欠けたクレヨン

僕は思い出した。
幼稚園の休み時間に一人でらくがきちょうに落書きをしていた時に使っていたクレヨンが折れてしまった
事が、酷く悲しかった事を。それを誰に話しても、誰もが当然の事のように“そんな事くらいで”と
言っていた事を。

母に、誰かに貸して折られたわけじゃない、自分で折ったんでしょ、と言われてあの日の僕は悲しむ事を
やめた。
初めて12色のクレヨンを買ってもらった時から大事に使うと決めていたけれど、色を濃くする時も力を
入れず、折れないように何度も何度もクレヨンを往復させていたけれど、クレヨンは折れてしまうもの。
そういうものなんだ。

どんなに大事にしていても、いつかは折れてしまうーー

僕は頭の中で「仕方ない」と繰り返した。何度も何度も、その考えが濃くなるように。
だけど、ポキリと折れてしまった。

今では折れてしまったクレヨンの色も覚えていないのに、あのクレヨンは今でも欠けたまま押し入れの中で
眠っている。

欠けたクレヨン

欠けたクレヨン

折れたクレヨンは温めれば元に戻るらしい。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2017-08-12

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