湖の底に、鯨がいる
気が遠くなるほど大きい、鯨がいる

地底からは、声がする
私のお腹を震わせる、声がする

涙は空中を泳いでいる

欲しい、体温は、氷の下

薄氷、踏んで、ハイヒール

うっすら入ったヒビは、
取り返しのつかないこと

湖の底に鯨がいる
地底からは声がする
薄氷の下には体温がある

何を、ためらうの?

溺れるには、おあつらえむき
泡になるには、良い日和

「だって、恋なんでしょう?」

地底からの声は、いっそう低くなる
私のお腹は奥からグラグラ揺れて、
薄氷を思いっきり、ハイヒールで踏みつけた

割れた氷、突き刺さる、肌に、

鯨が湖から頭を出した
胴体も剥き出して
再び頭から湖に潜ってゆく


尾鰭を振り上げて


湖面を叩きつける


私が見たものは、それがさいご。

指先に、欲しかったものが、触れたかもしれない

  • 自由詩
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-08-14

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