ガールズ・モラトリアム

「プロローグ」

ようやっと目を覚ますと
まっくらやみ
ちっぽけな私はただ
ざあざあ泣いていたのです
なんだか
溺れてしまいそう

まばたき、ぱちりと。

プテラノドンは私に
語りかけます
「君はどこから来たの?」
私は
「きっと同じところだよ。」
と答えました

まばたき、ぱちりと。

みゃあごろごろ
猫は私に
語りかけます
「あなたは誰?」
私は
「きっとあなたと同じだよ。」
と答えました

まばたき、ぱちりと。

おんぎゃああ
赤ん坊はでんぐりがえり
ねごとを言うのです
「生きているよ。
生きているよ。生きている!
あなたと同じ。
みんな同じ。
なんだか嬉しいね。
いつまでも続く、このめぐりぐるぐる。」

ぴちょん
命のしずくが落ちました
そうして私は私が魚であった頃を思い出し
すやすやと眠りにつくのです
おやすみなさい
ありがとう
また どこかで






「きらら」

ぴかぴかよりもきらきらが好きだ

べっこう飴溶かしたみたいな夕やけ
電車にゆらゆらされて眠る
おじいさんの背中に溶けてった

雲間からのぞく
登ってみたいと思っていたあの梯子
高い所は苦手なくせに

夜空にこぼされた金平糖
拾い食いしてしまいそう

迷子のしゃぼん玉どこへいく
木陰はさわさわ噂話
ラムネの海で溺れてしまいたい

角張った宝石をつまむより
まんまるの飴玉をつまむ方が
まんぷくでまんまるな気持ち

空が大泣きして雨つぶは唄う

水たまりに似た誰かの瞳
静かで優しい
そこへ飛び込んで
どんどん深く潜っていきたいけれど

ゆうべ
転寝して
まつげにのっかって食べた優しい味の
きらきらたち
そんなお気に入りたちは
私を透明にする





「手」

物を食べる手
文字を書く手
抱きしめる手
花束を持つ手
銃を向ける手
みんな同じ手



「エピローグ」

私は
世界の終りなんて知りたくありません

私は魚に語りかけます
「君は誰?」
魚は
「娘だよ。
母でもあるよ。
その前は父だった。
その前は…
君と同じ、ヒトだった。」

私は私に聞きました
「私は何?」
私は…
きっとこれから
土となり草となり水となり生き物となり
最後は誰かの喜びでありたい






「迷子の名前」

あのね、水が嫌い
なぜかって、冷たくてはっきりしないから
でもね、水が好き
なぜかって、暖かくなれるし、澄んでいるでしょう…
(光さえあれば)
あなたとわたしは、見つけられるのかな
迷子の名前





「こども」

瞠った瞳
誰も彼もその瞳が恐ろしくて
触れられない
そこには
淋しい心臓
哀しい唇
生き抜くための術も何も持ちやしない
震えて立ちすくむ
独りの少女がいるだけ
そこにいるだけなのに



「おもいつくまにまに」

かかとにのせた
小指は音を逆さに
おとといのおやつを覚えているこども
おとしものは届かない
ゆるい闇
身軽な酔っ払いは南へ
昔のおにあいの靴ひもは?
今朝聴いたオルゴール
グロッケンシュピールは子守唄を
声は砂糖ととろとろに
笑う老人
お向かいの犬はとても陽気で
私は物語を身に着ける
まだまだ未完成
めまい ぐるぐる
少女はゆっくり息をする
幸運の小包みつけてみせよう
老人はくしゃみをする
くしゅ くしゅ くしゅん
くしゅ くしゅ
撫でる 
生まれたての子犬の頭を
少年は目をぱちくりさせる
上下するまつげ
お土産が欲しい
くるみを転がして
明日の運を占うのだ
眩しい月は
大口を開けて
笑っている




「もうひとつの、おもいつくまにまに」

古傷もしもし
朝露を集めて、満足
物語をうでいっぱいに抱えて眠る
もうひとつ呼吸する
ココナッツを探して
仔羊を連れ出して
逆様の王様
ふんぞりかえっちゃってる
おとといにくるりとうしろまわり
懐かしい内緒話
てのひらにくるまれるわたし
つまさき立ちで星をつかむ
頭痛のメロディ
生意気なきもち



「SKIp、STEP,SLEEP?」

空中ブランコからこんにちは
ちょっとその箱を開けてみたんだ
そしたらストライプのヒツジに囲まれてた
きっとスキャンプの仕業
みんなでいたずらっ子になろう
ヒツジに囲まれて見る夢は
色鉛筆みたいなパステルカラーの景色
周りはお気に入りだらけ
当たりも外れもない
全部が当たりでいいでしょう?
好きな時好きなことして
手を叩いて リズムも弾んで
ご自慢のジャンプで晴れ間へ突っ込め!!
嫌なことは笑ってぶっ飛ばしちまえ
そうして空の続きの物語書いていこう
昨日、今日、明日とスキップ、ステップ
スリップにご注意
そしてスリープ
なんだかご機嫌
マイペースにゆるゆる行こう
ホットミルク飲んだ時のあの気分
ずっと続け
今日はいい日だったかな
おやすみなさい
良い夢を


「HAPPY GO LUCKEY」

のんきにやってこうよ
STEP BY STEp
ありのまま気取らないで
お日様あったかくて心地よい
とろんとまどろむ
抱きつきたい 抱きついてくれ
ほっとしたときのため息 なんてSugery!
転寝しそうだ
芋虫がぶら下がっている
くすぐってやろうか
鼻唄交じりのLucky dog
拾い食いしてしまいたい
たくさんの美味しいもの、不味いもの、しあわせ、ひみつ
ゆるゆる ゆらゆら
なんだか おなかいっぱいだ
周りは好きだらけ 隙だらけ
こちらにおいで
一緒に花に水をやろう


「MARY」

GOOD NIGHT! LITTLE SHEEP.
GOOD BY!   LITTLE BOY.

MERRY MARY MARRIES TO MAN IN THE SKIES.
MARY’S SHEEP BEGEN SINGING OUT WITH MOMMY.

BOW,WOW! LA LA LA…

転寝坊主も迷子の娘もいたずらヒツジもとなりのおじいさんも
みんな唄いだした
真夜中のお祭り騒ぎ
星も唄って落ちてきたから食べてしまおう
シャイなストライプガールは足でお祝い
ほんのり赤いリンゴ娘メアリーさんはまだほろよい
のたのた千鳥足で にやにやの口元からは
星のかけらがこんにちは
唄って食べて眠ってしまおう
眠るヒツジに顔をうずめて
やわらかくてあたたかい夢を食べよう

「恋」

ダルメシアンみたいな横顔に
ライオンの毛みたいな睫毛に
キリンみたいにのびた背筋に
まっしろに行儀よく並んだ歯に
食べられてしまっていい
仔犬みたいな瞳
ビー玉みたいだ
深い闇色の毛並
見つめているだけで鳥肌がたつ
動悸が激しくなる


「リモネンカプセル」

浅葱色の魚は今日も跳ねる
ぴちょん、ドロップ・オフ。
悲しみのすきまをすりぬけて
夜空を泳ぐ 
君をのせて
ずっと遠くまで
ずっと遠くまで
リモネンの粒吸い込んで
このまま落ちていくのもいいかな
君となら 怖くないんだ
月の満ち欠けにそって
時空を飛んで廻る
イルカがいる街へいこう

「恋の窓辺」

私を見ないで
知られることが怖い
そのくせ無視されたくないんだ わがまま
傷つきたくないんだ
傷つけるのも怖い
だからずっと遠くから触れようとする
でも手が届くはずもなくて
私は私が一番大事で
誰のことも好きになれない
そのくせ求めてしまうんだ
おいでって言って
そこにいてもよくなる魔法のことば
そのたった一言が欲しくて
それが私の在る証拠になるから
何億年も、何億光年も
ただじっと待つ
あなたの目をみて物欲しそうな目をしてないかな
目があえば言い訳できない
私はきっとお菓子のおまけのネジが外れた玩具それぐらいのものだから
いっそのことめちゃめちゃにしてしまっていいよ

「ナルコレプシー」

かき乱してふれて柔らかなところに
あなたの前ではわたしはどうしようもない
おさないこども
すくいだしてほしくて水の中あがく
光を見たくて今叫びだそうとしている

「エゴイスト」
 
まじめそうと言われ私はユーモアを身に着け
怖いと言われ私は優しさを身に着け
お金持ちと言われ私はぼろきれを身にまといました
そうしたらば
ありのままがわからなくなりました
のちに受け入れてもらうための優しさも
身についていました
白であろうとすればするほど
ぼろきれは黒くなり
いつしかこわばった顔で笑っていました
骨の軋むような痛みは
胸の圧されるような思いは
わたしがわたしでいようとするがゆえの痛み

「ガーランド」

リナリアは幻想
アイビーは死んでも離れない
ビオラは少女の恋をする
想い出に浸るライラック
勝利するグラジオラス
デリケートに喜ぶスイートピー 
人々を救うピレア
人間嫌いのアザミ
感じやすいミモザ
愚かしいザクロ
さあ再生しましょうローズマリー

「My hometown」

The place I was born was dark.
I heard someone singing faintly,but it was the twining sound reverberating as if a trampet had told the beginning.
Then,the blaze filled here and there all around me.
There were a lot of things which began to wriggle.
I vaguely remember I felt hot.
I opened my eyes for the first time because I was feeling something dazzle.
It may have vital energies.
The place which had been empy was full of blaze.
I have slept for a while with my knees hold.
I noticed my knees were wet.
The chocked feeling was gone.
The air had become cool.
Fresh and pure melody was being played there.

[This is cosmos story.]

My hometown

わたしの生れた場所はまっくらやみだった。
けれどかすかな唄声が聴こえたと思うとうねるような轟音が響いて始りのファンファーレが告げられた。
ひかりで溢れていた。
うごめくたくさんの存在があった。
からだが火照っていたような気がする。
あまりにも眩しくて、そのときはじめてまぶたをあけた。
何かというのは生命力かもしれない。
何も無かった場所に、ひかりがあふれていた。
しばらく膝を抱えて眠っていた。
ひざがぬれていることにきづいた。
いきぐるしさもきえていた。
くうきはつめたくなっていた。
あたらしいまっさらなおんがくが、そこにはながれていた。

[これは宇宙の物語です]

「夜露」

ぶつかればすぐ
ゆらいでしまう
それを弱いからだと
責めるしかない 
わたしは

愛をねがうことは
痛みでしかなく
満たされることは
あまりない
あなたは

闇を雫で濡らして
月明かりのもと
世界でただひとりのような
抱きしめてもらえないという思い
夜光虫をつぶして夜の帳を繰り返し開け閉めしながら
光がやってくるのを
待っている

「プリズム・カメレオン」

必ずしも
とうめいが正とはかぎらない
信じることは苦しいから
だからプリズムをまとって
何色にでも染まって見せる
けして
色のついたとうめいを汚さないで
光を透って見るせかい
夏の日は小川の碧に
冬の日は雪でまっさらになる
誰もわたしを汚さないで
傷つけないで
でも触れて
わからないことを知りたいから



「祝祭」

鱗を光らせて森の中泳ぐ
わたしはひかりになる
声が聴こえる
声が聴こえる
それは森が囁き合う音楽

大粒の涙と葡萄で祝杯をあげよう
この静謐さと美しさのために
瞳に湛えられた水はあふれかえり
今宵記憶は焼き付けられる
その瞳に閉じ込めてみせよう

月のかけらを含んで唄ったら
少女は花びらとなり散ってしまった

「うそつき」

ペンギンが飛行船で
ゆるやかな眠りにつくころ
わたしはうそをついていた
つめたい氷を食べて
あたたかな気持ちになった気でいた
風船につかまって行きたいところはたくさんあるのに
からだは重くてそれを許してくれない

真っ白な夏にさらされたペンギンと
真っ白な気持ちになりたいと
願うわたし
どちらも溶けてしまえばいい

どう生まれ変われば
受け入れてくれるのかしら
うそのわたしでもいいのかしら
そうして傷つかないようにしたわたし
しろくろの燕尾服のペンギンは笑ってる
しろくろさせた目のわたしは泣いている
わたしはうそをつき続けた

咲き誇る 夏のひとかけ 集めれば 夜の帳も 光あふれる

「執拗」

ねじを巻く
すいかのタネひとつひとつになって
花火の火花ひとつひとつになって
汗の水滴ひとつひとつになって
あなたを見つめていたい
息を殺しながら生きていく
またひとつねじを巻く

「夕暮れシトロン」

硝子ごしに見た桃色
切りとってあげましょう
雲からは雫が滴って
少し甘酸っぱい味がする
愁いを込めて見上げれば
何粒ものシトロンが落ちて消えていく
それは記憶
胸が軋むと想えば
温度を持ってわたしの中に落ちてくるのです
それはゆっくり時をかけて
わたしへと沁みて
やがてオパール色の結晶となって
そっとわたしの中へ閉じ込められる
この名前のつけられない鉱石を
何と呼べばいいのでしょうか
わたしを苦しめ続けるそれなのに
愛おしく感じてしまう
抗うことのできないこの気持ちに
何と名前をつけましょう

「咀嚼の日々」

氷砂糖をかじる
文学をかじる
今日の日をかじる
手首をかじる
親の脛をかじる
それはしがみつくような
抗うような

こぼれていく
かじる度にこぼれていく
涙が
そしておちていく
われる

その音を聴くたびに私は柔くなっていく

「花葬 (冬虫夏草)」

あなたの肌に顔をうずめる
わたしはあなたのこころに咲いた
小さくて脆い花
そんな思い込みだけで生きている
ほんとうは寄りかかって
ほんとうはしがみついて
そうして生きているだけ
いつしかあなたは枯れ
わたしは潤い
あなたの骨まで根をのばし
そして独りぼっちになった
甘えすぎたのね
あなたのことなんて何も見ず

こころを手に入れたつもりだったのに
後に残ったのは白い骨片
その尖った先で
わたしを傷つけておしまいにして

「不眠症」

目を閉じた暗闇の中から、涙の海が溢れてきて、私をどこか遠くて寂しいところへ流していく。
体は動かなくて、方角がわからないから、堂々巡りするしかなくて、独りでに沼に足が絡め取られていく。
孤独が傍に佇んでいる気配を感じて、仄暗い影をみつける。

光を感じると朝になっていて、私はもう一度、息切れしながら生きる義務を与えられる。

「アンビバレンス」

ヒトは地球上で一番汚くて救いようのないある意味哀れな生き物です。
ヒトは地球上で唯一誰かのためを想うがあまり自分を傷つけるやさしい生き物です。


「H2O」

純粋な水になって、きれいになって、それから水素になって、消えてしまいたい。しにたいとかではなくて。誰も気づかないうちに、痛みも伴わずに一瞬で。

「白日」

その日は雪が降っていた。
その日は息が白かった。
私は人前に晒されていた。

その日は日が昇らなかった。
その日は消えるための日だった。
私は人陰に隠れて泣いた。

その日はこわいほどきれいで
息を吐くことさえためらわれるほどこわくて
消えることをためらうほどきれいで

雪面に光が反射して私の顔を照らした
私の罪を償うように

雪は降り続けるしかなかった

ガールズ・モラトリアム

ガールズ・モラトリアム

  • 自由詩
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-08-14

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

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