玩具の夜
氷が鳴る
きっとそれが合図であった
寝台の上でおまじない
女の心は
いつまでたっても
少女のまま
手足は伸びて
黒い影に微笑む
「さぁ、願いを叶えてね」
ちりちりと音が鳴る
氷の断末魔
黒い影は沈黙する
開け放たれた窓からは
ぬるい風が流れ込む
女は徐ろに
おもちゃ箱に手を伸ばす
1番好きな人形を引っ掴む
「ねぇ、好きなひとができたの」
微笑みながら人形を抱きしめる
黒い影は沈黙のまま
窓の方へゆるゆると
氷をそっと連れて行く
「ねぇ、願いを叶えてね」
身体だけ大人になった少女は微笑む
虚ろな目
黒い影を見送った
玩具の夜