『どうしようもない』
どっかの誰かがノンフィクションだとか言いそうです。
この街は夜の街。人々が踊り狂う街。どうしようもない人たちが行き交う街。
この通りではジャズが聞こえる。ここは、僕の街。見せ掛けの大きな建物が僕を見下しながら。この路を右に曲がれば、君の街。耳を凝らせばロックンロールが聴こえる。
「音楽に興味なんてないの。そこで鳴っていればいいの。」
悲しいことを言わないでくれ、僕は何のために生きているんだ。
「逃げているだけ。逃げるために生きてるの。」
僕が何から逃げるというんだ。君は逃げないのかい?
「わたしは…」
僕が彼女に出会ったのは、ただただ五月蝿い電子楽器が鳴り響く小さな箱。隣にいただけだ。そのとき、僕等は同じ方向に逃げたかったらしい。
こんなにもカッコいいバンドが僕等を惹き付けないなんて。音楽はなんて無力なんだ。こんなことを語り合った。僕は音楽を信じていた。それは人を豊かなものにする。全ての人がそれをわかったならば、それは世界平和だ。そうやって考えていた。いや、今も考えている。だからギターとピックとチューナーを捨てずにいる。
彼女はぽっかりと空いた隙間に、僕のそれを否定する小さな穴に手を伸ばしたようだ。部屋では、プログレッシブな音楽が鳴っていた。
「僕はこれからどうすればいいんだ」
彼女は何も知らないのに、無茶なことをしてしまった。
「こっち。」手を引かれた。どこにいくんだろう。
ここは夜の街。どうしようもない人たちが行き交う。僕も彼女もその一部分。
小さな飲み屋。僕は酒の酔いに任せて自己を投影するのは嫌いだ。
「帰るよ」
「駄目、入って。」
「そういう気分じゃない」
「そういう場所じゃない。」
地下があるようだ。
小さなライブステージ、そこに立つのは
僕だ。
逃げ続けた結果。この世界で、あまりにも小さな世界で、平和を見捨てた男はステージの真ん中に立つ。
彼女は「憐れ」そう言ってどっかに行ってしまった。
end
『どうしようもない』
自由すぎると不自由なのかもしれません。