理不尽【リ・夫人】

※下品な下ネタオンリーです。食事中のお子様は特にお気をつけください。


幼少期のできごとである。



家族で、母方の実家の山形に帰省した。



親父は、結婚の経緯ができちゃった婚ということもあり、母方の実家には必要以上には帰省しようとしなかったし、むしろ年末年始や夏期休暇にあわせて出張の予定を入れていた(ように思う)。



夕食時、


親父は、どの席に座って良いのかわからず、テレビの真横で、体育座りをしていた。



ものすごく真顔で、ものすごく綺麗に、体育座りをしていた。
(※私の親父は自衛官である。)



そこに、母方の祖母(通称山形のばばぁ)が、鼻歌まじりに、



おでん、でんででん♪



おでん、でんででん♪




おでん。



でんででん♪



と、当時ブレイクしていたターミネーターのマネをしながら、煮立ったおでんを運んできた。


おでん。


でんででん。



がツボだったのか、体育座りをした親父が、小刻みに震えはじめ、


グフッ



ドゥフッッ



と当時これまた流行っていた(のだか知らないが)口元のちょび髭を上下させながら微妙に悶え始めた。


たぶん、山形のばばぁへの義理の息子としてのリスペクトと、ばばぁネーターの狭間で、腹筋は8つくらいに割れていたに違いないが、親父は堪えに堪えていた。


ぼく(当時8歳)と、おとうと(当時5歳)は、ものすごいゲラであり、ばばぁのあまりにくだらないこのネタに関しても、通常であれば悶絶して笑い転げていたハズであるが、このときは、親父が恐ろしすぎて、とてもじゃないが笑うことなどできなかった。


ここで、


あろうことか、



小刻みに震えていた親父が、



プッ


プッ


プゥ


と、乾いた音を発したのである。



紛れもなく屁をこいていた。



三発も。
(三三七拍子的なリドゥムで)




すると、


なんと、


ありえない話たが、



ばばぁネーターが、





ボバッッッ




と、こちらにケツを向けて、大砲で応酬してきたのである。


ばばぁネーターは、現在でいうドヤ顔をしながら、親父を見ていた。


ばばぁネーター的に、



私も、ン負けないわよッ!!!



てな様子であった。





親父は放心状態。


ぼくも、弟も放心状態。



というか、





的に、



ちょっぴり出たんじゃないだろうか。


といったような、まさしく‘放屁’であった。


ぼくは、今もそうだが、歴史オタクであったため、なぜか、日露戦争での、バルチック艦隊と東郷率いる日本艦隊との対決を想像し、



天気晴朗なれども波高し!


天気晴朗なれども波高し!



と無心で唱えながら、事が過ぎるのを待った。


すると、


ここでなんと、



ぼくの横で放心状態であったマイブラザー(当時5歳)が、


プスゥゥゥ


と、静寂の中、かわいらしい音を発したのである。




たかし!




お前もかッ!!!
(ジュリアス・シーザー風に)




そう、


波高し。



と微妙にかぶってしまったが、ぼくの弟はたかしである。



どうでもイイですね。



しかし、たかし。



たかしは、放心状態のため、腹筋とケツ筋が緩んだのだと思われた。


ボーッと箸を持ったまま、あさっての方向を見つめている。


途端、

親父が声を張り上げた。





「貴様!!食事中に屁をこくとは何事かッ!!!」
※クドイようだが親父は自衛官であり、ぼくたち息子を叱るときに、貴様、と最大限の敬称で呼んでいた。







たかしは、泣きに泣いた。



わんわん泣いた。



ぼくは思った。



こんな理不尽なことはない。



だって、はじめに屁をこいたのは親父だ。


その後にちょっぴり漏らしながら(※漏らしたんだか、真相はしらないが)応酬したのはばばぁネーターだ。



一番、小さく、ひとに、環境に、優しい屁をこいたのはたかしだ。



屁というより、レヴェル的には、


あらまぁ、


おならさん出ちゃったわねぇ。


程度なかわいらしさだった。



さらに厳密にいうと、



‘食事中’


ですらない。



ばばぁネーターが運んできた、あっつあつほっくほくのおでんを、たかしは楽しみに箸を持ちながら待っていたのだ。



楽しいお食事はこれからだ。



さすがに、ガマンならくなったぼくは、



「親父!そりゃないよ!!たかしは悪くない!」


と叫び、そして、



なぜだか、








ばばぁからビンタを食らった。



まさしく、



おやじにもぶたれたことないけど、



ばばぁに今ビンタされましたけどなんで??(゜ロ゜;



状態であった。


ばばぁは、


「おとうさんは、おめたちのこと心配だが叱ったんだっぺよ!」


とぼくに、ものすごいマジメな顔で言ってきた。





お前、




さっき、



ドでかい




屁を



こいてたろう。



しかも、





唯一の、





確信犯、



だったろう。



といった意味のことを、当時のぼくは叫びたかったが、父と、その義理の母親の関係を考慮して、堪えに堪えた。



そして、おとうとと、二人して泣きながらクソマズイおでんを食べた。



今考えると、オトナになると、たくさんの理不尽と折り合いをつけ、堪えることの連続だが、はじめて、理不尽を堪えることの意味を知ったできごとだったように思う。

理不尽【リ・夫人】

理不尽【リ・夫人】

理不尽。それはオトナの事情。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-08-19

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