ネムノキ2
誰かと「何か」
ミーンミンミン 「・・・暑い。」
ミーンミンミンミンミン「・・・」
ミーンミンミンミ--「あっついつってんだろーがぁあああッ!!!」」
「何だよ何なんだよマジいい加減にしろっつの!ただでさえあちいのにこうミンミンミンミンうるさいと何も出来やしねぇ!」
「まぁまぁ、暴れると余計汗かくよ。それに今現在の暑苦しさ度数で言うと蝉が10だとしたら君5000くらいだから。日本一暑い男だから。」
「てめぇまで火に油注ぐような真似してんじゃねぇよ殴られたいか、ああ?!」
「いや、痛いのはあんまり好きじゃないからやめて欲しいな。それより、アレ見なよ」
「話逸らそうったってそうはいかな・・・げぇっ?!」」
「やっぱりここにいたかー・・・」
「どうする」
「しばらく様子を見ようか、近付く人間がいるかどうか見ておかないと」
「そうだな、そうと決まったら---おい・・・お前そこで何してる!」
「・・・!」
「え・・誰かいるの?・・・ってカナじゃん」
「はーっははははー私こそは・・・って早いよヒバリ!」
「なんだカナ坊か、驚かせやがって。殴るぞ」
「くる兄はどうしてそう暴力的なのっ」
「うっせぇ、暑くてイライラしてんだこちとらよぉ。暑苦しい真似してんじゃねぇよこのおん--」
「まぁまぁ、両方暑苦しいから大丈夫だよ。」
「てめーが一番容赦ねぇな!」「ヒバリったら、くる兄なんかと一緒にしないで!」
「なんかたぁどういうことだこの小娘」
「そのままの意味よ!」
「あんだと?!」
「・・・で?言い訳を、聞こうか」
彼方は机に載せたノートPCのキーボードの「T」だけを凄まじい速度で叩きながら、無表情に低く呟いた。
桂くるみは心底震え上がった。一気に教室の温度が下がるのを感じる。怖い、これは怖い。何が怖いって無言でキーを叩き壊さんばかりの勢いで連打しているのが怖い。
無表情を装いながら内心烈火のごとく怒り狂っていることが容易に想像できるのが、怖い。
雲雀美咲は少し離れたところでおどおどしながらこちらの様子を窺っている、頼りにならない。
助けを呼ぼうか。いや今は放課後だ、教室にはくるみと彼方と雲雀の三人しかいない。くるみは覚悟を決めた。
「ええっとぉ、クールなカナちゃんが天真爛漫な可愛い妹キャラだったらいーなぁってついでに雲雀と私の願望を詰め込んであれこれ・・・ごめんなさいいい・・・・・うううああ」
膝から崩れ落ちるくるみ、彼方の無言の圧力にはなすすべもなく。
彼方の剣呑な視線の先にはPCのディスプレイ----可愛らしいフリフリを着たショートカットの「彼方そっくり」な女の子がこちらに笑顔を振りまいている。
「絵、描いたのは・・・私、で・・・結構な・・・自信作・・・」
彼方の表情の何をどう勘違いしたのか、嬉しそうに微笑みながら雲雀が近寄ってくる。ほわほわとした彼女を観ていると、いつも不思議と毒気を抜かれてしまう。
「私は怒ってるってのに・・ハァ・・・」
彼方はキーを連打するのをやめて、キーボードの上に突っ伏した。机の下ではくるみが体操座りで縮こまっている。「ごめんなさいごめんなさいこの物語はフィクションで実在の人
物・団体とは一切関係ございませぬううう・・・」こいつは放って置こう。
(それにしても・・・)
少し気になったことがあった。
さっきくるみは願望を詰め込んでとか言ってたな。そして、くるみをモデルにしたキャラといえばあの中では思い当たるのは「くる兄」だ。
くるみはあの言葉遣いの荒い乱暴なキャラを「自分」にしたかったということだろうか。それに雲雀も・・・?
彼方にとって彼女たちはお転婆な三つ編み娘と大人しい文学少女。そうとしか見ていなかった。いや、「見えていなかった」。
意外だなぁで済ませるのであればいいが、どうにも引っ掛かりを感じた。
(もう少し、考えてみる必要がありそうだな)
自分はもしかすると、彼女たちのことを何も知らないのかもしれない。
そのことに背筋が寒くなった。
ネムノキ2