見蕩れる

見蕩れる、という文字を見た。
扇情的な文字である。
私は、彼を見ている時、結露した窓の向こうにいる彼を見ている心地になる。
私の目に、身体中の水分が集まってきているのだと思う。
本能的に、身体の構成要素すべてが彼に集中するのだろう。
私の目が潤んでいるかどうかは知らないが、その瞬間こそ、彼が私を生かしていると言ってもいいし、そう思いたい。

見蕩れる

濡れた窓硝子

雨の日はあなたが大きくなる
濡れた窓硝子、わたしの視線

濡れたのは私の瞳

溢れたままの雨粒

胸の中のあなた
体温のないあなた

抱擁は窓硝子の向こう

曇っていて見えない

硝子に指先で触れてみる
冷たさすら生やさしい

あなたは遠い?
それとも幻影?

少し前の話

渓谷に沈む光
いつか見た夕日

手をつなぎ、何を信ずるか

僕には、夕闇の香りを胸に吸い込むだけの気力があった

明日を信じていた

青葉が茂る湿った森で
手をつなぎ、信じていた

息つく間もない日常を
綺麗に運ぶ未来を

証明写真

繭の中で、呼ばれるのを待った

呼ばれた時は照明の下に

漸く外の空気を吸う

薬品のにおい

繭の名残は無くなって、
着慣れた服に手を通す

出来上がった証明写真

断面図

白く掠れたところを指して

「悪いところです」

せんせい、が言う。

この世界は何日生きれば偉いのだろうか
1日生きても、その白く掠れた光は、
私が生きた証

掠れるぐらいに生きてきた

私の証明写真
私が生きたという証明写真

悪いところなんてどこにもない

雑感

青々とした山
長閑な田園
白々と光る風力発電の風車

それを眺める私の目

目で見た風景以上のものを受け取る
感じやすい精神

今日、自覚した

傷付きやすい心は
目に入る情報を
情報としない

目に入り、
心に沁み入る時、

情緒になる

即ち、

山の青は青以上の、郷愁
長閑な田園は、歴史
風力発電の風車の白さは、明日

茫洋たる時の流れを
肌から受け取る

だから、私は満ち足りる

風景以上のものを受け取るから
風景以上の情緒を生み出すことが出来るから

だから私は傷付くのだ

そう思ったら、弱さすら愛せる気がした。

見蕩れる

見蕩れる

  • 自由詩
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-08-13

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  1. 見蕩れる
  2. 少し前の話
  3. 証明写真
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