皮のバック
リドルストーリーです。話の結末はご想像にお任せします。
大富豪の老婆が病院のベットの上で、今お迎えが来るのを待っていた。
ベットの回りには彼女の長男と次男が彼女の息を引き取る瞬間を見ていた。
ベットの中にいる彼女は、自分がいつも大事に持っていた小さな皮のバックをしっかりと握り締め死のとこにあっても離さない。
彼女は息子たちに、
「自分が死んだらこの皮のバックをそのまま柩の中に入れて欲しい。決してバックを開けて中を見てはいけない。もしこのバックを開けて中を見たら、良くないことが起きる、あのパンドラの匣のようなものなのだから。」
と遺言しておいた。
彼女の莫大な財産の中の事業を管理している実業家の長男は彼女の皮のバックの中には、自分も知らない宝石や財宝を母親は持っており、それを母親は死んでまでも天国にまで持って行こうとしているのだ。と思っていた。
老いた母親の老後の面倒を見ていた気の良い弟は、わずかに兄から貰うお金で母親の面倒を見ながら生活をしていた。
母親の意識が無くなり病院の医師もこれ以上の延命の処置を行わず、母親の死亡を告げた。
死んでまでも老後は皮のバックを離さなかった。
実はこの皮のバックの中には、彼女の若い頃の手紙が入っていた。彼女がまだ大富豪の亭主と結婚する前に彼女が思いを寄せたある青年との思い出の手紙である。
彼女はその青年と愛し合っていたけれども、家庭の事情から大富豪の男と無理矢理結婚させられてしまったのだった。
結婚した後も彼女は時折別れた青年の事自分の青春と自分が自分であった証のようなその手紙を大切に持っていたのだった。
彼女との結婚を諦めた青年は戦争に行って戦死してしまった。
ただ一つその手紙の中に、彼女が結婚する前に身籠っている事実を戦場の恋人に伝えてその返事が書かれてある手紙が入っていた。
彼女の長男は、大富豪との間にできた子供ではなく、結婚出来なかった青年の子供だったのだ。
大富豪だった亭主は、全ての財産は、自分のDNAを受け継いだ者に与えるというのが遺言だった。
死んでもその思い出を手離さなかった老婆が、そのまま柩に入れて欲しいと願っていた皮のバックを、強欲な長男は母親の手の指を一本一本外していった。
長男が母親の皮のバックを取り上げ、バックの口を開けようとすると、弟が、
「兄さん、そのバックは開けない方が良いよ。母さんが良くないことが起こるって言っていたのだから。そのまま柩の中に入れてあげよう。」と言った。
長男は、バックの口を開けようとしていた手をとめた。
皮のバック