?

答えのでないまま新な問いにぶつかる

何故人は死ぬのだろうか?
その人の人生など何もなかったような
その人が存在などしなかったような
その人が愛したものなどなかったような
一瞬にして明快に器だけを遺して
何故人は逝ってしまうのだろうか?

答はきっと永遠に見つからない
全力で足掻く生も今を見つけられない生も
全て等しく同じ重さで

どの生が素晴らしく、どの生が卑しいかなどと差別化するのは人間らしい傲慢とさ浅ましさだ

落、落、落

逝く人と留まる人
きっと違いなどありはしない

自分が居なくとも世界は変わらない
その虚しさと切なさを抱いてなお留まる人
その儚さとやりきれない思いを抱いて逝く人
どちらが正しいかなど誰にもわからない

しかし、ふと思うことがある
有史より遥か昔から脈脈と受け継がれてきた血が自分の中に流れていると理解したとき
家系図で顔も知らぬ先祖の名を見たとき
墓参りに行けなかったことに悲しさを覚えたとき
自分の存在そのものが奇跡ではないかと思うのだ

その奇跡を勝手に棄てて良いものかどうなのか今一度考えてもらいたい。

落、落、落

何より貴方のために、私の為に

落、落、落

不確かな今を
愛せるように
そうやって自分を欺いていく

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-08-25

Copyrighted
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