8月20日習作

 昨日は久しぶりに夕日がきれいだった。夏の夕暮れ...仕事帰りになんの気なしに電車の扉に寄りかかってそれをみていた。低くなった夕日が入道雲を照らし、その一番高くなった部分だけが、影となり、天空を西から東へと貫いていた。そして、その中を豆粒のような飛行機が夕日に向かって飛んでいった。
ああ、あれは10万メートルの高さ、一昔前の僕たち人間の力では、決して届くことの出来ない高さなんだと思ったら、何か神秘的な気持ちになった。

 子どもの頃は、おやの言うことはすなおに聞けたものだ。そして、何でも信じていた。

でも、今は他人のことは信じない。
我を張らなければ自分が周囲の中でとろけてしまうような気分になる。何でも主張しなければ、自分の存在価値を証明出来なくなる。
そんな、気分になってしまう。

 「いいや、そんな必要はないんだよ。お前たちは小さい。そんなに己を主張しなくてもいいんだよ。気楽にしなさい。
 明日の朝、また顔を見せるから安心しなさい。
 家に帰ってゆっくりおやすみ。」

 夕日はそんなことを言ってくれた気がした。

 なにかに接し不思議と敬虔な気持ちになることは、人間ならだれでもあるものだ。だが、なぜそんな気持ちになるのか?
 理由は定かではない。
 でも、
 昨日は不思議とそんな気持ちになれたのは事実だった。

8月20日習作

8月20日習作

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-08-20

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